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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.10 学年が上がって4年生になりました

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06 海辺にて

 初めて見る高天原インバウンドの景色を、イヴは竜の上から興味深く眺めた。
 エファランと違い人口が多く、民家や街が多い。
 放し飼いの牛や羊の姿もよく見かける。エファランではモンスターの襲撃があるので、屋外で牧畜することは難しい。
 人々は平和で豊かな生活を営んでいるようだ。

 竜は高天原インバウンドの中央に位置する山脈に沿って南下した。
 海の近くの街並みが見えてくる。

『ここが豊穣の国フレイ、港街ガーベラだよ』

 高天原インバウンド出身のカケルが慣れた調子で案内する。
 赤い花が咲き乱れる、南国の街並みに竜は舞い降りていく。
 物珍しそうに港街ガーベラの住民たちが竜を見上げている。
 竜が多いエファランではどこに着陸しても問題にならないが、高天原インバウンドでは着陸できる場所が限られていた。
 船着き場の近くの竜専用の発着場にカケル達は順番に降り立った。
 背中のイヴ達を降ろすと、二頭の竜は人間の姿に戻る。

「今日は大使館で泊まって、明日、王都ローワンへ列車で移動する。喫茶店葡萄で頼まれた材料は帰り道で受け取ろうか」

 アロールはそう言って、イヴ達をエファランの大使館へ連れて行った。
 大使館で職員に挨拶した後、制服から私服に着替えるように言われる。エファランの軍人であることを示す軍服や、それに近いデザインの学校の制服を着たイヴ達は街の中で目立っていた。
 現地で目立たない服装に着替え、夕食を食べた後は自由行動の時間になる。
 夜、割り当てられた個室で休んでいると、扉を叩く音がした。

「イヴ。ちょっと出かけない?」

 扉を開けるとカケルがふわふわした笑顔で立っている。
 イヴは「ちょっと待って」と言って上着を羽織り貴重品を身に着けると、カケルの後を追う。
 どこへ連れて行ってくれるのだろう、と密かに内心ウキウキしていたイヴだが。

「……なんで覗き見?」
「だって気にならない、あの二人。どこまで関係進んだのかなあ」

 ふふふとカケルが怪しく笑う。
 視線の先には、大使館のベランダで夜風にあたっているリリーナとオルタナの二人。
 イヴとカケルは物陰に隠れて二人の様子をうかがった。
 ベランダの手すりにもたれて話すリリーナとオルタナの距離は近い。親密そうな様子を見て、イヴはやっぱりあの二人は付き合ってるのかしら、と思う。それにしても。

「わーお、キスしたりしないかな」

 何言ってるのコイツ。
 楽しそうに出歯亀するカケルを見ながら拳を固める。期待した私が馬鹿だったわ。
 脳天に拳を落とそうとした瞬間、オルタナの声がした。

「よう。そこの馬鹿二人」

 ベランダから数歩進んで、イヴ達に近づいたオルタナは呆れた顔をしていた。
 覗き見はばれていたらしい。
 身を隠すのは諦めてイヴは灯りの下に立つと、オルタナに反論する。

「ソレル! 馬鹿はこいつ1人よ! 一緒にしないで」
「酷いなあイヴ」
「馬鹿の飼い主は馬鹿に決まってるだろ」
「なんですって」
「まあまあ」

 混沌としてきた口論にリリーナが仲裁に入った。

「オルタナと話してたんだけど、せっかくだからどこか観光に行こうって。カケル、良い場所を知らない?」

 聞かれてカケルは「うーん」と首をひねった。

「そうだなあ、今の季節なら……」

 心当たりがあるらしいカケルに先導されて、イヴ達は大使館を出た。
 暗い通りを歩いて海に出る。
 弧を描いた湾岸線が目の前に現れた。
 船着き場には大小いくつもの船が泊まっている。

 砂浜を歩いていくと、沖合に光る船がいくつか見えた。
 赤い提灯を掲げた漁船がゆらゆら海面に揺れている。
 漁船の周囲の海面はところどころ光っていて、海面の下に光る生き物が泳いでいるようだった。

「ヒカリウオを捕ってるんだよ。ほら見て」

 漁船の漁師が提灯を掲げて何かをばらまく。
 すると、光る魚が海面から大きく飛び跳ねた。
 キラキラと螺旋を描いて飛ぶ魚。
 複数の漁船の上をまたぐように、ヒカリウオが群れを為して空中を泳ぐ。
 漁師は網で空中を飛ぶ魚を掬い取っていた。

「へえ……」

 見たことのない光景にイヴ達は見とれる。
 イヴ達以外にも観光客らしい人々が数人、砂浜に立って漁の様子を眺めていた。
 やがてヒカリウオの漁が終わりに近づく。
 それまで黙っていたオルタナが、砂を蹴って口を開いた。

「おい、覗き見野郎。てめえまだエファランを出るか迷ってんのか」

 それはカケルに対しての言葉だった。
 喫茶店葡萄でアロールがカケルに言った「君は迷っている、エファランにとどまるかどうかを」という台詞が気になっているらしい。イヴも小旅行が決まった際の、カケルの浮かない様子が気がかりだった。暗闇の中、かすかな光が照らすカケルの横顔を見る。
 カケルは目を細めて微笑した。

「いや……。俺の未来はエファランにある。そう分かってるけど、心の整理が付かないだけだよ。心配かけてごめん、皆」

 その声は穏やかだった。
 イヴはほっとする。
 答えを聞いたオルタナは不思議そうにした。

「心の整理だあ? 国境を越えて家出するくらい家が嫌いなんだろうが。今更なにか迷うことでもあるのか」
「確かに、ろくでなしの父親とか山のようにいる親戚とか、正直どうでもいいんだけどね」

 好き嫌いがはっきりしているオルタナには、煮え切らないカケルの態度は理解できないらしい。きっとオルタナなら、家族と敵対することがあっても迷わないのだろう。
 それにしても、カケルの口から家族の話が出るのは、これが初めてかもしれない。

「妹がいるんだ」
「妹?」
「かーわいいんだよー。お兄ちゃんお兄ちゃんって懐いてきてさ」

 カケルは眉を下げてデレデレする。
 いったい妹さんがなんなの、気持ち悪い。

「シスコンかよ」
「その通り~」
「妹が可愛いから家と敵対したくない?」
「……その通り」

 打って変わって悲しそうになったカケルは、しゃがんで砂浜にへのへのもへじを書き始めた。変な落ち込み方は止めてほしい。
 浜辺にいた他の観光客の視線を感じたイヴ達は、大使館に戻ることにした。

「おら立てよ。帰るぞ」
「ふえー」

 オルタナは慣れた様子でカケルを引きずって歩き出す。
 イヴ達も後に続いた。





 カケル達が浜辺にいることを、アロールは最大限に広げた探査の呪術で把握していた。彼は学生達が問題を起こさないように、それとなく監視していた。

「……子供達は海岸で遊んでるみたいだね」
「リリーナ様は?」
「4人一緒さ」

 アロールは私服に着替えて大使館近くの酒場に来ていた。
 隣には仏頂面をしたエイドと、優雅にグラスを傾けるレディーネの姿がある。
 大人組は酒を飲みながら今後の予定を話し合っていた。
 眉根を寄せて難しい顔をしているエイドの眉間に、レディーネが指を伸ばす。彼女は笑って眉間の皺をつついた。

「心配性なんだから。大丈夫よ。あの子たちは、ああ見えて分別あるわ。危険なところには行かないわよ」
「レディーの言う通りだ」

 左右から心配性だと責められたエイドは、ぼそぼそと反論する。

高天原インバウンドに連れてくるのは早いんじゃないか。まだ彼等は学生だぞ」
「早いということはない」

 アロールは頬杖をついてグラスを揺らす。

「あの子達には将来、私達の役目を引き継いでもらうんだ。リリーナ様を護衛して高天原インバウンドを行き来することになる」

 エイドはますます眉間の皺を深めた。
 反抗期の弟の件を含め、色々思うところがあるのだろう。
 アロールは空になっている彼のグラスに酒を注いだ。今夜は、久しぶりに行動を共にする元同級生と親交を深めることにしよう。



番外編「竜の鱗の触り心地は」を下記urlにアップしてますー。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882684281/episodes/1177354054883140934
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