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共通テーマ「時計」という条件のもとで書いた、9月童話企画の私の作品です。「九月の童話」で検索をすると、他の先生方の素晴らしい作品も読めます。
コスモスのある時計台
作:佐乃海テル


 ある国に小さな小さな時計台がありました。時計台の階段の入り口には岩があります。そこにはいつもコスモスの花が、一本ずつ置かれています。毎日誰かしらがコスモスを持って、その岩にのせてお祈りをしたあと帰っていきます。秋の日にこの岩の上にコスモスを置いて祈ると、願いが叶うとこの国では信じられているのです。


 ある日、小さな男の子が悲しそうに歩いていきました。男の子のお母さんは病弱で、お父さんは元からいませんでした。男の子はお母さんと二人暮らしをしているのですが、その日またお母さんが寝込んでしまったのです。普段優しくしてくれているお母さんが苦しんでいるところを見ていると、男の子も辛い気持ちになります。ようやくお母さんが寝静まったので、男の子は何日かぶりに外に散歩に出たのです。


 でも、男の子の気は晴れません。病気が再発するたびにこんな辛い気持ちにならなきゃいけないのかな、と思うばかり。すると男の子は道端にコスモスが細々と咲いているのを見つけました。


 そういえば、と思い返しました。昔男の子のおばあちゃんは言っていました。秋の日に時計台の入り口の前の岩にコスモスを一本置いて、一生懸命祈れば願いを叶えてくれるって。男の子は半分だまされるようにコスモスを摘んで、時計台へ向かいました。


 時計台に着いた男の子は言われたとおりに祈りました。お母さんが病気に苦しみませんように、そして普通のお母さんと同じように過ごせるように、と。男の子なりに一生懸命祈ると、家へ帰っていきました。


 男の子はその後、お母さんと笑いながら時計台の前を通る機会がありました。お母さんの病気はあれからというもの不思議なことに再発することはなく、男の子とお母さんはそれからも助け合って暮らすようになりました。

 男の子は時計台の入り口の前の岩を通ったところで小さく「ありがとう」とつぶやきました。

 時計台には聞こえたのでしょうか。


# # #


 ある日小さな女の子は時計台へ向かいました。お父さんが、国の戦争で兵隊になることになってしまい、今日はその日だったのです。


 女の子とお父さんは戦争が嫌いでした。お互い血を流し合っても得るものはない。むしろお互い汗を流し合うほうがいいと昔からお父さんは、女の子に言っていました。それなのにお父さんは兵隊になることになりました。逆らったらお父さんは殺されてしまいます。だから仕方が無い、と。生活するための少しくらいのお金は国からもらえるのですが、女の子のお母さんはとっくの昔に亡くなっています。一人で暮らすことなどできません。途方にくれた女の子は昔お父さんとよく行った、時計台に向かったのです。


 時計台に向かう道の途中、コスモス畑がありました。女の子はその綺麗な花に見とれてしまいました。それほど綺麗だったのです。


 すると花畑の中で作業をしていたおじさんが女の子を見ると、女の子の方にやってきました。
「どうだい、綺麗だろう。一本あげようか」
 おじさんは優しく笑いかけてくれました。女の子は小さくうん、とうなずくとおじさんからコスモスの花を受け取りました。
「お嬢ちゃん、顔色がすぐれないね。何か悲しいことでもあったのかな。だったら時計台の入り口にでもそのコスモスを置いてお祈りしてきたらどうだい。この国ではコスモスは大事にされているからね」
 そういうと、おじさんはまた花畑の中へ戻っていってしまいました。


 コスモスの話は女の子もお父さんからよく聞きました。女の子はそれを信じていませんでした。でもこんな気持ちの今、女の子の慰めには十分だったのです。そしてコスモスと一緒に、時計台に向かいました。


 昔お父さんから聞いたように、時計台の入り口の前の岩にコスモスを置いて祈りました。一生懸命祈ったあと、女の子が立ち上がろうとしました。
「リル!」
 女の子の名前を呼ぶのは……兵隊から帰ってきた女の子のお父さんでした。お父さんは傷一つ負っていませんでした。ああ、時計台の話は本当だったんだと女の子は実感しました。
 不思議なことにお父さんが兵隊の宿営所へ向かうと、既に戦争が国同士の話し合いで終わってしまっていたというのです。


 それからは戦争が起こることがありませんでした。お父さんと女の子はそれからも一緒に暮らし、また時計台に来ることもたまにありました。
 そんな時女の子は時計台の入り口の前の岩を通ったところで小さく「ありがとう」とつぶやきました。

 時計台には聞こえたのでしょうか。


# # #


 その少女は走ってくるなり、時計台の入り口の前の岩にぶっきらぼうにコスモスを置いて祈り始めました。年は16くらいでしょうか。少女は他の人たちよりも行動はぶっきらぼうでしたが、願いは誰よりも切実でした。


 少女はヘルエという好きな少年がいて、その少年にまた別の好きな子がいるという噂を、学校で聞いてしまったのです。ヘルエは「待ってくれ」と懸命に少女を追いかけてきましたが、少女は聞く耳を持たず急いで家に帰ると、泣いて走りながらコスモスを持って時計台に向かったのです。


「(お願い! ヘルエと一緒に結ばれますように!)」
 誰よりも行動はぶっきらぼうな少女。でも祈る姿は誰よりも一生懸命でした。その時です。
「ルノ、やっと見つけたよ」
 頭の上から、声がしました。ルノは少女の名前です。見上げるとそこにはヘルエがいました。
「驚いたよ、話を聞かないで走って行っちゃうんだもん。どうしたんだい」
 それを聞いて少女は少しすまないな、と思いました。少女は涙をぬぐいながらも、ヘルエが好きであることを伝えます。すると、
「嬉しいよ」
 と言ってくれました。それを聞いて、少女は家へと帰ろうと立ち上がり、歩き出します。
「僕も君が好きだったんだ。だから本当に嬉しいよ」
 ヘルエがその言葉を言い終わる頃には、少女は振り返ってヘルエに抱きついていました。少女の目からまた別の、涙が出てきました。


# # #


「お母さん、お昼ご飯まだ?」
 男の子がお母さんをせかします。
「待って、もうすぐよ」
 そういうと、男の子のお母さんは男の子の大好物のオムライスを持ってきました。
「わあ! オムライスだ! いただきます!」
 男の子は勢いよくオムライスを食べます。そしてあっという間に食べ終わりました。
「ねえお母さん、これ友達から聞いた話なんだけど時計台の入り口の前のあの大きな岩に、コスモスを置いてお願いすると、願いが叶うって本当?」
「そうね」
 何かを考えた後、お母さんは答えます。
「本当かどうかはわからないわ。ただ信じるか信じないかだけよ」
「お母さんは信じてるの? あんなの嘘っぱちだい」
「信じてるわよ。あの時計台にはいろんなお話があるのよ。お母さんの病気が治ったり、お父さんが兵隊から帰ってきたり、あと……」
「あと?」
 少し間を置いて、
「お母さんみたいに好きな人と、結ばれたりね」
「え? お母さん、お父さんが好きだったの?」
「もう、おっかしいわね、当たり前でしょ? だから時計台でお願いしなかったら、あなたは生まれてこなかったかもしれないのよ」
「本当? すごいなあ」
 男の子は午後時計台へと散歩に向かいました。


 時計台の入り口の前の岩の上には今日もコスモスが一本置かれています。
 男の子は時計台を見て何となく嬉しくなり、小さく「ありがとう」とつぶやきました。


 時計台には聞こえたのでしょうか。


ご読了ありがとうございました。いかがでしたでしょうか。

特に凝った内容にしなかったため、ありきたりだったと思います。今回の童話企画は自分が昔絵本で読んだシンデレラなどのお話の雰囲気をモデルに書いたためです。

これから10月、11月と童話企画は違うテーマで続きます。またその時には別のモデルで童話を書いているかもしれません。その時にもまた見守ってくださると幸いです。













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