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はじまりの朝③

微修正(H24 1/17)


 旅の予定が決まったということで、懸案事項であった『魔力を隠す』魔術を教えてもらうことになった。

「さて、ヒビノの魔力と訳のわからない謎の力を隠す方法だけど、高等人魔術に『アスタの闇衣』っていう能力を隠す魔術があるの。この魔術だと確実にヒビノの力を感知され無くなるわ。でも欠点が無くもないの」

「触媒に生贄いけにえが必要とかじゃないだろうね?」

「この魔術には必要ないわ」

「必要な魔術もあるのかよ……怖いなぁ」

「経験を積んだ高位魔術師だと、力を隠蔽いんぺい出来ていても『魔術で隠している』ことに気付く可能性があるの」

「隠蔽魔術の存在自体が、不信がられるってこと?」

「そういうこと。冒険者ギルドに出入りするんだったら、確実に他の冒険者に観察されるわ。強さの目安になる魔力量は、商売敵の情報としても仲間を集めるにしても知っておきたいだろうしね。高位の冒険者には、まず間違いなく注目されるわね」

「でもまあ、隠している内容さえバレなければ多少の不都合は仕方ないな。それくらいの危険は許容範囲だ」

「仕方ないといえば、そうなのよね。じゃあ行くわよ?」

 フィアが編む魔法陣が二つ、直時を挟む。


「闇の神アスタの名に於いて 安息の暗き衣よ身を包め……」

 直時の頭上と足元に魔法陣が展開する。


(上下の魔法陣からの魔術で全身を包むわけか……。魔術回路としては、遮断っていうより攪乱かくらんかな? 知覚を乱れさせて正確な情報を伝えないようにするみたいだな)

 ふむふむと頷きながらもしっかりと記憶する。


「『闇衣』!」

(自分じゃどうなのか判らないな? 相変わらず魔力も謎の力も自覚できるんだが)

「よし! これで完璧! 魔力量も謎の力も感知できなくなってるわよ」

「自分じゃ判らないんだけどね。ありがとう! それで効果はどのくらい続くものなの?」

「十日は大丈夫よ。『転写』しとく?」

「――出来れば普通に教えてください」

 副作用の頭痛はもうコリゴリのようである。


「じゃあ昼食後にロッソへ出発しましょ」

「了解。『探知強化』で知覚が鋭敏になってるから、なんか獲物でも捕ってくるよ。この術の効果時間は?」

「半日くらいよ。御馳走を期待してるわ」

「期待しないで待ってて」

「じゃあ私はお鍋の準備をしておくわ」

 泉の方へ歩く直時を見送り、フィアは山菜の採取へと森に向かった。


「憶えた魔術で魚でも捕るかな」

 彼が泉へと向かった理由である。弓も槍も持たない直時では、鳥も獣も狩ることが出来ないから現実的な判断と言えよう。


「どんな魔術が適当かなぁーっと」

 水際に腰を下ろし。貰った魔術の脳内検索をかける。


「風で周囲の対象物を集める魔術…ってこれ落ち葉掃除か? 持続性のある微風…扇風機だな。土を掘り起こす…園芸用だ。水旋回(弱)…弱ってなんだよ、食器洗い? 強は…洗濯用か! 強弱は時間設定で切り替え可……知るか! 碌なのが無いな。つーか殆ど家事用の魔術じゃないか。この世界の奴らは手を使わんのか?」

 頼んだのが日常生活レベルの魔術であったことを忘れでもしたのか、文句ばかりである。


「うーん。取水の魔術…水汲みに最適。バケツ一杯分の水を取り出す。この魔術なら魚ごと水汲みしたら捕れるんじゃないかな?」

 使う魔術を決定し、水辺に近寄る。


「おっ! 魚発見! えーっとこうか?」

 山女魚のような淡水魚が泳いでいた。一時的に上昇している視力ですぐに獲物を見つけ、魔術を実行する。右手を伸ばし、掌を水底の魚へ向ける。掌の前に編まれる魔法陣。


「『給水』」

 魚を中心として円形に魔力の囲いが出来上がる。直時はそれを手繰り寄せるようにイメージした。まるで透明な金魚鉢に入ったかのように、魚と水底の一部が水面から飛び出してくる。


「おっし! 昼飯ゲットだぜ!」

 嬉しそうに手元へと移動させ始めるが、突然水球は弾けて水面へと落ちた。もちろん昼飯は逃げて行った。


「えーっ?」

 逃げていく魚を目で追いながら、首を捻る。


「なんで弾けちゃったんだ? 魔法陣間違えたかな?」

 再度魔法陣を編む。

 術を行使せず、構築した魔法陣をチェックする。


「おかしいな? 知識通りなんだけどなぁ。この魔術回路で間違いないよな? って、あれれ? 対象は水限定なのか? さっきは水底ごと持ってきたから重量オーバーになってたのか。魚だけなら比重考えたら大丈夫そうだな。原因は砂とか泥も一緒に取り込んだからか……。まあ、砂やら泥やら一緒に水汲みしても使えないから当然か。しかし、人魔術って魔法陣が全部制御してくれるから楽だけど、応用しにくい代物だな」

 人魔術を編み出したのは、もっとも脆弱な人族である普人族だ。故に、限られた魔力をいかに効率よく魔術として使用するかに主眼が置かれており、用途用法によって膨大な数の魔法陣が存在する。

 構成が判らずとも使用すべき魔術の魔法陣構築とそれに要する魔力、結果である現象を正しくイメージする能力があれば子供でも使える術。それが人魔術であり、それ故普人族以外にも広まっていった魔術である。

 欠点としては、効果が魔法陣によって限定されてしまうため応用が利かず、同じ系統でも複数の魔法陣を憶えないといけないと言う点である。

 例えば火を使う術式であれば、着火の術式(ライターくらいの火種程度)。加熱の術式(主に煮炊き用、火力調整は小幅であれば可)。焼原しょうげんの術式(焼畑、野焼き等、屋外での広範囲低火力)。焦熱しょうねつの術式(鍛冶屋での使用)他多数。それぞれ違う魔法陣が必要になる。


 使用する魔術の性能を理解した直時は再度昼御飯の捕獲を試みる。

 探知の術式の助けもあり、早々に6匹(ひとり3匹くらいとの判断から)の捕獲に成功した。直時は、魚の口からエラへと蔓草を通しひとまとめにして野営地へと帰るのであった。


直時は魚を6匹手に入れた。

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