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その日の夜、行ったコトさえ無い高級ラウンジへ、俺は伊達総務部長から呼び出されていた。
表面上、親しく会話が出来たのも束の間。
部長は俺を暴走族だと決め付けて、走り屋だった俺のプライドを傷付けてくれた。
しかも、俺が報告した緊急手配部品についても、最期まで俺の申し開きに耳を貸さずに『越権行為』だとして委員会を開き、懲罰までもチラつかせる。
ああそうかい!
ソッチがそう出るのなら、俺だって受けて起ってやるよ!
俺には部長でも敵わねー、最強のバックが付いてるんだ!
俺のデカイ態度を訝った部長は、ダメ押しとばかりに恵理の名をチラつかせて俺を牽制した。
不愉快になった時、美人のホステスが俺に声を掛けて来たんだ……
その女 ☆ 危険人物!!!
作:かずたか



第79話 再会?


俺のコトを気に入ったのか、サヤカは店の秘蔵ワインだの、特注のブランデーだののボトルをズラリと目の前に並べ、利き酒だと称してカクテルグラスに注いでくれた。

店の者でも滅多に拝めないらしい光景に、恐縮しまくる俺。

サヤカが勧める酒はどれもが口当たりが柔らかく、それでいてシッカリとアルコール分を俺の身体に染込ませる、高い度数のものばかりだ。

サスガに※−1)96度のスピリタスを目の前にして、俺は怯んだ。


夜間に峠を攻める『走り屋』だった頃の俺は、酔い潰れるワケにはいかなかったし。

だから、今まで浴びるホド飲んだってーゆー記憶も殆んど無ければ、ドコまででストップのブレーキ掛けりゃあイイのかさえも、自分の身体なのに判らねー。

俺って、そんなに強くねーハズだ。

「あ、あのサヤカ……さん?」

「うふん? ナァに? 『サヤカ』って呼んで?」

鼻に掛かった甘える声で、サヤカは俺にシナダレ掛かる。

思わず顔が緩んだ。

俺にとっては非常に言い出し難いコノ状況。

酒のチャンポンが悪酔いするってコトくらい、知らねー俺じゃないんだぞ?

酔い潰して戴こうってぇ魂胆は、ダチの間じゃよく聞くハナシだ。

俺はサヤカの餌食にはなりたくナイんだけど……


……ヤバイ。

ナンだかマブタが重いぞ?

「サヤカ……さんって、あの……」

うぁお?

振り返った俺の視線が、サヤカの大きく開いた胸の谷間に吸い込まれる。

……アレ???

俺の大好きなオッパイの谷間がちゃんとある……し?

……そういや、今日から暫らく、恵理のオッパイを拝めないんだよなぁ……

そう思うと、これから独りでマンションに帰る脚も、自然と重くなってしまう。

俺って、こんなに人肌に飢えていたのか?

ナンだか自分が子供みてーだ。

「あん! ナニ見てるのよぉ」

サヤカは俺の視線を素早くキャッチすると、とがめるようにカルク俺を睨み付けて肩を竦めた。

「あ、ごめ……」

素直に謝ろうとした俺を見て、サヤカはニヤリと意地悪く笑う。

イキナリ俺の右手首を掴んで自分の谷間に突っ込ませた。

『あんっ! ダメぇ……』なんてヨガッタ声まで出して。

「うわわっつ? ン、な、ナニすんです?」

温もりを持った大理石の滑らかな肌が、俺の掌に感じられた。

キモチイイ……って、感じてる場合じゃなかったし!

酔いも吹っ飛び、慌てて俺は力任せにサヤカの手を引き剥がし、胸元から手を除ける。


改めて見回すと、店の中には他の客や店員達が大勢居た。

皆、店内の雰囲気に合う『上品』が服を着ているみたいだ。

ヤッパリ、この店に呼び出したコト自体、俺が恥を掻くだろうと見越しての部長の計算だったのか?

大袈裟に挙げちまったコノ手をど〜すりゃイイんだよっつ???

しかも、俺が加害者だと思われるじゃねーかよっつ!!!

真っ赤になった俺を見て、サヤカはクスクスと笑った。

「あらん? 思っていた以上に純情じゃなぁ〜い?」

「そっ、そそ……そんなコト、無いッス」

ナンとかバーじゃあるまいし……

アレ? もしかして俺、今、赤面してすっげー汗掻いちゃってる???

「ふふん、こんな所で下品な事をするな……って?」

「あ……?」

俺は驚いて顔を上げた。

たった今、俺が思っていたコトを、サヤカはズバリと言い当てたからだ。

「あのね?」

サヤカはオモムロに、テーブルの上で握っていた俺の拳を、両手で柔らかく包み込んだ。

そして、俺の瞳を覗き込むと、またしてもフワリと笑う。

サヤカがどういうツモリで俺を見て笑ったのかは知らないが、俺にとってゼンゼン不愉快には感じられなかったし。

むしろその逆だ。

「キミがどんなコなのか、悪いけど試させて貰ったの」

「は……はぁ」

「今のキミはさっきのイケメンさんに合わせて、随分背伸びしちゃって……」

「部長の話は止めてください」

俺はアイツのコトを思い出す様に仕向けられてムッとなり、嬉しそうに言い掛けたサヤカの言葉を、キッパリと遮った。

「そうね? でも、あの人と渡り合おうと思うのなら、もっと背伸びしなくっちゃ」

「……ど……どういう意味です?」

部長と俺が張り合う??? 

って?

「欲しいモノ……いいえ、欲しい人が居るのでしょう?」

「……」

再び酔いに襲われて、マドロミ掛けた俺の脳裏に、空港で笑顔を俺に向けた恵理の顔が、ぽん! と浮かんだ。

同時に部長の余裕をコイタ顔も浮かぶ。


部長と俺……?

つか、比較出来るワケないじゃんよ?


俺は視線を自分の手元に落とした。

両手でグラスを包み込み、まだ飲み残しているウイスキーを傾ける。

「欲しいだなんて……判らない」

俺……マジで恵理のコトが欲しいと思っているのかな?

欲しいと自覚しているって思ったのは、えっちで興奮している時「だけ」みたいな気がするぞ?

『欲しい』の対象ピントがナンかボケてね?

一緒に居るって言っても、社内じゃ擦れ違いだし、家に帰っても遅く帰宅する恵理と一緒にメシ食ってチョッカイ出すくらいだし……?

とてもじゃねーが、恵理と結婚なんかしちゃって、子供なんかが居る未来だなんて想像さえしていなかった。

つか、ムリだろよ?


――『分相応』


部長が別れ際に吐き棄てて、俺が激怒ったそのセリフも、冷静に考えて見れば否定すら出来ないし、モットモなコトだと思った。

そもそも、大企業のお嬢様である恵理が俺を拉致ったりさえしなければ、俺はソレナリの人生で終わっていたハズじゃなかったのか?


「そう?」

考え込んでいる俺を見て、サヤカは在ろうコトか否定してきたし。

「……」

「ねぇ……」

サヤカは優しく俺に囁いた。

俺はサヤカの声に心地好さをカンジて、視線を向ける。

「諦めるのは、たったの一分、一秒で終わるわ。焦がれて切ない思いも、息苦しい思いも、諦めさえすれば楽になれる。だけど、まだ逃げちゃダメよ?」

「……サヤカ……さん?」


アンタ一体誰なんだ?


イヤに俺のコトを知っているみたいな……

「……マジイ……」

大事なコトを考えなきゃイケナイのに、ヨリにも依って俺の思考回路がマヒして来た。

酔いが本格的に来たみたいだ。

冷静に考えようとするのに、ドンヨリと頭の中が濁って来て、考えがまとまらねー。

「精一杯背伸びすれば? キミにはまだ時間があるわ」

サヤカの立ち上がろうとする気配に気付き、グラスから視線を逸らせた。

俺と視線が合ったサヤカは、器用にウインクを遣して意味深に微笑むと、スッと優雅に席を立つ。

「また来てね? 次は自腹よ? でも水守と一緒なら許しちゃうわ」

俺から離れる寸前に、サヤカはそう耳元で囁いた。

俺がそう簡単にこんな場所には寄り付かない……寄り付こうとしないヤツだと見透かしている言い方だった。


――ナンだよ? この人……


俺の中の警報装置が鳴りっ放しだったが、どうヒイキ目に見たって、あのキレイさはオトコには見えないし、肌の滑らかさも極上……

まあ、恵理もどちらかと言えば筋肉質なスレンダー体型だし……???


俺に甘い香水の匂いを仄かに残して、サヤカはファサリとドレスの裾を打ち翻すと、クラッシックピアノが置いてあるステージへと上って行った。

先に演奏していた女性と交代する。

裾の長いドレスを再び両手でサラリと払って椅子に座ると、目の前にあったマイクの位置を微調整した後、ピアノの鍵盤の位置や感覚を、自分の身体に馴染ませて覚え込ませるような仕草を取った。


サヤカはココの歌姫?


細い指先が鍵盤の上を流れるように動き出し、ざわめいていた他の客達が、サヤカの歌を聞こうと息を潜めて静まり返る。

曲目はジャズアレンジの※『フライミートゥーザムーン』

宇多田ヒカルが歌っていた曲だ。

もっとも、そのオリジナルはあるらしいが……

サヤカはハスキーな声でシットリと歌う。


ココも今の俺にはまだ敷居が高過ぎだな……


そう思った。


『また来て……』


客としての俺への勧誘だったにしても、俺にはサヤカのコトバが心地好くココロに響いていたのは確かだし。

……?

……うん?

サヤカはアノ後、ナンか言ってなかったか……???

「……???」

ナンか……俺的に、もの凄く聴きたく無い人物ヤツの名前を言ったような……???

……まぁ、いいや。忘れておくコトにしよう。

酔いに任せて、俺はサヤカの言った人物が誰なのか詮索するのを忘れるコトにした。

俺はサヤカの歌に送り出されるようにして、そのラウンジを後にする――


  *  *


凹んだ気分も、サヤカのお陰でナントナクだが持ち直し、ほろ酔い気分にまで回復した俺は、恵理の居ないマンションへと帰って来た。

「……は?」

鍵を開けている最中に、俺は後ろで人の気配をカンジて振り返る。

闇夜に浮かぶ白い影がユラユラと俺に近付いて来た。

「わぁあっつ!?」

幽霊っつ???

俺はドアを背に、鍵をハズすのも忘れて驚いた。

一気に酔いが醒めちまう。

その白い影からは、ぺたぺたと裸足で歩いているような音がして来る……し?

幽霊? ……にしては、偉くクラッシックな幽霊???

いや、人だ。

人が白い布を頭から被って、この俺に向かって裸足で歩いているんだ。

「ぅう……」

「はいい?」

コトバにならないくぐもった声?

前にもこのドアを開けようとして、俺はアオイと言う女の子を見付けていた。

今の声もナンだかアオイの声みたいだが?

成和会に捕まっているハズだが、ひょっとして……?

「あ……アオイ? アオイか?」

俺はソイツの反応を窺うように、そっと声を掛けてみた。

「ううーんっつ!」

ガバッと白い布から頭を出すと、ソイツは俺の胸に飛び込んで来た。

マンションの常備灯に照らされ、髪をツインテールに結んだダーティブロンドの髪と濃いブルーの瞳が俺の視界に映る。

アオイだ。

だけど、アオイの口はガムテープで塞がれ、シーツに隠れていて俺には見えなかったが、両手を拘束されているらしい。

思うように身動き出来ないみたいだった。

「アオイ?」

俺はアオイのガムテープを、ベリベリと引っぺがしてやった。

肌が引っ張られて痛いのか、アオイはポロポロと大粒の涙を溢す。

「う〜〜う〜〜」

慌てて乱暴に剥がしちまったか?

テープを剥がされた口元が真っ赤になっている。

しかもキッチリ長方形。テープの形でだ。

「うわぁああ〜〜〜ん! 司ぁあああ〜〜〜!」

「うぉあ? ちょ、チョッとたんまっつ!」

通路には俺達以外、人の気配はしなかったが、万が一ってコトもある。

アオイは俺の目の前で、成和会に連れ攫われたハズだし。

まさか脱走して?

ハッとして、辺りに人の気配が無いかとキョロキョロと見廻した。

追っ手が来ていたらヤバイだろ?

つか、他人からこの状態を警察に通報されてもヤバイだろよ?

俺は人目を気にして気が気じゃない。

キツク俺に縋り付き、わんわん泣き出しているアオイを抱きかかえるようにして、急いでドアの鍵を開け、中に入った。


「こ、怖かったよぉおおお〜〜〜」

アオイは玄関先でそう言って泣き付くと、俺のスーツの裾を取り、鼻を「ちーん!」とかんだ。

「……」

あ〜あ、一張羅のスーツが……

アオイの涙と鼻水でズルズルに……仕方ねーけど……

状況が状況なだけに注意するコトも出来ず、俺はこのスーツがクリーニングで大丈夫か?などとセコイ事を考えてしまう。

落着け俺。

ンなコト気にしている場合じゃねーだろよ?

「よ、よく無事でいられたな?」

「……うん。会いたかったよぉ」

くるまっていたシーツから腕を出すと、俺が思っていた通り、アオイの両手首も口を塞いでいたのと同じガムテープでグルグル巻きにされていた。

アオイは腫れぼったくなった眼を、拘束されたまんまの手でグイッと擦る。

拍子にアオイの身体を包み込んでいた白いシーツがハラリとアシモトに落ちた。

シーツの下のアオイは、セーラーカラーの上に、下はミニスカートにルーズソックスの女子高生ファッションだった。

「……」

……ナンか成和会の連中、趣味に奔ってね?

コスプレか? と思わされてしまうぞ?

確かに、アオイは中退してなきゃマダ女子高生だが……

俺的にも、チョッとだけ嬉しかったりする。

襲うのは趣味じゃねーが、鑑賞だけならゼンゼンOKだし。

俺はアオイの両の手首をガッチリと留めて、拘束していたガムテープを解いてやった。

コッチも口元と同じく、肌が真っ赤になってるし。

「連れて行かれた後、酷いコトされたのか?」

「ううん。お薬飲まされてずーっと眠ってた。時々人が部屋に入って来る気配がして、点滴のお薬を交換しに来ていただけだったよ?」

俺は薬のせいでやや浮腫んだアオイの顔を見た。

アオイが成和会に連れ去られて、酷い目に遭っているものだと思っていたのに。

『当たり屋』連中の情報を訊き出すのに、拷問でもされているのかと、少しは心配していたんだ。

アオイが『点滴』したって言ってるってコトは……水守、ああは見えても、情報を訊き出すよりも、アオイの治療を優先させていたのか?

けど、それならナンでアオイにガムテープ貼って拘束してるんだ?

アオイの赤く腫上がった口元と両手首を俺が不思議そうに見詰めていると、アオイは急に部屋に入って来た連中に、意識がモウロウとしていた時に取り押さえられて、拘束されたのだと答えた。

「ヘンな人達が来て、イキナリ縛られたの。いつもお薬を交換してる人が気付いて、その人達と揉み合いになって……隙を見て逃げ出したの」

アオイのコトバで、俺は水守から『当たり屋』連中が撤収し始めたと聞いていたのを思い出した。

察するトコロ、アオイの仲間が助けに……?

いや、だったら拘束したりする必要はナイ。

もしかして、アオイからアシが付くのを恐れて、アオイを消しに成和会にまで押し込んだのか……?

だとしたら、随分と命知らずな連中だな?

成和会のビルに押し込む勇気は尊敬してやるが、後先考えてナイ向こう見ずな行動に俺は呆れてしまった。

まあ、『当たり屋』から『壊し屋』に鞍替えしていた奴等だし、可能性としても在り得るか?

「よく無事で逃げ出せたな?」

俺の問い掛けに、アオイはトイレの窓から逃げ出したと答えた。


アオイは俺の顔を嬉しそうに見上げて来る。

「ね〜え、司ぁ?」

「ああ?」

抱き付いたまま、アオイは甘えるような声で俺を呼んだ。

「ゴハン、まぁ〜だ?」

「……???」

自分の身が危なかったてーのに、ナニ飯の催促してンだよっつ?

つか、作るの……やっぱ俺?


ぐううう〜〜〜

「あ? あら?☆」

俺に抱きついていたアオイのハラが、強烈に空腹を訴えて来た。

今の、結構デカクね?

俺のハラにまで響いたぞ?

「だからぁ〜、ゴハンっつ。ね?」

「……」

アオイはナオも嬉しそうに、俺を見上げて催促する。

ナンだよ……俺を頼って来たのは、メシをゲットする為なのかよ???


※−1)スピリタス : 70回以上もの蒸留を繰り返して出来た高アルコール度数世界最高純位のスピリッツ。主原料は穀物とジャガイモ。日本ではミリオン商事のスピリトゥス・レクティフィコヴァヌィ(Spirytus Rektifikowany) がよく見られます。

※−2)フライミートゥーザムーン『Fly Me to the Moon』: 1954年、アメリカのバート・ハワード作曲。ジャズ風に歌われますが、オリジナルはポップスとしてでした。元の曲は 言い換えれば……『In Other Words』宇多田ヒカルも歌っていますが、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のエンディングとしても有名です♪







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