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童話

竜頼みをする怠け者と三つの古道具

作者:楠瑞稀


1、ものぐさランダの旅立ち


 どこかの国のお話です。
 王様の治める都から、馬でひと月は掛かるような鄙びた田舎に、“ものぐさランダ”と呼ばれる男が住んでいます。
 ランダはそれはもう、並々ならぬ怠け者です。
 歩くのが面倒だと足を止め、立っているのは疲れるからと座り込む。
 挙句の果てには座っていることすら億劫がって、ごろりと寝そべりそこから一歩たりとも動こうとしません。

 ランダの家族は、ランダが子供の頃に行商に出たまま帰ってこなくなった、おっとさんだけ。
 ランダはいつしか畑仕事もほっぽりだし、食事の支度もないがしろにし、四六時中地べたに転がっているようになりました。

 あまりに動かないものですから、服に苔が生え、頭に鳥が巣を作るランダに、村の人たちはすっかり呆れ果てておりました。
 ランダに比べれば、国境くにざかいの峠に住むという凶暴なドラゴンの方が、まだ熱心に働くに違いない。と、軽口を叩くのがあいさつ代わりになるほどです。

 大人も子供もランダを馬鹿にし、厄介者として扱っておりました。かと言って、ランダをそのまま放っとくわけにはいきません。
 なにせいつ“ものぐさ”が過ぎて、ランダが野たれ死んでしまうか、分かったものではないですから。
 それはあまりに寝覚めが悪かったので、川まで引きずっていって体を洗ってやったり、食べ物を恵んでやったり。
 村の人たちはしぶしぶと、ランダの面倒をみてやっていたのでした。


 ある日、そんな鄙びた田舎の村に、王様の使いがやってまいりました。
 隣の国といくさをしたい王様が、国中の村から男を兵隊として集めるように命じたのです。
 王様の使いは声を張り上げて、百人の男を二月後までに、都に差し出すようにとお触れを告げました。

 村の人たちはびっくり仰天、困り果ててしまいます。
 何しろ田舎の小さな村なわけですから、百人も男を取られてしまっては、すっかり働き手がいなくなってしまうのです。
 しかし、王様の命令に従わない訳にはいきません。

 王様のいる都はとても遠く、馬に乗ってもまるひと月はかかります。
 大急ぎで準備を始める村人たちに、そんな事もつゆ知らず。だらりと家の前の地べたに寝そべっていたランダは、声を掛けます。

「なあ、お前さんたち。慌てた顔をして、どうしたんだ?」

 相も変わらずのん気なランダに、村の男たちは呆れ返ります。

「王様が村の男を兵隊に差し出すように、ご命令されたんだ」

 村のおっかさんたちも、困った顔でランダに言います。

「こっから先、誰もあんたの面倒を見ることができなくなっちまうだろうよ」

 人並み外れてものぐさなランダです。彼に兵隊さんがつとまらないなんて、村の誰もが承知のことでした。
 しかし百人もの男が兵隊さんにとられてしまったら、どうして今のような“ぐうたら”な暮らしを、ランダが続けられるでしょう。

「そいつは困るなあ」

 ランダはのらくらと答えます。

「怠け者の俺じゃあ役には立たないだろうし、兵隊さんになるなんて面倒だ。ならば国境の峠のドラゴンに話をつけて、代わりに行ってもらう事にしよう」

 平然とした顔でそう言うランダに、村の人たちは支度も忘れて顔を見合わせてしまいました。
 そして自分たちが、峠のドラゴンの方が真面目で仕事熱心だ。といつも軽口を叩いていたせいで、ランダが本気にしてしまったのだと慌てました。

 何とか思いとどまらせようとする村人たちでしたが、ランダは意見を変えません。単に他のことを考えるのが、面倒臭くて堪らなかっただけかも知れませんが。
 とうとう説得を諦めた村人たちは、仕方なくランダの望むまま、旅支度を整えてやることにしました。
 この先もう、どれだけ面倒を見てやれるかも分からないのです。それなら本人のしたいようにさせてやるのが一番だろうと、思い直したのです。

 村の人たちは餞別代わりに、ひと一人が寝転がれるほどの荷台をロバに括り付けました。そして干し草がいつもロバの目の前にあるように、釣り竿で吊るします。
 これでランダが何もしなくとも、ロバは勝手に前に進むはずです。

「じゃあ面倒だけど、ちょいと行ってくるよ」

 ぽっくりぽっくりロバの引く荷台に寝っ転がって、ランダは出発します。

「無理をするんじゃないよ」
「駄目だと思ったら、すぐに帰ってくるんだからね」

 幾人かの村の人たちは心配そうに、ランダを見送ります。
 しかし、すぐに自分たちの準備に追われ、そちらに掛かり切りになってしまったのでした。




2、三つの頼まれごと


 ロバに引かれたランダは、竜の住まう国境くにざかいの峠を目指します。
 するとやがて、塀に囲まれた立派なお屋敷に行き当たりました。誰かがランダに声をかけます。

「なあ、そこのロバに引かれている人。ちょっと頼まれてくれないか」

 ランダが視線を向けると、お屋敷の門のところに顔色の悪い門番が立っていました。

「実はさっきから腹が痛くてたまらんのだ。厠に行く間だけ、代わりにここを見ていてくれないか」
「疲れることは、やりたくないよ」

 歩くことも面倒がるランダです。一度は断りましたが、門番は熱心に頼みます。

「立っているだけでいいからさ」
「それだけでいいなら、やってあげよう」

 立っているだけで構わないと言われたので、ランダは門番の頼みを聞いてあげることにしました。
 ランダは門番の代わりに、門の前に立ちます。

 実はこの門番が腹を壊したのは、泥棒に買収された使用人に腐った食べ物を差し入れられたせいでした。
 泥棒は、門番が厠に行っている間、屋敷に忍び込み金目の物を盗むすもりでした。
 しかし、ランダが代わりに立っていたものですから、泥棒は当てを外してすごすごと引き返して行ったのでした。

 すっきりした顔で戻ってきた門番は、ランダに御礼を言います。

「あんたのお陰で助かったよ。ところであんたの釣り竿は、針が付いていないじゃないか」

 釣り好きの門番は、干し草を吊った竿を見て、自分のお古の釣り針をランダにあげました。
 ランダは釣りをしに行く訳ではありませんでしたが、断るのも面倒だったので素直に受け取ることにしました。
 門番に見送られ、ランダはぽくぽくとロバに引かれて出発します。

「それにしても、立っているのは疲れるなぁ」

 次に頼まれることがあっても、立つことだけは止めておこう。ものぐさなランダは荷台に転がりながら、そうぼやくのでした。



 ロバに引かれたランダは、再び竜の住まう国境くにざかいの峠を目指します。
 すると今度は、谷間の小さな集落に辿り着きました。そこで、誰かがランダに声をかけます。

「ねえ、そこのロバに引かれている人。ちょっと頼まれてくれないかしら」

 ランダが視線を向けると、そこには途方にくれた顔の老婆がおりました。

「漬け物を作りたいのに、漬物石がどこかに消えてしまったのよ。一晩で良いから、重しになってくれないかしら」
「疲れることは、やりたくないよ」

 立つことも面倒がるランダです。一度は断りましたが、老婆は熱心に頼みます。

「座っているだけでいいからさ」
「それだけでいいなら、やってあげよう」

 座っているだけで構わないと言われたので、ランダは老婆の頼みを聞いてあげることにしました。
 ランダは漬け物壷の上に、丸まる一晩座ります。

 実はその翌朝、父親と折り合いが悪く家出した老婆の息子が、ふらりと帰ってきました。
 都に憧れ集落を飛び出た息子でしたが、ちょうど漬けられていた大好物の漬け物を食べ、その懐かしさに泣きだしました。
 お蔭でようやく、父と息子は和解できたのでした。

 息子が帰ってきたことに喜んだ老婆は、ランダに御礼を言います。

「あんたのお陰で助かったよ。ところであんた、荷台の上に何もないじゃないか」

 老婆はランダが寝転がるだけの荷台を見て、今は使っていない古い漬け物壷を、ランダにあげました。
 荷物は荷台の下に括り付けてあったランダでしたが、断るのも面倒だったので素直に受け取る事にしました。
 老婆に見送られ、ランダはぽくぽくとロバに引かれて出発します。

「それにしても、座っているのは疲れるなぁ」

 次に頼まれることがあっても、座ることだけは止めておこう。ものぐさなランダは、荷台に寝転がりながら、そうぼやくのでした。



 ロバに引かれたランダは、そこからさらに竜の住まう国境の峠を目指します。
 すると今度は、大きな湖に辿り着きました。誰かが、ランダに声をかけます。

「おい、そこのロバに引かれている人。ちょっと頼まれてくれねえか」

 ランダが視線を向けると、そこには良く日に焼けた顔の漁師がおりました。

「漁に使う投網を干してるんだが、今日は何だか風が強いみてえだ。日暮れまでで良いから、飛ばないように押さえといてくれねえか」
「疲れることは、やりたくないよ」

 座っていることも面倒がるランダです。一度は断りましたが、漁師は熱心に頼みます。

「転がっているだけでいいからさ」
「それだけでいいなら、やってあげよう」

 転がっているだけで構わないと言われたので、ランダは漁師の頼みを聞いてあげることにしました。
 ランダは投網の上に、日暮れ時まで寝そべります。

 実はその日、湖に向かって百年に一度の大風が吹きました。
 あたりの物はすべて風に吹き飛ばされ、湖の底に消えていってしまいました。
 投網の上に寝そべっていたランダも、勢い良くコロコロと転がりましたが、なんとか湖には落ちずに済みました。もちろん、投網も吹き飛ばされずにすみました。

 大事な商売道具を失わずに済んだ漁師は、ランダに御礼を言います。

「あんたのお陰で助かったぜ。ところであんた、ずいぶん盛大に転がるもんだな」

 それを見ていた漁師は、荷台から転げ落ちずにすむようにと、昔使っていた投網をランダにあげました。
 百年に一度の大風でも吹かなければ問題ないランダでしたが、断るのも面倒だったので素直に受け取る事にしました。
 漁師に見送られ、ランダはぽくぽくとロバに引かれて出発します。

「それにしても、寝そべっているのは疲れるなぁ」

 次に頼まれることがあっても、寝そべるのだけは止めておこう。ものぐさなランダは、荷台に寝転がりながら、そうぼやくのでした。





3、国境の峠のドラゴン


 その後もしばらく旅を続け、ランダはついに、国境くにざかいの峠に辿り着きました。
 凶暴なドラゴンが住むと言う峠です。当然の事ながら、ドラゴンを恐れて当たりには人っ子一人おりません。

「ドラゴンを探すのは面倒だなぁ」

 あたりを見回してドラゴンは見つからず、困ってしまったランダでしたが、ふいに誰かが声をかけます。

「こんなところで何をしているんだ! ここは凶暴なドラゴンの住処だぞ」

 ランダが視線を向けると、そこには年老いくたびれた一人の男がおりました。その男に、ランダは見覚えがありました。

「あれま、おっとさんじゃないか」
「まさかお前はランダか!」

 そこにいたのは、行商に出たまま帰らなくなった、ランダのおっとさんでした。
 おっとさんは、近道しようとこの峠を通りかかったところをドラゴンに捕まり、無理やり下男として働かされていたのでした。

「ランダ、お前に会えたのは嬉しいがここは危険だ。すぐに戻るんだ」
「そんな訳にはいかないよ。俺は竜と話をしにきたんだ」

 ランダはそう言って、首を振ります。もっともそれは、ここまで来たのにとんぼ帰りするのは面倒だ、という理由からでしたが。
 それでもランダが意見を変えないので、おっとさんは観念してランダを竜の元へ連れて行ってやることにしました。


 おっとさんと向かった先には、見るからに凶暴そうなドラゴンが岩場に身を横たわらせていました。
 爛々とした目は火のように赤く、鋭い爪は鋼そのもの。そして鋭い牙の覗く口は、ランダなんて荷台ごと、簡単にひと呑みにできそうです。
 ドラゴンは、不機嫌そうな顔でおっとさんに尋ねます。

「おい、下男。そいつは何処のどいつだ」
「これはわたしの息子で、峠のドラゴン様にお話したいことがあるとのことです」

 おっとさんは恐怖にガチガチと震えながら、そう答えます。ドラゴンが視線を向けると、そこにはランダがだらしなく、荷台に寝転がっておりました。

「おい、そこの“ものぐさ”。このワシに何の用だ」
「うん、ドラゴンさん。ちょっと頼まれてくれないかな」

 怪訝そうな顔をするドラゴンに、ランダはのらくらと答えます。

「いったい何を望む」
「俺の代わりに、都で兵隊さんになって欲しいんだ」

 ドラゴンは、険しい顔でランダを睨みつけました。

「なぜワシが、そんな事をせねばならない」
「だって俺、疲れることは、やりたくないんだよ」

 ランダのあんまりな言い草に、ドラゴンは牙を剥き出しにして怒りました。

「何ともふざけた奴よ。では、もう二度と疲れずに済むよう、お前を丸呑みにしてやろう!」

 そう言うとドラゴンは、荷台ごとランダを、ぱくりと呑み込んでしまったのです。
 見ていたおっとさんは、びっくりして悲鳴を上げます。
 しかし、どうしたことでしょう。すぐに、ドラゴンの様子がおかしくなりました。
 普段は牛や馬ですらぺろりと丸呑みしてしまえるはずのドラゴンが、苦しそうに目を白黒させているのです。

 実はドラゴンがランダを呑み込んだとき、ランダの懐から飛び出した釣り針が、ランダをドラゴンの喉に引っかけておりました。
 ドラゴンは暴れますが、釣り針はしっかりとドラゴンの喉に引っかかって外れる様子がありません。

「おい、お前! その釣り針を外すんだ!」
「そんな面倒なことはしたくないよ」

 ドラゴンはランダに命令しますが、釣り針に引っかかったままのランダは億劫そうに答えます。

 苦しくて堪らないドラゴンは、慌てふためいて泉に飛んで行きました。そしてガブガブと水を飲みはじめます。
 このまま水と一緒にランダを呑み込んでしまえ。そうでなくとも、息つく暇なく水を飲めば溺れたランダが苦しがって、ドラゴンの言う事を聞くだろう。と、そう思ったのです。
 しかし呑み込まれた時に、ランダの頭には漬け物の壷がすっぽり被さっておりました。
 だからいくらドラゴンが水を飲んでも、ランダが溺れる事はありません。それどころか、上手く水が飲みこめずドラゴンは苦しげに咽るばかりです。

「おい、お前! その壺を外すんだ!」
「そんな面倒なことはしたくないよ」

 ドラゴンはランダに命令しますが、壺を被ったままのランダは億劫そうに答えます。

 ならば、とドラゴンは岩場に戻ると、今度は大きな体を逆さにしてぴょんぴょん飛跳ねました。
 こうすれば、さすがに喉から落ちてくるだろう。そうでなくても、上下逆さまになれば頭に血が上り、ランダは苦しがって、ドラゴンの言う事を聞くだろう。と、そう思ったのです。
 しかし呑み込まれた時、ランダの体には投網が絡まっておりました。
 だからいくらドラゴンが逆さに飛跳ねても、ランダは投網の中でごろごろと転がり、落ちてくる事はありません。それどころか自分の方こそ頭に血が上ってくらくらするばかりです。

「おい、お前! その投網を外すんだ!」
「そんな面倒なことはしたくないよ」

 ドラゴンはランダに命令しますが、投網に絡まったままのランダは億劫そうに答えます。


 こうなれば、後はドラゴンとランダの我慢比べです。
 ずっと喉にぶら下がっているなんて、普通の人間には耐えられない事だろうとドラゴンは考えます。しかし残念な事にランダは、人並外れた“ものぐさ”でした。
 槍が降ろうが雷が落ちようが、寝転がったまま動こうとしないランダは、ドラゴンの喉の中でも慌てふためくとなく、億劫そうにぶら下がったままです。

 とうとう先に根を上げたのは、ドラゴンのほうでした。

「まいったまいった! 何でも言う事を聞くから、いい加減そこから出て行ってくれ!」

 ドラゴンがそう懇願するので、ランダはおっとさんに頼んでドラゴンの口の中から引っ張り出してもらいました。
 喉からランダがいなくなり、ドラゴンはようやくほっと息をつきます。

「お前のその辛抱強さには、まったくもって感服だ。して、ワシは何をすればいい?」

 ランダは辛抱強いのではなく、度を越した“ものぐさ”であるだけでしたが、もちろんドラゴンに知る由もありません。

「それじゃあ、俺と一緒に都まで来てくれよ」
「承知した」

 ランダを背中に乗せると、ドラゴンは力強く羽ばたいて飛び立ちます。
 ドラゴンは馬で何月もかかる距離を、風のような早さであっという間に翔け抜けいったのでした。





4、ものぐさランダと王様


 その日はちょうど、ランダの村に王様の使いが来てから二月が過ぎた日でした。
 都には、ランダの村を含め国中の村から男たちが、集まっておりました。
 それを城のバルコニーから眺めながら、王様は満足げにうなずきます。
 これだけの兵隊を率いれば、きっと隣の国は泣いて降参するだろう。そう思うと、王様は愉快で愉快で、笑いを堪えることができませんでした。

 そんなおり、空から何か近付いてくるものがありました。鳥にも見える小さな影は、みるみる大きくなっていきます。
 やがて、それが勢いよく王様のいるバルコニーに飛び込んで行ったため、人々は驚いて声を上げました。

「ひえぇぇぇっ!」

 王様もまた悲鳴を上げて尻餅を着きます。それも仕方ありません。
 何しろ王様の目の前にやってきたのは、見るからに凶暴そうなドラゴンなのです。

「頼む、食べないでくれぇ!」

 頭を抱えて、ぶるぶると震える王様に声を掛ける者がおりました。

「ねえ、王様。ちょっと頼まれて欲しいんだけど」

 それは、ドラゴンの背に乗ったランダでした。

「い、一体なんだ」

 震えながら尋ねる王様に、ランダはのらくらと答えます。

「このドラゴンを、俺の代わりに兵隊さんにしてよ」
「そんなの無理じゃ!」

 こんな恐ろしいドラゴンを兵隊になんてしたら、いつ自分が丸呑みにされるか分かったものじゃありません。
 王様は怖くて怖くて、頑として首を縦に振りません。

「でも俺は、兵隊さんになるなんて面倒臭いことはしたくないんだよ」

 ランダは困った顔でそう訴えますが、溜まったものでないのは王様の方でした。
 それでもランダが頼むので、王様はおずおずドラゴンに視線を向けます。
 もし本当にこのドラゴンを兵隊にできたら、王様の国は三国一の強国になれるかも知れないと、ちらりと思ったからです。
 しかしドラゴンが、凶悪な牙を見せつけるようにぱっくり口を開いたので、王様は再び頭を抱えて縮み上がってしまいました。

いくさは止めじゃ! 兵隊はもういらんから、そのまま帰ってくれ!」

 すっかり怖じ気づいた王様は、ついに隣の国と戦をすることを止めてしまったのです。

「なんだ。もう兵隊さんはいらないのか」

 初めからそうと知っていれば、こんな面倒なことはしなかったのに。ランダはがっくり肩を落とします。
 しかし都に集められた兵隊さんたちは、それを聞いて喝采を上げました。

「ばんざい! 戦がなくなったぞ!」

 彼らは王様の言葉に手を取り合って喜ぶと、それぞれの故郷目指して我先にと引き返していったのでした。



 その後、村には歓声が響き渡りました。
 何しろ百人の男たちが、一人も欠けず帰ってこれたのです。これほど嬉しいことはありません。

 村では喜びの宴が、三日三晩に渡って行われました。宴の中心は、他ならぬランダです。
 戦を止めてくれたランダを、村人たちは口々に褒め称え、お礼を言います。もう誰もランダを馬鹿にしたり、厄介者扱いしたりはしません。

 もっとも、ランダのものぐさは、その後も何一つ変わることはありませんでした。
 相変わらず畑仕事も食事の支度も億劫がり、のん気に家の前に寝転がっています。村の人たちは、そんなランダにしばしば手を貸します。
 ランダはごろりと横になって、言いました。

「それにしても、立ったり、座ったり、寝そべったりするのは疲れるなぁ」

 もし次に頼みたいことができたら、峠のドラゴンの方から来てもらおう。
 ものぐさランダはのんびり地べたに寝転がりながら、そうぼやきます。

 それを聞いて村の人たちは、ランダのものぐさにかかっては、国境の峠に住むという凶暴なドラゴンも形なしだ。と、楽しげに笑って軽口を叩くのでした。




 <おしまい>

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