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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.10 学年が上がって4年生になりました

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04 家出したから帰りにくい?

 喫茶店葡萄に唐突に入ってきた男。
 それは以前から度々世話になっている空軍の竜騎士、アロール・マクセランだった。

「フレイに行きたいんだね? ちょうど私も行く用がある。ついでに菓子の材料ももらってこよう」
「ふえ?! ありがとうございますアロールさん。よろしくお願いします」
「ふふふ…何を他人事の顔をしてるんだカケル君。君も、君たちも一緒に来るんだよ。だって葡萄の依頼を受けるのは、君たちだろう」

 てっきりアロールが代わりに行くのだと思ったが、違うらしい。
 思わぬ話の成り行きにカケルは混乱している様子だ。
 1人悠々としているアロールは店主に「ここにいる全員にお茶をお願いしてもいいかな。少し話がある」と話しかけている。店主は驚いた様子だったが、人数分の紅茶をオルタナと一緒に用意してくれた。
 アロールは給仕するオルタナにも席につくように言って、店主に目くばせする。
 店主は心得たように厨房の奥に姿を消した。

「さて。私は近日中にフレイに赴く用事がある。そこにいるリリーナ君と一緒に」
「は? リリーナ?」
「…そうね」

 アロールは全員が席についたのを見届けると早速話を切り出した。
 唐突に話題に上がったにも関わらず、当のリリーナは冷静に頷く。

「私はその輸出輸入の話で、親善のためフレイの王族と会談することになってるの」
「なんでリリーナが?!」

 イヴは話の内容がよく分からずに驚きの声を上げた。
 隣でカケルがふわふわした表情で言う。

「あれ~、イヴは知らなかったっけ。リリーナはエファランの王族なんだよ」
「なんですって?!」
「ごめんねイヴ、黙ってて」

 どうやら知らなかったのは自分だけらしい。
 オルタナは無表情のままだし、カケルはふわふわ笑っている。
 自分だけ知らなかったことに苛立ちがこみ上げるが、リリーナに謝罪されてイヴは仕方なく自分を落ち着けた。確かに王族だなんて、軽々しく話題にできることではない。

「私はリリーナ君の護衛の任で一緒に行くんだよ」

 アロールは飄々とした様子でつづけた。

「学校の先生には私から言っておくから、君たちも一緒においで。たぶんこんな機会は滅多にない。良い勉強になるだろう」
「何考えてるんですかアロールさん」

 カケルがふわふわした笑顔を消して正面からアロールに反論する。

「足手まといの俺達を、狙われるかもしれないリリーナと一緒に連れてくなんて。しかも俺は……」
「君も狙われる対象だね、高天原インバウンドでは」

 アロールはカケルの反論を受け止めて頷いた。

七司書家セブン・ライブラリアンは今も君を家に連れ戻したがっている。それはおそらく、所在不明だという噂の七冊目の呪術書アーカイブとも関係があるのだろう」
「……」

 呪術書の話題になると、カケルは口をつぐんだ。
 紺色の髪の少年をじっと見つめてアロールは言葉を紡いだ。

「君は迷っている、エファランにとどまるかどうかを。契約してエファランの騎竜として生きていくかどうか。どうだろう、君の故郷の高天原インバウンドを見て、この小旅行で考えるのは」
「……だけど、この不安定な情勢で」
「だからこそだ。ソルダートと戦争になるかもしれない今だからこそ、君に選んで欲しい。もし開戦するような事態になれば、私たちは七司書家と戦うことになる」

 青年の瞳に苦悩の色が宿る。
 膝の上で拳がぎゅっと握り締められるのを、イヴは見た。
 思わず手を伸ばす。
 イヴに触れられたカケルはびくんと震えて顔を上げた。
 信じられないものを見るようにハシバミ色の瞳がイヴを見る。

「まだ、決まったわけじゃないじゃない」
「イヴ」
「一緒に考えましょう。何ひとり格好つけて悩んでるのよ、馬鹿じゃないの」
「馬鹿って…ひどいなあ」

 彼は相好を崩してちょっと照れくさそうにほほ笑んだ。
 それを見て密かにイヴは安堵する。
 真剣に悩むなんてあなたには似合わない。
 いつだって笑って、惚けていて。その方が気持ちが軽くなる。
 あなたは風竜。
 風を起こして羽ばたいて、どんな苦しいことでもふわりと乗り越えて。
 私が好きになったのはそういう竜だ。

「よし、話は決まったな。では準備を整えて、明後日に喫茶店葡萄の前で待ち合わせよう」

 アロールはマイペースにそう宣言すると、カップの紅茶を飲み干して葡萄から去っていった。





 不意の闖入者が去って、喫茶店葡萄には弛緩した空気が流れた。
 カケルが一声呻いて行儀悪くテーブルクロスが引かれた卓上に突っ伏す。

「うええっ、高天原インバウンドかぁ……」
「そんなに気が乗らないの?」

 紺色のつむじを見下ろしてイヴが聞くと、情けない声で返事が返ってくる。

「俺、お留守番したい。それでもって、お昼寝したい」

 ふわふわした低い声でカケルは切々と訴える。
 向かいに座るリリーナが苦笑した。

「お昼寝はともかく、今回は確かにカケルにとってはきついわね。家出してきたんでしょ。故郷には戻りづらいわよね」
「うん」
「……そういやお前、なんで家出してきたんだ」

 オルタナの疑問に、机に伏せたカケルの肩がびくりと動く。
 その様子を見ながらイヴは、カケルの事情を思い出した。確か……

「呪術師の適性が無かったから?」
「ぐっ」
「なーんだてめえ、逃げてきたのか」
「ぐさっ」
「弱虫よね」
「これで竜になれなかったら詰んでたな」

 普段は仲が悪い癖にこういう時、イヴとオルタナは見事な連携を発揮する。
 心に瀕死の重傷を負ったカケルは「立ち直れない」と机に突っ伏したままウジウジしはじめた。
 リリーナが慈愛の微笑みを浮かべて二人をいさめる。

「イヴ、オルタナ、その辺にしてあげて。七司書家は色々と特殊な家なのよ。二人は高天原インバウンドに入ったことはある?」

 聞かれてイヴとオルタナは頭を振った。

「いいえ……」
「初めてだな」

 エファランの住民は特に用がなければ高天原インバウンドに赴くことはない。二人の返事に、リリーナは笑みを消して言う。

高天原インバウンドはエファランとは別世界よ。行けば分かるわ。なぜカケルが家出したのか、その理由の一端が」



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