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恵理に悪戯して失神させてしまった俺は、結局またしても『本番』には至らなかった。
珍しく朝寝坊した俺は、先に出勤してしまった恵理からの『お返し』を受けさせられていた。
……もの凄く恥ずかしい〜〜〜
出勤を急いだ俺の目の前に、成和会の水守みかみが現れた。
関わるなって自分の方から言っていたのに、このクソ忙しい時に……現れンなッツ!!!

その女 ☆ 危険人物!!!
作:かずたか



第51話 成和会 水守(みかみ)


「で、返事は?」

水守みかみは俺と視線を合わせる気はないらしく、朝っぱらから気怠そうに煙草をフカシ、眼を細めてズット遠くを眺めて俺のコタエを待っている。

まるで自分の世界に浸ってるみたいだ。まあ、『絵』に堪え得るホドのイケメン水守だから許せるけどよ?

人の返事を聴くのに、その態度かよ?

俺は自分の置かれている不利な立場さえ忘れて、水守のデカイ態度にムカついた。

「……」

俺が返事を渋っていると思ったのか、水守はチラと鋭い視線を投げ付けてキヤガッタ。

俺はゼツミョーのタイミングで水守の一瞥をスルーしてやる。

「おい」

アカラサマに不機嫌な声。

「はい?」

「聴いてンだぞ?」

語尾に『ああッ?』ってドスの効いたダメダシが出て来るかと思ったが、そうじゃなかった。


水守の手にしていた煙草があとスコシで終わりそうだ。

吸殻をどうするんだ? 

ドラマみたいにカッコつけてポイ捨てすんのかよ?

「……」

俺がぢいいい〜〜〜っと手元の煙草を見ていると……

水守は吸い終わった煙草を懐から取り出した携帯灰皿に、緩慢な動作で処理したし……

アレ? 結構フツーじゃん?

「くすっ……」

普通のヤツが携帯灰皿を使用するのは不自然でもナンでもナイが、成和会の水守が一般市民と同じコト遣っている構図が俺的に嵌って、ナンだか笑えた。

「返事は?」

水守は俺が吹いた理由が判っているみたいだった。俺がソコでウケルのも十分予測していたみたいで、全く意に介してナイってカンジだ。


水守が煙草一本を吸い終わってしまったってぇコトは……

ああ……くそっ、間に合わねー。もおカンペキに遅刻じゃんか。

『絶対に行きますから』

俺は顔馴染みになった工場長に、そう言って約束してたんだぞ? 

コレで行かなかったら、俺、一気にイメージダウンじゃねーかよっつ!!!


「『仕事』の内容に依ります」

「この俺が会いに来ても?」

水守はカルク目を見張って俺を見た。

モッタイ付けやがって……

その視線には『成和会の幹部であるこの俺が直接目通りしているのにか?』って言う上から目線でのイミが込められていて、俺としては腹立たしい限りだった。

「なら、尚更内容を訊かないと」

俺の返事に、水守は『ほう……』と小馬鹿にしたような声を漏らす。

「たった今、恵理の許可を目の前で……」

「恵理の許可はカンケイ無いです。俺が決めるコトだ」

俺は水守が言い終わらないウチに、被せるように言い放った。

幾ら幼馴染だからって、コイツに『恵理』って呼ばせたくナイって言う、俺のワガママみたいな気持ちが先立って、つい、口をスベラセてしまった。

「……アレだけ〆られても……懲りないヤツだな?」

そう言って、水守はいつもの癪に障るニヤケた笑いを浮べる。

「ナンのコトです?」

俺は徹底的にバックレるツモリ。

水守は、熱くなってガンコに構える俺とは対照的に、表情は至ってフツーだった。ムシろ俺が熱くなった分だけ冷静になったみたいだ。

……いや、目付きがチョッと……鋭くなって来たかな?

「オマエには、木村が狙われていると言ったハズだ。個人情報流出の件。たったアレだけで総てが終わったとでも思っているのか?」

「え?」

キョトンとした俺を見て、水守は深く溜息を吐いた。

「アレぐらいで終わってくれれば俺も助かるのだがな……生憎、そうはならない。一度でも会社の弱味を晒せば、大元の連中どころか模倣犯までが便乗して押し寄せて来る」

そこまで言うと、水守は二本目の煙草に火を点けた。


「オマエ、『当り屋』って知ってるよな?」

その涼しげな『上から目線』が俺に有無を言わさない。

まぁ、お察しの通り知ってるよ? 故意に事故を誘発させて……ってヤツだろ? 

「八十台以上の『当り屋』が先週辺りから県内に遣って来ている情報が入った」

「ウソ、八十台以上?」

俺の問い掛けに、水守は黙って顎を引いた。

「ある程度の小集団でまとまってはいるが、コレ等全部が一つの組織なのかどうかはマダ不明だ。今、手を尽くして詳細を調べさせている」

「水守さんが動くってコトは……」

「既に社員に被害が及んでいるってコトだ。正式に本社から報告を貰ったのは三件だが、報告せずに個人で事を揉消したらしい形跡が二件……尤も、これは氷山の一角だ。水面下でのそれらしい被害者になると、今のところ五件以上……実際にはもっと多いだろうな」

水守にツラレテ、俺の表情までがキビシクなった。

「偶然じゃないんですか? それとも『当り屋』が社員だと知っていて仕掛けて……?」

水守は『さあ?』と小さく応えた。

「一つ判っているコトがある……(木村工業社員専用)駐車場の許可ステッカーを貼っている車両ばかりが被害に遭っているって事だ」

「俺に、ドウしろって言うんです?」

「決まっている」

水守は徐に煙草を口から離し、意味深に笑った。

「『当り屋狩り』さ」

「……お断りします」

俺はキッパリと言い切った。

一瞬、水守が無表情になった。素があんまり感情を表に出さないタイプだったから、俺はその変わりようを見落とすトコロだった。

「理由は?」

「俺、フツウの社員で居たいから」

「俺が頼んでも?」

「ええ」

恵理のタメにフィットで無茶したり、チョットモテたいからって助手席に座らせたオンナノコ(恵理以外)にカッコつけて、ドリフト体感させたりしたけどよ。

だからって、水守の遣ろうとしてる『当り屋狩り』は別モンだ。

つか、ヤバ過ぎる。

そんなモンは警察の仕事だろ?

「……っくくく……フツウの社員……だぁあ?」

遂に水守が吹いた。

声を押し殺して、肩を揺らせて笑っている。


一頻ひとしきり笑うと、水守は急に真顔になった。

「……どのツラが言ってる? ああ?」

ハッとした。

右手で俺の胸倉を乱暴に掴み上げ、ぐっと顔を引き寄せて凄んで来た水守のキビシイ表情には、先程の余裕のカケラすら無くなっていた。

惨忍な冷たい視線を送り込み、高圧的な態度でもって俺を服従させようとする成和会の『顔』に戻っている。

その態度で、俺は水守の立たされ位置を一発で見抜いてしまったんだ。今までのコイていた水守のツラは贋者にせものだったって。

「水守さん、言いましたよね?」

「?」

「あの時『俺と関わるな』って」

「……だからか?」

「ええ」

俺は確たる強い視線で水守を見返した。水守も俺に負けまいと睨んで来る。

殴られたってこの気持ちは動かすツモリは無かった。

それに、コイツは俺が暴力ではナカナカ屈しないのを知っている。

今でこそ笑えるが、※強情過ぎて病院騒ぎが起きたくらいだ。


「……」

刺すような水守の視線から、怒気が失せた。

これ以上、俺にナニを言ってもムダだと覚ったらしい。乱暴に掴み上げていた俺の胸倉から、すうっと力が消える。

「……判った……だが……」

水守はフィットのドアから離れた。

そして、真っ直ぐに俺に向き直って姿勢を正す。

「な……ナニしてンすか?」

俺は怯んだ。

水守の思考が読めなくて、カルク後退あとずさりしてしまう。

水守は、躊躇したように一瞬の間を開けると、俺に向かって会釈程度のお辞儀を……い、いや、コレは……

俺の全身がトリハダ立った。


……コイツ、俺に向かって頭下げてやがる……


「……」

コトバが見当たらなかった。

ソレ程、俺は驚いてしまったんだ。

このプライドの塊みたいな成和会幹部である水守のヤツが、『ポチ』と呼んだ俺に向かって頭を下げているんだぞ?

チョッとお辞儀の角度が浅過ぎて甘いけどよ?

ウソみたいで信じられなかった。

「……水守さん」

「うん?」

「今、スッゴク腹が立ってません?」

俺の問い掛けに、水守は顔を上げた。照れ隠しみたいにふふっと笑う。

「……ああ。今スグにでもオマエを始末して遣りたいくらいに……な?」

「冗談っしょ?」

背筋に冷たいモノが流れた。

うひ〜〜〜、口では冗談っぽく言ってるけど、眼が笑ってねー。今の水守なら遣りかねねーなー。


※ 第31話 失明? をご参照下さい。







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