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俺は課長から、生活確保と携帯とフィットの利用許可を貰って、ココで主夫をするコトになった。
まあ、食事も洗濯ももう一人分増えた……クライに思ってりゃイイや……て。
でも、洗濯は毎日が愉しみだった。あの課長の下着も洗えるんだからな。(情けないだけじゃねーぞ!)……マニアックになりそう……
課長の性格はイマイチ好きにはなれなかったが、課長の外見だけなら俺は無条件で好みだし、えっちならイツでもOKだった……
ヤット落着いて生活出来るのかぁ〜って感激していた俺は、課長とのオイシイ場面でもの凄い睡魔に襲われてしまった。
その女 ☆ 危険人物!!!
作:かずたか



第8話 お出掛け?


何かのニオイが俺の鼻とハラをくすぐった。
 
何のニオイだろ……? あれ? これってカップラーメン……じゃねー?
 
だけど、カップラーメンでもコレはいろんなメーカーのニオイが混ざり合っている。
 
……こんなに食ったの誰?

「う……ん?」
 
この時も、俺はやっぱり空腹で眼が覚めた。
 
ああ、違うな。
 
前は課長とのえっちなシーンで目が覚めて、それからハラ減りモードになったんだっけ?
 
え? ……課長?
 
俺はガバッと跳ね起きた。

「……あれ?」
 
誰もいない……つか、ココ課長しか居なかったよな?
 
だけど、課長は今ドコダ???
 
消灯していた薄暗い室内を、俺は目を細めて見渡した。
 
さっきのカップメンのニオイの元も気になってるし……

「……」
 
……ナンだよ? ……この部屋……
 
俺の視線が宙を泳いだ。
 
脱ぎ散らかして放りっ放しになっている衣類。脱いだままストンと落されただろう高そうなデザイナーズブランドのタイトスカートは、輪っか状になって床に落ちていた。
 
ストッキングもそのままで、しかも脱ぎながら移動している状態までもが簡単に想像つくし……
 
これって、課長の脱皮のアト……? だよな?
 
そして、ニオイの元のカップメンは、室内のガラステーブルに幾つも山積みに重ねられていた。
 
……少なく見ても、五食分は置いてあるぞ?
 
洗ってゴミ箱に分別してから棄てろよな? そんなコトも出来ねーのかよ?(俺だって遣ってるぞ?)
 
それにしても……
 
もしかして、アレから何日も俺は意識不明で寝ていたのか……?
 
つか、このニオイが気にならねーんだろうか???
 
それも、課長のプライベートルームで……しかも、コレって課長のベッドだろうが!
 
俺の寝顔が……いや、まさか俺の身体がオカズ……ってか、イタズラされてんじゃねーだろーな……?
 
俺は慌てて身体を見回した。
 
一応、ダイジョウブみたいだけど……とっても不安。
 
俺は、課長に拉致られた時に見た、整然とされていた室内を思い出し、今この目の前の光景が錯覚ではないのかと疑っていた。
 
課長との契約が成立しているとすれば……俺はこれからこの悲惨な状態を毎日目にすることになるのか?
 
ンなのイヤだ! 夢なら醒めてくれーっつ。
 
ふと眼にした壁掛け時計が、九時過ぎを差していた。
 
それが昼なのか、夜なのか、遮光カーテンに包まれたこの部屋に居る俺には全く判らねー。
 
だけど、コレだけは俺でも判っていた。
 
遂に遣ってしまった……無断欠勤。
 
あ〜あ……どうせ、会社はもうとっくにクビ……だろうな?
 
頭を二、三度掻いて、大欠伸をする。
 
……取り敢えず、起きよ……
 
これからどうするかは、それからだ。
 
 
大理石で出来た広い洗面台は否応無く俺の不安を煽った。
 
こんなトコロ、旅行会社のリゾート案内パンフレットでしか見たコトない……
 
つか、落着かねーっつ。

「ああッツ?」
 
……遣られたよ……
 
何気に見た鏡には、ラクガキされた俺の情けない顔が映っていた。
 
瞼の上に眼が描かれ、左右の眉が繋がっている。しかも両の頬には何かの漫画で見た事のあるようなぐるぐる渦巻きが……

「う……しかもコレって……油性ペン?」
 
一体、トシ幾つだ? あの女……

 
スミに置いてあった、蓋の閉まった洗濯機が妙に気になった。
 
で、中をそっと開けてみる。

「……」
 
これって単なる干し忘れ? つか、この洗濯機は乾燥機能ちゃんと持っているんだぞ?
 
洗濯し終えた状態の衣類が絡まったまま、干乾びてミイラ化していた。
 
まあ、これでも少しは本人が努力しようとはして……いたんだろうな? きっと。
 
もう一回やり直し。
 
シャワーを浴びようと、俺は自分の衣類を一緒に投げ込んで再び洗濯機のスイッチを押した。今度は最期の乾燥まで設定させてだ。


「……あ」
 
シャワーを浴び始めてからすぐに、俺は自分の着換えを持って来るのを忘れていた事に気が付いた。
 
ま、ゲストルームとココからはスグだし、課長は居ないみたいだからダイジョウブ。
 
取り敢えず、マズは何か食ってからアブ(虻川)のオヤジ(車の修理屋)に連絡して、それから……
 
俺は時間を確認していたにも関わらず、そんな暢気なコトを考えていた。

 
会社の終業時間は通常六時。俺の居る設計課では、皆その時間で帰宅する者はいない。俺を含めて、意外と(?)設計カンケイ者って、律儀なヤツが多い。それは図面設計が出来上がってからのモノの製作になるからだった。
 
で、業務が一段落しての帰宅になる。
 
その間、人によっては時間が違って来るが、女性である課長はそんなに遅くまで残業してはいないのを、俺はスッカリと忘れていたんだ。

 
う〜〜〜サッパリした。
 
俺は上機嫌でそのまま浴室から出た。

「〜〜〜!!!」

「いっつ?」
 
脱衣所から出ると、真正面に向き合ったヒトが居た。
 
何でだ?

それはコッチが聞きたいよ!
 
恐怖映画にでも出て来そうな、黄色い悲鳴が室内中に響きわたる……

「かっつ……課長?」

「いやあああ!」
 
タイムリーに帰宅した課長から……
 
俺は三度目の平手を喰らった。


「もおお! おっつ、驚かさないでよッツ!」
 
そう言っている課長の視線が、前を両手で隠している俺のコカンで停まっていた。
 
……あんまり……見ないで?

「早く着替えて車出して」

「え?」

「聞えなかったの? 車、出して」
 
課長は赤面し、眉間に皺を寄せて怒った。

「は……ぁ」
 
俺は釈然としないままだ。
 
俺のそんな様子に、課長はにこりと微笑んで見せた。
 
……その微笑に何度、騙されたコトか……
 
もお、騙されねーぞ?

「隣町で夏祭りがあるの。連れて行って?」
 
夏……祭り……? って、コドモかよ?
 
身構えていた俺は、拍子抜けした。
 
だけど、コレも課長からのオーダーなんだ。聞かねーワケにはいかないし……


 
結局、俺は課長のフィットで隣町の夏祭りに、課長を連れて行くコトになった。
 
見た目、何の変哲もない彼女のフィットは……タダのそこいらへんにあるフィットじゃなかった。
 
マンションの専用駐車場に停めてあったその車の前輪は、左右ともアウトサイドが極端に磨り減って、溝が無かった。
 
タイヤ、ツルツルじゃん……
 
人のコトをどうこう言えたギリではナイが……マジで課長の運転の荒さが窺える。
 
へぇ〜、オマエもご主人と同じジャジャウマなんだな?
 
関心していると、やっと課長が遣って来た。


「お待たせ」
 
課長はいつの間にか、紺色の生地に鮮やかな同系色で描かれた蝶の浴衣に着替えていた。
 
朱色に山吹色の細いラインのアクセントが入った帯を締めて、軽く襟足を抜いたその姿が艶やかで、カッコ良かった。
 
俺はその着換えで遅れて来た課長の顔を、じいい……っと見詰めた。
 
ドコから見ても、(イイ)女……じゃん?
 
とてもこの車のドライバーだとは思えねー。
 
こんなにカワイらしい顔してるのに……あ、いや、それはチョット褒め過ぎだ。

「な、ナニよ……?」
 
ワケが判らずに課長は妙に警戒した。

「その浴衣、似合ってますよ?」
 
そう言って、俺はくすっと笑った。
 
あれ? 今の、ホントーに俺のコトバ……なのかぁ??? 
 
ケツがむず痒くなりそうだったが、本当にそう思ったんだから仕方ねーよ。
 
俺のその一言で、課長は真っ赤になってしまった。そして、無意識に手にしていたウチワで口元を押えて隠す。
 
あれ? 普通に反応出来るじゃん?

 
車内に乗って更に驚いたのは、この車が今時ミッション……マニュアル車両だったってコトだ。
 
なんと、左足で操作するクラッチまで付いている。
 
今時のオートマチック車両でもある程度の加速は十分に体感出来るし、通常の道路走行なら全くモンダイ無い。
 
だが、それもある程度まで……
 
モチロン、ドライバーの腕にも依るが、ミッション車両の加速とは比較にならねー。
 
俺はマニュアル車両賛成派だが、レーサーでも無いのに女性でマニュアル車両を運転しているのって、課長くらいじゃないのかぁ?

「課長?」
 
シートベルトを装着しながら(コレはダサダサの普通のシートベルトだった)俺は助手席に滑り込んだ課長に問いただした。

「え?」

「これ、モロにミッションですよね?」

「あ、ゴメン……運転出来なかった?」
 
俺を誰だと思ってるんだあああ……? って、言いたかったケド、あの勝負(勝手に俺が勝負だと決め付けていた)で勝ったのは課長だったんだよな?
 
俺は事故ったし……

「運転なら出来ます」
 
少しムッとなった。

「あ、そう?」
 
あれ? ナンだか課長、嬉しそう?

「???」
 
俺はその課長の不思議な反応を気にしながらも、フィットを出した。
 
軽ッツ!!!
 
ステアリングの軽さに少しばかり戸惑った。


「で、さっきの話ですけど……」
 
運転しながら、俺は話を戻した。

「あ? ああ、マニュアル車の話ね?」

「今時……って言ったらシツレイ……なのかな? けど、どうしてオートマに乗らないんです? オートマの方がダンゼン……楽でしょ? エンストするリスクも無いし……」

「だって……免許取ったのミッション車だったもの」
 
少し、恥ずかしそうに呟いた。

「その……忘れちゃうと……なんだか勿体無いって気がして……」

「……」
 
大企業のご令嬢が「勿体無い」なんて言うか? フツー?
 
とにかく課長は俺が思っていた以上にフツーじゃないご令嬢だった。
 
つか、オテンバ……なんだろうな? 普通の男以上に男勝りの……
 
多分、俺の分析は当たっている気がする。

 
隣町まではほんの数十分だった。
 
俺は課長に会社での自分の状況を尋ねたが、奇跡的(?)にも俺のクビは繋がっていた。

『事故後の後遺症……』って言うコトで、会社側は了承してくれたそうだ。
 
……ホントーは、自己管理のミスに因る栄養失調の貧血……なんだけどね?

「助かったぁ……」
 
俺はホッと胸を撫で下ろした。

「迷惑だった?」

「えっつ??? いや? そんなコト、全然無いッスよ?」
 
 
トートツに課長の携帯が鳴った。
 
相手先の表示を眼にした課長の表情が、たちまち強張る。

「……?」
 
俺はそこで携帯の相手が例の彼氏だと覚った。
 
そう言えば……ナンでその彼氏と一緒に行かないんだ? 行くのを嫌がっていた俺なんか連れて行くよりもずっとマシだと思うがな……?
 
だけど、結局、課長はその携帯には出なかった。
 
……??? どうしてだ?
 
目の前に俺が居たからか?
 
それとも、勝手に俺が課長の『彼氏』だと思い込んでいる……だけなのか???








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