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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.11 君が選んだ俺の「ほんとう」を見て欲しい

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04 捨てた名前

 カケル達は急いで会談のあった街中の大寺院に引き返した。
 寺院も騒動の煽りを受けているらしく、神官達が慌ただしく行ったり来たりしている。
 エファラン側を代表してアロールが神官に取次を頼む。

「失礼。ユリアン王太子はおられるだろうか。至急お話したいことが」
「少々お待ちください」

 事件の一連の流れは、カケル達だけではなく、カケル達の乗っていた小型バスの運転手や、案内役として同行していたフレイ側の役人も知っている。彼等にとっても、賓客であるエファランの姫が攫われるというのは大きな問題だ。彼等も協力的に動いてくれたからか、すぐに王太子と面談できることになった。

 寺院の奥まった一室にカケル達は通された。

 現れたフレイの王太子は急いで来たのか私服だった。
 アロールは王太子の前に跪いて礼をする。
 後ろのエイドやレディーネも頭を下げたので、イヴも礼儀に則って頭を下げた。不遜なオルタナも面倒くさそうにしながらも合わせて礼をする。しかし、一行の中でカケルだけは頭を下げなかった。
 イヴは無礼なカケルを嗜めたいと思ったが、既に謁見は始まっている。
 雑談をするような雰囲気ではない。

「リリーナ殿が攫われたと聞いた」

 予め情報収集してきたのか、王太子ユリアンは初手から本題に入る。
 アロールは頷いてフレイの助力を乞うた。

「はい、例の解放運動の仕業です。我々にフレイ国内でリリーナ様を探索する許可を頂きたい」
「それは無理だ」
「!」

 ユリアンは濃い緑の瞳を細めて冷たく告げた。

「解放運動の者達はエファランと通じているという噂が立っている。貴方達が動くことで、解放運動とエファランが繋がることを危険視する者達がいる」

 現在のフレイの高官達は、アロール達エファランの者にフレイ国内を自由に動かれると困ると考えている。近年、各国で竜や獣人達の解放運動が高まっているが、エファランを旗印に集結されると厄介だと考えているのだ。
 勿論、エファランと国交しているフレイとしては、エファランの姫であるリリーナを助けずに放っておくということはない。エファランの姫君はフレイの国軍が解放運動を制圧するときに助けて、エファランにお返しする。
 それまでアロール達にはじっとしていて欲しい。
 それがフレイの王太子が返した答えだった。

「そんな……」
「私としても、歯がゆく思っている。しかし今回は竜や獣人達が関わっている以上、慎重に判断せざるを得ないのだ」

 重い沈黙が部屋に満ちた。
 イヴは唇を噛みしめる。それでは、私達はここで黙って待ってるしかないの。
 こうしている間にもリリーナが傷ついて苦しんでいるかもしれないのに。

「……待つ必要はないよ」
「カケル?」
「エファランが動くと都合が悪いというなら、アロールさん達はここで待っていればいい。俺は、俺達は関係ないよ」

 軽やかな宣言。
 アロールは驚いてカケルを振り返る。

「何を言っているんだ、サーフェス君。君が勝手な行動をとればエファランが」
「俺が勝手な行動をしてもエファランには影響でないから。なあ、そうだろユリアン」
「……」

 フレイの王太子は答えない。
 暗い緑の瞳は、頭を下げずに真向から対等に話すカケルの琥珀色の瞳と見合っている。

「捨てた名前だけど、ここ高天原インバウンドではまだ意味のある名前みたいだな。俺がここで勝手な行動をしても、エファランの学生とは見られない。七司書家絡みの問題と思われるだろう。俺を捕まえて本家に連れていけば、七司書家本家と繋がりを作ることができるから」
「ユエル。お前が動くと国内の七司書家と利害関係がある連中が騒ぐ。大人しくしていてくれると助かるんだが」
「むしろわざと情報を流して煽れば? 浮足立った連中を狩れば少しは風通しが良くなるかもな」
「……簡単に言ってくれる」

 苛立たし気に吐き捨てるユリアン。
 触れれば切れそうな言葉の応酬。
 カケルは平然としている。その口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
 他の面々はハラハラしながら事の成り行きを見守っている。

「お前がその気なら、ユエル、お前を囮として利用させてもらうぞ」
「どうぞ。その代わり、俺達はリリーナを探してに行くからね」
「情報は逐一流せ」
「定期報告するよ」

 あれよあれよと言う間に話はまとまった。
 最初から最後までマイペースを貫いたカケルが振り返って、笑って言う。

「じゃあ、行こう。イヴ、オルト」
「ええ?! いいの?」
「大丈夫大丈夫。後はアロールさん達が何とかしてくれるって、ねえ」

 ふわふわ笑うカケルに、アロールは苦い顔だ。

「……確かに交渉は任せると言ったが、まさかこうなるとは」
「アロールさん、人間には諦めとお昼寝が肝心なんだよ」
「後半は不要だが、もうこうなったら仕方がない。リリーナ様を取り戻してきてくれ」

 本当は自分達が行きたいのだろう。
 アロールやエイドは悔しそうな顔をしたが、気持ちを切り替えたらしく、すぐに真面目な表情になった。

「定期報告は私が仲介しよう。その方がお互い都合が良いだろう。アラクサラ君、気ままな風竜の手綱を離さないように。私とエイドとレディーネはここで情報収集して君達をバックアップする」

 通信の呪術を介して報告するように言われて、イヴはしっかり頷いた。
 ついで、エイドが大股で弟の前に歩み寄る。
 すわ兄弟喧嘩の再発かと戦々恐々とする周囲を余所に、エイドは拳の甲で軽くオルタナの胸を押した。

「任せたぞ」
「……ああ」

 兄弟の間ではそれで通じたらしい。
 胸を張って頷くオルタナ。
 学生達3人は「先に失礼します」と断って、部屋を出て行った。寺院の一室には、打ち合わせの続きをするため、王太子ユリアンと、アロール達大人組が残っている。
 カケル達が去った後、ユリアンが苦笑してアロールに話しかけてきた。

「貴国は大変だな。ユエルの存在は諸刃の刃だ。七司書家から離れたとはいえ、あれは第二の名前を持つ者。薬にも毒にもなろう」

 同情すると言うユリアンに、アロールはゆっくり首を横に振った。

「確かに彼の存在を危険視する者も国内にはいますが、私は悲観していません。彼は風竜だ。必ず将来、我が国に新しい風を吹かせてくれることでしょう」

 自由を望んでエファランに辿り着いた青年は、その名前の通り、翼を手に入れた。
 彼はエファランの竜なのだ。

 そう言ってアロールは微笑んだ。



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