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コウが助けてくれたお陰で、俺はアオイの仲間である『当たり屋』連中から逃げ出すコトが出来た。
だけどアオイのフィットに乗ったせいで、俺はそれからと言うもの『当たり屋』連中からのキビシイチェックに遭うハメになってしまう。
昼休みの休憩時間、俺は約束通り恵理に会いに遣って来た。
恵理から向井のコトを言わせたくなくって、俺は自分の欲情のまま、密室であるのをイイコトに恵理と遊んで遣るコトにしたんだ。
だけどせっかくイイトコロだったのに、『ソイツ』が部屋に現れて……
その女 ☆ 危険人物!!!
作:かずたか



第72話 弱点?


「どうしたの……?」

顔色を失ってしまった俺に、恵理は不思議そうな顔をする。

「……」

俺は急に『素』に戻り、視線の絡む恵理の顔を間近に見下ろした。

昂って上気した桜色の肌はシットリと汗ばみ、紅潮した頬には数本の髪が貼り付いている様は、まるでシャワーから出て来たトコロみたいだった。

薄っすらと開いたチェリーピンクの唇に、またしてもドキリとさせられる。

キャミからオッパイ出したまんまのエロイ格好で、そんな顔して見上げンなってーの。

……俺が出しちゃったンだけどよ?

「課長は……その、怖いとか、キモイとかって思わないンすか?」

恵理のフクヨカなオッパイとその谷間を追い掛ける視線を俺は強引にヒッペガシ、所在無く視線を逸らせた。

「だから、ナニが?」

恵理にはナンのコトだか判らなかったらしい。

密室で、恐怖に俺がコレだけ怯えてるって言えば、アイツのコトに決まってンじゃんよ?

「そのっつ、ご……ごっ……」

だああああ〜〜〜!!! 

ソイツの名前さえ言いたかねぇ〜〜〜っつ!!!

俺は大袈裟に両手でアタマを抱えた。

「ご?」

恵理の頭ン中では、きっとクエスチョンマークが乱舞しているコトだろうな?


……カササ……


微かに床を這う節足昆虫が立てる乾いた音っつ!!!

ひいいい〜〜〜っつ!

「いっ、居るッツ! ソコにっつ!!!」

俺は半泣き状態で、室内の薄暗い片隅に向かってビシッと指差した。


……カサカサ……


「!!!うぎゃああああ〜〜〜っつ!!!」

聞きたくも無いソイツの音を聞いて飛び上がり、俺は涙眼になって錯乱状態に陥った。

一気に血圧が上昇して、カルク眩暈さえ起こす俺。

背中から壁にぶち当たってもなお、両のカカトが退がろうとして空回りする。

「ああ、ゴキブリのコトなの?」

恵理は俺とは全く反対で、ものスッゴク冷静だ。

「あああ、アニ言ってンすかっつ!!!」

俺はキッと恵理を睨んだ。

「きっ……気持ち悪いとか、コワいとかって思わないっスかっつ???」

恵理を見る俺の目が、人を見る目で無くなって来ている〜〜〜!

多分、カッと見開いた俺の眼は、真っ赤に血走っているに違いナイッツ。

つか、ナンで恵理はそんなに冷静で居られるんだよっつ???

「……べっつに?」

恵理はヘーゼンとして答える。

俺を見る目が『ソレが何か?』って言ってるし。

「べっつ、べ、べ、別に……って……???」

あああ、ロレツが廻らね〜よ〜ぉ!

アンナモノがどうしてココに居るんだよっつ???

「衛生上良くないだけでしょ? 別に噛まれたりしないんだから」

「〜〜〜」

そっつ、そんなコト……それ以上言うなあああ〜〜〜!!!

俺は中坊ン時、実家でソイツが顔に向かって飛んで来たんだ。

以来、俺はソイツが絶対的に大っキライになったンだよっつ!

「あれ……?」

恵理は冷静に自分のオッパイを元に戻しながら、俺の変わりようを見て、クスクスと笑った。

「……」

ハナイキを荒くして、ムッとする俺。

「司ってば、ゴキブリが苦手なんだぁ〜♪ ふう〜ん」

恵理は『イイコトを知っちゃった』……とばかり、俺の怯えた表情を見てニヤリとホクソ笑んだ。

その表情、厭らしいぞ恵理。


……カサカサ……


うひぃいい〜〜〜!!!

その乾いた音が、俺の全身を逆毛立たせる。

「うわあああ―――!!!」

「き、きゃっつ? ちょ、ちょとおお???」

ドサクサに紛れて俺は恵理に縋りつく。

そして、恵理の身体の後ろに廻り込んで盾にした。

俺は顔面蒼白でビッシリと脂汗を流し、ガタガタと震える。

「あ〜? 出て来たぁ」

恵理のセリフに白目を剥いてキゼツしそうになる俺。

たっつ……倒れるなっつ……倒れた場所はもしかしたらソイツが這ったアトかも知れねー。

俺は倒れそうになるのを必死で堪えた。

けど、今度はその場にヘタリ込みそう〜〜〜。

こっつ、腰が抜けるぅ〜〜〜!!!

「まぁ、結構大きいのね? よく育ってるわ」

ひぃいいい〜〜〜

恵理の実況中継に、俺の震えは更に激しくなった。

つか、ナンで、こんなモンがこの世に生きてンだよっつ???

俺は、ソイツの白昼堂々と出現したデカイ態度に恐れ入ってしまった。

けど、ソイツに視線を向けらンねぇ〜〜〜っつ!!!

「この部屋の主かしら? 時々休憩時間に女性社員がお菓子持ち寄って食べているから、食べかすに寄って来たのかしらね?」

そっ、そ、そんなコト言うなあああ〜〜〜っつ!!!

ココに入れなくなっちまうだろうがっつ!!!

食ったらキチンと後片付けして行けよぉ〜〜〜

恵理? ひょっとして、俺が怖がってンの面白がってワザと遣ってる?

「ななな、ナントカしてくださいよっつ!!!」

「なんとかって言ったって……環境管理課に連絡すれば?」

「は?」

「衛生面での害虫駆除も遣ってくれるわ」

「……」

そんな部署ってあったのか?

って、今から呼んでも間に合わねーよっつ!!!

「あ、コッチに向かって来る」

「◎×△☆×▽〜〜〜!!!」

泣きたくなるくらいに恵理は冷静に対応する。

どーしてそんなに平気なんだよっつ???

「も、限界」

ガマン出来ねぇええ〜〜〜!!!

「あ、コラッツ!」

『コラ!』って言うな。

俺はその場に恵理を残して、脱兎のゴトク室内から飛び出した。

「話は終わってないわよ!」

恵理の声が俺を追い掛けるが、この際無視。



「あっつ!?」

勢いに任せて思いっきり開けたドアの向こうに、偶然にも人が通り掛かった。

危うくドアと接触しそうになる。

「すっ、すみませんっつ!!!」

俺はバタバタと駆け出しながら、声を発した相手を確認する間もナシに、大きくペコリと頭を下げてダッシュする。

「あ、君っ!? 日高君?」

背後から落ち着きのある男の人の声がした。

アレ? ドコかで聞いたコトのあるような声……???

だが、俺はあの部屋から一刻も早く離れたいんだよっつ!


「うわ? こ、コラッツ! 廊下は走っちゃイカン!」

またしても誰かとぶつかりそうになった。

相手は第二設計課の課長。

「い、い、急いでいるのですみません〜〜〜」

俺は言い逃げ状態で、振り返りもせずに逃げ出した……



「日高さん、内線六番、伊達さんからお電話です」

部内アシスタントの美紀ちゃんが俺を呼んだ。

伊達……? 

業者担当でそんな人居たっけか?

俺は内線電話なのに、トッサに部長のコトが思い浮かばずに呆けてしまった。

「もしもし? 設計の日高です……」

「日高さん? 今、人事課に居るのですが、少し席を外せませんか?」

げっつ? 

だ、伊達総務部長っつ???

トタンに俺はフリーズした。

俺は聞き覚えのある部長の声に畏まり、内線電話なのに、急にスックと立ち上がる。

席向かいの鈴木主任が、突然立ち上がった俺に驚いて眼を見張った。

得意のペン回しをしながら図面と睨めっこにていた主任の手から、ポロリとペンが落ちる。

「……」

鈴木主任と眼が合った。

う〜ん、キマズイ空気。

電話で起立したってイミねーんだったし……

受話器の向こうから聞こえた声は、俺がブリーフィングルームから飛び出した時、俺の名を呼んで引き止めようとしていたアノ声だった。

しかも、人事課に居るだってええっつ???

俺はチラリと恵理の席に眼を遣ったが、恵理は生憎別の部署での打ち合わせで留守をしている。

うそ。俺だけかよ?

チョッとだけ心細くなった。



俺は人事課で待っていた伊達部長から、隣りにある部長の室長室へと案内されていた。

室長室とは言え、それは名ばかりでいつもなら来賓の控え室扱いになっている部屋だ。

来賓を案内するだけあって、室内中央にデンと据え置かれた応接セットは総革張りの上質モノ。ガラステーブルも細かく彫刻が施されている。

部長は黒い革張りのソファ上座に、整ったガタイを沈めた。

片手で向かいの席を俺に示して、座るように促す。

「すみませんね? 業務中に来て貰って」

伊達部長はワザとらしいほどシタテに出て……それでいて俺の様子を窺っているようにも見えた。

悪いと思ってンなら、フツーはココにまで呼び出しなんか遣らねーだろ?

「駐車場に停めている個人所有車のコトですが……」

部長はコホンと一つ咳払いをしてモッタイをつけた。

それかよ?

俺の頭が動き出す。

恐らく、苦情の一つでも来るだろうと思って、受け答えの回答は既に準備済みだ。

「許可証の提示及び、車両変更の申請が受理されていませんよ?」

部長は穏やかな視線で俺を見る。

「はぁ……申請していた車が今朝故障しまして、急いで修理屋から代車を借りて来ました」

俺は、申し開きの出来る、尤もらしい理由を告げた。

「……」

俺の答えにほんの一瞬だけ、伊達部長は顔色を失い驚いたみたいだった。

その眼が俺に『ウソを吐くな』と言っているみたいで、俺は妙な違和感を覚える。

「……そうでしたか。では、上司の白石さんにはこの事は?」

「伝えようとしていましたが、アクシデントに遭って、まだ伝えてはおりません」

「……」

部長は俺をじっと見ていたが、やがてオモムロに本題に入った。

「車両の件については了解しました。それと、別件で少し困ったことになっています」

「ナンでしょう?」

文句を言われるのには、心当たりがあり過ぎて……収拾つかねーよ。

「日高さんの勤務状況です。今朝も遅刻をしましたね?」

「あ、はい……」

コレばっかりは、幾ら俺でも言い逃れが出来なかった。

普通に出勤していた同期の連中には、半年後の現在、既に有給休暇が発生していた。

ところが、入社当日から二ヶ月半の入院のお陰で、俺には未だに有給が発生しておらず、更には頻繁な遅刻が俺の勤務状況を圧迫していた。

「このままだと、まだ当分は有給休暇を獲得出来ませんよ?」

「……はぁ」

厳重注意。

身にシミテ反省しています。

「それと、気になっているのですが……入院後の日高さんの現住所が未だに申請されていないのは何故でしょうか?」

部長は俺の社員名簿を眺めて、不思議そうに首を傾げた。

……ヤバイっつ!!!

まさか恵理のマンションで主夫宜しく暮らしています……って、どのツラが言えるんだよっつ???

しかも相手は伊達部長。

多分そうだとは思うけど、恵理の婚約者らしいオトコだぞっつ???

つか、ンなコト殺されても言えねーし。

俺はシドロモドロになりながら、マンションを追い出されて友人宅を未だに転々と流れていると苦労話を混ぜ込んで、ウソの申し開きをした。

「会社側は、常に社員一人々に緊急での連絡が出来るようにセキュリティ面での強化をしています。携帯電話だけでの連絡は……困りますね」

ソコまで管理すんのかよ?

部長の言い分に俺は少しだけムッとなった。

「今現在の住所で構いませんから、後で人事の方に連絡しておいて下さい」

その言葉に、俺はハッとした。


……まさか、部長は俺のコト……恵理のマンションに居るってコトを、把握しているんじゃねーのか???


本来なら、このコトは俺の直属の上司である恵理から聞くべき内容だ。

幾ら、俺が恵理にイタズラしちゃったからって……恵理の上には設計課部長も居れば、更にその上に管理部長も居る。

その面々を差し置いて、総務部長からの直接の呼び出しって……おかしくね?

疑えばキリがナイ。

俺が恵理と住んでいるコトは、お互いに外出とかの自粛や時間差での出勤なんかでゴマカシて今のトコロはまだ表立ってバレテはいないと思っていた……

本社従業員が申請している駐車場許可の車だって、何百台とあるんだ。

ましてや、白いフィットなんてザラにある。

俺が乗っていた恵理のフィットだって、注意してナンバーとかを確認しなければ、バレタリなんかしないって……

注意して見なければ……ね?

注意……して見てたっつ???

見てたのかっつ???

顔色を失った俺を見て、部長は穏やかに笑った。

「どうしました? そんなに困る事を言いましたか?」

「あっつ? えっ、いやっ……その……」


……マジイ……とっくか、それともバレルの寸前ってカンジだな?


「私が此処に呼び出したからと言って、そんなに恐縮しないでください」

「は? はぁ……」

「そうだ、今度近い内に飲みに行きませんか? プライベートで」

「え?」

「私も都合付けますよ。今度は少し個人的な事情に触れそうですから、時間の都合をつけてくれませんか?」

意味深な笑みを浮かべて、伊達部長は俺をじっと見据えた。

その言葉を聴いた瞬間、俺の時間が停止する。

「……は……い」

ゴクリと俺の喉が鳴った。

返事をするのが精一杯だった。

〜〜〜やべ〜よぉ〜〜!!!

こりゃ、恵理のコトばれてる……し???








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