東と西と
黒影海の北岸に建設された集落。名前が必要だとのことで、直時に命名権が与えられた。皆から急かされる中、直時は日本語の発音で『ソヨカゼ(微風)』と名付けた。
アースフィアで初めて出会った相手が『風を統べる女王』で、迷い込んだ場所が『風廊の森』、旅の道連れとなって今も共に在るフィアが『晴嵐の魔女』と、何かと風に縁があったからだ。そこには、「ゆったりのんびり異世界生活」、というささやかな願望も込められている。今は小さい集落に過ぎないが、後にソヨカゼの街と呼ばれることになる。
それとは別に、岩山の砦の方は『風の城砦』と皆が言うようになった。直時は面倒臭いのか、『自宅』と言っている。
町の方へ向いた入り口は、一階は広い玄関と二階へ上る大きな階段がある。一階に部屋が無いのは殆どを黒狼親子の住居にしたためだ。町の住人と黒狼達、双方に配慮して黒狼の出入口は直時達が使う反対側に作った。普人族程ではないが、獣人族でもやはり黒狼は恐ろしいようである。直時はあまり気にせずホルケウに会いにいっていたりする。
その『風の城砦』の一角に、闇の精霊術で封印を施されている場所がある。直時が人魔術の開発、改造のために用意した地下室だ。隣には厚い壁を隔てて実際に使ってみるための実験室もある。
そこへ直時とフィアとヲン爺が、二つの神器を前にして集まっていた。
夜の王クニクラドの依頼では、利用されずに遊んでいる神器という条件があった。入手した神器『影櫃』と『紅炎剣』は、共に使い手がいたが、争った結果として直時達の手許に残ってしまった。
「あまり気にする必要は無いんじゃない? こちらが狙った訳じゃないんだし、敵対してこなかった方の神器使いは見逃したんだし――。ねえ? ヲンさん」
「此度のことは不可抗力ですな。『影櫃』については主も承知の上で御座いました」
二人の言葉に直時は胸を撫で下ろした。成り行きとはいえ、依頼の条件を違えてしまったことに気を揉んでいたのである。親交があるとはいえ、神々の一柱だ。どのようなことで不興を買うのかまでは判らない。
「じゃあ、早速届けに行きましょう。クニクラド様のお手を煩わせることは流石に不遜だし、『暗護の城』まで飛べば半日くらいで着くでしょう」
「あ、フィア、ちょっと待って欲しい。ヲンさん、神器の回収はお急ぎですか?」
「何言ってるのよ! クニクラド様直々の御依頼なのよ!」
「まあまあ、フィア殿。主はそのように狭量ではないですぞ? 依頼に関して期限は特にありませんな。――試してみたいですか?」
フィアを制したヲン爺は、直時が神器に興味を持っていると思ったようだ。
「ワシが使っておった神器に土の精霊を見られたタダトキ殿ならば、火の精霊術を習得することも叶うやもしれませんのう」
「土の精霊術はそうやって使えるようになったわけね」
ヲンの言葉にフィアが肯いている。
「あー。そういえばそうでしたね。じゃなくて、俺が気になっているのは『影櫃』の方です。この神器みたいに隠密性に特化した神器って、この周辺国に使い手がいたりしますか?」
「ワシも全ての神器を把握しているわけではないですからな。しかし、姿を隠す能力を持った神器は他にも存在しております」
「やっぱりな……」
直時は、ヲンの返事に小さく呟いた。
「ヲンさん。失礼を承知で伺います。『影櫃』と同等の神器で侵入してくる者を、派遣していただいてる警護の方々は見つけることが出来ますか?」
「――ふむ。難しいでしょう」
ヲンの答えに落胆する様子から、本当は自信を持って肯定して欲しかったようだ。
「寝込んでた自分が言うのも何ですが、此処を長期留守にするならば警戒網を作っておきたいんです。そうじゃないと安心してうちを空けられないので……」
「人員の増加をお望みですか?」
「いえ。そんな無茶を言う気はありません。探知系の人魔術を開発しようかと思ってます。本格的なものはじっくりと作るつもりですが、とにかく『影櫃』レベルに対抗できる術を作って皆に覚えてもらいたいんです。勿論クニクラド様を長くお待たせする気はありません。なので、実際に実用に堪えるかどうかご意見、ご感想等、助言をいただければと……」
ヲン爺に深く頭を下げる直時。フィアも及ばない程の歳経た魔人族のヲン爺ならば、知識と経験は膨大な量になるだろう。先の戦いでのような失態はもう二度としないと誓った直時は必死だった。
「宜しいでしょう。神器を上回る人魔術ですか……。ふぉっふぉっふぉ。面白いものを見ることが出来そうですな。クニクラド様には私からお伝えしておきましょう」
「有難うございます! というわけだからフィアも手伝ってくれよ?」
「人魔術の改造は――その様子だと、ヲンさんも知っておられるようですわね?」
「主はエルメイア様とも親交がありますからな」
必死に隠していたことであるが、色々な所で駄々漏れのような気がする直時は不安になった。フィアも同じようだ。
「今のところ眷属でも口の固いものだけです。その事実は聞きましたが、方法まではワシも知りませぬ」
「神々も広めることに躊躇を感じておられるということですか?」
「違うわね。見ておられるだけよ。どうするかはタダトキ次第、いえ、知ったからには私達次第ということでしょうね」
心配する直時にフィアが言う。この辺りは神に対する感覚の違いだ。アースフィアの神々が地上に干渉する場合、大義より個人的な理由の方が多いのだ。
ヲン爺は、魔法陣改造の守秘と、引き続いての警護人員の派遣とをその秘密に触れる交換条件として快諾した。夜の王クニクラド直臣の確約に安堵する直時。ヲン爺は、他にも対価を用意するという。
こうして異世界人こと、『神人』直時とエルフのフィア、夜の王の重臣ヲン爺による人魔術の改造、開発が行われることになった。常識はずれの直時と、好奇心優先のフィア、それを諌めるはずの年長者ヲンが歯止めをかけなかったことで、此処『ソヨカゼ』の街で人魔術開発の暴走が始まった。
連日の試行錯誤で小規模な実験を通過した魔法陣。その実地試験として『風の城砦』外の平原に出ていた直時達。突然その脳裡に警報が鳴った。警護詰所に設定した警戒線に誰かが触れたのだ。
人魔術『報笛』を索敵ではなく警報装置として応用し、異変を感じた場合警戒線に触れて報せるようにしていたのだ。
《ブランドゥ、上空哨戒を頼む! 直ぐに上がれるか?》
《タダトキ、問題ありません。現在上昇中、警戒方向は?》
《まだ報告が無い。ソヨカゼを中心に全周を索敵してくれ》
《了解》
直時がブランドゥへと指示を出している間、フィアとヲン爺は他に念話を飛ばしていた。
《ドゥンクルハイトさん、北の森への隠密索敵お願い出来ますか?》
《任せておけ。ハティとホルケウも連れて行く。良い訓練だ》
《戦闘は控える方向でお願いします》
《敵の確認と追跡、発見されれば退けば良いのだな?》
《はい。お願いします》
黒い影が三つ、北の森へと駆け去った。ドゥンクルハイトが先行し、ハティがホルケウに付いている。
「暗護の城の者達は警報で街の外周へ展開しました。警戒中ですが、何も発見しておりませんな」
ヲン爺が直時に伝える。
「マーシャ達は『城砦』内へと避難するよう伝えたわ。それと、警報は人魚族から。海よ!」
「マジかっ? 神獣が怒るんじゃなかったのか?」
「相手が誰でどんな意図を持って近付いてるのかは判らない。人魚族は港を中心に海中で待機中」
直時を落ち着かせるようにゆっくりと言うフィア。
《ブランドゥ。南だ。海上をこちらに向かう者がいる。偵察、報告を頼む。くれぐれも魔術の射程には入るなよ?》
《白烏竜の速度を侮ってもらっては困ります。了解しました》
ブランドゥが軽口を返す。抑えられていた自我が表に出始めているようで、心配とは別に嬉しさも感じる直時。
「俺達も行くか。ヲンさんは暗護の城の人達の指揮をお願いします。いざという時はマーシャさん達を『影の道』で避難させていただけますか?」
「この街を守らないのですか?」
「勿論そのつもりですけど、万一ということもあります」
「フォッフォッフォ。失礼、タダトキ殿は良い意味で臆病な所がありますのう。あまりご自身を過小評価するのはどうかと思いますが、宜しいでしょう。引き受けました」
ヲン爺に一礼した直時はフィアと共に風を纏って空へと翔け上がる。
《タダトキ。船が見えます。大型船1。中型船5。大型船を中心に楔形でこちらに航行中》
《了解。直ぐに向かう》
「フィア、人魚族にも遠くから監視だけで、近付かないように伝えて」
「判ったわ。正対するのは私達だけでやるのね?」
フィアが念を押す。
「俺が前に出る。フィアは援護を頼む。『氷塊』はもう覚えたろ? 後ろからド派手にかましてやってくれ。弾着と同時に旗艦の前に出る」
「駄目よ! 神獣の怒りを買うような行為は慎みなさい。ともかく防御を固めて話を聞きましょう。私も出るからね!」
「いざという時に後方で状況把握してくれる方が良いんだけど? 今回はやばそうと判断すれば、即座に撤退予定だし。あと、優先順位はマリーちゃん達だから」
「……むうっ」
直時が赤子のマリーを理由にすると、難しい顔で唸るフィア。渋々ながら了承した。
「これこれ! これでどうよ?」
フィアに心配をかけまいと、先に防御方法を見せる。海面近くまで降下し、『氷塊』を数十個作成。風の精霊術で拾い、自身の周囲を緩やかに旋回させた。前面に集中して氷の壁にしたり、旋回範囲を広げたりしている。
盾として利用しているが、ぶつければ攻撃も可能だ。神獣に配慮して海峡突破でフィアが見せた氷塊混じりの凶悪な竜巻は控えた。
「まあその様子なら……。でも、くれぐれも油断しちゃ駄目よ? 本気で当たりなさい」
「重々承知っ! では、行ってきますっ。後ろを宜しく」
氷の塊と共に先行する直時を見送りながら、フィアはブランドゥに念話を飛ばす。いざというときの救出を頼んだ。今のブランドゥは風の精霊術を操る白烏竜である。その飛行速度は直時やフィアも凌ぐ。
「さーて。あれは何処所属の船だろう?」
直時は魔術で強化した視力をもって目を凝らす。旗艦に翻る旗。初めて見る旗の下に、大きく手を振る人物が見えた。護衛していた周囲の船が停船し、旗艦だけがゆっくりと進んでくる。害意は無いようだが油断はしない。
「――リッタイト帝国使者、第一王子シルム! タダトキ・ヒビノ様に御拝謁を願う!」
一際きらびやかな装いの若者が舳先に立って叫んだ。
シーイス公国リスタルの町。『高原の癒し水亭』食堂は、宿泊客だけでなく近隣の住民や冒険者達で賑わっていた。リスタル防衛戦に於いて活躍した『黒髪の精霊術師』が宿泊していたこと。オーナーシェフであるオットーが彼の国の料理をメニューに加えたこと等が人気の原因だ。高名な『黒剣の竜姫』ことヒルダが逗留しており、「一目でも!」との理由もある(野次馬が過ぎ、怒ったヒルダがまとめて叩きのめしたことが何度かあった)。
慣れと諦観が大部分を占め、好奇の視線に開き直ったヒルダは、隠したい話以外は平然と話題にしていた。密談ならば念話で可能だし、いちいちミケの隠れ家に行くのが面倒臭かったのだ。
「ほう! 虚空大蛇の卵を盗んだ犯人が捕まったと?」
「ギルド公式の報告だとルーシ帝国が領内で捕縛となってるニャ。」
ミケは花酒(薬効のある花を漬け込んだ酒)、ヒルダは黒麦酒を手に話し込んでいた。
《実際はタッチィとフィアちゃんの功績ニャ。影櫃使いがギルドへ移送された折にも同行してたそうニャ。伝書が来てたから詳しく書いてあるんじゃニャいか?》
《文面は誰にも読めないだろうから、ここで開けても良いだろう?》
ヒルダの念話に肯くミケ。
「ギルドから預かってるタッチィからの伝書なのニャ。『暗号』の解読を頼むニャ」
「うむ。任せろ……」
何気なく渡された獣皮紙を受け取り、日本語で書かれた文書を読み聞かせるヒルダ。
海に面しているので魚が美味いとか、ブランドゥの成長が著しいとか、建築資材、主に木材が足りないとかいった内容だ。周囲に聞かれては不味い情報は端折り、念話で補足している。
《魔狼の郷、黒狼族達はルーシの神器使い達のために全滅。一時的に預かる予定だった仔魔狼達と生き残った父魔狼を引き取ったそうだ。その際交戦した相手から、神器『影櫃』と『紅炎剣』を回収。クニクラド様へ奉納したそうだ。進軍中の、もうひとりの神器使いは見逃している。権力争いの早期収拾のため片方の貴族へ肩入れした形のようだな》
《ヴィルヘルミーネ様の加護をもらった仔は無事だったのニャ?》
《一番下の仔――ホルケウというそうだ――は、姉ハティと共に無事だが、母と兄を亡くしたようだ。リメレンの泉で手合わせしたが、なかなかの強者であったのに……》
ミケも生まれ故郷を滅ぼされた過去がある。酒が苦く感じられ、二人して重い溜息を吐いた。
《ルーシ領内に拠点をもったタッチィ達には、帝国の混乱は面倒ニャ。早く鎮まってもらいたかったんだと思うニャ。でも、御蔭でルーシと手打ちしたカール帝国が動きを活発にしそうニャ。シーイスにとっては痛し痒しというところなのニャ》
ミケが面白くなさそうに杯の酒を舐める。
リスタルの知人を任されたヒルダにとっては頭が痛い。
カールが政治圧力をかけてきているらしいことは、日参していた公国軍務長官ヘンリー・ギルサンの訪問が減ったことから伺える。万一に備えて国軍の再配置を行なっているようだ。
公王ジュリアーノ・デッラ・シーイスからの要請――「普人族以外を準国民として受け入れる。その領主を引き受けてもらいたい」――は、今のところ棚上げとなっている。普人族国家間の戦火から逃れるため、各国の街に住んでいた獣人族達がそれぞれの故郷へと帰省してしまったからだ。帰省どころか郷ごと引っ越した種族も少なくない。
このような状況下では、公王の政策に乗ったとしても、肝心の民が集まらない。
《公王からの話には、タッチィ達は何と言ってるかニャ?》
《フィアは「考慮に値せず」。一刀両断だな。タダトキは実現の可能性の有無と、この話が公表された場合の他種族と周辺国へ与える影響がどんなものになるかを聞いている。あいつはまだ世情に疎いからな》
普人族との溝は簡単には埋まらない。だからといって、歩み寄る努力を怠っても良いわけではない。ヒルダが思うに、そんな甘い考えで一縷の望みが無いかどうかを確かめたいのだろう。直時の問いをそのように受け取った。
(私とフィア、そしてタダトキがリスタルに居を構えれば、契機にはなるかもしれん。しかし、この国にそこまでしてやる義理も無い。何より踊らされるのは性に合わん)
脳裡に少しの可能性が浮かんだが、即座に打ち消した。ヒルダにとって、竜人族にとって益が無い。最近は同族の中で、彼女が普人族に入れ込んでいる事(直時のことである)に苦言を呈する者もいるらしい。
それに、シーイス公王の掌の上というのが何より気に食わない。眉を顰めたヒルダは、気分を変えるために話題を変えた。
「今は物が足りないだろうが、タダトキ達が選んだ地はなかなかの場所のようだ」
黒影海は内海で荒れも少ない。しかも、争いを許さない神獣がいる。ルーシ帝国の版図だが近くに普人族の集落は無い。クニクラドの支援も厚いようだ。いざとなれば分捕った船で避難も可能である。
「住居も何棟か作ったニャ?」
「住み着くかどうかは判らんが、暗護の城から入れ替わり人が来ているらしいし、人魚族の訪問も多いようだな。それとリッタイト帝国から使者が来たと書いてある」
「どういうことニャ? やっぱりタッチィの取り込みかニャ?」
「詳しくは書いてないが親交というか、交易というかそんな感じらしい。ルーシやイリキアには今のところ密入国なので、大きな買い物が出来ないそうだ。良い関係が築ければタダトキにとって有益だろう。ところで、リッタイトにもギルドはあるのか?」
西方諸国と一切の交わりを断っているリッタイト帝国。ヒルダもイリキア以西の国々を知らない。世界に広がる組織であるギルドなら、あるいはとの思いでミケに訊ねる。
「ギルド組織自体は在るニャ。でも、事務上の情報しかやり取りが無いニャ。リッタイト以東のギルドは、相変わらず情報を遮断してるみたいなのニャァ」
三百年ほど前から東方の情報が入って来ない。どんな事情や意図があるのか判らないが、それがギルドの方針でもあった。戻ってきた冒険者は少なく、彼等は一様に口を噤み、大多数の者は戻って来なかった。いつしか、ユーレリア大陸東半分は暗黒大陸とも呼ばれるようになったのだ。
その秘密に満ちた地域と直時達が繋がりを持ったという。ヒルダもミケも冒険者。好奇心が刺激されない筈がない。頼まれた心配事がなければ、すぐにも向かいたかった。
「暗護の城はリッタイト領だ。クニクラド様の口添えがあったようで、概ね友好的な感じだったようだな。詳しいことは全く書いて無いが」
口外できない事情があるのだろうが、内緒にされるのは面白くない。ヒルダが不機嫌になった。
「『暗号(日本語)』での伝書なのだから隠す必要などあるまいに……。まあいい。浮き草のようだったタダトキが腰を据えると決めたことは喜ばしい。せっかくだから、彼等を連れていってやりたいのだがな……」
「やっぱりアイリスちゃん達も行く気は無いニャ?」
ミケの問いに首を横に振るヒルダ。
冒険者の定宿である高原の癒し水亭は、客筋の各方面から情報も集まっているはずである。大乱の兆しはグノウ親子も察しているはずなのだ。情勢が落ち着くまでの間だけでもと、避難を促したヒルダであるが、色良い返事はもらえなかった。
「グノウ親子もベルツも避難する気は無いようだし、どうするかな……」
「カタリナもリスタルギルドを離れる気は無いようニャ。普人族の国に対する帰属意識はやっぱり強いのニャァ……」
ミケの恩人であるカタリナ嬢はシーイス公国にというより、ギルドへの職業意識で避難を拒んだ。顔を見合わせた二人は、大きな溜息を吐いた。
「いやー。国とかより自分の故郷への愛着ってことじゃないかなぁ? ヒルダさんもミケさんも故郷は大切でしょ?」
突然掛けられた声。食堂の喧騒に紛れていたが、二人にははっきりと聞き取れた。座っていた椅子を弾き飛ばして振り返る。
「暫く振りぃ~」
目を丸くした二人の前には、照れた様子で黒髪の後頭部を掻く小柄な男がいた。隣にはフィアもいる。
「なっ! 何故此処にっ?」
「どこから湧いて出たニャ?」
「ひどっ! ミケさん! 何て言い草!」
ヨヨヨと泣き崩れて見せたのは、話題の中心人物、『黒髪の精霊術師』こと日比野直時であった。
強引過ぎ……たかなぁ?