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デスクで課長からの厳重注意を喰らったアト、俺は自分の業務を後回しにして彼女にメールを送っていた。
その日、食事でもと誘った俺に、彼女は快くOKしてくれたのだが、彼女の『食事』は俺が思っていたフツーの『食事』じゃなかった。
うそ……メインデッシュってぇのは……俺かよ?
俺よりも上手な彼女に、襲われると観念した時、課長からの連絡が入った。
助かった……と、思う自分と、惜しい……と思う自分が居る。(どっちなんだ?)
でも、彼女からはどうやら嫌われたワケじゃないみたいだし……
今のトコロはラッキーなのかな?
その女 ☆ 危険人物!!!
作:かずたか



第14話 御呼ばれ?


俺は三浦さんを最寄りの駅で降ろすと、一目散に課長の居る会社へと舞い戻った。

「お早いお着きで」
 
課長は俺の顔を見るなり、アカラサマに顔をしかめて厭味ったらしく言い放った。
 
うわ、ご機嫌斜めだ。
 
だけど課長の服装は、今日見た就業中のビジネススーツじゃなかった。
 
やや深めに胸元がカットされた紺色のシンプルなワンピーススーツに、対になっているボレロは紺色で白い縁取りがしてある。
 
足元は黒のバックストラップの七センチヒール。
 
細い鎖骨には、繊細なシルバーのネックレス。その先には淡いピンク色に輝く小さな石がある、耳にもネックレスとお揃いの淡いピンク色に輝く小さな石のピアスが、薄い耳朶に今にも零れ落ちそうに付いていた。
 
これって……ダイヤ? しかもピンク・ダイヤ?
 
本物志向の課長が、イミテーションを身に着けるコトは先ず……ナイと思う。
 
つか、イミテーション自体が不必要?
 
だとしたら、すげーっつ!
 
ナリは小さいが、初めて見る宝石に俺は無条件で感心した。
 
で、ドコかにお出掛け?
 
俺は聞いていないから、他部署での飲み会か、御呼ばれか……?
 
そっか、今日は週末の金曜日。完全週休二日制の木村工業だ。
 
なあ〜んだ。
 
食事作って待っていなくって正解じゃん。
 
俺は妙な理屈を付けて、三浦さんとの密会(未遂密会?)を正当化していた。

 
俺は運転席から助手席のドアを開けたが、課長はナカナカ乗り込まない。

「? どうしたんスか?」
 
見上げた俺の視界に、課長は腕組みをして強い眼ヂカラでもって俺を睨み付けていた。
 
そして、黙って黒いセカンドバッグからミニミラーを取り出す。

「……?」
 
不思議に思いながらも、俺はそのミラーを覗き込んだ。
 
あっ……!
 
……俺の頬には三浦さんに襲われてキスされた口紅のアトが薄っすらと残っていた。

「あっ、……あのっつ、いや、これは……」

「さっさと拭いて?」
 
課長は怒った声でそう言うと、やっと助手席に滑り込んだ。
 
慌てて手の甲で何度も拭った。
 
……やべぇ……
 
俺としたことが……もうバレチャッタよ。

「司が誰とナニをしようと……イイけど……ワタシのフィットを遣って欲しくないわ」
 
課長は俺から視線を逸らせると、一瞬躊躇ってそう言った。

「ホント?」
 
俺は自分でも驚くほど嬉しそうな声で返事をしていた。

「……」
 
課長は俺に顔を背けたまま、こくんとうなずく。
 
……ウソ吐け。
 
素直じゃねーな。
 
ナンでもっと怒らねーんだよ?
 
俺は課長が顔を背ける瞬間、哀しそうな表情をしたのを見逃さなかった。
 
……怒って貰っても……困るけどよ……
 
俺は居心地の悪さを感じていた。



「え?」
 
俺は課長のコトバを聴きそびれていた。

「聞いていなかったの? 食事、これから行くの。コンチネンタル・ホテル」

「え?」
 
もう一度、訊き返した。

「コンチネンタルよ?」
 
ナニィ?『こんちねんたるほてる』……だぁ???

「場所、判る? ……どうしたの?」
 
俺の呆けた顔を見て、課長はプッと噴出した。

「あ? え? ええ。場所なら判りますよ?」
 
『場所だけ』……ならね?
 
聞いたコトのある有名なホテル。
 
だけど、ソレがナンだって言うんだ?
 
所詮、俺には縁の無いモノだと……思ってた。
 
しかも、食事?
 
うわ……俺、テーブルマナーなんか……知らねーゾ?
 
憂鬱になりながらも、俺はフィットを市街地へと向けた――


 
課長の指示で俺は不器用にエスコートをして、ドラマにでも出て来そうな二人用の予約テーブルに案内された。
 
そして、テーブルマナーを知らなかった俺は……注いで貰うワイングラスを持ち上げたり、音を立ててスープを飲んだり、フォークを落したり……全く、お約束のようにサンザンな食事だった。
 
味はモチロン最高だったけど、俺のマナーはサイテーだった。
 
課長はその度に俺に小声で注意……つか、アドバイスしてくれる……


「……ナンだか、食べた気がしないッスよ」
 
レストランを出ると、俺は課長に文句を言ってしまった。
 
つか、俺の神経状態じゃコレが限界だ。
 
屋台でおでんかラーメン食ってる方がマシだってーの。

「……みたいね?」
 
課長はクスクスと上品そうに笑った。

「帰って何か作ろ……課長も何か食いますか?」
 
俺はまだホテルのロビーにさえ着いていないのに、ポケットから早々とフィットのキーを取り出してもてあそび、帰宅するツモリでいた。
 
ワイン飲んだから、モチロン代行……カッコ悪いケド。

「……」
 
急に立ち止まった課長を俺は取り残して先を歩いていた。

「……どうしたんスか?」
 
振り返った俺に、思い詰めた表情をした課長は……
 
黙って俺に向かって握った右手を差し出した。
 
俺の視線を避けるように受け止めながら、テノヒラを返して徐に細い指を開く――

「……ナンの……マネ?」
 
鼻白んだ。
 
課長のテノヒラには、ホテルのカードキーが納まっていた。

「……予約……したの」
 
冗談。
 
さっきのお粗末なテーブルマナーで、シェフやソムリエから失笑を買い、課長からは苦笑を買っていたのに……まだこのホテルに居座れってぇのか?
 
俺は一刻でもこの場から立ち去りたかったのに。
 
一気に不機嫌になった。
 
居心地悪すぎて息苦しささえ覚えているのに……

「……」
 
俺はカードキーを握っている課長の手を包むようにして握ると、力任せにその腕を引いた。

「ちょ? 司? どうしたの? ねえ?」
 
そのまま黙ってフロントへとずんずん歩く。
 
課長は俺に腕を掴まれて引き摺られるようにしてついて来る――

 
フロントの従業員は丁寧に応対してくれた。

「キャンセル」
 
俺はムッとなったままそう一言。
 
そして課長の手からカードキーを奪い取り、カウンターに戻した。

「あの……何かお気に召しませんでしたでしょうか?」
 
トラブルかと、気配を察して奥から出て来た責任者が、戻されたカードキーを見詰めて問い掛けた。

「いや、こちらの都合です。代行呼んで貰えますか?」
 
責任者は一瞬、フに落ちないという表情をしたが、俺の要望に応えてくれた。

 
俺はマンションに戻るまで、課長とは一切顔を合わせないようにしていた――


「どう言うツモリ……」

「どう言うツモリですか?」
 
玄関のドアを閉じた途端、俺達は向かい合って同じ台詞を口走っていた。
 
俺の剣幕の方がスコシだけ課長よりも勝っていたみたいだ。
 
課長は言葉を詰まらせて口をツグんだ。
 
あ、しかも退いてるし。

「課長も判っていたでしょ? アレだけ俺に恥掻かせて……まだナニをするツモリだったんです? 夜景がキレイだって言ってたけど……もお、勘弁してくださいよ。俺は居たくなかった……判るでしょ? 俺は、あの場所には場違いなんッスよ」
 
で、俺は先に自分の不満をぶちまけていた。

「俺なんか……え?」

「……」
 
急に課長は泣き出しそうな顔をして、俺の胸に飛び込んで来た。

「うあ? ……ち、ちょっ……」
 
突然のコトに、一瞬怯んで背中から壁にぶつかった。
 
ドキン!

「……馬鹿!」

「はへ?」
 
ナンて仰いましたぁ?

「アタシに……」
 
課長は俺の片手を取って、壁際に押し遣られた俺のフトコロ内側から深く入り込むと、流れるような体捌きでもって、俺を鮮やかに投げ飛ばした。
 
☆ ☆ ☆ 
 
目の前で星がチラツク〜〜〜

「痛う〜〜〜」

「女に恥掻かすなんて……サイッテー!」
 
痛ててて……
 
肩口から受身の練習をさせられているみたいに投げられた。

「ああ、そーですよ。俺は課長のお相手には値しない、サイッテーのヤツだよッツ!」
 
ぱし!

「ってーな! 殴るコトないでしょ?」
 
平手は何度も喰らっていたが、サスガに今回のはキビシかった。
 
つられて俺の頭もカッと血が昇る。
 
俺はホテルで何度も逃げ出したかったのに……無教養丸出しの俺が……晒されているのガマンして、ずっと付き合っていたんだゾ?
 
なのにナンで殴られないとイケないんだ???
 
途端に、三浦さんの口紅のアトを見付けられて、嫌な顔をしている課長の顔が浮かんだ。

「俺が他の女とヤルのがそんなにイケないコトですか?」
 
うわ、今俺ナンかヤバいコトを口走ったヨウナ?
 
もお、イイや。(開き直り)

「そうよッツ!」
 
ムカ!

「いつ、課長が俺の女になりましたっけ?」
 
いい加減にしろよな……ザレゴトゴトキで彼女ヅラされちゃ堪んねーんだっつーの。

「だから!」

「?」
 
予想していなかった課長のキリダシに、俺は少し驚いた。
 
その面喰った俺の表情に、課長はつい黙り込んでしまう。
 
ナニが『ダカラ!』なんだぁ?

「だから……ナンです?」

「取ったのに……」
 
課長は少し躊躇うように小声で言った。

「ナニを?」

「……部屋の……予約」

「ああ、あのカードキーのコト? へぇ〜そうだったんですか……って、ええっ?」
 
課長の言わんとしているイミをヤット判って俺は退いた。

「……最上階の……スイートだったの……」
 
マジで?……うわ……モッタイナイ! 
 
以前、お水の麗華れいかや何人もの女性達から聞いたコトがある。
 
自分が行った部屋は最上階じゃなかったけど、あのホテルから見えるロケーション(夜景)はバツグンだって……

『司っちも、(俺は一時そう呼ばれていた……ハズカシイ)彼女と来ればイイよぉ?』なんて言われて、その度に『俺がそんな金の掛かるトコロなんか行ける訳ナイだろッツ』って、言って笑いトバシてたよなぁ……
 
……ってぇ、今はそうじゃないだろ。

「イッショに朝を迎えましょ……って?」
 
課長の言葉尻をとって、俺が続けた。

「……」
 
課長は俺から視線をハズして頬を赤くすると、恥ずかしそうに片手を口元に持って来た。
 
そしてホンのスコシだけ間があってから、コクンとうなずく。
 
いや、今までも十分イッショに朝を迎えておりますが……?
 
それでもナットク出来ないと?

「……」
 
……一歩手前で自重出来るか? 俺?(不安)

「はぁ……お仕置きが必要ですか?」
 
俺は深く溜め息を吐いた。
 
その様子に、課長は瞳をウルウルさせながらも驚いて俺を見上げる。
 
まるで拾い上げられたネコみたいだ……それも品評会にでも出られそうな血統書ツキのネコ……野良犬の雑種の俺とはヤッパシ違うよ。
 
しゅる……
 
俺は上着を脱ぐと、乱暴にネクタイを解いた。

「イヤだって、泣いちゃっても知りませんからね?」
 
正面からふわりと抱き締めた。
 
課長の竦めた肩がびくんとハネる。
 
さすがに俺の言葉に退いていた。
 
今更後悔したってオソイからなっつ。
 
挑発したのは課長だぞ?








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