水守なんかに誰がツイテ遣るもんか…… 俺は殆んど『ガラの悪い同窓会』会場と化した本社工場に…… …… …… 結局、自分から入り浸ってしまうハメになってしまった。 社用車でトバセば五、六分で行ける距離だ。 デスクワークが主体の設計部門に所属していながら、どうして工場に行く時間的余裕が出来るのか……? それは俺が偶然にツイテいたってコトもある。 全社員に配布されている毎月発行の社内報今月号に、いつもトップに掲載されている社長からの一言……特に今回は、俺も該当している設計部署スタッフ職に対して『PCや電話応対等、机上だけでのシゴトに囚われず、現場(工場や取引先)へも実際に足を運んで、生きた情報を体感・習得すべきだ』とのアリガタイお言葉をタイムリーに頂戴していたからだった。 お陰で恵理をはじめ部署内の連中からも、ショッチュウ工場へと出掛けている俺に対して誰も文句は言わなかったし、咎めるような素振りも無かった。 俺も与えられている業務……今はマイナーチェンジされた業務用軟水器のISO(アイソ)三次元組立て設計図面を、旧図面を流用して新規に作成している作業だが、予定報告通りにこなしていたから、尚のコト周りからの不満は出て来なかった。 俺は自社製品内に仕様されている他社メーカ製品の現物確認と称して、今日もコウ達と会っている。 水守が声を掛けて来たのはコウを含めて五人。 中でも向井聡史と村瀬謙太、岡澤駿也、元木拓海は、未だ現役で峠を攻めている連中だ。 『神風』ってゆーコードネームを聞かされて、俺は吹いた。 ……特攻かよ? ったく。 水守の企画には頭を縦に振るツモリは無かったが、半年以上も音信不通だった悪友達のツラに再会出来たコトには、正直……感謝したけどな? コウもそうだったが、アイツ等も俺が成和会にシメられて、もう生きちゃいないとアキラメテいたらしい。 『よく無事でいられたな?』って。 いや、全くの無傷じゃなかったけど…… 午後三時の休憩時間、俺は連中にタカラレテ自販機でジュースを奢るハメになった。 「司もコッチ(工場)に来いよ?」 「だよな? PC相手にするよかコッチの方が面白れーぜ?」 コウのコトバに向井が賛同する。 「ははは……」 俺は乾いたアイソ笑いをした。 ンなコト言ったってソレはムリ。 俺は水守がキライなんだ。 ……いや、キライっつーか……苦手なんだろうな? 余裕をコイタあのハラグロそうなニヤケ笑いが、俺にとっちゃあ気に入らねー。 恵理の幼馴染ってのも、その根底(ネック)にはあるのかも…… って、恵理が絡むと俺は相手に対してナゼだか身構えてしまう。 ……ナンデダ??? 「昨日、捕まえ損なったあのシルビア、今日こそ追詰めてとっ捕まえてヤル」 村瀬が鼻息を荒くする。 コイツラは水守の指示で、スデに何度か連中と渡り合っていた。 朝夕の通勤時間帯の混み合う時間帯。 コウ達に言わせると、ドコで指示を出しているのか全く判らないらしいが、テキトーに車をコロガシテいるコイツラに、水守が渡していた携帯で目標(ターゲット)の情報を伝えて来るそうだ。 目標の出現場所がオアツラエにワナを仕掛けていたトコロなら、待機していた成和会の連中とグルになって『シカケ』に追い込む…… たった数時間のコトなのに、コイツラへ水守が提示した基本給はホボ俺と同じかソレ以上。連中を追詰めて捕まえれば更に金額は跳ね上がる。 正社員(俺か?)をバカにしやがって…… ……賞金首感覚。 数年前の俺だったら、喜んでお引き受けしていたかも知れないな。 「ってゆーかさ、駿也のGT遅くね?」 発送予定の部品箱に座った向井がニヤニヤしながら突っ込んだ。 「ドコが?」 「切り替えし直(チョク)の立ち上がりがゴゾゴゾってカンジじゃん? ありゃー、逃げられるな?」 「そーそー。セッティング甘いんでない? 変えたら?」 自信満々で講釈をタレル向井とコウに、岡澤は口を尖らせた。 「せえな。聡史こそ、今朝返り討ちに遭いそーだったじゃんかよ?」 「おうっつ! 今度はさせるかっつ!」 向井は飲み干したコーラの缶をワケナク握り潰してキアイを入れた。 「……」 頼もしげな会話だったが……コイツラの成績は勝算率四十パー。スデに何度か接触していて小競り合いを起こしている。 表面では笑っちゃいるが、俺にはコイツラの表情からは余裕が消え掛かっているみたいに映っていた。 神経を尖らせて、いつ事故ってもおかしくないスタント紛(まが)いを連日遣っている。 モチロン水守達、成和会のメンバーも参戦してるって聞いていたが、その実はどうなのだか……参戦している味方(成和会)の具体的な人数やメンバーの車種、ナンバーさえコウ達は聞かされていない。 ……本当に参戦しているのか……? 「ン?」 コウ達とタムロっている最中、俺の携帯が鳴った。 送信者非表示の画面に、俺は訝って眉をヒソメタ。 仕方なく俺は連中の輪から席を外し、少し離れて応対する。 「……はい?」 −「どうだ? 参加する気になったか?」 「……」 ゴクリと俺の喉が鳴った。 携帯の相手は――水守。 俺は慌てて辺りをキョロキョロと見回した。 俺達みたいに何人かで談笑している者も居れば、一人でMDを聴いてリラックスしている者……特別俺達の様子を窺っている、ソレらしい者は眼に留まらない。 「……」 俺は黙って天井に設置されているセキュリティ監視カメラの一機を見上げると、無意識に睨み付けていた。 一体、ドコで俺を監視していやがる? つか、ナンで水守(コイツ)が俺の携帯番号知ってンだよっつ??? −「奴等、凶暴化していてな? 向こうにコッチの情報が漏れている」 「……どういうコトです?」 −「コッチと同じだ。今朝のコトだが、連中、お前の仲間を見付けて仕掛けて来た」 水守が向井のコトを言っているんだなとスグに判った。 −「長期戦になると拙い。お前だって仲間に被害が及んで欲しくはないだろう?」 「それはそうですが……」 ナンだよ? その脅迫めいた言い方は。 −「主犯格を特定した」 「……俺に……どうしろと?」 そのコタエが判っているにも関わらず、俺は敢えて惚けたフリをする。 −「……」 携帯の向こうで、水守が声を押し殺して笑ったような気がした。 俺は水守のお約束的反応にムナクソが悪くなった。ココが外だったら、唾を吐き棄てていたトコロだ。 …… やがて、水守はこう言った。 −「出て来い……日高」 * * * マンションに現れた少女は度々住民達の目に留まり、噂されるようになった。 『浮浪者(ホームレス)らしい女の子がウロツイテイル』……と。 俺は横田さんからじゃこ天を貰った時しか見掛けていなかったから、ソレホド気にはならなくて、暫らくはスッカリそのコトを忘れてしまっていた。 「……っと☆」 両手がスーパーの袋で塞がっていた俺は、苦労しながらナンとかポケットの鍵を取り出した。 ……ン? 鍵穴にキーを差そうとした俺の動きが止まった。 誰かの視線?―― しかも、この視線は何度も俺に向けられていたのと同じものだ。 『ダレ?』って問い掛けて来るみたいな……よく、コドモがオトナに向けて来るような、相手を探るような視線。 「……?」 俺はモト来た方へと首を捻って視線を遣った。 「……」 視線の主が、自分を見付けた俺から逃れるように顔を背けた。 アレ? 俺がその少女(コ)からひょいと視線を外すと、絶妙なタイミングで今度は向こうが俺を見詰めて来る。 あの時の少女だ。 少女は二日前に見た時と、全く同じ格好をしていた。 黒いチューブトップとレギンスは白っぽく、ジージャンとフレアのミニスカは所々油らしい染みで薄汚れていた。 機械油の汚れらしいが、前に見た時よりももっと汚れが目立っていた。 顔や服から露出している手足の部分も、遠目でも判るくらいに……その、女の子には似つかわしくナイコトバだったが、汚かった。 『マンションに浮浪者(ホームレス)が居る』 俺はその噂を思い出した。 ソレはタブン……この少女のコトだ。 ……見なかったコトにしよう。 俺はその少女からスルーを決め込むコトにして、サッサとドアの奥に消えた。 「ン……あ? っと? シマッタ。醤油切らせてたか……」 俺は天つゆに遣う醤油を買い忘れていたコトに気が付いた。 晩飯の天ぷらには別に粗塩だけでも構わなかったが、どうせ要るモンだし……近くのコンビニで買えばイイかと、携帯片手に恵理のキティちゃん健康サンダルを引っ掛けた。 健康サンダルって言うくらいだから、身体にはイイのかも知れないが、足の裏がイタタタ…… 慣れないサンダルの痛みに小躍りし、ベソを掻きながら、外に出る。 「いっててて……ってえっ???」 さっきの少女がまだ居た。 ココのドアから少し離れた場所に、少女が両膝を抱え、壁にモタレテ体育座りをしている。 帰宅時よりもココのドアとの距離が近くなっていたが、少女は膝に顔をウズメテピクリとも動かず、ジッとしている。 ……眠っているのか??? 俺はジッとして動かない少女の様子を窺いながら、足音を忍ばせるようにして静かに傍を通過した。 ……この少女!? 俺の頭の中で、数日前にアクアブルーのフィットに乗っていた女性ドライバーと、目の前に居る金髪に近い亜麻色の煤(すす)けだった髪の少女とがオーバーラップする。 数日前に俺を襲った『当たり屋』のオンナだ。 だけど、あの時のオンナがこんなに細っこくって、その……言い難(にく)いんだけど、キタナイ少女だったなんて。 ナニしにココに来たんだ??? コンビにから戻って来ても、やはり少女はソコに居た。 座ったまま動いた気配は全く無かった。 ココロあるヤツなら、温かい手を差し伸べて遣るってーのがセオリーだろうが……ザンネンながら俺だって居候の身だ。とてもじゃないが、世話をしてヤル義務も無ければ余裕も無かった。 正直、居座られても……困る。 俺はまたしても少女に無視を決め込んで、再びドアに消えるコトにした。 そしたら恵理のヤツ、その少女を連れて帰って来たんだ。