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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.10 学年が上がって4年生になりました

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05 高天原へ

 待ち合わせ当日の朝、喫茶店葡萄の前に向かったイヴは、何やら大きい荷物を背負ったカケルにぎょっとした。
 水色の布に綿が詰まった等身大の物体。
 海の生き物をデフォルメした縫いぐるみだ。

「……カケル、あなたそれ」
「あ、イヴおはよー。これ? これはイルカさん抱き枕だよ」
「返してきなさい! 今すぐ!」

 イルカさんをギュッと抱いたカケルは「えー可愛いのに」と不満げだ。
 カケルは片腕に小さなリュック1つをさげている。イルカさん以外の荷物は必要最小限らしい。
 イヴはほっとした。
 竜に変身すると荷物を持てない。必然的にカケルの荷物はイヴが持つことになるからだ。
 基本的に竜や獣人は簡単な衣服を付けたまま変身可能だが、金属類は変身に巻き込めないので下に落ちて外れる。人間に戻ったときに変身前の衣服を再現できると言っても限度があるのだ。変身する種族の竜と獣人は、変身で苦労しないようにアクセサリー類は付けない。

「仕方ないなあ」

 どうするのかと見ていると、カケルは葡萄の店内に勝手に入ってイルカさんを置いた。「迎えにきます」という走り書きと一緒に。開店時に驚く葡萄の店主の顔が予想できる。

「何やってんだお前ら」

 いつの間にか呆れた顔をした獣人の青年が背後に立っていた。
 彼は私服ではなく学校の制服を着崩した格好をしていた。イヴとカケルも、今日は学校の制服を着ている。今回の小旅行は学校の許可をもらってアロールと特別実習に出るという名目だ。服装は制服で行くように指示されていた。

「ソレル……朝から鬱陶しそうな顔しないでよ」
「それはこっちの台詞だ」

 しかめ面をしたオルタナと眉を吊り上げたイヴはにらみ合う。
 戻ってきたカケルは二人の間に立って、仲裁することなく、「仲良さそうだね~」と言ってふわふわ笑った。

「やあ、おはよう君たち」

 カケル達が喫茶店葡萄の前でじゃれあっていると、約束の時間になって待ち人が現れた。
 朝の光を受けて、アロールが爽やかに挨拶する。
 彼のほかにも数人が荷物を持って一緒に来ていた。

「おはようイヴ」
「リリーナ、おはよう」

 旅行用のトランクを持ったリリーナが挨拶する。
 彼女の後ろにはモスグリーンの陸軍の制服を着た背の高い男性が付き従っている。

「兄貴」
「今回はリリーナ様の護衛で一緒に来ている、オルタナ」
「そうかよ」

 オルタナの兄のエイドは、濃い金髪に深い紅の瞳をした体格の良い青年だ。
 ソレル家は代々、エファランの陸軍の名将を輩出している家で、兄のエイドも若くして将校以上の立場にいる。また、獣人の名家であるソレルは、代々王侯貴族の専属の護衛をしている。エイドは王族であるリリーナの護衛をしているのだ。
 兄弟仲はあまりよろしくない。と言ってもオルタナが一方的にエイドを突っぱねているだけだが。
 弟と仲良くしたいという気持ちが表情に現れているエイドだが、オルタナは鬱陶しそうにプイと兄から視線を逸らした。エイドは残念そうな顔をする。

「君がカケル・サーフェスね。同じ竜としてよろしくね」

 紅い髪をした美女が艶のある声でカケルに挨拶した。
 彼女はアロールのパートナーの竜らしい。

「私はレディーネ。火竜よ」
「よろしくお願いします」

 先輩の竜の登場に、さすがのカケルも真面目な顔で挨拶した。
 高天原インバウンドへ行くメンバーが揃った。
 カケルのチームはもう1人、獣人の男子生徒のスルトという陸戦科の5年生がいるのだが、彼は外せない授業があるということで今回は同行しない。

 一行は揃って近くの公園へ移動する。
 広い公園で竜の2人は変身して姿を変えた。

 火竜のレディーネは深紅の鱗を持つ美しい竜だ。
 女性の竜らしくしなやかで細身の竜で、頭部の二本の角も細く優雅に伸びている。瞳の色は鮮やかな山吹の色だ。広げた翼は根本が暗紅色で、先の方にかけて鮮やかなクリムゾンレッドになっている。
 翼を広げる動作にも尻尾をくねらせる仕草にも、気品と色気を漂わせる。彼女は一般の騎竜とは異なる独特の雰囲気を持っていた。

 カケルも先輩とぶつからないよう距離をとってから竜に姿を変える。
 彼は空色の鱗をした竜だ。
 風竜の特徴で翼が他の竜より大きく尻尾が長い。真珠色の角が真っ直ぐ頭部から伸びている。瞳の色は悪戯っぽい金色。朝日を浴びて蒼い鱗は瑞々しいサファイアの輝きを放った。

「私とエイドとリリーナ君は、レディーネに乗る。君たちはカケル君と一緒に、私に付いてきなさい」

 リリーナをエスコートしながら、アロールが言う。
 彼は空軍の竜騎士を表す明るい青の軍服を翻して、颯爽と深紅の竜に乗った。オルタナの兄のエイドも身軽に竜に登って、リリーナの後ろに座る。

 イヴは「分かりました」と答えて、不機嫌そうなオルタナと一緒に蒼い竜の背によじ登った。
 全員が乗ったことを確認した竜たちは翼を広げて離陸を開始する。

『あーあ、リリーナは向こうかあ。なんだかつまんないね。ねえオルト』
「馬鹿いってんじゃねえよ……」

 空を飛び始めた蒼い竜が、背に乗るイヴ達に聞こえるように念話で話しかけてくる。
 カケルの言葉を否定せずにオルタナは溜息をついた。
 いつも口喧嘩しているイヴから見ても、今のオルタナは落ち込んでいるようで、下手に声をかけにくい。
 元気がない様子で黙り込んでしまった同級生の姿に、イヴはどうしたものかと思った。
 イヴだってリリーナと一緒の方がうれしい。女子同士、友達同士、今回の旅行について色々と話をしたいと思っていた。しかし、護衛のためか、アロールとエイドががっちり脇を固めていて、話しかけづらい。

 仕方なくイヴは蒼い竜の首筋に手をおいて、強く念じた。

 ――カケル……話したいことがあるんだけど。

『何?』

 竜は背に乗っている人間の思考を読み取れる。
 念話で応答が返ってきた。
 念のため横目でオルタナの様子をうかがうが、イヴとカケルのやり取りに気付いた様子はない。彼はぼんやり流れている景色を眺めている。カケルは念話の範囲をイヴだけに絞ってくれているようだ。
 安心して、イヴは口に出さずに会話をつづけた。

 ――リリーナが王族だって、あなたはどうして知ったの?

『ほら、前に展望台が炎上した事件あっただろ。あの時にリリーナに対しての王都警備隊の人の反応がおかしかったから、気になってアロールさんに聞いたんだ』

 ――そういえばアロールさんとあなた、いつの間に仲良くなったの

『うーん。今まで黙ってたけど、元からアロールさんとは知り合いではあるんだよ。5年ほど前、俺がエファランに来た時に、マクセランの人達にもお世話になったんだ』

 カケルの回答を聞いて、イヴは諸々の疑問の答えを知った。
 ついで、年明けの虫駆除の実習で基地がソルダートに占領された事件で、最後に現れてアロールが気になることを言っていたのを思い出す。
 確かアロールは妹のミレーヌをカケルに引き合わせて、彼女と契約して彼女の騎竜になるようにカケルに言った。

 ――あのミレーヌって、イリアの妹でしょ。カケルあなた、イリアの妹さんと契約するって約束してるの?

『ご、誤解だよ!』
「ん?」

 慌てたカケルは念話の範囲を誤ったらしい。
 ぼんやりしていたオルタナが怪訝そうにイヴを見る。
 念話で会話していることがばれてしまった。

「何が誤解だって?」
『うわわ』
「馬鹿ね……」

 内緒話の時間は終わってしまった。
 そんなこんなで時折雑談をしつつ数時間の空の旅を経て、カケル達は高天原インバウンドに接近する。
 目前に巨大な半透明のドームが見えてくる。
 外部と内部を遮断する特殊な結界だ。
 いくつもの国を内包しているこの結界は「ダイアルフィールド」と呼ばれている。
 一つの半島を丸ごと囲い込むダイアルフィールドは途轍もなく大きい。
 半透明のお椀型の結界の周囲は、雲が途切れていて、内部と外部は気候が違っていると視覚的に分かる。

 ダイアルフィールドに近づくと、雲まで届くような尖塔が見えてくる。
 尖塔の近くに発光する円が宙に浮かんでいる。
 この円はダイアルフィールドの外と内を繋ぐゲートだ。

「こちらはエファラン国空軍のアロール・マクセランだ。通行許可を求む」
『確認しました』

 通行証を持っていれば、高天原インバウンドには自由に行き来できる。
 尖塔の番人は通行証を持っている人間を乗せている竜であれば、特に検問せずに通してくれる。
 紅い竜と蒼い竜は無事にゲートをくぐって高天原インバウンド内部に突入した。


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