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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.10 学年が上がって4年生になりました

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07 もう1つの名前

 港街ガーベラから王都ローワンへは列車で移動する。
 この世界は中途半端に発達した科学と、魔法の類である呪術が融合していて、都会では背の高い建物や呪式駆動機関を持つ機械の乗り物が走る光景が見られる。エファランでは遠距離の移動は竜に乗ることが多いが、向かいの国ソルダートやここ高天原インバウンドでは、機械の乗り物が非常に多く見受けられる。

 イヴ達はアロールに連れられて、初めて乗る列車に緊張しながら席に座る。
 列車が動き始めると窓の外の風景が流れさっていく。
 農耕が盛んな国フレイだけあって、窓の外には牧歌的な畑や牧場の風景が広がっていた。
 エファランではこのように開放的な農業の風景を見ることは少ない。
 葦原国アウトバウンドであるエファランでは虫の脅威があるため、できるだけ街の近く塀や柵で囲んだ中で農作物を作ったり畜舎を作る。安全な場所が少なく、農耕できる土地が狭いエファランで自給自足できるだけの農作ができるかというと、そこにはエファラン独自の事情がある。竜が中心のエファランでは地竜という大地や緑の力を増幅させる属性の竜が、農作をサポートしているのだ。

 窓の外の風景を興味深く眺めていたイヴだが、オルタナが「おい」と言ったので、顔を車内に向けた。

「おい、あいつ……」
「何?」

 顔をしかめたオルタナは指をささず、視線だけで気になることがあると伝えてくる。
 彼の視線の先を追うと斜め向かいの座席に座る客の姿があった。
 でっぷり太った裕福そうな男性の横に、涼しげな顔立ちの赤茶色の髪の青年が立っていた。
 青年は俯いて沈んだ表情をしている。勝気に吊り上がり気味の瞳は碧の色。簡素な灰色の服は作業着のような印象だ。手元には大きなトランクケースがあるが、それは彼のものではなく、隣の太った男性のものと思われた。
 ほっそりした彼の首元には無骨な革製の首輪が嵌められている。

「あいつ、獣人だぜ」
「え?」
「……イヴ、オルト、目を合わさないで」

 カケルが低い声で窓の外を見ながら言った。

「サーフェス君の言う通りだ。他の乗客とはなるべく関わらないように」
「アロールさん」

 優雅に膝を組んだアロールがカケルの言葉を補足するように言う。
 オルタナは不機嫌そうにしながらも、赤茶色の髪の青年から視線を外した。
 怪訝に思いながら、イヴもそっと青年から目を逸らそうとする。
 しかし、その一瞬、青年は顔を上げてイヴ達を見た。
 青年は口元をギュッと引き締め、イヴ達を睨む。
 その瞳には怒りや憎しみなどの負の感情が感じられて、身に覚えのないイヴは戸惑った。






 王都ローワンについて列車から降りたイヴ達は、小型のバスのような車に乗り換えた。
 今回エファランの王族であるリリーナが親善のために訪問していることは、両国の国民には伝えられていない。表立っては、今日の午後にエファランと農業国フレイは貿易について会議をすることになっている。貿易についての交渉は外交官や国の高官の仕事だ。彼等はリリーナとは別で既にフレイに入国している。
 リリーナの役目は密かにフレイの王族と親しくなって、根回しが確実に通るように王族側からエファラン統括府のサポートをすることだった。

 会談場所は王都ローワンの中心にある大寺院である。
 農業の国であるフレイでは、農耕の神ユングリングを国をあげて祀っている。ユングリングを主神とする大寺院は、門から施設まで10分以上庭を歩かなければいけないほど、途轍もなく広い。
 寺院の控室に通されたイヴ達は着替えることになった。
 リリーナは貴賓にふさわしいドレス姿に。
 アロールやイヴ達は身分が分かる軍服や学生服に。

 着替えて控室で待つ間、イヴはアロールに列車での出来事について聞いてみた。

「すいません、列車での事なんですが……」
「ああ」

 空軍を示す青い軍服に身を包んだアロールは思い出したように瞬きした。

「ああ、彼のことか。アラクサラ君、ここ高天原インバウンドでは、竜や獣人はマイノリティなのだよ。人と他種族の垣根はとうの昔になくなったとはいえ、古い伝統がいきづく高天原インバウンドではいまだに差別意識が残っている。竜や獣人に首輪を嵌めて従わせる文化がまだ残っているんだ」
「は?! そんな時代錯誤な」
「そうだね。本当に悔しく思う。だが、今回はこらえてくれないか。私達が問題を起こすと、エファランとフレイの国交にひびが入りかねない」

 悲しそうな顔をしたアロールにそう言われて、イヴは黙り込むしかなかった。
 列車で会った青年の姿を思い返して、では彼は奴隷なのか、とイヴは愕然となった。
 獣人や竜が白昼堂々、首輪を嵌められて連れまわされるなんて、そんな酷いことが高天原インバウンドではまかり通っているのだ。
 もしかして、だからカケルは……。
 カケルを振り返ると、彼は欠伸をして、うつらうつらし始めたところだった。

「ちょっとカケル、あなたね」
「ふえっ」

 耳を思い切りひっぱって目を覚まさせる。
 準備が済んだイヴ達のもとに案内役が訪れ、会談の準備が整ったことを告げた。
 リリーナの会談の相手はこの国の王太子であるユリアンだ。
 専用の応接室にリリーナと護衛のアロール、エイドだけ通され、イヴ達は保護者代わりのレディーネと一緒に隣の部屋で待機になった。
 会談は小一時間ほどで済み、部屋からリリーナ達が出てくる。

「……せっかくだから、午後は寺院内を観光していってくれ」
「まあ、ありがとうございます」

 和やかに会話しながら現れたのは、暗い緑の髪のスーツ姿の青年だ。
 落ち着きと気品を漂わせ、翠玉の瞳を細めた彼が、この国の王太子ユリアン・デリス・フレイらしい。
 穏やかな空気が流れていて、会談が無事終わったらしいと察したイヴは安堵した。リリーナ以外の、くっついてきたイヴ達学生は何も仕事をしていないのだが、初めてのことばかりで緊張していた。
 戻ってきたリリーナも一仕事を終えたからか、表情がゆるんでいる。

「寺院内を案内してくれるって。後は観光して、葡萄の依頼をこなして、帰るだけね」

 会談は終わったので、イヴ達は控室に戻って私服に近い服装に着替えた。
 軍服や学生服で一般人に見られる場所を歩くと目立つからだ。大寺院は一部、一般の観光客向けに公開されている場所がある。

「私達は別に打ち合わせがあるから、君達は寺院内を観光しておいで」

 アロールとエイド、レディーネは別に仕事があるという。
 観光が終わったら合流して寺院を出ることにして、イヴ達学生組は案内役に連れられて寺院内を巡ることにした。
 寺院の天井は高く、磨かれた床は鏡のように歩くイヴ達の姿を映している。
 庭には季節の花が咲いていて、涼やかな風が渡り廊下を吹き抜けた。
 イヴの隣を歩くカケルは先ほどから何度も欠伸を噛み殺している。眠そうだ。

「すごい建物ね。数百年以上の歴史があるんですよね」
「建設から700年近く経っております」

 案内の説明にイヴ達は感嘆の溜息をもらした。
 エファランは建国して600年くらいなので、歴史のある建物が少ない。
 そぞろ歩いていると、横あいから声が掛かった。

「……楽しんでくれているかい?」
「!」

 声の主を見て、イヴ達は驚愕する。
 それは先ほどの会談の相手、フレイの王太子ユリアンだった。
 彼も着替えたらしく会談時よりラフな格好をしている。さすがに王太子の一人歩きはできないのか、後ろの方に側使えか護衛らしき数人がひっそり控えていた。
 リリーナは仲間内で和んでいた表情を引き締めると、ユリアンに向かって挨拶する。

「ユリアン様、先ほどはどうもありがとうございました」
「こちらこそ。有意義な話ができて何よりだ。そちらは君の友達かい?」
「はい。学友です」

 ユリアンは翠玉の瞳を眇めてイヴ達を1人1人観察する。
 若さの割に落ち着きと鋭さを持った視線に一瞥されて、イヴは息を呑んだ。
 その視線が大欠伸をしているカケルの上で止まる。

「1人、知った顔がいるな……」
「え?」
「久方ぶりだというのに、そちらから挨拶もなしか。……カケル・ユエル・ライブラ」

 それはイヴの知らない名前だった。
 どういうことだろう。
 イヴ達はそろってカケルを見る。
 カケルは、睨むユリアンを見て、ふわふわした表情で首を傾げた。

「……誰だっけ?」

 場の空気が凍った。







 Act.10 学年が上がって4年生になりました  完

 Act.11 君が選んだ俺の「ほんとう」を見て欲しい  へ続く



若干だらだらした雰囲気になってきたので、ここで締めます。
次回以降は少しシリアスでドラマチックな展開になる予定です。
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