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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.11 君が選んだ俺の「ほんとう」を見て欲しい

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01 誰だっけ

 「ほんとう」の私ってなんだろうか。
 家族と話しているときの私。
 友人と話しているときの私。
 お客様向けに取り繕っているときの私。
 どれが「ほんとう」なのだろう。



 時間は少し遡る。



 港街ガーベラの大使館で泊まった日の夜。
 リリーナはなんとなく部屋を出て、3階の廊下にあるバルコニーに向かった。
 バルコニーからは港町ガーベラの夜景と、かすかに光る海景色が一望できる。リリーナは手摺にもたれて、ぼんやりとその光景を眺めた。
 塩の匂いがする風がリリーナの緑色の髪をふわりと揺らす。

「……あんま薄着だと風邪ひくぞ」

 いつの間にか、バルコニーには獣人の青年オルタナの姿があった。
 濃い金髪に浅黒い肌、しなやかで野生味を帯びた、けれど逞しさも感じさせる体格の青年だ。紅の色の瞳は獣人の証である縦長の瞳孔が走っていて、夜行性の獣のように僅かな光を跳ね返して光っていた。
 彼は相変わらずの仏頂面のままこちらに近づき、女性もののカーディガンを渡してくる。

「ありがとう」

 リリーナは礼を言って羽織ものを受け取った。
 カーディガンの袖に腕を通しながら、無骨な彼にしては気のきいた仕事だと思う。

「もしかして、誰かにカーディガンを渡してきて、って言われた?」
「……」

 ついそう聞くと、オルタナは明らかに機嫌を損ねた様子でそっぽを向いた。
 しまった。

「……兄貴は、ずっとお前のことを護衛してきたんだって?」
「そうね。エイドにはお世話になってるわ」
「だったら……俺は必要ねえんじゃねえか」
「え?」

 不意の言葉に心臓が跳ねた。
 自分は勝手に彼に期待をして、生真面目な彼はそれに応えようとして、でも諦めようとしている。そんな空気を感じた。嫌な予感がして、リリーナは必死に言葉を探した。

 そんなことはない。
 私はあなたに助けられてる。

 どんなふうに言葉を掛けようと考えているうちに、オルタナは背を向けて歩き出す。
 それは出歯亀していたカケルとイヴに声をかけるためだった。
 リリーナは機会を逃す。
 背を向けたオルタナの腕をひく機会を。





 小石を飲み込んだような胃のしこりを、小さな違和感を。
 リリーナは解消できないまま、フレイの王太子ユリアンとの会談に臨んだ。
 心の片隅でオルタナと話したいと思いながら。





 会談が終わってリリーナ達は学生メンバーだけで、寺院の内部を観光することになった。
 フレイに来るのは初めてではないのだが、この大寺院の中を歩き回るのは初めてかもしれない。
 歴史ある建築物に感心しながら案内の後をついて歩いていると、なんと先ほど会談した王太子ユリアンが私服で登場した。ユリアンは暗い緑の髪と瞳を持った、気品と落ち着きを感じさせる青年だ。
 彼はリリーナ達の面々の顔を見回すと言った。

「1人、知った顔がいるな……」
「え?」
「久方ぶりだというのに、そちらから挨拶もなしか。……カケル・ユエル・ライブラ」

 その名前をリリーナは知っていた。
 カケルの元の名前、七司書家にいた頃の名だ。
 注目を浴びたカケルはふわふわした表情で首を傾げた。

「誰だっけ……?」

 あまりの回答に、ユリアンの顔が引きつる。
 公式の場ではないとはいえ、マイペース極まる返事に、リリーナは内心「これって大丈夫なの?!」と悲鳴を上げた。彼女は今エファランの代表でこの国に来ている。失礼があればエファランの外交問題になる。
 戦々恐々とするリリーナだが、ユリアンは無礼だと怒り出したりはしなかった。

「相変わらず気に入らない奴だな、貴様は。ユエル、お前は6年程前に七司書家の当主と顔見せにフレイに来ただろうが」
「……」
「忘れたとは言わせんぞ」

 苦々しい顔をして言うユリアン。
 カケルはちょっと黙り込んだあと、ポンと手を打った。

「ああ、あの時の! 庭の浅い池に落ちて慌ててた奴!」
「その思い出し方はやめろっ」

 ユリアンは慌ててカケルの言葉を遮った。

「普通に知己だと思い出せばいいだろう!」
「いやあ、印象的だったのはあのシーンだったもんで。他はなんだか睨まれてた記憶しかないよ」

 飄々と言うカケル。
 一国の王太子と話しているというのに、普段通りの調子のカケルに、周囲の面々は顔をしかめたり驚いた顔をしている。
 しかしリリーナは驚かない。
 高天原インバウンドの各国に強い影響力を持つ七司書家。その本家嫡子であったカケルなら、フレイの王太子と顔見知りであってもおかしくない。

 ――いざとなったら、彼は外交のカードになります。

 護衛として付いて来た空軍特務隊のアロール・マクセランの言葉を思い出す。

 ――家を出たと言っても彼は各国の王族や貴族、
   高位の呪術師逹と繋がりがあります。
   エファランの未来のために活用しない手はない。

 彼とは友達なのに。
 リリーナは苦い思いを飲み込んだ。
 国のために私は友達を利用しようとしている。

「こちらだって貴様に良い思い出などない」

 むっすりというユリアンだが、頬に微かな笑みが浮かんでいる。
 口で言うほど、カケルを嫌っている訳ではないらしい。

「鬱陶しいから高天原インバウンドに来るな。エファランでもどこでも遠いところに行ってしまえ」
「酷いなあ。でもありがとう」
「フン」

 ユリアンは鼻を鳴らすと、リリーナ逹に会釈して「では」と背を向けた。
 会話を切り上げて立ち去る彼を見送ってから気付く。
 結局、ユリアンはカケルに会いにわざわざやって来たのだ。
 危険だから高天原インバウンドに長居するなと忠告するために。



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