第一章
小学校六年生のとき、『将来の夢』というテーマで作文の宿題が出あった。友達は、野球をしていたヤツはプロ野球選手に、頭のいいヤツは学校の先生に、少し可愛い女の子は芸能関係の仕事に就きたいと書いていた。しかし、僕にはそういった夢が無かった。ただ、このまま進学して大学に行き、卒業後はどこかの中小企業に就職する。そしてある程度の役職になったころには定年を迎える。そんな未来しか思い描くことができなかった。もちろん、たくさんお金がもらえて有名になって、そんな仕事に憧れないわけがなかったが、最初から無理だと決め付けていた。
作文に自分の将来への展望をそのまま書くことも考えたが、その作文はどうやら卒業文集に載せるためのもので、当然、両親も読むことになる。それは流石に拙いと思った僕が書いたのは、囲碁の棋士になるというものであった。もちろんこれには理由があった。両親が当時共働きで祖父といる時間が多く、祖父がよく囲碁をしていたので自然と覚えていたことと、その当時のプロで、19歳にしてタイトルを3つ取った棋士がいて、それがまた顔のつくりが良かったために話題になっていたので、少しの憧れを込めてプロ棋士になりたいと書いた。
卒業文集を見た両親は複雑そうな顔をしていたが、祖父は満面の笑みを浮かべていた。今までは祖父もお遊び程度だったが、その日から囲碁の授業が始まった。
小学校の勉強がそうであるように、遊びが勉強に変わると、途端につまらなくなるものだ。囲碁もその例外では無かった。今まで、適当に石を並べていただけなのに、急にそれはダメだと否定されると、自信がなくなった。何より、友達で囲碁が出来る人がいないのが、僕を囲碁から遠ざけた。
春休みになるともっと退屈な授業が始まると覚悟していたが、そんな僕の思いを察してか、祖父は一人で碁会所に出かけるようになった。
そんな日が続いたある日、祖父は久しぶりに僕を碁会所に誘った。特に友達と遊ぶ約束もしていなかったので、暇つぶしにはなると着いていって僕は驚いた。碁会所の中に、僕と同じくらいの女の子がいたのだ。
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