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俺達は水守の張った包囲網に掛かり、呆気なく捕まった。
成和会に連れ去られたアオイからは『当たり屋』の背後で組織が蠢いているらしい事実を匂わせていた。
だけどアオイを人質に、俺は水守に協力しろと脅された。
俺もそうなんだけど、水守も俺のコトがキライなんだな。
良かった〜好かれてなくって。
人を人として見ていない水守の言い草に、俺は頭にキタんだよっつ!
俺の様子を警戒して、水守の側近二人が動いた。
俺と水守の間に割り込み、水守の盾となるべく立ち塞がった。

その女 ☆ 危険人物!!!
作:かずたか



第69話 契約成立?


一触即発――

だけど俺一人に対し、水守は取り巻き多数だ。

ザッと見回しても五、六人は居る。

この駐車場内に隠れている連中を含めれば、多分十人以上にはなるだろう。

俺なんかアッという間にフクロにされちまう。

下手すりゃドコかの海にオモリを付けられてドボンかも。


緊張の糸がピンと張り詰められたような、息苦しい空気を切り裂いたのは、他でもない水守だった。

「お前達は退がっていろ」

水守は余裕の表情を浮べ、盾になった側近二人に向かって静かに指示を下す。

俺なんか、相手にもなりゃしねーってゆーアカラサマなその態度。

……ま、そうなんだけど。

水守の態度に不満を覚えた俺は、ムッとなって口を尖らせる。

不機嫌な俺をシカトして、水守は更にハナシを続けた。

「聞えなかったのか? 俺が雇ったアイツ等は所詮『捨石の傭兵』……そして、日高」

自分の名を呼ばれて、俺はもう一度水守を真っ向からキッと睨み上げる。

「……」

「……お前もだ」

「ナニをぉ?」

俺は木村工業の正社員だ。

その俺が……『捨石の傭兵』だぁ?

聞き捨てならない水守の言葉に、俺はカッとなって色をなした。

正社員であるコトを少しだけ誇らしく思っていた俺は、水守の言葉に反発する。


俺はこの会社に就職するタメに、それこそウソみたいに勉強したんだ。

地元大学で二回生が終わろうとしていた俺は、相変わらず講義には滅多に顔を出さず、車に費やす小遣い稼ぎで日々バイトに明け暮れていた。

同期のクソ真面目な連中には既に就職先を絞っているってヤツも居たが、俺は『走り屋』仲間とグダグダしている毎日の方が面白くて、就職なんてテキトーにバイトで食い繋げればいいさ……くらいにしか思っていなかった。

その俺に関心を抱かせたのが木村工業の現在の社長。

俺は学食に備え付けてあったテレビで、各界の社長が出演していた番組を見てしまった。

他の会社社長との対談で、どの社長も社員の大切さを説いてはいたが、その中に居て一際熱く語っていたのが木村社長だった。

『……好きこそ物の上手なれ……仕事においては勿論ですが、趣味に関しても、何にでも興味関心を持つ事が大切ですね。興味があれば、一つの事に対しての多角的な……いろいろな方向からの視野を持つ事が出来ます。そこから疑問なり発見なりが生まれて来る訳です……私共は仕事を効率的にこなす高性能の機械やロボットを望んでいる心算はありません。一+一は二という一つの答えしか出せないと言うのではなく、もっと多くの色々な意見が返って来る事を望んでいます……』

俺は社長の力説に心を動かされ、出来る事ならこんな社長の下で働きたいと思ったんだ。

だからこそ、スキでもねー講義にも顔を出し、時には居眠りしながらもナントカ単位を修得して行った。

当時、構内での俺のアタマは、ドウシヨウもないくらいの最下位レベルだったが、必死になって机に向かっていた俺は、顧問の教授が気味悪がったホド、成績はターボが掛かったみたいにグングン伸びて上昇して行った。

だけど、イイコトばっかりじゃ無かったさ。

俺は峠を攻める時間さえ惜しくなり、『走り屋』連中との付き合いも自然と悪くなっていた。

にも関わらず、俺の峠でのバトル成績は連戦連勝。

仲間内でのポジションがソレだったから、俺のコトを気に入らねーってんで、野郎同士でのネタミや嫉妬もアリアリと感じていた。

そしていつの間にか、俺は連中とは波長が合わなくなっていた。

『走り』を止めたキッカケは、『走り』に飽きた……ってのもあるにはあるが、本当の原因は仲間割れに端を発していたからなんだ。

向井やコウ達は、そんな俺とでも付き合ってくれてるけどよ。

だけど、そうまでしても俺はこの会社に入社したかったんだ。

こんな俺なんかでも、社員になりたいって思わせた社長の信念にスゲーって思った。

単純だって笑いたきゃ笑えよっつ!

水守のバカヤロウ!

自尊心、傷付いたぞっつ!

こうなりゃ敬語も丁寧語もクソもあるかっつ!!!


「どういうイミだ?」

「俺からすれば、木村工業が総て。会社が維持存続さえ出来れば、そこで働く社員の事など取るに足らん些細な問題だ。気に入らなければ幾らだって『取替え』が利く。だが、会社は『取替え』が利かない……判るか?」

ナンだよその理屈はぁ?

社員はフィルターのカートリッジなんかじゃねーんだぞっつ!!!

『取替え』だなんてモノ扱いするなっ!

「言い切ったなッ!? 会社よりも中で働く社員の方が大事だッツ!」

会社さえ在れば、中で働く人間はどんな奴等だってイイのかよ?

俺は水守の言葉に堪らない不快感を覚えた。

『社員が総て』だとおしえる社長の基本理念と、全く違ってるじゃねーかよ?

親戚の癖に、よくもそんなコトを……

「違うな」

水守は頭から俺の主張を否定する。

「社員在っての会社だろうがッツ!」

どのツラが言ってンだッツ!!!

「会社成らずして社員在らず」

「ソッチこそ間違ってるッツ!」

カッコ付けんなっつ!!!

「お前はその一歯車でしか在り得ん」

「ナニをッツ!?」

ダレが『歯車』だッツ!!!

……まるでタマゴが先か、ニワトリが先か? ってぇ問題レベルの水掛け論になっていた。

本当は、会社も中で働く社員も両方でないと駄目なんだ。

お互いが全く退こうとしないし、かと言って俺だって一歩たりとも水守に譲ろうとは思わない。

つか、コイツの考えは間違ってるし。

「その考え方、おかしいと思いません?」

「お前には言われたく無い」

「コッチだってそうだっつ!」

同じセリフを返して遣るよッツ!!!


水守に喰って掛かる俺に対して、俄かに取り巻き連中が殺気立つ。

「黙って聴いてりゃあ……この野郎」

「テンメェ……水守さんに向かって……何度も言わせるなッツ!」

「フカシてンじゃねーゾ! このタコ!」

罵倒する連中に、俺は身の危険をカンジた。


トッサに軽く顎を引いて両脇を締め、そして僅かに腰を落として身構えた。

左右に素早く視線を奔らせる。

どちらからでも攻撃がかわせるように全身をリラックスさせるが、その一方では四方に『気』を配る――

俺の構えに、水守が「ほう……」と声を漏らした。

「最初に会った時と、随分変わったな? 少しは基本を恵理に教えて貰ったか?」

面白がって水守が俺をツツク。

「ああよ」

俺は馬鹿にされた気分になって、不機嫌さをロコツに顔に表した。


確かに俺はアンタや恵理とは違って、武道なんて習ったコトも無かったし、喧嘩だってそれ程大しては強くナイ。

だけど、有段者の恵理から、少しはオンナを護れるオトコになれって言われて、基本ぐらいは教えてもらったさ。

正面に向かい合った相手には、頭のテッペンから縦真ん中にずっと急所が集まっている。

俺がさっき水守から喰らったミゾオチへの蹴りもその一つ。

だが、ミゾオチを攻撃するのにも一定の角度が必要で、相手に対して突き下ろしたり、パワーに任せて直線的に殴っただけじゃその効力は半分以下だ。

効力を最大限に発揮させるのは、ナニも馬鹿力だけってワケじゃないってのも恵理に教えて貰ったさ。

相手に対して四十五度の角度で正確に急所のミゾオチを突き上げれば、非力な老人や子供だって大男を一発で堕とすコトが可能だ。

『どんなに身体を鍛え上げられても、急所だけは鍛えられないの』

恵理はそう言って俺に幾つかの基本を教えてくれていた。

身体を張っての急所指導に、俺は何度も痛い思いをしていたし。

その一般的な代表例がオトコの急所……詰まりキャンタマだ。

だからと言って、キャンタマが無いオンナは局所を蹴られても痛くナイかと言うと、ソレはナイとの恵理の回答。

恵理に言わせると、男女の性器はお互いに該当する部分があって、マッタクの別物じゃ無いんだそう。

オトコの亀頭に該当する部分がオンナではクリトリス。ソケイ部の裏側は割れ目。そしてキャンタマは大陰唇。

恵理にもカワイイクリトリスがあるが、ちゃんと海綿体で出来ていてえっちでカンジて勃起もする。

余談にはなるが、このクリトリスにもオトコと同じく真性、仮性包茎がある。

まあ、それくらいは俺だってトックに知っていたが……


急所さえ突けば、俺にだって勝算はあるかもだ。

だったら俺でも水守を倒すコトが出来るかな?

水守の懐に、根性出して潜り込めさえすれば、ナントカなる。

俺はササヤかな期待を抱いて、スキだらけの水守を見回した。

「詰まらん考えは棄てろ」

水守は俺の考えが手に取れて読めているみたいだった。

「そんなコト、遣ってみなくっちゃ判らないでしょ?」

興奮してハナイキを荒くさせた俺を見た水守は、またしてもクックと笑い出しやがった。

「ダメモトでも馬鹿な事は考えるな」

ダレがダメモトだっつ!


睨み付けた水守の背後で、アオイを乗せたワゴン車が動き出した。

「水守さん」

「……」

ワゴンに乗車しなかったヤツが、水守にカルク頭を下げて両手で何かを差し出した。

水守は黙ってソイツから、車のキーを鷲掴みにする。

「あの女の車のキーだ。お前には、コイツに暫らく乗って貰おう」

「ナンで?」

あの蒼いフィットに俺が?

……って、ナンでやっぱしフィットなんだよ?

他にもっと走りに適した仕様車がイッパイあるだろ?

第一、ソレはアオイの車だぞ? 

俺の車って言ってても、本当は恵理の車だが……

「恵理のより、コイツの方が走るのに向いた仕様だぞ?」

オマエが言うな水守。

言われなくったって、見りゃ判る。

「アオイのを勝手に……こうゆ〜のって、泥棒ってゆ〜んですよ?」

俺は水守に講釈をタレル。

水守と俺を遠巻きにしていた成和会のギャラリーが、またしても一瞬で殺気立ったが、水守は相変わらず平然として俺のセリフを聞き流してたし。

普段、なかなかキレねーこんなヤツに限って、恐らくキレるとスゲーんだろーな。

多少のコトでは全く動じない水守のデカイ態度に、俺は却って怖じ気付いちまった。

「恵理の車をお前なんかに傷つけられたくない」

「はあ?」

マジでそんなコト言ってンのか?

胡散臭そうな顔をした俺を見て、水守がフッと笑った。

「……なんてのが本音だ」

おおっ、俺の聞き間違いかっつ???

今、水守が『本音』って確かに言ったよな?

俺は水守が次にナンテ言うのかを期待して、その言葉を待った。

「……まあ、乗れば判る」

水守は傍に寄って来たオトコから、イヤフォンと小型マイクがセットになっている無線機を受け取り、ソレと持っていた車のキーを一緒に持つと、この俺に向かって突き出した。

水守は「ほら」と無線機を軽く持ち上げる。

「……」

それだけかよ?

ンだよ。

まだナニか言うのかと期待してたのに損したぞ?

俺は気を取り直すと、再び水守に握られているキーと無線機に視線を落とした。


俺が無線機を受け取った時点で、俺は水守との要求を呑んだコトになっちまうんだろうな?

ダレがそんなモノ、受け取って遣るかよ?

そう思った。

「……」

「どうした? ほら」

水守はサッサと受け取れとばかり、もう一度俺に向かって強くキーと無線機を差出した。

「……」

俺はなおも渋って、微動だにしない。

水守も俺と同様、『こうなりゃ俺との根競べだ』と言わんばかりに動かなくなってしまった。


「ヤロウ! いい加減に受け取りやがれ!」

「水守さん、コイツに礼儀教えてやってもイイッスか?」

動かない俺に痺れを切らせたヤツラが、口々に言いたい放題吐きやがる。

水守には、俺が連中にビビッて固まっているんじゃナイって判っているハズだが、興味深そうに俺をニヤニヤと見下ろしているし。



「水守さん……」

再びあの時の側近ヤロウが、水守の背後でササヤイタ。

「……そうか」

軽く溜息混じりにそう言うと、静かに肩を落とす。

水守は俺との根競べを誰かにジャマされたみたいだった。

「?」

俺は訝って顔を上げ、水守の様子を窺った。

ソコには水守の少々ザンネンそうなツラがあった。

「タイムアップだ」

「え?」

たいむあっぷ???

なにそれ?

水守はツカツカと俺に近寄ると、強引に持っていたキーと無線機を押し付けた。

気抜けして呆けていた俺は、ワケが判らないまま条件反射で無線機を両の手に受け取る。

「残念だが警察が嗅ぎ付けた……ああそれから、運転時には常時ソレをしていろ」

水守はそう言い棄てると、俺に踵を返した。

「……?」

俺に背を向けて足早に去って行く水守を、俺はポカンとして見送る……

「テメェ、水守さんの期待を裏切りやがったら、タダじゃおかねーからなっつ!!!」

「覚えておけや!」

「ぶっ殺すぞ!」

成和会の連中が、勝手に暴言を吐き棄て、ソレゾレが引き揚げて行った。

「……」

ナンナンダ???

普段よりも格段にテンションを上げていたこの俺でも、非日常的なこの状況にイマイチ付いて行けなくなっていた。


呆然と突っ立っていた俺の目の前に、黒いレクサスがスッと進入して停車する。

助手席側の窓が音も無くボディに飲み込まれて行った。

「おい」

助手席から、顔を見せたのは水守だった。

「お前も早く消えておけ。でないと面倒な事になる」

俺にそう話掛けると、運転手に車を出させた。



「……」

アオイを拉致られ、俺は駐車場に一人で取り残されてしまった。

遠くからパトカーのサイレンが聞こえて、それが次第に大きくなって来る――

それまでは頭の中がボンヤリとしていたが、すぐ近くに迫って来たサイレンに、自然と身体が動いてその場から逃げ出していた。

……はぁ……またしても警察かよ……

ウンザリだった。

悪いコトはまだ遣ってねーけど、警察にはヤッパシ拒絶反応が起こる俺。

俺もサッサとズラカンねーと。

かちゃ……☆

「うん?」

ひとまずマンションの影に隠れた時、手の中にある独特な金属性の感触が気になった。

「って、ええっつ?」

手にした違和感に、やっとこさ気付く鈍い俺。

握り締めていたその右手を、俺はオモムロに目の前で拡げた。

「あ……」

こっつ、コレはアオイの車のキーに、ヘッドセット型の無線機。

水守との話のナガレから、さも受け取るのがお約束ってぇシチュエーションに、俺は無意識にコレを受け取ってしまったんだったあああ!!!

ナニ遣ってる! 俺ッツ!!!

これって、契約成立じゃん???








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