艦魂年代史外伝 ソロモンの英雄 綾波 AYANAMIPDFで表示縦書き表示RDF


さて、昨日宣告したように今日投稿しました艦魂年代史外伝シリーズ第九弾は駆逐艦『綾波』の物語です。
日本海軍空前絶後の大戦果を上げたあの駆逐艦の物語を艦魂で再現しました。戦闘シーンと友情が重視されていますので、どうか読んでください。
艦魂年代史外伝 ソロモンの英雄 綾波 AYANAMI
作:黒鉄大和


 一九四二年の秋、太平洋戦争は次第に日本が不利になって来ていた。
 この年の六月に日本海軍がミッドウェー海戦で大敗北して以来太平洋の制海権は次第に米軍に侵食され始めた。
 日本海軍は対抗策としてソロモン海の覇権を握ろうと死力を尽くした防衛戦を展開するが、物量で勝る米軍に次第に圧倒され始めていた。
 ソロモン海で二度両軍機動部隊が激闘を行い戦術的には日本が勝利したが、日本の数少ない空母を撃破され、補給作戦も失敗に終わってしまい結果は日本の戦略的敗北となった。
 ソロモン海の要であるガダルカナル島はすでに米軍にほとんど陥落状態に陥っていた。問題はそこにある敵陸上航空基地だ。このせいで日本はこの島に輸送船を送る度に撃破されるという状態に陥っていた。
 日本はこの飛行場に一度戦艦『金剛』『榛名』で砲撃して半滅させた。このおかげで一時飛行場の戦闘能力は下がったがすぐに復活してしまった。
 連合艦隊司令部は再び戦艦による砲撃で飛行場の戦闘能力を壊滅させる事を決定し、前に砲撃を成功させた『金剛』『榛名』の姉妹艦『比叡』『霧島』を作戦の要として艦隊を編成した。
 そして一九四二年十一月、戦艦『比叡』『霧島』を中心とした敵飛行場砲撃挺身部隊がソロモン海に向かって出撃した。
 ガダルカナル島に向かう挺身部隊は敵重巡洋艦部隊と敵機との連戦で戦力を疲弊した。特に作戦の要である『比叡』を自沈処分まで追い詰められた事は大きな痛手となり、作戦は中止され挺身部隊は撤退した。代わりに重巡洋艦部隊が砲撃を代行したが、重巡洋艦は戦艦ほど主砲の威力はなく、敵飛行場はすぐに復興。任務を終えて退避した重巡洋艦部隊は空爆されて重巡洋艦一隻を撃沈された。
 代行作戦も失敗した日本海軍は輸送船団を無事にガダルカナル島に送り込む為に再度飛行場砲撃が必要になった。その為退避中だった『霧島』以下の挺身部隊に再度出撃を命令。その中から戦艦『霧島』以下軽巡洋艦一隻、駆逐艦四隻を抽出させた。さらに増援部隊として重巡洋艦『高雄』『愛宕』と駆逐艦二隻。第三水雷戦隊の軽巡洋艦一隻、駆逐艦三隻が派遣された。
 今、後に第三次ソロモン海戦と呼ばれる両軍水上部隊同士の壮絶な戦いの第二回戦が開始されようとしていた。

 ガダルカナル島に向かう『高雄』と『愛宕』が合流した新挺身部隊とは別に第三水雷戦隊は単独で同島を目指していた。
 戦隊旗艦・軽巡洋艦『川内』を先頭に駆逐艦『浦波』『敷波』、そして『綾波』が進んでいた。
 闇夜の中部隊後方を進む駆逐艦『綾波』の艦橋には長い髪を風に靡かせて海を見詰める一人の少女がいた。
 彼女の名は綾波。この駆逐艦『綾波』の艦魂である。
 艦魂とは艦に宿るその艦の魂の化身である精霊のような存在だ。その姿は通常の人間には見えず、霊感の強い者や艦魂の精神波長に近い波長を持つ人間にしか見えない。
 そんな艦魂である綾波は身長が一七五cmの長身に美しく整った顔をした十八歳くらいの美少女だ。時代が時代ならモデルをやっていても不思議ではないほどのスタイルだ。だが、彼女は仲間内では結構な有名人である。
 両腰に挿したまぶしく輝いた二本の金色刀。それが彼女の特徴だ。
 彼女は駆逐艦内では最強と謳われる剣豪であり、その実力は日本海軍最強と謳われる空母『翔鶴』の艦魂や最凶と言われる『金剛』の艦魂とも互角に戦えるだけの力を持つ。だが、前者二人のように一癖も二癖もあるような性格ではなく、誰にでも優しく皆から慕われていて、年上年下関係なく皆から『姉貴』『姉御』と呼ばれている。
 その美しい剣術はまるで花畑で踊る妖精のような美しさを放ち、まわりから『妖精』という二つ名を付けられている。
 そんな彼女は自分を淡く照らす月を見上げ、静かに双剣を抜いた。銀色の刃は月の光を浴びて金色に輝いた。それを綾波は目を細めて見詰める。
「今日も美しい月が私達を照らしている。嬉しい事だ」
 綾波はそう言うと小さな笑みを浮かべた。その時、
「綾波。何してるの?」
 その声に振り向くと、そこには川内、浦波、敷波の姿があった。
「みんな・・・」
「そんな所にいたら風邪引くわよ」
 川内の言葉に綾波は「大丈夫だよ」と笑って答える。
「綾波姉さん。クッキー作ったんだ。食べる?」
 そう言ってクッキーの入ったバスケットを渡してきたのは敷波だ。
 綾波は「ありがとう」と言って一枚口に入れると「おいしいよ」と感想を言った。
「本当!? やったーっ! 綾波姉さんにほめられちゃった!」
 敷波は嬉しそうにはしゃぐ。そんな彼女を見詰めていると、綾波の隣で浦波が呆れたような声を上げる。
「まったく、ここが戦地だって事、わかってるのかしら」
 そう言う敷波だが、その表情はかわいい妹を見守る姉の姿があった。そんな自分にとっても姉に当たる浦波を見て綾波は、
「まあいいじゃない。息抜きは必要よ――姉さん」
「息抜きっていっても限度ってものがあるわよ。まあ、今さら何を言っても無駄だろうけどね」
 浦波の諦めたような言葉に、綾波はくすくすと笑う。
「何よ」
「ううん。なんでもない」
 綾波の返答に浦波はどこか不満だったが、これ以上追求しても意味がないと判断して何も言わなかった。
 そんな頼れる三人を見詰め、綾波は嬉しそうに笑みを浮かべ続けた。ふと、綾波は自分達を照らす月を見詰める。そんな彼女の視線を追って三人も月を見上げる。
「今日は本当にいい月が出てるわね」
「そうだね」
 浦波の言葉に敷波が答えた。ふと、川内は何かを思い出した。
「そういえば、日本じゃもう月見の季節よね」
「・・・そっか、もう月見の季節なんだ」
 川内の言葉に綾波も思い出した。
「そうだっ! ねえ、基地に戻ったらみんなでお月見しようよ!」
 敷波の突然の意見に浦波は「何よ急に」と見詰めたが、川内と綾波は、
「いいわね。そうしましょう」
「やるなら他の仲間も誘ってパアッとね」
「うんっ! やろうやろう!」
「もう、仕方ないわね」
 嬉しそうに話す四人を、輝く月はいつまでも照らし続けていた。

 第三水雷戦隊はサボ島付近まで迫っていた。ここで旗艦『川内』から全艦に命令が伝えられた。
 サボ島を東側と西側に分かれて後に合流しようというものだった。索敵の為の行動だ。
 編成は変更され、東側を『浦波』と『敷波』。西側を『川内』と『綾波』が担当する事になった。
『浦波』『敷波』と別れ、『綾波』は『川内』の後に続いてサボ島の西側を進み続けた。
「後方から主力部隊が続いてるわ。私達の任務は索敵。ゆえに付近の敵艦隊は必ず発見しなきゃね」
「もちろん。その為に姉さんと敷波を分裂させたんだから」
「そうね」
『川内』の前甲板で月を見詰める川内の横で、綾波はそんな彼女を見詰めていた。
「敵もこっちの動きを察知して防衛線を展開してるかもしれないわね」
「その場合、今回の参加兵力では攻略は難しい。一応戦艦一隻が配置されているけど、艦齢二七年の老艦。敵が空母や新鋭戦艦を配備していればこちらに勝ち目はない」
「そうね。そうでない事を祈りましょう」
 川内は優しげな笑顔でそう言った。そんな彼女を見詰め、綾波も少し嬉しそう笑みを浮かべる。
 川内と綾波はもう五年以上の付き合いになる。辛い戦争の中でも、頼れる友と共に戦える限り、何も恐怖はない。
「でも、今は作戦中なんだから。こんな時くらいは一応友達感覚じゃなくて上官として接してよね」
「・・・わかりました。川内司令」
 綾波は静かに親友にして最高の上官に向かって敬愛の敬礼を送った。

 一方その頃、東側を進む『浦波』『敷波』の二艦は『浦波』を先頭に順調に進んでいた。
 前を進む『浦波』の第一主砲の上には『浦波』の艦魂が立っていた。
「姉さん。そんな所にいたら危ないよ」
 甲板から浦波を見上げる少女は敷波の艦魂で自分の姉を見上げていた。
「危ないから降りてよ」
「ここからの方がよく見えるのよ」
「でも・・・」
「まったく、あなたの高所恐怖症も筋金入りね」
 浦波は苦笑いするとその場でジャンプした。
「ね、姉さんッ!?」
 顔を真っ青にして慌てる敷波の目の前に、浦波は音も立てずに着地した。綾波ほどではないが彼女もかなりの身体能力を持っている。
「ほら、降りたでしょ?」
「も、もう姉さん・・・心臓に悪いよぉ」
 ほとんど涙目の敷波を見て浦波はイタズラっぽく笑う。
「ああっ! 姉さんまた私をからかったんでしょ!?」
「わかる?」
「その笑みは絶対そうだもん!」
 必死に言う敷波を見詰め、浦波は嬉しそうに笑顔になる。そんな彼女の笑みを見て敷波も「もうっ!」と言ってそっぽを向いた。
 そこからどう見ても仲のいい姉妹。そんな二人の微笑ましい会話はずっと続くかと思われた。だが、
『総員砲雷撃戦用意! 繰り返す! 総員砲雷撃戦用意! 急げッ!』
 突如スピーカーから響いた艦長の怒号に浦波の目が鋭くなった。
「来たわね――鬼畜米英」
 浦波はジャンプして再び第一主砲の上にスタッと立った。
「敷波ッ! 早く自艦に戻りなさい! 戦闘が始まるわ!」
「わかったっ!」
 敷波が消えるのを確認すると同時に、景色が左に動いた。主砲の旋回だ。
 主砲が暗闇に砲身を上げてまだ肉眼では確認できない敵に向けて照準をつける。そして、爆音と共に砲弾が射出された。数秒後、暗い闇夜が一瞬にして昼のような明るさに包まれ、敵艦隊の姿が見えた。
『浦波』が照明弾を撃ち込むと、続いて『敷波』の主砲が火を噴いて敵艦隊を狙うと、すぐに『浦波』も砲撃を開始する。
 敵艦隊のまわりで多くの水柱が上がった。
 だがしかし敵も反撃を開始し、敵艦隊でいくつかの光が放たれた数秒後、二隻のまわりに無数の水柱が上がった。戦力は向こうの方が圧倒的に有利だ。
 浦波は腰から軍刀を抜き、スッと敵艦隊に向かってその刃先を向けると、不敵な笑みを浮かべた。
「さあ、行くわよ。夜戦なら世界最強と謳われる我が大日本帝国海軍の実力を思い知れ! 鬼畜米英どもッ!」
『浦波』から数本の酸素魚雷が放たれ、今ここに第三次ソロモン開戦第二回戦の火蓋が切って落とされた。

「浦波達が敵艦隊と遭遇して戦闘を開始した!?」
「!?」
 報告を受けた川内は一瞬動揺したが、すぐに平常心を取り戻す。ここで自分が慌てていても何も始まらないと彼女はわかっている。
「司令。姉さん達は?」
 心配そうに自分を見詰めてくる綾波を見詰め、川内は命令した。
「命令が下ったわ。綾波。あなたはこのまま進みなさい。私は至急浦波達を加勢する」
「そ、それなら私も」
「ダメよ。これは命令。いいわね?」
 川内の言葉に、綾波は不満があったが、静かにうなずいた。ここは戦場。上官の命令は絶対なのだ。
 綾波は力なく川内に背を向けた。
「綾波」
 歩き出そうとした時、彼女に呼び止められた。振り返ると、そこには優しげな笑顔を向ける川内がいた。
「安心して。あなたの姉妹は、私が守るから」
 その言葉に、綾波は嬉しそうにうなずき、敬礼して消えた。
 綾波が消えたのを確認すると、川内の優しげな瞳はスッと研ぎ澄まされた刀のように鋭くなり、敵艦隊と浦波隊が戦闘をしているだろうと思われる方向を見詰める。
「私達帝国海軍の真髄・・・それは――」
 その瞬間、『川内』の機関が最大出力で動き出し、『川内』は暗闇の海の中を翔け出した。
 その艦首に立つ川内は舞い上げられた海水を浴びても微動出せず、勇ましく立ち続ける。
「艦隊決戦ッ! それだけよっ!」
 軽巡洋艦『川内』は最大速力で海を翔けた。

 この時浦波隊が見つけた敵艦隊は米戦艦部隊だった。戦力は新鋭戦艦二隻と駆逐艦四隻の小規模ながら日本軍を圧倒するすさまじい火力を持つ水上打撃部隊であった。
 駆け付けた『川内』も合流し、三隻は六隻の敵艦隊としばし砲雷撃を繰り返して交戦を続けたが、戦艦二隻の恩恵を受ける敵艦隊はあまりにも協力で、川内隊はその圧倒的な火力の前に被害が増え、一時退避を余儀なくされて撤退し、敵戦艦部隊はそのまま進み続けた。

 ――これが、『綾波』の運命を決める事となった――

『川内』『浦波』『敷波』の三隻が撤退した事も知らず、『綾波』は単艦で進み続けていた。
 防空指揮所の上で綾波は気持ちのいい風がそよそよと頬を撫でるのを感じ、静かに目をつむっていた。その時、
「風が――変わった」
 月夜に照らされる少女は、そう静かにつぶやいた。
『総員配置急げッ! 対水上戦闘用意!』
 警報と共に艦長の命令が流れたのはその同時だった。
 綾波は静かに目を開くと、腰に挿してある金色の刀を抜いた。月の光に照らされて輝くそれは何を物語っているのか。それは彼女にしかわからない。
 綾波は静かに双剣を構えると、闇夜にうっすらと浮かぶ敵艦隊を睨み付けた。距離は八〇〇〇mほどだろうか。
 歴戦の猛者にして最強の剣士。今の彼女にあるのはそれだけ。鋭利な刃物のような鋭い瞳が彼女の本気の表れ。
「こちらの戦力は私一人――上等じゃないッ!」
 その瞬間、『綾波』の機関が今まで以上の轟音を立てて回りだし、『綾波』は三〇ノットを超える高速で敵艦隊に向かって突撃した。
 白波を立てて『綾波』は突貫する。敵との距離が五〇〇〇mほどに縮まった時、敵艦隊から無数の光が放たれた。その直後、『綾波』のまわりに大量の水柱が上がった。敵艦隊に発見されたのだ。
「構うものかッ! 我が魂の一撃受けてみよッ!」
 綾波の怒号と同時に第一主砲である十二・七cm連装砲が轟音を立てて砲撃した。次の瞬間、敵駆逐艦一隻が爆発し炎上した。なんと初弾を命中させたのだ。
「雑魚めが! 戦いはこれからだ!」
 次弾を装填し、再び第一主砲が唸り砲撃した。次の瞬間、別の敵駆逐艦に命中し、敵駆逐艦は大爆発。炎上した。
 たった二発で敵艦二隻を大破炎上させるという驚異的な戦果を見せた『綾波』。だが、敵艦隊がいつまでも呆けている訳はなかった。後方の戦艦二隻が一斉に砲撃を開始し続いて駆逐艦部隊も砲雷撃を開始した。
 今まで以上の水柱や海の中を翔ける魚雷を『綾波』は回避し、隙を突いて砲撃を加えた。だが、それはいずれも命中はせず、『綾波』は次第に追い詰められた。そして、
 ドゴオオオォォォンッ!
「うぐわっ!」
 ついに『綾波』に敵砲弾が命中した。第一煙突が砕け、火災が発生した。この影響で発射直前の装填を終えたばかりの一番魚雷発射管が右方向を向いたまま故障して旋回不能・発射不能。さらに左舷に積んでいた内火艇のガソリンから発生した火災によって魚雷が炙られるという最悪の状態に陥ってしまった。
 燃える自分の艦体を見詰め、綾波は咳と共に血の塊を吐いた。
「ゲホゴホッ・・・この程度でやられる私じゃない。皆から『妖精』という異名をもらい、最強の駆逐艦と呼ばれる私が、貴様ら鬼畜米英に負けるものかッ!」
 綾波は唇の端から垂れる血筋を袖で拭き取ると、自らの血にまみれた双剣を握り直して構えた。同時に、残った二基の六一cm三連装魚雷発射管が右旋回して敵艦隊を捉えた。
「これでも食らえッ!」
 綾波の咆哮と同時に、二基の魚雷発射管から六本の魚雷が発射され、海の中を翔けた。
 海の中を進む日本海軍の超兵器にして米軍からは長槍と呼ばれて恐れられている酸素魚雷は闇夜の海の中に消えた。そして、
 ドゴオオオォォォンッ! ズドオオオォォォンッ!
 二回の爆音と共に敵駆逐艦二隻に魚雷が命中。うち一隻がすさまじい大爆発と共に轟沈した。残った一隻も大破し、後に沈没した。
 しばらくすると、後方にいた戦艦一隻にも魚雷が命中。気系統を断線させ、一時的ではあるが砲撃不能にさせた。
「どうだっ! 日本海軍が世界に誇る酸素魚雷の威力はッ! 貴様らのようなひ弱な艦体ではこの破壊力の前では無力――があああぁぁぁっ!」
 突如連続して敵砲弾が『綾波』に命中した。二番砲塔が被弾して沈黙。二発の敵砲弾が機関室を破壊され、航行・操舵不能となった。
 綾波の手からゆっくりと双剣が離れ、金属音と共に床に落ちた。そして、綾波の体はゆらりと揺れ、ゆっくりと倒れた。
 床に倒れた綾波は大量の血を吐き、必死に立とうとするが、力が入らず立てない。
「く、くそぉ・・・ま、まだ負けられないのに・・・ッ! ゲホゴホッ!」
 綾波の体は真っ赤に染まり、美しい彼女の顔も流れ出る血で真っ赤に染まっていた。
 綾波の瞳から戦士の炎が消え、悲しげに染まった。
「ごめん・・・みんな・・・本当に、ごめんね・・・」
 ゆっくりと、綾波の瞳が閉じ――
「綾波みいいいいいぃぃぃぃぃっ!」
 突如響いた懐かしい声と同時に、無数の爆発音が響き、炎上していた敵駆逐艦が轟沈した。その光の向こうに、見覚えのある艦影が三つ見えた。
 ――それは、『川内』『浦波』『敷波』の三隻だった。
 もう会えないかもしれないと思った親友と姉妹の姿に、綾波は嬉しくて涙した。
「みんな・・・っ!」
 涙を流しながら三隻を見詰めていると、さらに後方から多くの艦艇が姿を現した。霧島隊直衛部隊である軽巡洋艦『長良』以下駆逐艦『五月雨』『電』『白雪』『初雪』の計五隻だった。
 計八隻の水雷戦隊は一斉砲撃を開始し、『綾波』が止めを刺し損ねた敵艦隊と交戦を始めた。

 交戦は長くは続かなかったが、この戦いで敵駆逐艦一隻沈没、一隻中破させるという戦果を上げた。
 一方、日本海軍史上異例の敵艦四隻撃退という戦果を上げた『綾波』だったが、もはや燃え盛る火災は鎮火できず、魚雷や砲弾に誘爆するのは時間の問題となっていた。
 燃える防空指揮所で倒れている綾波の体を抱き起こす川内。その横には浦波と敷波の姿があった。直衛隊は『霧島』護衛の為に戻っていた。
 力なくぐったりとしている綾波を見て、川内は涙を流していた。
「綾波! しっかりしてっ!」
「せ、川内・・・」
 綾波は川内の頬を震える手でそっと撫でた。
「・・・ありがとう、助けに来てくれて」
「何言ってるのよ! 私達親友でしょ!?」
「そうだね・・・」
 綾波は静かに微笑むと、泣きながら自分を見詰める浦波と敷島を見た。
「姉さん・・・敷波・・・泣いてるの?」
 綾波の問いにも答えず、二人は肩を震わせながら泣き続けた。そんな二人の頬を綾波はそっと撫でる。
「泣かないで・・・笑ってよ・・・」
「で、できないよ・・・死に掛けた姉さんを見て笑える訳ないよぉ」
「敷波・・・お願い・・・私は、最後にそんな顔してほしくないの」
 綾波の頼みに、敷波は首を大きく横に振って嫌がる。そんな彼女の肩を、浦波がそっと叩いた。振り向くと、浦波は何も言わずに首を横に振ると、綾波に向かって、小さく笑みを浮かべた。
「浦波姉さん・・・」
「敷浪。綾波の最後の願いよ・・・叶えてあげなさい」
 浦波の言葉に、敷波は唇を噛むと、綾波に向かってぎこちないが――小さな笑みを浮かべた。
 それを見て、綾波は「ありがとう」とつぶやくと、再び川内を見た。
 川内はそれを見ると、小さく笑みを浮かべた。
 そんな三人の気持ちに綾波は小さく微笑んだ。
「・・・みんな、ありがとう」
 そうつぶやいた刹那、艦中央部から爆発が起きた。もうこの艦の命が短い事は誰が見てもわかる事だった。
「みんな・・・生存者の救助・・・お願いね」
「わかった。一人も残らず、救助するわ」
 川内の言葉に、綾波は嬉しそうに笑みを浮かべると、まぶたがゆっくりと下がり、静かに目を閉じた。
 もう意識を失った綾波を、川内はそっと床に寝かすと、敬礼した。それを見て、浦波と敷波も敬礼をした。
 敬礼を終えると、三人は光に包まれて消えた。
 残された綾波の意識は戻る事はなく、瞳をつむったまま死んだように床に倒れ続けていた。だが、その表情はその表情はこの上ないほど柔和なものだった。まるで、最高の満足を得たように・・・

 ――駆逐艦『綾波』、敵艦二隻撃沈。一隻大破。二隻に損害を与え、日本海軍駆逐艦史上類を見ない大戦果を挙げるが、損害が酷く、生存者救出終了直後、まるでそれを見届けたかのように二度の大爆発を起こして、ソロモンの海に沈んで逝った。その『綾波』最期を、三人の少女達はいつまでも、いつまでも見詰め続けていた――


さて、いかがでしたでしょうか。
今回は戦闘シーンが物語の半分くらい席巻しています。久しぶりに戦闘シーンがあるとおもしろいですね。
それにしても『綾波』は最強ですね。たった一隻でこれほどの大戦果を上げるなんてもう神ですね。僕の好きな駆逐艦第二位です→ちなみに一位は『雪風』です。
さて、次の作品はというと、久しぶりにコメディー系の作品です。
舞台は戦争中期の1943年7月のアリューシャン列島。アッツ島玉砕後に取り残されたキスカ島にいる守備隊を救う為に日本海軍が行った奇跡の撤退作戦です。
あのガダルカナル島撤退と並ぶ撤退作戦が今度の作品です。
そしてもう一つ、今回の作品の登場キャラですが、あの伝説のコンビである滝川と金剛ほどではありませんが、結構強烈なキャラが出てきます。
ちょっと言うと、長身の艦魂に小柄な少年。身長差20センチという組み合わせです。
次作はいつもどおり出すのであまり待つ事はありませんので、待っていてください。













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