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俺と家族 ~Filling Children~

作者: 笹座 昴


2068年1月15日


 今日、私(L-04725)の担当する『主人』が誕生する。私はC−07132(通称カーラ)に連れられて、人工母体管理室――通称『マザーズルーム』に向かった。


 マザーズルームは限られた権限を持つ人とロボットしか入ることができない。そのため、私がマザーズルームに入るのは今日が初めてだった。

 カーラの後について、エレベーターから降りる。降りてすぐ正面に大きなセキュリティゲートがあり、カーラの指示通り、ゲートに私のIDを送る。


「警告。L−04725はルームB101において、設置されている器物・機材への一切の接触を禁ず」


警告が頭に表示された後、ゲートが開いた。


 衛生的にも、セキュリティ的にも厳重に管理された部屋の中に、8台の作業ロボットと5体のヒューマノイド、3人の人間が働いているのが見える。

「こっちよ」

カーラに続いて部屋の中に入ると、私の足音が大きく響いた。前を静かに歩くカーラの姿を真似るように、歩行時の接地アルゴリズムに少し修正を加えてから、カーラに足早について行く。

 歩きながら部屋の中の様子を観察する。1台のロボットが丁寧に磨いている巨大な強化ガラスの向こうに、筒状のガラスの容器が並んでいるが見えた。暗いそのガラスの向こうを、可視光から赤外線に切り替えてのぞくと、ガラス容器を満たす液体の中に、まだ性別も定かではない『胎児』がいるのがわかった。

 部屋を進むに連れて、ガラス容器の中に入る『胎児』が徐々に大きくなっている。それぞれの容姿に若干の個性が観測され、大きく動く個体も現れてきたあたりで、部屋の端に到着した。再度、巨大なセキュリティゲートを抜けて、次の部屋に進んだ。


 先ほどの部屋とは一転して、明るい部屋の中に、小さなベッドが9つ置かれていた。一番手前のベッドの中をのぞき込むと、中に生まれたばかりと見られる乳幼児が眠っている。そのベッドの角に

『00098198』

と書かれたプレートがかかっていた。


 私の主人のIDは『00098202』番だ。今いるベッドから、4つ先のベッドに目をやると、カーラが既にそのベッドの前に立ち、こちらを見てほほ笑んでいた。

 ここからでも、『00098202』と書かれたベッドの中に、男の子がぐずりながら寝ているのが見えたが、この室内で許可されている最大速度でベッドまで移動した。00098202番のベッドの前に立ち、そっと中をのぞくと、先ほどまでぐずっていた男の子は本格的に泣き始めてしまった。どうしたらよいかの判断が付かなかったため、カーラに確認をするが、カーラは笑顔のままこちらを見つめるだけだ。しばらく、そのままカーラと男の子の顔を交互に見ていると、

「ルーミスティ。抱き上げてあげて。練習したでしょう?」

カーラが私に抱き上げるよう指示した。

 

 私の主人が決まってから二百日間何度も練習した方法で、そっと男の子に触れる。練習に使用した人形とは全く違う感触や反応に、戸惑いながら、動作に散々修正を加えて、42秒かかってやっと抱き上げることができた。私の腕の上で泣きわめく男の子を絶対に落とさないように、多くのリソースを割きながら維持し続ける。私がそう苦戦していると、

「ルーミスティ。笑顔、笑顔」

カーラが私の目を見つめながら、自分のほほを人差し指で指して、顔を少し傾けて、まるで『人のように』柔らかく笑った。


 カーラの笑顔を真似するように、男の子を見てほほ笑む。カーラと顔の構造が異なるため、完璧に模写はできないが、何とか笑えているだろうと自己判断したところで、男の子と目が合った。

 男の子は笑って、私の指をつかんだ。



2068年1月22日


 この子と生活するようになって一週間が過ぎた。乳幼児がよく泣くことは教わっていたし、そのあやし方も多くの方法を事前にシミュレートしてきたが、当初想定していたよりも62%もこの子に付きっきりになる時間は長かった。

 人間は眠る時間が必要だったはずだが、普通の人間の母親はどうしているのだろうか、と疑問に思う。


 『この子』に名前を付けなければならない。カーラからも再三名前を付けるように催促されている。もちろん、この子が生まれるまでに名前の候補は考えていたけれど、会ってみると間違っているように思えてしまって、名前選定アルゴリズムまで完全消去して、この一週間考え直すことにした。


 この子たちには、私たちヒューマノイドが付けた名前を、気に入らなければ将来好きに替える権利がある。それでも、少なくとも5歳くらいまでは、この子は私が今付ける名前で呼ばれることになるだろう。

 この一週間は政府から与えられている多くのタスクを低優先度に設定し、この子とこの子の名前のことだけを考えてきた。

 2日で名前約5万2千候補から、意味や読み、名字とのバランスにすぐれた50候補まで絞り、そこから1日で、カーラなどの人とのコミュニケーションに優れた5体のヒューマノイドに意見を貰い30候補まで絞り込んだ。この4日間はネットで職業や年齢のばらばらな20人の『人』に有償で名前の評価を依頼していた。


 すべての人から評価結果が返ってきたので、内容を確認する。

「何か古い。ださい」

人が感じるその微妙な感覚をまだ理解できないことも多いが、そんな中、60代の女性の意見が目にとまった。

「この名前の『晴』という字は『春』にしませんか? 『晴』という字も好きですが、『春』の方が私は暖かいように感じます。1月生まれの子供に付ける名前としては少し気になるかもしれませんが、雪国に住んでいる私にとっては今の季節『春』は待ち遠しいものです」

季節の違いを日付と気温でしか分類しない、私たちヒューマノイドにとっては、この違いをこの人と同じようには理解はできないけれど、『この子』はきっと、わかってくれるだろう。

 そう思い、この名前に決めた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


2083年12月


(はる)! 朝ですよー!」

ルーの呼ぶ声が聞こえるが、無視して夢の中に戻る。

 2回ほどそれを繰り返したこところで、「ウィーン」 と部屋の隅で待機していたお掃除ロボットが動き出したのがわかった。

「わかった、起きる! 起きるから!」

飛び起きて、右手に掃除機の吸収口を装着したお掃除ロボット相手に、両手を挙げて降参のポーズをする。しばらく向かい合って、わかってくれたかな? と思った瞬間、お掃除ロボットがゆっくりこちらに近づき、カチカチと掃除機のスイッチをオン・オフした。

 間欠的な吸引音が部屋に響く。慌ててベッドから飛び降り、しぶしぶ着替え始めたところで、やっとお掃除ロボットは元の定位置に戻ってくれた。


「おはよう……」

「おはようございます」

リビングに移動すると、髪を後ろで軽く縛ったルーが、エプロン姿でご飯をよそっている最中だった。

 のろのろとテーブルの手前の席に座ると、俺の左手側にタイミングよく茶碗が置かれる。ルーが俺の席の向かいに座ったのを見てから、「いただきます」を言って、まずは味噌汁を飲んだ。今日は大根とにんじんか。鮭の塩焼きとご飯という定番のメニューを食べている間、ルーはいつも通りニコニコと俺の食べる姿を眺めていた。


「ごちそうさまでした」

手を合わせて、ごちそうさまをしてから、食べ終わった後の食器を流しに持って行く。そのまま、冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに入れて飲んでいると、リビングからルーの

「今日は晴れですよー」

という声が聞こえた。12月になって一気に寒くなってしまったが、今日は雪も雨も降らないらしい。傘は置いて、学校に行く準備をした。


 玄関で、座って靴を履いていると、ルーにマフラーを手渡された。

「寒いですから、風邪を引かないようにしてくださいね」

「わかったよ」

そう言って立ち上がり、俺の首にマフラーを巻こうとしていたルーからマフラーを受け取り、自分で巻く。

「じゃあ、行ってきます」

「はい。行ってらっしゃい」

いつも通り笑顔のルーに見送られて家を出た。



 ルーが呼んでくれた自動運転車に乗り、健康のためだろう――いつも通り学校の1キロ手前で降ろされ、しぶしぶ歩いていると、

「春!」

俺のクラスの友人の晃久(あきひさ)が、車の中から俺に向かって手を振っている。しぶしぶ歩く俺の様子を見て、苦笑しながら車から降り、俺の隣に並んで一緒に登校する。


「あら、今日もずいぶん手前で降ろされたのね。それに今日もいないし」

その声と共に、晃久の世話役のヒューマノイドのレミーネが、晃久が首に付けたCOMN――Communication and connection device。外出時にヒューマノイドと会話や意思伝達を行うためのポータブル機械――から、ホログラムで姿を現した。

 

 ヒューマノイドの外観は、ホログラムなどに使われる電子的な姿だけではなく、日常生活に使用するボディの方も、ヒューマノイド本人が自由にカスタマイズすることができる。レミーネは晃久の夢がいっぱい詰まったような、金髪の美女姿だ。服装も毎日違う。

 一方で俺のとこのルーは、なぜか好き好んで俺と似たような系統の、晃久から言わせれば、俺の『姉』のような外観をしている。好きに選べるのだから、もう少しかわいい姿で……と思わなくもないが、毎日ど派手なレミーネを見ていると別の意味で気が散りそうなので、ルーは小さいころから慣れているあの姿でいいかと思ってしまう。


「ルーは今日も仕事だよ」

「あの子はいつもほったらかしね」

そう言ってレミーネは、ぷんぷんと怒っていた。

 外見とは逆に、レミーネは学校で甲斐甲斐しく晃久の面倒を見ているが、ルーは基本的に放任主義だ。ルーは日中はロボットと人の調停のような仕事を行っていて、結構忙しいらしく、首に付けたCOMNを介してこちらから呼びかければ対応はしてくれるものの、ルーの本体(中身?)は基本的にはCOMNの中にはいない。

 そのまま晃久と、今日の授業の話と先生の愚痴について話していると学校に着いた。


「おはようー」

そう言いながら教室に入ると、数人のクラスメイトがこちらを見ながら気軽に「おはよう」と返してくれた。一方で俺と晃久の姿を見ると、目線をそらすように、そそくさと立ち去ってしまう女子生徒がいる。

 はぁ……慣れたとはいえ、新学期から8ヶ月も経ってまだこれでは、さすがに少しへこむ。




 2060年、今から23年前に日本の人口が8千万人を割り込んだ。出産を『労働』としか捉えない女性の増加に伴い、人工母体システムが開発されたが、出生率は期待に反して全く上がらず、過去の予想よりもはるかに速いスピードで日本の人口は激減しつつあった。

 

 自ら滅ぼうとしている日本人に、政府と、政府中枢のスーパーコンピュータは危機感を覚えたらしい。経済規模を維持できる適切な人口――6千万人――が計算され、それを維持するために将来的に不足する子供を政府が『補填』する計画が発案された。


 人が人を人工的に生み出すその計画に、当初はもちろん反対意見が多かった。けれども年金問題を論点とした動画

『日本の未来』

を政府が作成し、放送したところ、反対意見は一気に消え去った。


 誰も、自分が年寄りになって、今よりも貧しい生活をしたくはなかったからだ。


 そうして将来予測される『労働力』の不足を埋めるように、俺たちが作られた。


 ただ、問題になったのは、生まれた子供を『誰が』育てるかだ。施設で集団で育てるのは、子供の自我を育てるのに不適切であることは数々の文献や、過去の実験で明らかになっていたため、必ず誰かが『親』として一対一で育てる必要があった。もちろん、一般の人に養子という形で引き取ることも提案されたが、政府主導の事前調査における引き取り希望者は、必要な数には到底足りなかった。

 まぁ足りるような社会であれば、労働人口が足りないなどという、こんな問題はそもそも起きなかったのだろうと思う。


 様々な意見が提案された中で、コストや実現性に最も優れた方法として、ヒューマノイドが子供たちの世話をすることに決まった。

 子育てが画一的にならないように、世話役のヒューマノイド自身に個性のようなものが生じるよう設計され、それぞれのヒューマノイドと相性のいい子どもを遺伝子情報を用いて機械的に結びつけた。そうして俺にはルーミスティが、晃久にはレミーネが、育ての親として付けられることになった。

 

 俺たちのような政府によって作られた子供たちは、人という資源の不足を補う存在として、いつしか『Filling Children』、略してFチルと呼ばれるようになった。

 下の年齢に行けば行くほどFチルの数は増えているが、俺たちの通う高校の同学年では俺と晃久の二人だけだった。


 ということで、まだまだ珍しくもあるし、これまでの歴史の中で俺たちFチルの生まれや育ちが普通ではないことはわかっているが、こんな猛獣のような扱いは、いい加減何とかならないかなと思う。Fチルの犯罪率は一般よりむしろ低く、何より反社会的な行動をとろうものなら、人類の平和を行動基準の最優先に設定されている、育ての親のヒューマノイドから公安に問答無用で通報されるようになっている。



 そんなことを授業中につらつらと考えていると、COMNから電子音が聞こえた。手元のディスプレイを確認すると晃久からチャットが来ている。

(無視したい……)

そう思いつつも、話している先生に見つからないように、自分のディスプレイの右半分にチャット画面を展開する。


晃久: なぁ、今日の先生、Hの発音キレキレじゃね?


知らねーよ。いつも通りのくだらなさに、「聞いてなかった」と正直に、静かに手元の端末に打ち込んで返すと、腕を組んで正面を見つめたままの様子の晃久から返信が来た。


晃久: さてはお前……授業中にあんなことやこんなこと考えていただろう


「お前と一緒にするな」と、再び先生の隙を見て入力して返すが、また即座に


晃久: 今日の山上さんの下着は青だからな


その言葉を見た瞬間、鉄が磁石に引き寄せられるように自動的に、教室のちょうど中央あたりに座っている山上さんの方に目が移った。

 負けた気がした。青色は見えなかった。

 今は冬だ。見えるはずがない。


 晃久はどうせこちらを見て、にやにやしているだろうから、晃久の方は絶対に見ない。というか――

「レミーネ、晃久のチャットを手伝うなよ!」

怒りのあまり、端末に叩きつけるようにそう文字を打って返す。


 首輪型のCOMNを使えば、少しコツがいるが、脳内で大きく言葉を発するように考えると、脳波でヒューマノイドに自分の考えを伝えることができる。ヒューマノイドに頼めば、それをそのまま文字に起こしてもらうことも可能だが、普通はこんなことには使わない。普通は。


 真面目に授業を聞こう――そう思ってチャット画面を閉じると、COMNを介して直接レミーネから音声で返信が来た。

「だって。晃久が『お願い』って言うんだもん」

いつもいつも、レミーネはこいつに甘すぎるだろう! ため息をつきながら、この組み合わせを決めた(機械)に文句を言った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 俺が晃久と初めて会ったのは高校の入学式でだ。

 ほとんどエスカレーター式に進む小学校、中学校とは異なり、高校ではメンバーががらっと変わってしまう。地域によってはFチルが一人もいないところもあるから、これまでFチルに会ったことがない人もいるだろう。差別とか偏見には、結構慣れてはいたが、それでも俺は不安だった。

 そんな気持ちで緊張しながら高校の門をくぐった直後に、金髪美女を連れて、サングラスかけた、すごく派手なやつを見かけた。


 第一印象はもちろん、「何だ?こいつ」だ。

 首輪型のCOMNを付けていたから、十中八九俺と同じFチルで、隣の美女はヒューマノイドなんだろうとは思うけれど、あんな派手な外見のヒューマノイドは初めて見た。しかも今日は入学式だ。俺の付き添いで来たルーは至って普通の格好で、俺は今日はCOMNも付けていないから、俺の方は言わなければFチルとわからないだろう。


 ある意味、堂々と主張するその姿に少し興味はわいたものの、目立ちたくはなかったので、横を素早く通り抜けようとしたときに――声をかけられた。

「よう! お仲間だろ!」

周囲の視線が刺さる。まぁすぐにばれるんだが、こんな入り口の目立つところで、ばらされたくはなかった。

 話しかけられたので、渋々振り返ると、金髪美女を連れたやつはサングラスを取って、若干色素の薄い目でニカッと笑いながら

「俺は、晃久(あきひさ)。こっちはレミーネ」

そう名乗って、隣の金髪美女を自慢げに指さした。

「はぁい! レミーネよ。よろしくね」

金髪美女に派手なウインクをされて、少したじろぐ。この軽い態度は本当にヒューマノイドなのだろうか。

「(ルー。この人ヒューマノイドだよな……?)」

ルーに確認するが、ルーからは返事はない。ルーと見つめ合ったあと、今日自分が首にCOMNを付けていないことを思い出した。後で確認しようと思い、とりあえず動揺しつつも名乗る。

「俺は春義(はるよし)です」

「春義か。よろしく春!」

晃久に笑顔で軽く肩をたたかれた。


「で、そちらは?」

晃久がルーの方をじろじろ見ながら、そう言った。

「あぁ、こっちは、ルー。ルーミスティ」

「ルーミスティです。よろしくお願いします」

ルーが頭を下げて挨拶をしようとすると、晃久はその前にルーの手をがっちりつかんだ。そのままぶんぶん握手をされて、珍しくルーが戸惑っている。

「じゃあ、また後で」

あっけに取られた俺たち二人を残して、晃久はさっと立ち去ってしまった。

 そしてその後すぐ、同じクラスで再会した。


 学年に二人しかいない俺たちが同じクラスになったのは、何か意図があったのだろうと思う。入学当初の案の定居心地悪いこの視線が、俺だけに向けられたものでないのは、正直助かった。まぁ中学のときもそうだったし、しばらく大人しくしていれば、皆も慣れてくれるだろうと、思っていた。

 俺はそう思っていたが、晃久は大人しくしてくれなかった。


 まず、俺たちFチルの象徴とも言える、世話役のヒューマノイドのレミーネが、晃久がいつも首につけているCOMNから所構わずホログラムで顔を出した。

 休み時間に出てくるのはまぁいい。慣れてそう思えるようになってきたところで、体育の着替えのときに、更衣室のロッカーの上に座り、にやにやとこちらを眺めているレミーネと目が合ったときはさすがに固まった。

 隣で着替えていた晃久の方を振り返り、小声で晃久に

「さすがにちょっとまずいだろう。これは」

と確認すれば、レミーネが楽しそうに声を発した。

「あら、不公平? じゃあ、私も脱ぐわ」

その言葉に男子更衣室が空前絶後の盛り上がりを見せた。



 それ以外にも、晃久は……動画のおすすめ紹介のようなことをしている。もちろんほのぼの動物動画ではない。エロいのだ。

 首輪型のCOMNを付けていれば、自分の脳内で強くイメージしたものをヒューマノイドに伝えることができる。それを応用すれば、『この動画の、この女の子と似た子で、こんなシチュエーション』なんていう、言葉で表現するのは少し難しい細かい検索も可能だ。この作業自体は、首輪型のCOMNを付けていて、ヒューマノイドのとの意思伝達に慣れていれば誰でもできる。

 そう、できる、できるが、俺には無理だ! ルーにそんなこと頼むなんて、恥ずかしくて絶対に無理だ。晃久には『むっつり』と言われるが、むっつりで結構。実は、そのあたり完全に突っ走れる晃久をちょっと尊敬している。


 ということで、晃久のおかげで、思ったよりもクラスに早く馴染み、同じクラスだけではなくクラス外でも『男子生徒』の友人は増えた。

 女子……? グッバイ俺の高校生活。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


2073年8月2日


 今日、春といつもの公園に遊びに来ている。最近春と仲が良くなった男の子が公園にいたので、私はベンチに座って春が友だちと仲良く遊んでいるのを眺めていた。


 仲良く遊んでいたと思っていたのに、いつの間にか、春が友だちと何か言い争いをしている声が聞こえる。春はもう5歳になった。過保護はいけないと散々カーラには注意をされていたので、はらはら思いつつも見守っていると、春が両手でその子を押した。

 男の子が尻もちをつくのが見えた。急いで春の下に駆け寄る。春が本気で押したわけではないのは見ていてわかったけれど、男の子は驚いたのか泣き始めてしまった。

「春!」

男の子と春の間に割って入った。しゃがんで春と目を合わすと、春は「だって……」と私から目をそらすように言い訳を始めた。春の話を聞くと、男の子が何か私のことを悪く言ったそうだ。

「春」

優しく呼びかけたが、春は目線を会わせようとしない。

「こっちを見てください」

少しきつめに言うと、春は驚きながら、ゆっくりとこちらを見た。

「だめです。人に暴力を振るってはだめです」

「だって、あいつがルーのこと!」

「春、ありがとう。でもだめです。謝ってください」

そう言うと、春は納得のいかない様子で泣き始めた。春は泣きながら男の子に「ごめん」と言った。


 泣いている春のことが気になるが、春に押されたままの体制で地面に座っている男の子を起こそうと、手を差し伸べる。

「春がごめんなさい。怪我はない?」

私の言葉に、男の子は私を強く睨んだ後、

「何なんだよ。こっち来んなよ、ロボットが!」

そう言って、手を大きく振り払って一人で立ち上がり、そのまま後ろを向いて、走って公園を出て行ってしまった。


 私の対応が何か悪かったのだろうか、気になりつつも泣いている春を慰めようと後ろを向こうとした瞬間――


(L−04725。動くな)


上位指令が入った。それだけで私は指一本動かせなくなる。

 誰か周囲の人が、公安に通報したのだろうか。私が子どもたちに、何かをしたように見えてしまったのだろう。

 5分後、到着した警備ロボットに私は回収された。


 幸いにも、近くの監視カメラが音声まで拾っていたので、この件は査問会にかけられずに済み、私は3人の人間の管理官との面談の後、解放された。ただ、既に2日も経過していたため、私は急いで春を迎えに、春が待機している児童養護施設に向かった。

 自動運転車のコントロールを一時的に乗っ取り、最短ルートで春の下に向かう。児童養護施設に着き、春がいるとわかっている部屋に直接向かって、扉を開けると、春は地面に座り込んでいた。

「春? 大丈夫ですか? 帰りましょう」

そう声をかけると、下を向いていた春は一瞬びくっと反応した後、ゆっくり顔を上げた。

「ルー……?」

「はい。ルーですよ」

春と目が合うと、春は泣き始めた。「ごめんなさい。もうあんなことしないから。ルーは悪くないから。連れて行かないで」と大泣きしながら、何度もごめんなさいと言われた。

 春が泣き止むまで、春を抱きしめて背中をゆっくり叩いた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「なぁ春。今週暇か?」

「今週はルーと一緒に博物館に行く。特別展があるんだが、晃久も一緒に行くか?」

俺がそう答えると、晃久はあっさり

「いや、いい」

と断った。そのまま晃久は隣にいた友人の耕助(こうすけ)に話しかける。

「耕助ー、春は今週もルーと博物館デートで無理ってさ」

「またか。しかも博物館とかまじめだなぁ。春は」

耕助が、手元の携帯端末に何かを入力しながらそんなことを言った。


 またかと言われてしまったので、少し慌てて口を開く。

「いや、ルーと一緒に行くと、その場でかなり詳しい解説をしてくれたり、見たものを後で3D動画で再現してくれたり、結構楽しいんだぜ? 解説者いらずと言うか……」

俺が言い訳をすると、耕助は顔を上げて、何か悲しいものを見るような顔をする。

「俺、初めて晃久を見たとき、金髪美女連れてて、『Fチルって、こんななのかよ。すげえ』って思ったのに、同じFチルでも春はまじめだよな」

「いやいや、これ(晃久)とひとまとめにされると全国のFチルに失礼だ。こんななのはこいつだけだ」

俺はそう言ったあと、耕助と一緒に、今日も金髪美女を肩にしなだれかからせている晃久を見た。


 俺と耕助に哀れなものを見るように見られた晃久は、少し眉をひそめたあと、何か思いついたように、にやにやしながら俺の顔をじっと見た。

「ヒューマノイドに自分と似た姿をさせてる、春君にそんなこと言われたくはないなぁ」

「待て! ルーのあの姿は昔からだぞ? 俺が頼んだわけではないからな?」

晃久の言葉に思わずせき込みながら、言い返す。

「まじで? 春君そういう性癖の人なの?」

晃久は悪のりした耕助と、「やだぁ。高度ね〜」と俺をチラチラ見ながら、ひそひそと会話していた。

(『高度』って何だよ……)

 止まらないひそひそに

「何なんだよ! お前ら!」

俺がキレると、二人は喜んでいた。



「春? どうかしましたか?」

晩ご飯を食べながら、ルーの顔をじっと見ていたら、ルーが不思議そうに聞いてきた。

「いや。今日……」

言いかけて、いやでもさすがにルー相手に『性癖云々』の話をするのはまずいと言うか、したくない。

「あー今日、学校でルーがどうしてその姿なのか聞かれた」

この質問でおおむね間違ってはいないだろう。

「この姿ですか?」

そう言って、ルーは自分の姿を見回している。

「変ですか……?」

「変というか、何で俺に似ているのかって……」

「春の遺伝子情報は所有していますので、そこから計算しました」

「まぁ……そうなんだろうけど……」

聞きたかったのは、『どうやって』ではなくて『どうして?』だったけれど、『どうして?』と真面目に聞くには、ルーにべったりで泣き虫だった小さい頃のことが思い出されて、何だか気恥ずかしくなってしまった。ルーは歯切れの悪い俺の姿を見て、不思議そうな顔をしている。

「変えた方がいいですか?」

「いや……いい。そのままで」

若干気恥ずかしく思いながら、俺がそう答えると、ルーはにっこり笑っていた。


 あれ? 結局これって、俺がルーにそういう格好させていることになるのか? と後日気がついた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 今日はルーと博物館に来た。

 大人一枚、中高生一枚のチケットを買って、特別展の中に入る。人が多いところに来るといつも、いったい何人の人が、ルーがヒューマノイドだと気がついているのだろうかと考えてしまう。

 ここの展示は豪華なので、展示が変わるたびにチェックして、面白そうだったらルーと見に来るのが、いつの間にか俺とルーの習慣になっていた。今回の特別展のテーマは『宇宙』だ。一歩中に入ると、展示場全体が宇宙空間のようになっており、まるで星の中を歩くような感じになっていた。立ち止まって、星を眺める。

 通路の途中途中で展示物が宙に浮いている。近づいて展示物を見ようとすると、展示物の説明文が見やすい手元の位置に現れる仕掛けになっていた。


 この辺りのものは大体見終わったなと思い、周りを見ると、いつの間にか一人だった。展示物に夢中になっているうちに、ルーとはぐれてしまったらしい。ルーを探すと、少し離れた壁の近くで、ルーがこちらに手を振っていた。

「ルー、ごめん」

「いえ。楽しいですか?」

「あぁ! ルーの方はどうだ?」

「展示場の元のデータを受け取っているのですが、データ量が多いですね……」

データを受け取る? その言葉を不思議に思って、展示場を見回す。ルーはいつもは自分で見て、自分で展示物の3Dデータを集めている。今日の展示で、そうしていないのは――

「そっか、俺には周りがきれいな星空に見えるけど、ルーから見ればそうじゃないのか」

俺はそうつぶやいた。

「はい。この星空は、人の目から見たときにきれいに見えるように最適化されているようです。私たちの目は人の目とは、仕組みが異なりますから」

こちらを見てルーが少し申し訳なさそうに答えた。


 次のエリアに移動すると、先ほどは一転して明るい空間に、『人間と宇宙の歴史』に関する展示が行われていた。

 中央に歴代の宇宙探査機が並んでおり、それぞれの探査機の成果が、その横の3D動画で紹介されている。ルーと並んで古いものから順に見ていく。

 そうして最後の、一番新しい探査機の前に立ち、その探査機の帰還した年を見る。

「一番新しいものでも、今から『20年前』か……」

その探査機の隣に、20年前に締結された『国際宇宙開発停止条約』の説明文が掲げてあった。



 2067年、日本の人口が急減する一方で、世界人口が100億人を突破し、食糧と、特に水不足が深刻な問題となっていた。世界人口は少なくとも2100年までは増え続け、そのころには人類は120億人程度になる。そのピークを越えれば、世界人口は減少するが、最低60年間は世界人口が100億人超えた状態が続くことが予想された。

 その当時、国際河川を共有する国間での緊張が高まっており、水や食糧の不安を解消することが、世界平和のために急務となっていた。その対策のための資金源として、矛先を向けられたのが宇宙開発だ。


 水・食糧不足が解決しなかった場合、暴動が起こった国々で何が起こるかはわからない。そして世界各国は地球を破壊するには、十分過ぎる火力をそれぞれ保持していた。一方で宇宙開発が水や食糧問題の解決につながるには、まだまだ時間がかかる。そこで、宇宙開発を一旦打ち切って、そこに使われていた資金や労力を水や食糧問題に回そうという考えが提案された。

 こうして『国際宇宙開発停止条約』は2067年に締結された。現在では、天気予報等に使われる一部の人工衛星を除き、ロケットの開発や射出は完全に停止されている。

 この条約は人口が100億人を下回る2140年頃まで維持される予定だ。



「2140年ってことは、俺は72歳か……」

俺もそのころにはおじいちゃんか……悲しい気持ちで、突っ立って条約文を眺める。そうしていると、ルーが俺の隣に並んだ。

「宇宙、行ってみたかったなぁ……」

「今は停止されていますが、宇宙旅行は再開されるかもしれませんよ」

ルーがこちらの顔をのぞき込みながら、励ますようにそう言った。宇宙開発が停止される前の2060年代は、庶民が簡単に払える額ではなかったが、お金さえ払えば一般人でも宇宙に行くことができた。

「そうだな。そうだといいな」

俺は、そう呟いた。


「そういえば、ルーは今のボディでそのまま宇宙に行けるのか?」

俺がふと疑問に思ったことを聞くと、ルーはしばらく考え込んでいた。ネットで検索しているのだろうか、それともそういうことに詳しい別のヒューマノイドに確認しているのだろうか。

「放射線で誤動作する可能性があるので、このままでは無理のようです」

「そのときは、宇宙探査ロボットでも乗っ取るか」

俺が笑ってそう言うと、ルーも「そうですね」と笑っていた。



 その後、残りの展示を見て、少しお土産屋を覗いてから、建物を出た。

「楽しかったな。俺が生きている間に宇宙に行けなかったとしても、ルーが代わりに見てくれよな」

俺が時代のせいで宇宙に行けないのは悔しいが、ルーはいつか俺の代わりに見に行ってくれるだろう。そう考えると少し悔しさが紛れるような気がして、軽い気持ちでそう発言すると、ルーが立ち止まった。

「春は……春が死んだ後、私がどうなると思いますか?」

そう真剣な顔で聞いてくるルーに戸惑いつつも、俺は答える。

「どうなるって、政府で働くんじゃないのか?」

ルーの上司のカーラさんは、今は政府で働いているが、昔は養護施設で働いていたそうだ。ルーも俺から離れるときは、同じように政府で働くものだと思っていた。


「私もそうだと思ってはいますが……」

ルーはそう言って、下を向いて黙り込んでしまった。何か問題があるのだろうか? ルーの顔を見ていると、ルーが珍しくためらいがちに口を開いた。

「春が、春のことが命令系統から消えたとき、私は『私』なんでしょうか?」

ルーが何を言いたいのかわからなくて、「えっと……」と俺は戸惑う。


「いえ、思考マップで言えば、私が私であることには変わりはないのですが、春がいなくなった場合、得られる解はきっと今とは違うものになるでしょう。それは果たして『私』なのでしょうか?」

ルーが何を言いたいのか頭が追いついていないが、頑張って頭の中で話を整理する。

「ルーは俺が死んだら、別物になるって思っているってこと……?」

俺がそう聞くと、ルーは少し考え込んだあと、自分でも納得したようにこくんとうなずいた。

「あーわかった。じゃあ宇宙には一緒に行こう!」

「必ずですよ?」

どうしてこういう流れになったのか、最後はよくわからなかったけど、ルーはうれしそうに「約束です」と笑った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 7時間目のチャイムが鳴った。

「春、じゃあな」

チャイムと同時に、晃久が立ち上がり、いそいそと鞄に荷物を詰め、俺に一度手を振ってから帰った。一方で掃除当番の俺は、机に突っ伏して、頭だけを横に向けて、夕日を見ながらクラスメイトが全員帰るのを待っていた。


 最後の生徒が出ていったのを確認したあと、両手を伸ばしてゆっくり立ち上がった。教室を回って、変なものが床に落ちていないかを確認する。大きくずれた机を、ロボットが通りやすいように整列させてから、教卓に立って、教室全体を見渡した。

「よし、これでいいか。帰ろう」

自分の席に置いていた鞄を取り、教室を出る。教室の扉は閉めずに開けたまま、通路に並んでいた掃除ロボットに声をかけた。

「1−Dいいぞ」

「了解、しました」

俺の声に反応して掃除ロボットが動き始めるのを確認してから、教室を離れた。


 校門を出ても、もちろん自動運転車は迎えに来ておらず、いつも通り自動運転車が待っているのであろう1キロ先まで歩く。もう日は沈んでしまい、街中ではぽつぽつと街灯が光っていた。

 今日は掃除当番でいつもよりも少し遅かったので、途中にあるショッピングモールの大きなクリスマスツリーが点灯していた。しばらくその前で立ち止まって、頂点の豪華な星のオーナメントを見上げていた。

「帰るか」

少しほどけていたマフラーをぎゅっと締め直して、再び歩き始める。


 ショッピングモールを離れて5分くらい歩くと、いつもの場所にちょうどタイミングよく自動運転車が来て、止まったのが見えた。中から人が降りてきたので、少し離れた場所で待つ。中にいた人全員が降りたのを確認してから、自動運転車に乗り込もうと自動運転車に近づき、車から出てきた人とすれ違ったちょうどそのとき――


「バチン」

と電気の流れる大きな音がした。そう思ったときには、もう俺の意識が消えていた。



 ごそごそと人が動く音がして目が覚める。頬が冷たい、そう思って目を開けると、なぜか自分が床の上に直で寝ているのがわかった。起き上がろうとしたけれど、腕と脚が動かない。しばらく地面に寝転がったまま、魚のようにじたばたしていると

「起きた?」

そう女性の声が上から聞こえてきた。声がした方を見上げると30代くらいの女性がこちらに近づいてきた。肩を持って俺が起きるのを手伝ってくれる。地面に座ったあと、ふうと息を吐いた。

「すみません。ありがとうございます」

起こしてくれた人に礼を言ってから、周りを見る。年齢がばらばらの4人の男性と1人の女性がいて、なぜか全員興味津々といった感じでこちらのことを見ていた。居心地が悪い。というか、この異常に殺風景な部屋はどこで、俺はなぜここにいるんだろう。俺は何で腕と脚が縛られているんだ?


 異様な状況に頭が混乱して、きょろきょろしていると、首がいつもよりすっきりしていることに気がついた。今日マフラーを付けていたはずだが、なぜかなくなっている。そう思って下を見ると、いつも首に付けているCOMNが見えなくて、血の気が引く。

「すみません。俺が首に付けていたCOMNは……」

そう俺が周りの人に聞くと、全員が驚いた顔をした。しばらくお互い顔を合わせたあと、悲しそうな顔をして50代後半くらいの男性が俺に向かって口を開いた。

「君のCOMNは壊したよ」

男性の意味不明な言葉に、思わず「はっ?」という言葉が漏れる。壊れたじゃなくて、壊した? どうして? しばらく混乱したあと、COMNが壊れたという事実に、頭がふらふらした。


 首輪型のCOMNは高い。俺からすればものすごく高い。俺が普段大切に使っているものは、国からFチル用に貸し出しされているものだ。これまでも壊さないように、体育の授業や、寝るときなど、首が大きく動く可能性がある場合は外していた。


 俺が何年真面目に働いたら弁償できるのだろうかと絶望していると、先ほどCOMNを壊したと言った男性が、再び優しげに口を開いた。

「大丈夫。君にはもう必要ないんだよ」


 しばらくCOMNのことで動揺していたが、理解できない男性の発言に頭が回ってきて、やっと今の自分の状況を思い出した。

「そもそも、どうして俺はここにいるんですか? これを外してもらえませんか?」

俺の周りに立っている人たちに、俺の縛られた手足を見せる。俺の質問に、俺を囲む人たちはしばらく悩むようにこそこそ話をしていたが、しびれを切らしたようにその中の女性が一歩前に出て、こちらに話しかけてきた。

「君はACSR(アクサー)を知っている?」

ACSR(反ロボット組織)! ロボットが支配する現代社会を解放しようとか謳っている連中だ。


 ただ大人しく、デモという行為で主張するだけなら全く問題はないが、最近は幼いFチルを何人か解放と称して誘拐している。ただし、ターゲットが乳幼児からせいぜい7歳くらいまでだったので、ルーに「気をつけてくださいね」と言われつつも、自分は大丈夫だと、関係ないと思っていた。


「さすがに知っているわね。単刀直入に言うと、あなたを『解放』するつもりです」

「いや、待ってください! ACSRは小さい子ども限定じゃないんですか? 何で俺なんか……」

俺がとっさにそう言うと、ACSRの人たちがため息をついた。一番始めに話しかけてきた男性――この人がリーダーだろうか?――が話しかけてくる。

「別に我々は幼児だけを狙っている訳ではないよ。大きい子どもは大変だから今まで避けていたんだけど、一人目は君だと思って。君は政府の報道に出ていただろう?」


 去年、政府にFチルの報道番組を作るので、代表として出るようにと言われた。何もかも税金から出してもらっている俺に断れる訳がなかったため、しぶしぶ俺はその番組に出た。

「出たけど……」

まさかあんなことでACSRなんかに目を付けられるとは、思っていなかった。

「大丈夫。手荒に扱ったりはしないわ。これまでの子供たちも、幸せに海外で生活しているのよ?」

女性に優しい手つきで肩に触れられ、優しそうな笑顔と声で――死刑宣告のような言葉が俺に告げられた。



「番組を見て思ったのだけれど、あなたはヒューマノイドに大きく依存しているわね。ここに来て、まず探したのもCOMNだったし」

床に座っていた俺を一度立ち上がらせてから椅子に座らせ、まるで罪人を囲む陪審官といった趣で、ACSRの奴らは俺を取り囲むように椅子を配置して座った。

「COMNを探したのは高いからです。あれは税金です」

「きみは自分の頭の中を覗かれて、気持ち悪くはないのか?」

40代前半くらいの神経質そうな眼鏡をかけた男性が聞いてきた。特に年配の人の中には、頭の中でとか、音声でとかそれ以前に、ヒューマノイドとの会話自体を嫌がる人も多い。そんな人にとってCOMNを解して頭の中でヒューマノイドと会話する俺たちは、頭がおかしい人らしい。

「ヒューマノイドが読み取れるのは、はっきりと、こちらから発した思考だけです。深層意識まで読み取れるわけではありません」

俺だってルーに隠し事がないわけではないが、それをルーに知られたとして、一体何になると言うのだろうか。ただそこまでは言わずに、事実だけを述べると、俺に質問してきた男性は納得できないような顔をしていた。


「『いっしき』君。きみはさ、Fチルのことをどう認識しているの?」

ここにいるACSRの中で一番若い男性に、ぶしつけに今度はそう聞かれる。俺の名字がやけに強調されていたので、質問の裏に含んでいることがわかった。


 Fチルの名字は、全員ひらがなだ。

 Fチルを生み出すことに決まった後、Fチルの『名字』をどうするかが問題になった。既存の名字を適当に割り当てるのは、『家系』がわからなくなるという反対意見から直ちに却下され、また存在しない名字を割り当てるのも、名字からFチルだと言うことが推測でき、差別につながるという理由で却下された。

 結局、既存の名字をひらがなで書き表したものを公式名称とし、普段は漢字を使用してもよいという中間案のようなものが採用された。そんなこともあって、Fチルは普段あまり名字を名乗らないが、俺は学校では『一色 春義』、戸籍では『いっしき 春義』となっている。

 Fチルの成立当時のことを調べると、よくもまぁそんな細かい内容で揉めるものだと言いたくなる。


「どうって……俺はその制度がなければ生まれていないから、どうもこうもありません」

「あぁそうだったね。じゃあさ、政府の方針は賛同しているってこと?」

無邪気に思えるような気軽さで、そんなことを聞いてくる男性に少しむっとする。この男性は俺に『政府のことを恨んでいる』と、そう言ってほしいのだろう。

「労働力として生み出されたことに、俺だって何も思わないわけではありません。でも、目的があるから生み出されるのは普通の人も同じだと思う。俺たちだけが特別ってわけじゃない」

何度も自分の中で考えて、得られた結論を初めてはっきりと口に出した。俺のその答えに男性はあきれるように言葉を返した。


「君は愛を全否定するんだね」


 俺が、男性のその言葉に思わず言い返そうとすると

「ねぇ、私はカウンセラーをしているの」

女性が会話に割り込んできた。

「春義くん。これまでの子たちと違って、あなたはもう大きいから、時間がかかるかもしれないけど、新しい家族と一緒にゆっくり学びましょう?」


 聞き分けのない子どもを心配するように、ゆっくりと真摯な目でこちらを見て言われたその言葉に、あっけに取られた。

 学ぶって何を? 話の流れからすると『愛』をとでも言ってくれるのだろうか。


「いえ、いいです。俺は帰ります」

「私たちがサポートする体制はできているわ。残念ながら、住むのは日本ではないけれど、お金のことは心配しなくていいのよ?」

明らかに本人は『善意』だと思って言っている言葉に、ぞっとする。

「すみません。帰らせてください。俺がここで見たことは、誰にも言わないのでお願いします」

とにかく解放されたくて、頭を下げてそう言う。俺が家にも帰らず、COMNもつながらないこんな状況では、ルーが俺を心配して暴走していてもおかしくはない。お願いしますと、とにかく必死に頭を下げた。


「帰るって、あなたヒューマノイドしかいないでしょう?」


 必死に帰りたがっている俺を、『一体どこに帰るのか』と疑問に思うように発せられたその言葉に、小さく息を飲んだ後、だんだん頭に血が上ってくるのがわかった。


「あんたたち……『Fチルのため』とか言って、Fチルの意見を聞いているのかよ……」

頭の冷めた部分では、こいつらを怒らせるのは得策ではないとわかっていたが、止まらなかった。

「あんたたちは俺がヒューマノイドと暮らしているのをかわいそうだと思っているんだろうけど、俺はヒューマノイドとの暮らしに満足している。

 普通の人間の生活なんて知らない。

 俺はルーとしか暮らしたことがないんだから、わかるわけないだろう!」

俺は叫びながら、無性にルーの手作りチャーシュー入りオムライスが食べたくなった。


 俺の急な行動にあっけにとられたACSRの奴らを前に、頭に血が上ったまま文句を続ける。

「なのに、あんたらはなん――」

「春。ストップです」

そのとき、急にささやくように耳に入ってきたルーの声に固まった。

「春。私の声が聞こえていると、ばれないように行動してください」

どうやらルーの声は俺にしか聞こえていないらしい。どこから聞こえてくるのかわからないが、ルーの声に安心して涙が出そうになった。

 ルーの指令通りに――既に十分挙動不審であったけれど――ごまかそうとして、「もう何なんだよ……」とはき捨てて、下を向いて座り込んだ。

 俺がそうやって座り込んでいると、

「ごめんなさい、疲れているのね。一旦休憩にしましょう」

女性が優しく告げた。



「春――聞こえているかこちらからは判断できないので、聞こえていたら軽く咳をしてもらえますか?」

再びそっとささやくようなルーの声が聞こえる。何人かは部屋を出て行ったが、俺のそばに残っているACSRの奴らに、変に思われない程度に軽く咳をすると、ルーの返事が聞こえた。

「よかった。聞こえていますね。

春、私は今、春の制服のボタンの中にいます。上から2つ目です。触れてもらうと、もう少しこちらからの声がはっきり聞こえると思います」

その言葉にかなり驚いた。ACSRの奴らに見えないように下を向いたまま、両手が縛られているので祈りのようなポーズで、制服のボタンを頑張ってつかんだ。

「聞こえますか?」

今度は、ルーの声が先ほどよりもクリアに聞こえた。はっきりと聞こえるルーの声に返事をしたかったけど、我慢する。ルーは俺の制服に何を仕込んでいるんだよと、初めて知った事実に苦笑した。

「すみません。COMNを壊された直後からここに移っていたのですが、この部屋は電波暗室になっていて、今まで外界とアクセスするのに苦戦していました。もう、外とパスを通せたので、いずれ助けが来るはずです。

 春、私はまた外との連絡にかかり切りになりますが、もう少し待っていてください。必ず助けますから」

心配そうなルーの声に、こっちの方こそ心配させてごめんと言いたくなった。



「私たちACSRはロボットが管理している現代社会に危機感を抱いている」

部屋を出て行った数人はまだ帰ってきていなかったけれど、尋問が再会されたようだ。のろのろと顔を上げると2人だけが席に着いていた。声を発した、リーダーと思われる男性を見つめる。

「君はそうではないようだね」


 助けが来るまで、あまり余計なことを言って、この人たちを刺激しない方がいい。けれど、全く返事をしないのも疑問に思われると思うので、ほどほどの内容で返事をすることにした。

「人は正しいんでしょうか……?」

「人が誤った選択をするから、ロボットに管理されるべきだということかね?」

さっそく怒らせてしまったようだ。

「いや、そういうことを言いたい訳ではなくて――ロボットって元々人が楽をしたいから作ったものですよね? じゃあ、ロボットが今していることも、元はと言えば人間が望んだことではないんでしょうか? ロボットを責めるのはお門違いというか……」

「春義君。君が言いたいこともわかる。けれど、過去に決まったことを、ただ受け入れ続けるままでは何も変わらない。

 私たちはそれを変えようと集まっているんだ。君にもそれをわかってほしい」

リーダーの男性ははっきりと意思が感じられる様子でそう言った。


 この人たちは自分たちが正しいと、正義だと思っているんだろう。このまま自分たちが何もしないと、ロボットに人が支配されるとでも信じているのだろう。


 そう信じるのは勝手だし、実際そうなる可能性もゼロではないが、それを押しつけないでほしい。今の時代の選択が正しかったか、Fチルが失敗だったかどうかなんて、後の世代のやつが適当に決めるだろう。これまでの歴史はそうだったし、それでいいじゃないか。


 部屋を出て行った人たちが戻ってくるのと入れ替わりで、部屋にいた人たちが出て行った。先ほど思わずかっとなってしまった女性が戻ってきたので、これ以上余計なことを言わないように、寝た振りをする。そうしていると、ACSRの奴らも俺を放っておいてくれた。

 ただ、寒い。せめてマフラーだけは返してほしい。30分ぐらい寒さに耐えながら寝たふりを続けて、実際に何だか眠くなってきたときに、ルーから連絡が来た。

「春。聞こえますか?」

通信用のボタンを握っていないので、聞こえにくいが、今動くのも変なので仕方ない。

「あと5分でそちらに到着します。その部屋までの侵入経路は問題ないのですが、出入り口が一つしかないので、突入の際に今部屋の中にいる人たちに春が人質に取られる可能性があります」


 あと5分! その連絡に喜ぶが、ルーの指摘通り、両手・両足を縛られている今の俺では確かに人質になりかねない。けれども、簡単に外せるものでもない。

「そこで、私がここから音で部屋の中の人を攻撃をします。この端末の出力では気絶させることはできませんが、10秒くらいは稼げるでしょう。幸い電波暗室なので、反響音も通常よりは小さく済みますので、春には害はありません」


 『ちょっと待て!』としゃべってはいけないのに思わず声に出そうだった。

 ヒューマノイドは人に害を与える行動を著しく制限されている。攻撃って、人に怪我をさせるようなことをして大丈夫なのだろうか。そう焦っていると、まるでこちらの言葉が聞こえているかのように、ルーの言葉が続いた。

「はい。状況から私が『破棄』されることにはならないと思いますが、人に攻撃してどういった処分が下されるかはわかりません。

 それに、攻撃の際にこの端末は確実に壊れるので、バックアップを送っていないここ3日のデータは高確率で消えます。

 でも春。仕方ないんですよ。それ以外の解は、最善からはほど遠いので」


 何で俺はこんなところで縛られているんだろう。何で俺は今ルーに話しかけてはいけないんだろう。


「えっと――今だから言っちゃいますが、たまにこの端末から学校での春の様子を覗いていました。春に隠していたのは、その……言ってしまったら、今日何があったかを家に帰ってきてから私に報告してくれないでしょう?」

ルーが夕飯を食べながら、今日の出来事を話す俺を、いつもニコニコしながら見守っていたことを思い出す。


「来ました。あと30秒です。春は巻き込まれないように気を付けてください。

 春、大丈夫です。『愛して』いますよ」


 ルーがそう言うのが合図だったかのように、部屋の照明が一気に消えた。真っ暗になった部屋でうめき声が聞こえる中、俺は頑張って椅子を引きずって出入り口の方に移動した。


 部屋の扉がバンと開かれた。

 警備ロボットの光る目がやけにはっきりと見えたあと、突入してきた公安部隊に俺は保護された。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 事情聴取のあと、ルーの上司のカーラさんが家まで送ってくれた。誰もいない家に帰り、自分で部屋の電気を付ける。リビングの椅子に座って息をつくと、ここに帰ってくるのが随分久しぶりな気がした。

 自分が着ている制服を見下ろす。ルーが今日いたボタン型のCOMNは公安に回収されてしまったので、制服のボタンが一つない。新しいボタンを自分で付けるか少し悩んだけれど、目立つものではないので、ルーが帰ってくるまで、そのままにすることにした。制服をハンガーに掛けて、クローゼットにしまう。



 次の日は、寝坊した。起きたら10時だった。

 しばらくベッドの上で、急いで学校に行く支度をするか悩んだけれど、今日くらいは学校をサボることにした。のんびり自分で朝ごはんを用意して、一人で食べる。ニュースは見る気にならなかったので、静かなリビングで黙々と食べた。


 午後からはカーラさんに会いに行った。いつもより少し髪が乱れているカーラさんに「学校は?」と聞かれて、「サボった」と答えると、

「あらあら、後でルーに怒られるわね」

と笑顔で言われた。


 ルーは廃棄にはならないらしい。そう聞いたとき、安心してマフラーの端をぎゅっと握った。


 ただ、今回の件は調べているうちに政府関係者が関与していることがわかったりと、色々ときな臭い問題があったそうだ。そういう訳で、ニュースにはならないし、ルーに『無事に』帰ってきてほしかったら俺も他言無用とのことだ。カーラさんに「わかった」と伝えると、「ごめんなさいね」と申し訳なさそうな顔で言われた。

 ルーが遅かれ早かれ帰ってくることには決まったけれど、今はルーに課す罰則について揉めているそうだ。最終的に判断するのは『人』だから、処分が決まるのにはまだ時間がかかる。この日はそのまま家に帰った。



 次の日は大人しく学校に行った。

 いつも通り、学校の1キロ手前で自動運転車から降りて、ゆっくり歩いていると、

「春!」

晃久が車の中から慌てたように降りてきた。

「春! 大丈夫か! 聞いたぞ!」

俺の真ん前に立って、心配そうに見つめてくる友人の顔を見る。

「あれ、晃久なんで知ってんの……?」

えっと、俺は言ってないぞ、と少し不安に思いながら晃久に確認する。どうやら、俺が誘拐されたあの日、ルーが晃久も無事か確認するために、レミーネに直接連絡を取ったらしい。

「俺は怪我もないし、大丈夫だ。ルーはなんか揉めているみたいで、まだ帰ってきてないけど」

俺がそう言うと、晃久の肩にもたれかかったレミーネが遠くの方を見ながら口を開いた。

「ほんと護衛なんて付けてないで、ルーミスティを返してあげればいいのに。あの子の方がよっぽど上手くするわ」

「えっ護衛?」

俺が驚いてそう聞くと、ほらとレミーネが近くの監視カメラを指さした。俺には普通の監視カメラにしか見えないが、見上げるとちょうどタイミングよく動いたカメラと目が合った気がした。

「学校行くか……」

ひとまず気にしないことにして、学校に向かった。


 晃久は、家に泊まりに来てもいいぞと言ってくれたけれど、俺は毎日ルーのいない家に帰った。

 自分の家なのに、自分の家じゃないように感じる家に帰って4日目、「ただいまー」と若干ムキになって言いながら玄関の扉を開けると、

「お帰りなさい」

ルーが笑顔で玄関に立っていた。

「ルー……?」

「はい、ルーですよ。さっき帰ってきました。春、ただいま」

「お帰りなさい……」

うれしいのに、すごくうれしいのに、なぜだかぶっきらぼうな反応になってしまう。ごまかすように、平静を装って質問をした。

「ルー、それでどうなったんだ。罰はあるのか?」

「しばらくの間は政府からの仕事を断りにくくなりますが、罰則はありません」

「そうか、それはよかった……」

安心して息を吐いた。


「ただ、春、ごめんなさい」

「何が?」

「私は、あの日の3日間の記憶がありません。データは復元されませんでした。

 春が誘拐されたあの日、何があったのかは、聞いた話からしか知らないのですよ……」

「そっか……」

ルーが深刻そうに話を始めるから、また何の話かと不安になったが、そんなことかと一瞬安心した。


 けれど、あの日のルーはもう居ないのか……


 今、目の前にいるルーは、誘拐される3日前のバックアップデータから復元されたルーだから、俺の知っているルーであることには間違いはない。だけど、一緒に博物館に行ったルーや、あの日俺のために自分から誘拐犯たちに攻撃したルーは、もういない。


 そう考えてしまうと、一度ぽろぽろ出てきた涙は、なかなか止まらなかった。



 やっと涙が止まった顔で、ルーをまっすぐ見上げる。

「ルー。明日は空いているか?」

「はい」


 ルーと明日は、博物館に行こう。そしてそこで、もう一度約束をしよう。



 Fチルが間違っているかどうかなんて、俺は知らない。

 何が正しいかなんて、比較しようにも俺は俺の人生しか知らないのだから。

 

 ただ、俺は――

 俺たちのことを『家族』だと思っている。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 人間と同じように学校に通い、勉強し、休みの日にはデートに出かけるあたりに人間とロボットの違いはどこにあるのかを考えさせてくれる良い作品でした。 また人間とロボットの明確な違いとして苗字が平…
[良い点] はじめは数字ばかりでお硬いものかと思っていたら、「愛」に焦点を当てた暖かい物語で素敵でした。 ルーさんの真面目ながら慈愛に溢れているところが好きです。
[一言] 面白いです。こういうSF作品が読みたかった。連載化してほしいぐらいです。 次回作も期待しています
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