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リスタル、再会の宴

「ところで革の篭手にしては重かったが、何か武器でも仕込んでいるのか?」

 直時の向こう側、一番遠い席へと追いやられたヒルダが訊ねた。直時の左隣にはフィア、右隣にはミケが座り、それぞれがいきなり斬りつけたヒルダを威嚇している。


「はじめは武器のつもりじゃなかったんですけど、攻撃の材料として水と砂を袋に入れています」

 体のバランスに違和感があったため、篭手に重りとして入れた。それだけのことだったが、直時が精霊術を使う上でプラスとなった。

 風と闇の精霊は即応出来るが、水と土の精霊術は材料がそこに無ければ使えない。飛行移動が多い直時である。空の上では雲があれば別だが、大気中の水分を集めるのに時間がかかる。まして土など皆無だ。

 篭手内の水と砂は、大きな精霊術の素材にはならないが、選択肢を絞る事で咄嗟の反応には役立ったのだ。属性に沿ってさえいれば広く応用が効く精霊術は、直時に使用方法の取捨選択という思考を強制し、発動に僅かなタイムラグを生じさせていた。訓練でもフィアが特に気にしていた部分である。まだ、克服出来ていない。


「水と風、土と風の組み合わせで氷の針や石の針を射出って案も出たんですけど、撃ち尽くすと補給が必要なので、近接用にこんな感じで使おうかなーと……」

 立ち上がった直時は、卓から少し離れて左手をかざす。


 篭手に空けられた小さな穴から細い線が流れ出た。液体のようだが不透明で濁っている。水と砂が混じっているのだ。細い線は様々に形を変える。細い鞭のようでもあり、新体操のリボンのようにも動く。直時は、変幻自在な様子を披露したあと、前面に数個の輪にして浮かばせた。


「何か投げてみてください」

 ミケがフィアの顔を窺う中、ヒルダは無造作に腰の短剣を投げた。


――ギィンッ!

 耳障りな音が響き、ヒルダの手から放たれた銀光は直時の眼前で数個の欠片となって落ちた。水砂の輪が迎え撃った結果だ。


「弾くのではなく、斬るだけでもない……。絡めとって勢いを殺しているな」

 ヒルダの観察眼に舌を巻く直時。高速で流れる水と砂の刃は、攻撃を受け止め且つ切断する、水と土と風の精霊の複合術であった。高圧射出の『ウォーターカッター』からヒントを得てイメージし各精霊を制御した。素材の消費を避けるため、基本形状は輪で循環している。鞭状の場合も輪をり合わせて操っていた。


「異なる精霊達の協調には苦労しましたけど、何とかモノになりました。大規模な複合術は無理ですけど……。これくらいなら精霊術というより、篭手が魔具だと誤魔化しも可能かと――」

 そこで直時以外の全員が首を横に振る。リスタル防衛戦前ならばまだしも、『黒髪の精霊術師』として名を馳せてしまった現在では、何の意味もない。


「水と風は加速と変形、土の精霊はどう動いているニャ?」

 「折角の苦労が…」とか小声で落ち込んでいる直時にミケが質問した。確かに水流に砂を混ぜてしまえば同じ事は可能で、土の精霊術に魔力を込める必要がないと思える。


「それは砂の粒子の形状変化と復元です。硬い物を切断すると砕けてしまうんですよ」

 水と砂を手甲に収納した直時は、右掌に少量の砂粒を乗せてミケに見せる。不揃いであるはずの砂粒が小さな立方体となっている。


「これが高速で流れる水に混じっているわけか……。ゾッとするな」

 ヒルダも卓の向こう側から身を乗り出して呟いた。

 貴女ヒルダの躊躇ない攻撃の方がゾッとしますよ! とは突っ込まない直時だった。


「精霊術師ってバレまくってるなら、それはそれで使い様もあるかな?」

「何のことだ?」

「その前に、ミケさん。魔法陣改造について、もう広めましたか?」

「まだ誰にも言ってないニャ。タッチィの調査報告書に現象自体は記入したけど、やり方は報告してないニャ」

 ミケへの調査依頼はギルド神エルメイアからのものだとしても、報告書にあがれば何処から情報が漏れるとも限らない。今のところ漏れたとしても直時だけの特殊技能だと思われているだけだろう。そう判断し肯く。


「じゃあ、このやたらと大きな篭手を使っている最大の理由をお話しましょう」

 直時が装備している篭手はもっと大きな体格の者が使用すべき大きさである。長さは切り詰めてあるが、太さは彼の腿ほどもあるのだ。義手代わりにしては、あまりにも大きい。


「見てもらった方が早いかな。答えはこの改造魔法陣にあります」

 発動することなく描く魔法陣。改造に携わったフィアと違い、ミケとヒルダは直時の眼前に浮かんだ魔法陣に驚愕した。

 改造自体はここに居る者の知る所であった。構成自体は人魔術の法則から外れるものではなかったが、形状が常識の外だった。


 人魔術の魔法陣は様々な種類がある。大きさも掌大のものから直径1メートルを超えるものもある。しかし、その全ては円が基本となっている。一番外側の円陣が物質世界との境界を為し、純粋な魔力を魔術回路によって現象へと変換する。最も基本的な形だ。

 直時が編んだ魔法陣は円筒形だった。よく見ると小さな円陣が幾重にも重なっている。その重なった魔法陣を貫くような回路がいくつも存在していた。


「篭手の中に収まるよう小型すると、どうしても簡単な術式しか出来なくて……。複数の魔法陣だと個別に発動するし、どうにか繋げられないかなぁってことでこんな形になりました。『積層型魔法陣』と名付けてみました」

 高度な術式は複雑な回路が必要となり、どうしても大型化せざるを得ない。当初、既存の魔法陣を縮小してみたのだが発動しなかった。原因は魔法陣内の回路を為す模様には、形だけでなく大きさにも意味があり、単純に比率をそのままに縮小すれば良いわけではなかったからだ。

 直時は解決策として、必要な魔術回路を発動可能な極少単位に分割し、それらを統合することで一つの術式として編み上げた。

 平面方向だけでなく立体的に繋げる魔術回路などという非常識な試みが成功したのは、発動先を設定しなければ魔法陣は発動せず消えないという発見があったためだ。見て確認しながら改造することが可能になったことで、魔法陣改造の新たな可能性が現れたのだった。


「ちなみに他にもあります。『立体格子型魔法陣』です」

 続いて編まれた魔法陣は立方体だった。平面に展開するだけの円陣とは異なり、掌サイズながら、六つの正方形が合わさりそれぞれに魔術回路が描かれ、それらを繋ぐ立体的な回路までが存在した。外縁の円陣の役割を果すのは各辺である。

 どちらも小さく纏まっているが描かれた情報量は多い。大きな魔法陣と遜色無い高度な人魔術である。「義手内に編むために小型化したい」などという直時の個人事情と興味本位が、さらなる人魔術の進化を促した結果となる。一般に広まるのはまだまだ先だろうが……。


「今は実験段階で完成したのは二つだけです。この大きさなら篭手の中で編めるので改造した魔法陣を見られることはありません。精霊術師で名が通ってしまってるなら、精霊術だと押し通すのも良いですね。どんな魔術かは屋内では危険なので発動させませんけど……。必要なら転写しましょうか?」

 ヒルダとミケは呆然としたまま顔を見合わせた。同じ感慨を先に経験したフィアは苦笑している。


 聞きたいことは他にもあったが、現状確認とこれからの行動方針が先だとフィアが言い、再び四人は席に着いた。

 直時がヒルダに頼んだ知人の保護は期限を区切れないため終了。グノウ親子をはじめ、他の者も一時避難する気が無いことを再確認した。

 シーイス公国からヒルダへの要請は辞退することになった。無論、直時の推薦もである。重要な案件にもかかわらず、その後の交渉で具体的な話がなされなかったこと。リシュナンテが語った不満分子の取締りという偽報への言及が無かったこと等が、シーイス公王への警戒と不信の原因である。

 何よりもクニクラドやエルメイア、神々の語った普人族の始母、彼女の意識が本能として影響していることが問題だった。混血や歳月と共にわだかまりは薄まっているとは言え、急激な変化は望めない。性急な融和は無用の争いを呼ぶとして、直時以外はシーイス公国の提案を却下した。


「でも、まだまだ根回しの段階だと感じるんですけど。ヒルダ姉さん、向こうから問題解決の助言を求められてはいませんか?」

 公国が考える普人族側の『準国民』と他の種族との隔たり。それを近付けるための意見交換の有無を訊ねる。直時は諦めきれないようだ。


「民を集める良案は無いかと聞かれたが、マケディウスの商都『ロッソ』のように自由にさせれば良いのではないか? と、だけ言っておいた。シーイス公国も諸国に較べて緩いが、税率や街での土地所有など制限は多いからな」

「国民以外は商売に課される税金は倍額ニャ。家屋も借りることは出来ても、買うことは出来ないニャ。普人族の交易商人は、お金次第で貴族や官吏が保証人を引き受けるけど、他の種族は許されてないニャ」

「マケディウスは税を軽減して人と物の流れを良くしてるってことか。あそこは大きな港もあるし、シーイスとは立地が違うからなぁ。別に国民にならなくても受ける恩恵が多いならそっちに行くよな。同じ軽減策を取っても民は来ないだろうな」

「準国民と言っても、多分良い事ばかりではないと思うわ。特にいくさの気配が濃い今、兵役は絶対に課されるはずよ。おまけにシーイス人になったら、関係が悪くなった他国へも行けなくなる」

「確かに順序が逆なような気もするな。民が集まって故国として認識してもらって、その後なら故国を守るためって思えるだろうけど、今の状況じゃあ国民になりたきゃ兵として戦えってふうにしか取られないもんな。結局、受け入れてもらいたければ盾として働けって上から目線の政策でしかないのかなぁ」

 自国の利益を第一とする為政者であるなら当然だ。むしろ愛国的と言えるだろう。段階的に立場を上げていければ、普人族と他種族の融和も進むかと考えた直時だが、当の他種族である三人の言葉が浮かれた頭を冷やしてくれた。彼としても獣人族が普人族国家のために使い潰される様子を見たくは無い。大きな溜息を吐いたあと、ふと気になることがあった。


「あれっ? 不動産は買えないんですよね? じゃあこの家はどうやって? それにミケさんのお師匠、リタさんと旦那さんのジギスムントさんも普人族じゃないのに店持ってましたよね?」

 ノーシュタットの街で直時が世話になった、宿屋兼武器屋を夫婦で営んでいる。リタはダークエルフ、ジギスムントはドワーフ、二人共妖精族である。


「ウチは裏の伝手があるのニャ。姉御んちはギルドが保証人なのニャ」

 法の抜け道はあるようだ。尤も彼等の場合が特殊なだけで、他の者は法に沿って生活している。


「普人族の街で生涯を過ごすつもりは無いから、私は特に気にしたことはないわね。厳しい街や国には近寄らないし」

「伴侶は同族から選ぶことが殆どだ。子育ても郷でするからな。まあ、普人族の街は様々な物が溢れているし、美味いものも多い。しかし、私も住もうとは思わんな」

 フィアとヒルダの様子に苦笑するミケ。竜人族やエルフならばそうだろう。


「獣人族も本来は街に定住はしにゃいけど、仕方無いこともあるニャ。帰る処があれば、大きな普人族の街での生活は良い経験ニャ。他は冒険者になって、あちこち流れるニャ。連れ合いが見つかれば何処かに落ち着くし、そうでなければ流れるままなのニャ」

「――依頼が無いなら『ソヨカゼ』へ遊びに来てください。今日は様子見ですから明日は帰る予定ですし、是非! 家にも空きがあるし別荘として格安で売っちゃいますよ?」

 彼女の曇った表情が気になった直時が笑って言った。ミケが微笑む。


「難しい話はこれくらいにしておくニャ。久し振りに一緒に飲むのニャ!」

「そうね。街でゆっくり飲むのは久し振りだわ。ところで落ち着けそうなの?」

「私が居るのだ。問題無い。無粋な輩は叩き出してやるさ」

「おやっさんの料理は久し振りだなぁ。高原の癒し水亭は予約無しでも大丈夫かな? 食堂もだけど部屋が空いていると良いんだけど……」

 一気に賑やかになる一同。フィアがヒルダに新メニューを訊ね、ミケは何処かに念話している。直時は精霊獣を呼び戻して、影の中で大人しくするよう言い聞かせた。


「食堂の方は大丈夫ニャ。あと、ブラニー親父やギルド長も呼んだニャ。それと、宿泊はここにすると良いニャ」

 ミケの念話は、あちこちへの連絡だったようだ。


「ここって、ここ? ミケさんち?」

「良いの?」

 直時とフィアが聞いた。


「何があるか判らないニャ。ギルドの勧めでもあるのニャ。ウチは構わないニャ」

 ミケが任せておきなさいとばかりに胸を叩いた。


「その代わり……」

「その代わりに?」

「精霊獣を出すのニャア! 抱っこしたいのニャッ!」

 ミケに迫られた直時は、苦笑いと共に再び影から彼等を呼び出した。風獣フーチ、闇獣クロベエ、土獣ゲンの他、火の精霊獣である赤い鳥と、水の精霊獣である水蜥蜴みずとかげが姿を見せた。火獣はホトリ、水獣はチリと紹介された。

 ミケが一匹ずつ頬ずりしていたため、出かけるのが遅れたのは言うまでもない。ミケの嬌声に隠れていたが、ヒルダがこっそりと精霊獣達を撫でて頬を緩めていたのは秘密である。




 高原の癒し水亭の食堂は、直時達が入ると話を聞きつけた人々が押し寄せて直ぐに一杯になってしまった。リスタルの住民達にとっては恩人御一行様である。一目見ようとたくさんの者が詰めかけた。


「椅子は全部片付けちまえ!」

 ベルツ戦具店の禿親父、ブラニーの一言で食堂の椅子は消え、立食形式で入れるだけの人を迎えたのである。


 感謝の言葉と共に次々と酒を注がれ、愛想を振りまいていた直時だったが、あまりの勢いに顔が引き攣っている。フィアとヒルダも酒攻めに合っていたが、直時に較べて人々に遠慮が見られた。そのしわ寄せが直時に来る。魔術屋の若旦那やギルドの受付嬢など、顔見知りと言葉を交わすこともままならない。


「酒が足りねぇーぞお!」

 との声が上がり、店の外から酒樽が次々と持ち込まれる。当然、料理も足りない。給仕には臨時雇いの娘だけでなく、受付担当のアイリスも出張っている。厨房が気になった直時は、乾杯攻めから逃げるようにオットーのところへ向かった。


「おやっさん、久し振り!」

「おう! 良く来た! お前さんは客だしリスタルの恩人だ。大人しく食堂で騒いでろ」

「酒ばっかり飲まされて、腹がガバガバなんだよ。食い物が欲しいんだけど、間に合わないから手伝いに来た! いや、むしろ作って食う!」

 既にオーダーも何も無い。出来上がった端から運ばれている。援軍を得たオットーだったが調理場は激戦の最前線であった。


 竈はオットーに任せ、直時はひたすら食材の下拵えに徹する。一度包丁を手にしたが、食材を押さえる左手が篭手なのに気付いて傍らに置く。篭手で調理するには抵抗があった。精霊術を発動させる。

 『黒髪の精霊術師』と呼ばれる今、遠慮は無用とばかりに水の精霊術で食材を洗い、風の精霊術で食材を刻む。種類、大きさ、形、はオットーの指示だ。料理は手間のかかるものは避けられ、炒め物が中心となっている。オットーは物量作戦に出たようだ。

 直時は、片手間にめぼしい野菜を塩と昆布で和え、柑橘の皮を削って入れる。軽く揉んで放置。食材を切りながらちょくちょく摘んで飲んでいた。


「ほら。おやっさんも一杯いこうぜ」

 持ち込まれた酒樽の中から蒸留酒を大きな杯(麦酒用)でかっぱらってきていた。差し出された中身を確認せずに一口飲んだオットーがむせせそうになった。ぐいっと口元を手の甲でぬぐって笑う。


「美味いな!」

「本当にね!」

 返された杯から直時も一口飲む。笑い合って調理を続ける二人。回し飲みをしながら目の回る忙しさの中、東方で食した料理の数々を話す。直時とオットーは、彼等なりの再会を祝していた。


「タダトキさん、お帰りになった方もおられるのでそろそろ食堂に来られませんか? お父さんも――。うちの外に露店が立ってお料理も間に合ってきてるから、一緒にお話を聞きましょうよ」

「……さっき大きな音がしましたけど、まさか?」

「ヒルデガルド様とフィリスティア様が、騒動を起こしそうになった方々にお帰り願ったようですわ」

 変わらないおっとりしたアイリスだが、その内容に直時は冷や汗を流す。少し酔いが醒めてしまった。


「……壊れてないですよね?」

 直時が聞いたのは店の備品だけのことではない。フィアとヒルダが酔いに身を任せているならば、速やかに撤退しなければならない。クスクスと笑うアイリスの目元が赤いのは気のせいだろうか?


「おう、判った。タダトキ、この皿で全部だ。持っていくのを手伝ってくれ」

 直時の危惧と娘の様子に気付かず食堂へと歩き出すオットー。覚悟を決めて後に続いた。


「遅いっ」

「お前の分は確保してある。存分に飲め!」

 直時の左から絡むのはフィア。右側からはヒルダが近付いた。

 左腕は篭手ごとフィアの両腕に捕まえられ、背後に回ったヒルダは直時の腰を捕まえ顎を右肩に載せている。そして、それぞれが皿の中身を指で摘んで口に放り込みはじめる。


「ちょっ! 二人共はしたないですよ?」

 直時が慌てたのは何も食事のお行儀だけではない。フィアに抱え込まれた左腕は控えめながらも柔らかな胸の中に固定されているし、背後から抱きついているヒルダの大きく柔らかな二つのものが背中越しに感じられる。

 平静を装い顔色を変えない直時へぶーたれる美女を引き摺って、ミケ達が待つテーブルに向かう。グノウ親娘とブラニーが笑いながら待っていた。


「改めてタッチィおかえりなさいということで乾杯ニャーっ!」

 ミケが音頭をとって杯を掲げた。皆も「乾杯っ」と、続き、杯を合わせる。その後は今まで何処を旅して、今どうしているのか? 美味い酒や美味い食べ物の話などになった。酒の席とはいえ、神々や神器についての話はしない。


「遠く東の方まで行きましたけど、今は開拓村作って色々と試してるところです」

「ほう。『ソヨカゼ』の街か。一度行ってみたいものだ。東の果てなら、さぞ珍しい食材も手に入るだろうな」

「ああ! おやっさん、米ってのがあるんだけど、これが俺の故郷の主食でね。まるっきり同じ種類ってわけじゃないけど、西じゃ見かけない食材かもね。他にもリッタイトで珍しい香辛料とかあったよ」

 話は弾むが、何やらヒルダとミケが不満を募らせてゆくのが見受けられた。


「ヒルダ姉さん、どうしましたか? ミケさんも――」

「まあ気易くしてるが、気付かないこともあるってことさ」

 ブラニーが笑う。益々判らないと首を傾げる直時。


「タダトキよ。常々思っていたのだがな、お前の接し方には差があるのではないか? その……、フィアと私の間で!」

「え? そうですか? 二人共大切な――尊敬する師匠と思ってますよ?」

「お前っ! 言い直した方が駄目な方だろうがっ! 私が言いたいのはフィアに対する時と他では口調が違うのではないかと言うことだ!」

 大切な――のところで変更した直時に激昂するヒルダ。ミケが肯いている。


「もしかして敬語のことですか? 俺は精々丁寧語くらいしか使ってないんですけどね。実家が商売してたんで、基本的に年齢に関係なくこんな感じですよ?」

「フィアちゃんだけ扱いが違うのニャ!」

「あーっと、それはですねぇ……」

 言い澱む直時。なかなか説明が難しい。この世界に来て右も左も判らない状態で、タメ口で良いと言われたからそのままなのだが、判ることが増えるにつれ会う人物全てが目上の人と思えて仕方無いのだ。年齢もそうだが、経験の差もそうだ。皆、訳もわからず成り行き任せの行き当たりばったりの自分とは比べ物にならないくらい、地に足がついている。

 オットーとは包丁で語り合った仲(物騒な意味ではない)なので、何となく気易いだけである。


「私は姉だ! 姉として命令する! フィアと同じように普通に話せ!」

「……姉は目上です」

「口答えするなっ」

 鈍い音が響いた。ヒルダの拳骨が直時の頭に落とされたようだ。世の姉とはこれほど理不尽なものなのだろうかと考えながら頭をさする直時であった。


精霊獣の名前ですが、呼びやすいように短く心掛けた(直時)!

風のいたちでフーチ。闇は深く考えずクロベエ。土は玄武と玄武岩からゲン。火は火鳥の読みのままホトリ。水はミズチとリザードのお尻と頭から一文字ずつです。

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