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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.11 君が選んだ俺の「ほんとう」を見て欲しい

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03 大丈夫だよ

 リリーナが攫われた。
 あっという間の出来事だった。
 おそらく送迎の小型バスを踏みつぶした竜は陽動だったのだろう。
 去っていく二頭の竜を見上げて、イヴは叫んだ。

「カケル、追いかけて……」
「駄目だ」

 アロールの制止。
 彼は顔を強張らせていたが、声だけは冷静だった。

「皆、動かないように。ここで追いかけると我々も解放運動に加担していると見なされかねない」
「そんな!?」
「ひとまず正式なルートで、我々は被害者だとフレイに申し立てしなければならない」
「その間にリリーナはどうなるのよ!」

 イヴは友人を思ってアロールに食ってかかる。
 しかし先輩の竜騎士はイヴの望む返事をしなかった。

「無傷で連れ去ったんだ。彼女の身の安全は保証されている。おそらく彼等の目的は、エファランから解放運動への支援を取り付けることだろう」

 アロールはリリーナは無事だろうと言う。
 確かに理屈の上ではその通りなのだが、身近な人が誘拐されれば、そうは言っても気が焦る。
 イヴは思い通りに動けない状況に焦燥感を抱いた。ついその苛立ちを言葉にしてしまう。

「……なんで獣人をペット扱いするような連中の味方をしなきゃいけないのよ。この際、解放運動に協力してもいいじゃない」
「口を慎んでくれ、アラクサラ君。下手なことをすればエファランが孤立する。高天原インバウンド7国を敵に回して戦えば、エファランは滅亡する」

 滅亡。アロールの口から出た不吉な響きに、イヴは身震いした。
 隣に立つカケルは何も言わずに空を見上げて何か考えているようだ。
 そうしている内に偵察に出ていたエイドが戻ってきた。
 彼はリリーナが攫われたことを聞くと顔色を変える。

「……お前は何をやっていたんだ、オルタナ」

 低い声で彼は黙ったままの弟に呼び掛ける。
 答えないオルタナを、彼は拳で殴った。
 オルタナは避けない。
 少し上体を揺らしただけで踏みとどまって、兄を紅い瞳で睨み返す。

「!」

 いきなり始まった兄弟喧嘩に周囲の面々は仰天する。
 アロールは同僚をとりなすように言った。

「おいおいエイド、君はまず護衛の仕事を達成できなかった私を殴るべきなんじゃないか」
「お前の武術の成績は学生時代から最低だ。接近戦に期待していない」
「相変わらずはっきり言う奴だな……」

 エイドの言葉にアロールは苦い顔をする。
 彼等はカケル達の学校の卒業生で、カケル達の先輩にあたる。エイドとアロールとレディーネは学生時代を共にした仲だ。大人になった今でも会えば気の置けない会話ができる。
 アロールは後輩たちの前で学生時代の成績をバラさなくてもいいじゃないかと内心ムッとした。
 隣のレディーネはアロールの考えていることが分かるので苦笑している。
 密かに不貞腐れているアロールに構わず、エイドは言葉をつづけた。

「それよりもソレルとしては、守るべき者を守れなかったことが問題なのだ」

 エイドは暗い紅の瞳で弟を見下ろす。
 激しい感情を宿らせたオルタナが低く言った。

「兄貴がリリーナの護衛なんじゃ、ないのかよ」
「違う」
「?」
「僕はお前の代任に過ぎない、オルタナ。リリーナ様はお前に期待していた」
「……」

 その言葉にオルタナは目を見開く。
 紅玉の瞳に様々な感情が渦巻いた。
 勝手に期待されていたことに対する反抗心、頼られていたことに喜ぶ気持ち、それにも関わらずまんまと敵に踊らされ、為すべきことを為せなかった後悔の念。
 オルタナは瞬きして兄から視線をゆっくり逸らした。
 彼は悔しそうに歯を食いしばって項垂れる。
 兄弟喧嘩をきっかけに場の空気が重くなった。

「……寺院に戻りませんか。まだ、ユリアンがいるかもしれません」

 沈黙を破ったのはカケルの声だった。
 アロールが同意して頷く。

「そうだな。王太子の協力を仰ごう。交渉をお願いできるかな? カケル・サーフェス君。いや、カケル・ユエル・ライブラ」
「可能であれば」

 短い返答。
 イヴは振り返ってカケルの様子を見る。カケルはこんな状況だというのに、頬に微かに苦笑を浮かべて平然としていた。イヴの視線に気づくと軽く微笑む。

「大丈夫だよ」
「カケル?」
「リリーナは遠慮してたみたいだけど、俺をどんどん利用してくれていいんだよ。こういう時にしか役に立たない人脈だしね」

 彼の笑顔を見て、イヴは気持ちが落ち着くのを感じた。
 先ほどまで重かった空気が軽くなる。

 アロールを先頭に一行はざわめく街の中を移動しはじめた。
 歩き出した面々の中でオルタナは、沈んだ表情でその場を動かない。
 大人達はどんどん先へ進んでいる。
 イヴがどう声を掛けたものか迷っていると、動かないオルタナに気付いたカケルが戻ってきた。彼は気安い調子で、オルタナの肩をトンと叩く。

「行こう、オルト」
「……」
「まだ挽回のチャンスはある」

 カケルの言葉にオルタナは顔を上げる。
 彼は励ましたカケルの言葉には答えず、唇を引き結んで無言で歩き出した。
 肩をすくめたカケルはイヴに視線を送って合図すると、自分も速足で歩き始めた。


 
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