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恵理不在の部屋から、アオイは恵理の着換えを貰って無邪気に喜んでいた。
俺はアオイをマンションに一人残すのを嫌って、コウの彼女に面倒を見て貰おうとしてアオイを外に連れ出した。
ところが、駐車場では成和会の連中が潜んでいて、アオイを難なく捕まえてしまい……そして俺も逃げ出せなくなってしまった。

その女 ☆ 危険人物!!!
作:かずたか



第68話 代役?


「ヤダ―――ッツ! 放せえええ!!!」

気が狂ったように泣き叫ぶアオイの声がマンションの駐車場に響き渡り、俺達は出勤や外出を急ぐ人達の注目を浴びた。

「オラオラァ! 見世物じゃねーんだ!」

「とっとと失せろヤァ!」

成和会の連中が、俺達を見て立ち止まるギャラリーに向かって威嚇する。

ドスを効かせた口調に脅されて、関わろうだなんて無謀なコトをするヤツはいない。

ソレゾレが、俺とアオイにキノドクそうな哀れみの視線を遣しつつ、車やバイクでその場をソソクサと立ち去って行く。

中には、マンションに引き返し、逃げ込んでしまう者もいる。


「水守さん! これって……」

俺は水守を睨み返し、胸倉を掴んでいる水守の片腕を振り解こうとしてモガイタが、水守の腕は俺をガッチリと掴んで放さなかった。

「く……は、放せよ!」

俺と水守の視線が真っ向からブツカル。

ごくり……

俺の喉が大きく音を立てた。

そりゃ、俺だって少しは……いや、カナリ怖いさ。

相手は恵理の幼馴染だとは言え、広域指定暴力団成和会の幹部クラス。

オオモトの本拠地であるこの街ではウソみたいにナリを潜めてはいるが、他国や他県の各地では、年間に何件もの成和会絡みだろうとされている物騒な事件がマスコミを騒がせていた。

それは麻薬や人身売買。時には殺人事件なんてのもある。

水守の一言で、俺の命なんかアッサリと消飛んでしまうと考えるのには十分過ぎるホドの相手なんだ。


「……」

チッ!

舌打ちをして、先に視線を逸らせたのは水守の方だった。

水守は一瞬何かに躊躇ためらったみたいだったが、スグに俺から手を放す。

「ゴホ、ゴホッツ!」

一時的に首が絞められてからの急な解放に、俺は二、三度激しく咳き込んだ。

そして締め上げられた襟元を、片手でネクタイごと強く引いて緩める。

「……随分と熱烈な歓迎ですね?」

俺は息を乱しながらも、出来る限りの冷静さを装い、アリッタケのイヤミを言ってやった。

水守は俺の言葉に鋭い一瞥を遣して、フンと鼻で笑う。

「手土産まで用意してくれるとはな?」

そう言って、半狂乱になって暴れているアオイの方を顎でシャクって見せる。

……手土産って、アオイのコトか?

「お前も中々だな?」

「ナンのコトです?」

モッタイを付けるなよ。

自然、息が上がった。

「あの女の事だ」

水守は『スミには置けねーな』とばかり、薄ら笑いを浮べて俺を見た。

水守の下衆な想像に勘付いた俺は、ムッとする。

俺は、オンナと見れば誰とでもヤッちまう種馬じゃねーぞっつ!

……そりゃ、無理矢理ヌカレはしたけどよ。


「ナニ言ってンです? アオイは恵理の友達ですよ?」

「テメェ! 誰に向かってのタメグチだぁ! コラァ!」

傍に居た二メートル近い巨漢が、筋肉質の身体を怒りに震わせて凄んで来た。

「……」

水守は片手を軽く挙げて、一瞬でソイツを黙らせる。

ふ〜ん。よく調教してんじゃん?

俺はソイツに向かって『ザマーミロ!』とばかりに挑発的な視線を投掛けてやった。

「この……クソガ……」

巨漢オトコは真っ赤になってプルプルと弛んだ頬をタルませ、俺のデカイ態度に激怒したが、水守が黙って顔を少しだけ動かすと、またしても急にオトナシクなって引き退がった。

俺は、ソイツと視線すら合わせず意のままに制する水守の力量に怯んでしまい、言葉を失った。

やっぱ……コイツは苦手だ。


「ほお〜『恵理の友達』……か。また随分と若そうな友達だな?」

水守は小馬鹿にしたような上から目線で、俺に向かって言い放つ。

明らかにアオイの正体を知っているみたいな言い方だ。

……ヤバイ。

背筋に冷たい汗が流れた。

「でしょ?」

俺はニヤリと笑って茶化したが、水守にはてんで効果ナシ。

つか、ノリ悪いな?

俺の視線を読み取ると、水守はスッと眼を細めた。

タダでさえスルドイ眼光だ。

調子に乗っていた俺は、アタマから冷水をぶっ掛けられた気がして、イッペンで醒めちまう。

「あの女は貰う」

水守のその言葉を合図に、駐車場敷地内を制圧していた成和会の連中の何人かが、捕獲されたアオイに向かった。


「ヤダッツ! こっち、来るなあああ!!!」

不安と恐怖におののいたアオイが、更に悲鳴を上げる。

乱暴されたワケじゃないが、ガタイが良くってガラの悪い連中何人もに近寄られて、平気で居られるヤツなんて居ないだろ?

ましてや、アオイはこの連中がどんな奴等なのか勘付いているだろうし。

「ま、待ってくださいよ!」

「訊きたい事もある」

……どうするツモリだよ?

アオイの身体に訊くってか?

「そんな……カワイソウじゃないですか! 止めてください!」

「聞く耳持たん」

水守はドコか気怠そうに応え、俺の頼みをバッサリと斬り捨てた。

さも、こんなコトは日常茶飯だとでも言う様に。

「水守さんっつ!!!」

「きゃあああ! 放せ――――ッツ! イヤだぁああ!!!」

俺の咎める声が、アオイの悲鳴で掻き消される。

手足を大柄な男二人に押さえ付けられ、俺達に向かって連行されて来ているトコロだった。

「チクショ―――! このクサレ野郎! 放せぇえええ―――ッツ!!!」

殺されるとでも思ったのか、アオイは捕獲された野生の動物のようにあらん限りの力で暴れ、大泣きして喚き散らす。

「っせーぞ! 大人しくしろ!」

「アッツ!」

パシッ!

頬を引っ叩かれる破裂音が何度も聞えた。

殴られる度に、アオイの小柄な身体が大きく振り飛ばされそうになる。

もっと丁寧には扱えないのかよ?

アレでも女の子なんだぞっつ?


「水守さん、あの娘……」

駐車していた大型車の陰から、いつぞやの側近らしい男がスッと近付き、水守の背後でナニやら耳打ちした。

「……」

水守は黙って顎を軽く引く。

その男はアオイに早足で駆け寄ると、暴れているアオイに向かってイキナリ手刀しゅとうを首筋に落とした。

「は……ぁ」

呆気なく、一瞬で堕ちるアオイ。

アオイの小柄な身体は、スローモーションを見ているみたいにゆっくりと崩折れた。

意識を失くした小柄な身体が、ぐったりと男にしな垂れ掛かる。

「アオイにナニすんだっつ!!!」

今度は俺が水守の胸倉を掴み掛かろうとしたが、これも水守が素早く片足を一歩引き、流れるような体捌きだけで簡単に俺をカワシてしまった。

「うあ?」

俺は大空振りをしてブザマに路上にダイブする。

「痛ててて……」

アスファルトで両手両肘を強打した。

「落ち着け」

「コレが落ち着いて居られるかっつ!!!」

弾かれたように両手を突いて上体を起こした俺は、水守の言葉に食って掛かった。

つか、ナンだよその冷静な声は?

相変わらず、水守の声からは感情が読み取れない。

俺に飛び掛られたンだぞ? 

チッタァ慌てろよ?


「あう!?」

トタンにガン! ってデカイ衝撃が俺を襲った。

俺は背中のド真ん中を何者かの大足で足蹴にされて、再び路上に這いツクバル。

「っせ〜ンだよ! 口の利き方に気を付けろや! 何度も言わせんな! このタコがぁ!」

デカイ大足は先程の巨漢野郎だった。

ダレが『タコ』だっつ!

俺はソイツに精一杯顔を向けて睨み付けた。

俺にヤキを入れたくってショーガナカッタらしい。

絶妙なタイミングでの蹴りから察するに、ずっとこの機会を見計らっていたみたいだった。

陰湿で根暗な野郎だぜ。

ソイツの大足はそのまんま俺を路上に貼り付ける。そして、ソイツの体重が片足へと加わり、徐々に俺の背中に加重されて行く――

「ぐ……ぁ……」

顎が上がり、胸部を支点に身体が逆エビに仰け反った。

口中が生臭い血の味で一杯だ。

肋骨がメキメキと軋んでいるのが判る。

「ぐっ……」

それでも俺は悲鳴一つ上げず、クグモッタ声を更にぐっと押し殺した。

――コイツには俺の悲鳴を聞かせるかよっつ!

久し振りに俺の勝気な底意地が、どうやら発動しちまったみたいだった。

「く……水守はナンにも言ってねーぞ?」

水守はテメェーみたいに小せぇコトに、一々キャンキャン喚いてねーゾ? 

この小心者!

俺は精一杯に強がり、苦痛に顔を歪めながらもムリヤリ不敵に笑って見せた。

しかも水守のコトをワザと呼び捨てにしてやったし。

巨漢野郎は、俺の態度に激高した。

「テンメェ〜〜〜、水守さんに向かって……ブッ殺したる!!!」

「ぐあぁ!!!」

巨漢野郎は高々と膝を上げ、俺を何度も強く踏みしだいた。

優に俺の体重を越える野郎の大足が、何トンもの鉛の塊のように襲い掛かる。

俺、このまま、コイツに踏み潰されるのか……?

口中からは濃い血の味がして、鼻からは血のニオイしかしなくなった。

駄目かも知れねー……


そう思ってカンネンした時だ。

「……斉藤?」

「はっ? は、はい……」

それが巨漢野郎の名前らしい。

水守が静かにそいつの名を呼ぶと、巨漢野郎はビクンと肩を跳ね上げるなり、慌てて俺の背中から大足を引いた。

「退がっていろ」

「……は、ハイ……」

またしても水守は静かに言っただけだった。

巨漢野郎の気配が遠ざかる。

俺は路上に突っ伏して、死んだフリをした。

「……オイ」

「……」

「寝るな。死んだフリしたって判るからな?」

「……」

「『水守』……か。本人を目の前にして……いい度胸だな?」

ふ……と、水守が表情を和らげて笑ったような気配がした。

「……」

水守がタメル『』でさえ、俺は内心ナニをされるのかとビビリまくり、全身に厭な汗を噴き出して思いっきり後悔した。


……言うんじゃなかったッス。


巨漢野郎をワザと怒らせてやろうとして遣ったコトだったが、俺は今頃になってコトの重大さに気付き、更には水守本人の尋問に遭っているこの状況から、ココはヒトマズ死んだフリするに限ると判断して、迫真の演技を披露した。

「……?」

水守の気配が消えた???

そう思って油断したトタン、ゴツンと鈍い音がして、ノーテンに水守のゲンコツが直撃した。

「あう! ☆」

目の前にホシがチラついた。

「下手な芝居するな。タヌキが」

あ……やっぱり?

「……バレてました?」

「バレバレだ」

俺の質問に、水守は答えるのを嫌がり、億劫がる。

つか、水守はこういった類の冗談が苦手なのだと俺は見切ってしまった。

イコール、冗談が通じねーヤツ……か?

コイツ、もしかしてハラの底から馬鹿笑いなんてしたコト……ないんでね?

俺に取っちゃ、この水守も『上流階級』の類の人間だと思っている。

……クッセツしてる……ぞ?

そう思った。


「よっつ……」

俺は仰向けに転がると、一旦両脚を上げて反動を付け、腹筋と背筋の瞬発力でヒョイと起き上がった。

そして、サッと左腕で血の味のする口元を拭うと、シャツに付いた砂汚れをパンパンと叩いた。

「案外、元気そうだな?」

他人の車に凭れ掛かって俺の様子を窺っていた水守は、意外にも元気に起き上がった俺に一瞥を遣してフンと鼻で笑うと、手にしていた煙草を銜えた。

オモムロに浅く首を傾げると、両手で大事そうに包んだライターに火を灯す。

火が点いた時の煙の色は、吐いた煙の色と違う。

水守が深く息を吐くと、白い煙が棚引いた。

そこの空間だけが、映画か何かのワンシーンみたいに見えて、俺は暫しの間、水守の喫煙を呆けたように黙って見ていた。

が、俺にとってはシカトされてンのと大差ない。

つか、まんまだろ?

俺はデカブツに足蹴にされてまで、水守の喫煙風景を拝みたいワケじゃねーんだよっつ!

「ン?」

口を『へ』の字に歪めて睨んでいる俺に、ヤット水守は気が付いたし。

遅ぇよ。

「『ン?』じゃないっス。アオイにナニをしたんです?」

「アオイ? ああ、あの娘か?」

そこまで言うと、水守はククッと笑った。

ナニがオカシイんだよっつ!!!

「あのまま錯乱させて、舌を噛み切らせた方が良かったのか?」

「え?」

意表を衝かれて俺は言葉を失くした。

「終身呪縛。強力な深層催眠の一種だ。本人の精神が一定レベルの限界を超えた時に発動する。自殺暗示……連中、どうやらお仲間も信用出来ないらしいな」

「じゅ……呪縛? 催眠? って……」

俺は聞き慣れない……いや、今まで聞いたコトがナイその言葉を、オウム返しに復唱する。

「教えてやろうか? 逃げ出さないように薬漬けにして徹底的に反抗心を削る。その間、あの娘がどんな目に遭っていたかはお前でも想像が付くだろう? 薬が効力を発揮し、本人が自我を失くしてトランス状態になっている間、断続的に繰り返して催眠を行い強力な忠誠心を植え付ける……ま、一種のマインドコントロール。あの娘がその最終型だろうな?」

「そんな……」

『最終型』って……ナンだよ?

俺は不安に煽られて、尚も水守に説明を仰いだ。

水守は、俺がヤツの視界に入るギリギリの範囲までしか振り向かなかった。

「外見はどうってコト無い様に見えるが、内臓関係はかなりってる」

その言い方で、俺は水守がカンペキにアオイの状態と素性を知っているのだと判った。

「放っておけば、そう長くは持たない……で、だ」

水守は言葉を切ると、煙草を離して俺を真正面に捕らえて向き合った。

「……?」

「取引しないか?」

「ナニをです?」

「知れた事だ。お前が『当たり屋狩り』に参加するんだ」

はぁ?

「だからソレは……」

俺は水守のシツコサ……つか、粘着にウンザリした。

マダ言ってら。

断るって言ってただろっつ?

あんまりシツコイと嫌われるぞ?

「あの娘……確か『アオイ』とか言ったな?」

「それがどうかし……?」

ソコまで言って、水守がアオイを人質に俺を脅迫しているんだと覚った。

『取引』だなんてキレイゴト言ってンじゃねーよ! 

判らなかったじゃねーかよ。

水守は、ヤット反応した俺の様子に痺れを切らしていたみたいだった。

「……今頃かよ?」

俺の余りの鈍さに、水守はボソリと呟いた。

つか、ハッキリとモノを言いやがれ!


「ま、お前にはどの道、断る選択肢は無い」

「ドウシテです?」

「事故ったヤツの代わりをさせる。その心算で此処に来た」

「……」

俺が向井の代役?

それでこの大掛かりな駐車場での包囲かよ?

絶対に俺に『NO』と言わせないツモリで……

「偶々その小娘が付録だったが……この方が都合が良い」

水守はそう言って、意識を無くしたままでワンボックスカーに運び込まれているアオイに視線を奔らせた。

「もう俺は『走り屋』とも『当たり屋』や『壊し屋』とも関わりたくないんですよ! 運転のテクなら現役遣ってた向井達の方が上だ。今更ハンドルが握れなくなった俺の出る幕じゃないでしょう?」

正確には、向井と久しくバトルしていなかったから運転テクはドッチが上だか判らなかったし、ハンドルが握れなくなった……ってぇのもハッタリだった。

水守は、軽く興奮して喚いた俺を冷ややかに凝視する――

ホドなく水守は「くく……」と肩を震わせて笑いやがった。

「言い逃れが通用するか」

そう言って、鋭い視線を遣した。


……コイツに嘘や冗談は通じねーのかよ……?

コイツのせいで向井は事故って死に掛けたんだぞ?

俺に向井の二の舞をさせようとしているのか?


アカラサマに凶悪化する連中に、水守達成和会は何ら対策すら立てずにずっと静観していた。

イズレ誰かが犠牲になるって……水守は読めていたハズだ。

そう思うと、向井の事故は人災か?


俺は後から後から不満が湧き出して来て、黙って居られなくなった。

「人と喋る時って、いつもそんなのですか?」

遂に俺は水守に向かって吠えていた。

「ああ?」

二本目の煙草を取り出して銜えていた水守は、鬱陶しそうに煙草を離すと、目を細めて俺を見た。

他人の裏を掻いて出し抜くコトで、水守の存在価値が上がるのか?

ハナモチならないくらいのパーフェクトぶりに、俺はシケタツラになる。

水守の言葉数少な目のセリフに、醒め切った水守に対するマイナスの感情が高まった。

俺は水守はモトより、水守の取り巻き連中からも冷たい視線に晒されてしまった。

う……っつ……

俺に直接的な危害を加える気配は無かったが、それでも俺は無意識に身構える。

「何の事だ?」

そのセリフの端には、少しだけ水守の苛立ちが窺えた。

「事故ったヤツは、頭を殴られていたそうです」

「……らしいな?」

水守はそれでも平然として、表情一つ崩さねー。

「車にも火点けられて……」

「ほぉ? そりゃ……災難だったな?」

知ってかそれとも本当に知らなかったのか……水守はそう応える。

「さ……災難? アイツは事故に見せ掛けてマジで殺されそうになってたんですよ?」

ココまで言っても他人事かよ?

「だから?」

右の指先で呑み掛けの煙草を摘むと、水守はもう一度腕を組んだ。

心持ち顎を引き、下から見上げるようにして俺の様子を窺っている。

薄ら笑いを浮べて、余裕さえカマシているその表情に、俺は気圧されて一瞬言葉を呑み込んだ。

「貴方の差し金じゃないですか? もしかしたら、いずれ連中の誰かがこうなると知っていたんじゃなかったんですか?」

「言い掛かりだな」

感情のカケラさえ持たない目付きの水守は、俺の問いをアッサリと一蹴してしまう。

俺は取り付くシマさえも与えられナイ。

「そんな……」

俺は言葉に詰まった。

「良いか? 事故当時、俺はソイツに何等なんら指示を与えちゃいないし、これは俺の監視外だ。関係ない」

「……」

「それよりも、此方側に勝手に欠員を作ってくれた。契約は契約だ。事故をしたソイツには此方に違反金なり何なり、払って貰うさ」

意味深にそう言って、水守はチラリと俺を見た。

俺は水守の恩着せガマシイ言い様にカッとなった。

俺が穴埋めの代替かよ?


−『出て来い……日高……』


前に……水守は確かに俺にそう言った。

コイツ……まさか俺を燻り出そうとして……?

考えたくは無かったが、成和会は総会屋を名乗っていても暴力団には違いない。

向井の怪我が、成和会の計画的犯行だったとしても、何等不自然には思えなかった。

ただ、現役を引退しているこの俺を、果たしてソレほどまでに参加させる必要性があるのだろうかと言う疑問は持ってしまうが……


「それはどういう意味です? 貴方が誘ったりしなければ向井はこんなコトにならなかった」

「事故は本人のミスだ」

「雇ったのはアンタだ! それこそ保険じゃないが、多少の援助ぐらい……」

俺の言い草に、水守はキッと鋭い視線を投付けた。

ココまで面と向かって水守に食い下がった命知らずな野郎はタブン……居ないンだろうな?

恵理もそうだったが、水守……コイツも相手を萎縮させ、瞬殺させるホドの殺気と眼光を持っている。

ソレはこの手の状況にけた者にしか得られない、特殊な能力と言っても良いのかも知れない。


「個人的なモノまで面倒は看切れん。俺が雇ったのは『傭兵』だ」

「なっつ……」

「捨石の『傭兵』に保障など不要」

俺の出方を面白がって窺うように、水守は言葉を選んできやがった。

『傭兵』……だぁ?

「ナンだとぉ?」

水守の言い様に、カッと頭に血が昇る。

今にも殴り掛かりそうになった俺の目の前に、側近連中二人が水守の盾となるべく割り込んで来た。








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