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俺は恵理のマンションを飛び出すと、アテも無くフィットを転がしていた。
鍵が開いていたコウ(松永)のマンションにマンマト潜り込み、そこで俺は本格的に動き出した成和会の事実を聞いてしまう。
しかも、巻き添えはゴメンだと、悪友のコウからも遠ざけられてしまった。
俺は仕方なくコウのマンションを後にした。
フィットを停めていた駐車場で、俺はヤバそうな連中と遭遇する……

その女 ☆ 危険人物!!!
作:かずたか



第28部 恐怖・・・2


俺はイキを殺し、深く屈み込んで身を潜めた。

駐車してある車の陰を伝ってそっとフィットにニジリ寄る――
 
動悸が激しくなり、ソコに居る連中に聞えやしないかとハラハラした。
 
……頼むッツ!!! 俺を見付けるなぁあああ!!! 
 
神様、仏様あああ……
 
俺は思い付いた神様の名前や、ナントカ大魔神って、聞いたコトのあるアリガタそうな名前を心の中で羅列し、必死に祈りマクリ、拝み倒した。
 
神頼みだろーが、ナンだろーがこの際ナンでもヤッテヤルッツ!!!
 
俺の緊張が百二十パーにハネ上がる。
 
……フィットに辿り着き、そっとケツに貼り付いた。
 
ヨッシャ!
 
ココまではダイジョウブ。そして片手で小さくガッツポーズをした。
 
連中はまだ俺には気付いてイナイ。
 
あとスコシィイ……
 
俺は震える指先で、ポケットにあるキーをまさぐった。
 
フィットのキーは、ティファニーとか言うブランドの※キーリングに付けてあった。そのキーリングにも、同じ素材で出来たプレートタグが付いている。
 
金属に、金属。フツウに持っていても音が出る。
 
俺は、恵理が付けていたこのキーホルダーが音を立てないよう、細心の注意をハラって取り出した。

「……」
 
緊張してコメカミから汗が流れる。
 
心臓が先にイッチャいそうだぁああ〜〜〜

 
――俺はいつでもダッシュでフィットに乗り込めるよう、心のジュンビをしながら『その時』を待ち、発見されるかも知れない恐怖に堪えた……

 
……そして、待ち望んでいた『その時』が遣って来た。

 
緊張から来るストレスは、俺にとって、何時間も待っていたヨウナ錯覚を起こさせる。
 
遠くから車のヘッドライトが近付いて来た。
 
生垣で鳴いていた虫が、急にピタリと鳴き止んだ。

「……」
 
松永の居るマンションの近辺は、何棟もの同じマンションが立ち並んでいる、イワユル集合型マンションだ。
 
土地を共有している為、駐車場はかなり広いスペースが取ってある。
 
フィットの前で立っていた男達は、何箇所もあるマンションの駐車場入り口からその車を誘導すべく、フィットから離れた。
 
チャンスッツ!!!
 
連中が俺に気付いて駆け戻って来ても、ギリギリで逃げ出せるだけの距離とタイミングを見計らうと、脱兎のゴトク地面を蹴って伸び上がり、ドアに縋った。
 
素早くリモートキーでドアロックを解除する。
 
ガチャ☆
 
右側のゴツイホスト崩れが、ドアのロック解除音を聞きつけて足を止め、振り返った。
 
俺は躊躇せずにエンジンを起動させ、素早くサイドブレーキをハズした。
 
動き出したフィットに気付き、慌てて二人の男が引き返して来る!
 
遅せぇ〜よッツ!
 
車にさえ乗ればコッチのモンだ!
 
さっきのビビリはドコへやら……俺はハハッツと不敵に笑ってヨユウをカマシた。
 
俺は左足のクラッチを抑え気味にすると、アクセルを力一杯踏み込んだ。
 
フィットはフロントを一瞬だけ軽く下げ、送り込まれて来たパワーをタメて開放する。
 
タコメータのレベルが跳ね上がり、イッタン下がったフロントが浮いた。

「待てや! コラァ!」
 
連中がドスを効かせて怒鳴った。
 
ジョウダンじゃナイ。ダレが待つんだよ?
 
俺は連中とは反対方向にハンドルを切った。

 
フィットが乱暴に向きを変えた途端、ルームミラーが後続車のハイビームをモロに映した。
 
連中が呼び出したヤツの車だ。

「あっ!」
 
眼がくらむ。
 
それでも俺は車道に飛び出し、アクセルを踏んで逃走した。
 
俺の一瞬のスキをツイて、ハイビームの車がフィットとの距離を縮めて来る。

「くっそおおお!!!」
 
俺もライトをハイに切り替え、視界を確保するとスピードを上げた。
 
片側一車線の深夜の車道には、対向車も他の後続車も見当たらない。
 
俺達の貸切状態だった。
 
二台のエンジン音が、松永の住むマンションをまたたく間に後にした――

 
暫らくの間、オイカケッコが続いた。
 
追って来るヤツは、俺を追い越して停める様子も無ければ、アキラメテ見送ってくれるコトも無さそうな気配。
 
ずっとケツに付いて来る。
 
キショイじゃねーかよ。
 
どーゆーツモリだ?
 
俺は迷った。
 
向かっている方向は、高速へと続く、ユルイカーブが連続してる山道だ。まだ当分の間直線が続いている。
 
逆方向の市内へ向かえば入り組んだ宅地道路がイッパイあるし、逃走にはモッテコイだ。
 
追われているフィットで、やっぱ直線はマズイだろ?
 
つか、高速行けば高速機動隊の白バイが多分イル。
 
あああ〜〜〜ッツ!!!
 
片手で頭をクシャクシャと掻いた。
 
俺はドッチにも捕まりたくはねェ〜〜〜!!!
 
追って来るコイツが一体ナニを考えてンだか知らねーが、ココは一刻でも早く消えた方がイイ。
 
ハンドルを素早く左右に振り、俺はフィットを蛇行させた。
 
俺がシカケて来たと思ってか、ソイツのブレーキランプがともって車間距離が開く。

「よっつ!」
 
カウンタをカマシてフィットのケツが右に振れた瞬間、俺はハンドルを逆に切ってリアスライドさせ、直線ドリフトに持ち込んだ。
 
恵理のフィットが悲鳴を上げる。
 
フロント左がスッとインに沈み込み、車体がブレて微妙にローリングしながらもフィットは方向転換した。
 
ヤツと向き合った状態の俺は、ギリギリのトコロで追って来たヤツの車を遣り過ごす。

「!」
 
擦れ違いザマ……一瞬の間だったが、ドライバーと眼が合った。
 
俺にカワサレタってぇのに、俺よりも少しばかり年上のドライバーが、余裕をコイテ口元をゆるめたのが見えた。
 
……俺よりもイケメン???
 
バカにしてンのか? それとも参りましたってか?
 
前後のライト形状と、ライトに浮かんだオオヨソの車体シルエットから推測して、黒いレクサスLS600?
 
とてもじゃねーけど、お互いの車はバトル仕様じゃナイ。
 
ナンだよ。驚かしやがってぇ……
 
コレなら道幅のナイ場所を走れば振り切れる。
 
俺はそのレクサスを甘く見下していた。
 
もう一台、フィットを駐車場で見付けた奴等の車があったのを、俺はスッカリ忘れてたんだ……


 
そのこぶしが深々と俺のミゾオチにめり込んだ。
 
苦い胃液がこみ上げて、堪らずにモドした。

「ぐはぁあっ! ……う、う……」
 
俺はミゾオチを両手で抱えるようにガードしながら、大きく身体を曲げてヨロメイタ。
 
涙眼になりながらウシロへ後退る。

「オラオラァ! 退いてンじゃねーよ!」

「あうっ!」
 
後から両肩を掴まれ、無理矢理引き起こされた。
 
バカ力にモノを言わせて、両腕をウシロで逆手にネジリ上げられた。
 
締め上げられた両の肩関節が、ミシミシと軋んだ。
 
激痛に顎が仰け反る。

「シッカリしろよ。キゼツするにはまだ早えーぞ?」
 
俺にパンチをメリコマセたヤツが、嬉しそうに近付き、今度は顔面を何度も殴った。
 
チクショウ! 人間サンドバッグかよ?
 
俺は何度もアスファルトにたたき付けられ、モンドリウッた。
 
体中、痛くないトコロがナイ。

「車見捨てて逃げてりゃ助かったかもしんねーのにな? バカかテメェはよ?」
 
ソイツの言った通りだった。
 
俺は進路方向をコイツラ(の車)に塞がれ、こうしてアッケなく捕まっていたんだ。

「……逃げられねー」
 
ハンドルを握った俺の全身が戦慄わなないた。

『アタシのフィット……』
 
恵理の言葉が脳裏を過る。
 
家一軒が買えるBMWより、恵理はマイカーとしてフィットを選んでいた。
 
恵理のフィットを見捨てては……逃げ出せなかった。
 
コイツラにフィットを潰されるくらいなら……
 
俺は諦める方を選んでいたんだ。


「そのくらいで止めておけ」
 
凄い力で胸倉を掴まれ、俺は後から遣って来たレクサスの男に引き起こされた。
 
このクソ暑い夜中でも、薄い色の高そうなブランドスーツを着たまんまだ。
 
一体、コイツはダレなんだよ?

「うう……」
 
俺は殴られた痛みを堪え、顔をしかめながらもソイツと視線を合わせた。

「……ほう」
 
俺の視線を受けたソイツが微かに笑った――

「いい面構えだな?」

「いえ、視力がチョット悪いモンで……」
 
俺はへへッと笑って軽口を叩き、強がって見せた。
 
あああ〜〜〜俺のバカッツ!!! ナニこんな時にコイてンだよおおお!!!
 
機嫌ソコネたら殺されるゾ!
 
ソイツは俺のコトバに、鼻でフンと笑った。
 
身長は俺よりもスコシ高い。百八十五前後。均整の取れた身体つきだし、俺がニランダ通り、ホストでもヤッテいそうな甘い顔立ちのイケメンだった。
 
つか、ホンモノのホスト?
 
ただ、ソイツには、右顎から首を伝ってその下へ……シャツの襟に隠れてその先は見えなかったが、大きな古い刃物傷が続いていた。
 
……ホスト……にしては致命的だな。
 
やっぱし……ヤクザさんですかぁあ???

「手間は取らせない。来て貰おうか」

「う……」
 
たった今、俺に殴り掛かって罵倒していたヤツラより、ソイツのフツーに話した言葉の方が、もっと俺を震え上がらせた。


※ティファニーのキーリング:キーチャームとも。ボディピアスの形状をしたティファニーのオリジナル。ハート、オーバル、ラウンドの三タイプがあり、プレートタグには、『PLEASE RETURN TO TIFFANY』(見付けた方はティファニーまで届けて)との文字が刻まれている。文中で使用したのはラウンドタイプのもの。







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