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はじまりの朝②

微修正(H24 1/17)


 フィアの魔力が自分の中の何かとぶつかった瞬間。直時は力の流れを感じ取った。それは背骨に沿って緩い螺旋らせんを描きながら流れていた。血が心臓に押し出され、身体の隅々まで血管を巡っていくように、螺旋から放たれた力が体中に行き渡っている。


(これがそうか! 何だろう? 重くて軽い? 風のような水のような…。でも、ぶつかってきた力とはなんか違う…。色? 重さ? 匂い?)

 直時は、未知の感覚をどうしても既存の感覚で捉えようとして混乱する。


(フィアの魔力。あれにイメージを合わせろ! もっとこう…。なんか違う! もうちょっとこんな感じで…)

 集中するあまり、吹き飛んだことも地面を転げたことも、打撲や裂傷、擦過傷の痛みも気付かない。


(これだ! そうっ! こんな感じ! これ魔力に変換できたんじゃね?)

 フィアに向けた眼を向けるその顔には、湧き上がる達成感が溢れていた。


 倒れていた直時が心配するフィアの様子を気にする風もなく立ち上がる。


「今度こそ見ててくれよ!」

 眼の前に人差し指をかざし、集中する。描き出される小さな魔法陣。


(正確な魔法陣。必要な魔力。呪文は言霊。現象への道標。要はイメージの固定!)

「ライター」

――シュボッ。

 小さな音を発して、指先に小さな火が立ち昇る。


「おっしゃーっ!」

 反対の腕を軽く曲げ拳を握った。どんなもんだと満面の笑顔。得意顔でフィアを見る。


「ふぅ。おめでとう。」

 彼女が苦笑気味なのは、基本も基本、初歩の初歩である術を成功させただけだからである。


「ありがとう! これで俺も魔術師の仲間入りか! ふっふっふっ」

 直時は子供のように興奮している。確かに使えた魔術はまさに子供レベルである。


「で、あの呪文は何なの?」

「ああ、あれは俺がイメージし易いから。魔術は無いけど、似たようなことができる道具があるからね」

 直時がポケットから百円ライターを取り出し、火を点けて見せた。


「こんな感じ。この道具の名前が『ライター』って言うんだ」

「本当に魔力要らずなのねぇ。この道具、小さいのにとても細かく造り込まれてる。火の出る下のところは赤く透き通っていて綺麗ね」

 着火の術式自体が簡単すぎるため、機能自体に驚きは無いフィアだが、部品の精密さや、赤い半透明のプラスチックとその中の液体ガスが揺れている美しさに興味が湧いたようだ。直時から受け取ったライターを眺めまわしては、火を点けている。


「それにしても……。確かに魔力に変換出来たみたいなのに、ヒビノの力の量は変わらないみたいね」

 ライターを返して、呆れて言った。


「え? そりゃ、簡単な魔術だからじゃないの?」

 初歩の魔術だとは理解していたようである。


「消費したのはほんの少しなんだけどね。今のヒビノからは大きな魔力と大きな謎の力の両方を感じるのよ」

「確か魔力に変換した分は少しだけだったはずだけど……。残ってる魔力、そんなに多い?」

「エルフである私と同じくらいの魔力量よ。普人族じゃ考えらえない量ね」

「ふぅん。ちなみに普人族と比較すると?」

「宮廷魔術師三〇人分くらい」

「……拙いよね?」

「間違いなく目立つわね」

 直時は人魔術の知識を脳裏で検索するが、魔力を隠す術が見当たらない。フィアへ両手を合わせて頭を下げる。


「魔力を隠すような魔術を教えてください!」

「高等魔術で教えるのは気が引けるのだけど、こればかりは仕方ないわね。でも、その前に治療しましょ?」

「っづぁ!」

 漸く痛みを自覚した直時が奇妙な悲鳴をあげた。


「初歩の治癒術はヒビノにも教えてあるけど、結構酷い傷だから精霊術で治してあげるわね」

「ううう……。お願いじまず……」

 頭を切ったのかこめかみからは血が流れ、顔にも擦り傷切り傷、両膝と右肘は服が破れて血が滲んでいる。服の下は見えないが、あちこち打撲による内出血がみられた。満身創痍まんしんそういである。


「精霊達、彼に癒しを……」

(これは! 子供? 笑い声?)

 周囲に集まった風と水の精霊達が、フィアの魔力を現象へと変換する。熱を持った傷がひんやりと心地よい冷たさに包まれる。直時はキョロキョロと辺りを見回し、何かを眼で追っているようだ。


「ぐっ!」

 直時が突然激しくむせながらうずくまる。傷が塞がっていくのを見守っていたフィアが、仰天して走り寄った。


「どうしたのっ?」

 異世界人ということで、何か不測の事態でも起きたのかと焦る。咳き込む背をさすると、直時は小さな金属片をいくつも吐き出していた。


「あー、びっくりしたぁ。治療って全身隈無くしてくれるんだね」

 涙目で笑い掛ける。


「え? そうだけど、どっか苦しかったんじゃ?」

「大丈夫。でも、まさか歯の治療までしてくれるとは思わなかったよ。元の世界の治療で使った詰め物やら被せた物やらが口の中を跳ねまわってねー。気管に入って咽た」

 日本では、歯の治療には激痛が伴って、患部を削り取るだけである。歯が再生することは無い。それが治癒で完治したのである。涙目ながらも真っ白な自前の歯が復活したことに上機嫌だった。


「ほんとありがとう! 傷が跡形もないし、痛みも消えた。すげーわ、魔術! いや、今のは精霊術だったっけ?」

「どういたしまして。でも苦しみ出した時は本当に驚いたわよ」

「ごめんよー。あ、君達もありがとねー」

 周囲にも感謝の言葉を掛ける。笑顔で誰かに手を振る直時に、フィアが息を呑んだ。


「ねぇ。もしかして精霊が見えてる?」

「半透明なヒラヒラした虫の羽根みたいなの? あ、フワフワした水滴みたいなのも?」

「――見えてるんだ」

「あ! あれが精霊かぁ。なーんか小さな子供が笑ってるみたいだね」

「――声も聞こえるんだ。しかも好意まで持たれてるっぽい……」

「はっはっは。敵意を持たずに誠実に接すれば好意を持たれるものさ」

 難しい顔で考え込むフィアに、何の事かも分らないまま適当な(俺良いこと言ったろ? 的な)事を言う。


「魔術も憶えたことだし、これからどうするの?」

 フィアが直時に問う。


「そうだなぁ……」

 昨夜考えていた事をぽつぽつと話し出す。


「平穏そうな町を見つけて、その町からちょっと離れたところに居を構えてゆっくりまったり過ごそうかなと思ってる。人付き合いは極力避けた方が良いだろうし、のんびり生きるならひとりの方が気楽だしね。後は家庭菜園でも作って、自給自足でもするかなぁ。んで、時々旅に出て各地を観光!」

「えらく暢気な生活を目指してるのね」

「せかせかしないでゆったりスローライフ! 最高じゃん! 元の世界じゃ予定の間に臨時の仕事を捻じ込んで、睡眠時間削ってた生活だったもんなぁ」

 遠くを見るように眼を細める。


「まあ、そんな生活も元手が無ければ始められないだろうし、まずは資金を稼ごうと思う」

 急に現実的なことを言い、うーむ、と唸りながら脳内の知識を検討する。


「最初の目的地は南西のマケディウス王国。街道の街『ロッソ』。フィアに貰った知識だと、隊商が多く人の出入りが激しくて、普人族だけじゃなく、他種族も利用する都市みたいだし目立たないと思う。そこで冒険者ギルドに登録して、ちまちまと確実に小金を貯める!」

「ふーん。じゃあ、ロッソまでは付き合うわ。目的のある旅でもないしね」

 あまりの小市民っぷりに気が抜けたフィアであるが、同行を申し出る。


「有難う! 本当に助かるよ! 旅費貸してね(テヘ)」

「私はお財布かっ?」


ようやく魔術習得しました。

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