隣の王様
注意:会話文のみ
「ただいまー。はー、疲れた疲れた。今日も働いたったぜ!」
「おかえり、燕。寒かっただろう。酷くパンプスが濡れているな。ほら、こちらの新聞紙の上に置いて乾かすがよい。」
「うん、雪が降ってたよー。もう最悪。こんなことならブーツで行くんだった。」
「雪か。道理で寒いと思った。『我が国』とはやはり季節が全く違うのだな。」
「そうだね。・・・・・・あれ?うちのサヨちゃんは?」
「小夜子母君から燕へ伝言を預かっているぞ。『今日はアロマの講習会の後に飲み会あるから、ご飯はテキトーに食べてね!メールしようと思ったんだけど充電無くてー。ごめんね!』だそうだ。」
「・・・・・・いや、家に居るんだったら充電すりゃいいじゃん。」
「うむ。おそらく、面倒だったのだろうな。」
「んなこたわかっちょるわ!えぇー。どうしよ。なんかあるかなぁ。『テキトー』にビールとつまめるもので済まそうかな。」
「そう言うと思って、私が作っておいた。納豆チャーハンだ。それと、セロリとベーコンのコンソメスープに、サラダ。最近便秘気味だと言っていただろう。繊維質を摂るといいらしい。テレビで言っていた。」
「おぉおお!!私が好きなレシピの、ゴマ入りでにんにく入りの納豆チャーハンじゃない!あれ、しかも、このドレッシング、市販のヤツじゃないじゃん。すっごい!これもつくったの?・・・・・・ん?でも、このサラダ、見たこと無い野菜が・・・・・・。」
「サラダは、お前の食生活を心配したうちのコック長が持たせてくれた。便秘にいいらしい。」
「食事前に便秘便秘連呼するな!食べたら即座に出さなきゃいけないみたいじゃないのよ。」
「お前も淑女としてあけっぴろげすぎる所があるぞ。気をつけよ。」
「じゃあ、言いますけどね。一国の王様ともあろうアンタが!納豆チャーハンとか作って待ってるんじゃないっつうの!!お前は私のできた嫁か!!食べるけど!!!」
「政務の合間に、今度は小夜子母君から肉じゃがを習おうと思っておる。次も期待しておくがよい。」
「どこへ向かおうとしてんの、アンタ。マジで。」
「我がイリグリア国を平和で住み良い国にするため、定めた理想に向かっておるが、何か。」
「最後のひとネタが余計なんですけど。台無しなんですけど。ていうか、それに肉じゃがをどう生かすの。」
「私の精神安定と言う名の趣味に。」
「所帯くさい!!ダプター宰相が泣くわ!!!」
「泣くがよい。私には関係ないわ。・・・・・・おお、燕よ。そろそろ金曜□ードショーが始まる頃合だ。今月はジブリ月間だからな。見逃せん。」
「着々と染まってるわね、日本の生活に。私、宰相に暗殺されないかな。」
「食べながらでいいから、早く来い、燕!オープニングがはじまってしまったぞ!」
「はいはい。って、ちょっと、鏡の向こうで、ダプターさんが号泣してんだけど。エキゾチックイケメンが台無しになってるわよ。もったいない。何でこっちに来ないの?」
「今日は『向こう』に次郎父君が日本酒を持って宴会をしに行っているからな。『こちら』へは来ずに次郎父君の世話をせよ、と、頼んでおいたのだ。すぐにダプターも回収されるだろう。」
「あ。ホントだ。大爆笑してるホワイト将軍と号泣してるブラック将軍に担がれて行っちゃった。もしかして、宴会場から逃げてきてたのかな。将軍二人もだけど、野次馬たちの雰囲気も怪しかったわよ。何時から飲んだらあんなにべろんべろんになるわけ?」
「次郎父君が鏡を通って『向こう』に行ったのは、確か日が落ちる前だった。」
「おい!日本は冬ですよ!今!!日が落ちるの早いですよ!!」
「もうよかろう。ほら、今日はトト□だぞ。ネコバスを見逃していいのか?」
「ネコバスはまだ出てこないわよ。・・・・・・はぁ。まあ、いっか。あ、こらっ!!ゲオルグ!そんな近くでテレビ見るんじゃない!」
「トト□・・・・・・我が国にも住んでおればよいのにな・・・・・・。」
「『向こう』ってファンタジーまっしぐらな世界だから、探せば居るんじゃない?んん。サラダ、美味いな。ドレッシング譲ってもらえないかなぁ。」
「戻り次第、捜索隊を編成して・・・・・・」
「税金の無駄遣い、ダメ、絶対。」
「駄目か・・・・・・。」
「駄目。」
「そうか・・・・・・。」
「・・・・・・明日は休みだから、遊びに行っちゃる。それで我慢しなさいよ。」
「うむ。・・・・・・それで許す。」
「上から目線な返答、いただきましたー。」
「明日は晴れるといいな。」
「『どっち』が?」
「『どちらも』、だ。」
「そうね。どっちも晴れるといいわね。・・・・・・それはそうと。」
「ん?」
「その割烹着、金髪碧眼のソフトマッチョには死ぬほど似合わないから早く脱ぎなさいよ。イケメンでも似合わないものってあるのねー。あ、まっくろくろすけだ。ゲオルグ、ほら、まっくろくろすけ出たよ!!」
「・・・・・・。燕、お前、酷いぞ・・・・・・。これは小夜子母君がだな、」
「ゲオルグ!まっくろくろすけキター!!」
「だぁあ!聞こえておるわ!!」
END
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三条 燕(さんじょう つばめ)
>>某県某市某地区の築ウン十年の一戸建てに父母と住む、女。販売員。
>>ある日、廊下にある姿見の鏡が異世界の城の鏡と繋がる。
>>いつの間にか半居候と化した異世界の王様とちょくちょく遊んでいる。
>>両親がいつのまにか異世界の王様と仲がよくなっていることに釈然としない。
ゲオルグ・デミトリクス・イリグリアル・スルト
>>燕から見て異世界にあたる、イリグリア国国王。男。
>>偶然別世界に繋がった鏡で日本と自国を行き来している。趣味:調理。
>>自室の隣室 (将来の后のための部屋)の大鏡が件の鏡。
>>鏡の向こうの世界が居心地よすぎてなかなか帰らず、宰相に怒られる日々を送っている。