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追う者達②

面倒臭がりの直時はやっぱり面倒臭くなったようです。


「あらためて名乗らせて頂きます。サミュエル・ペルティエと申します。ヴァロア王国よりタダトキ・ヒビノ殿へ我が国のご紹介をせよとの命を受けております」

 口火を切ったのはサミュエルであった。婉曲えんきょくな表現でロッソでの交渉の続きであることを伝える。


「タダトキ・ヒビノ、冒険者だ。クレマン嬢との会食は楽しみだったが、周囲の雑音が酷くてね。ヴァロア王国の国自慢を聞く余裕が無くなってしまった。煩わしくなって旅に出たが挨拶もせず申し訳なかったな。まぁ、他の国にも挨拶無しだったし勘弁してもらいたい」

 各国の暗躍による大量の尾行者やその小競り合いに気付いていると臭わせる。形だけの詫びだが、特定の国との繋がりは無いことを伝えた。勿論はっきりと言葉にはしない。


「しかし素晴らしい早さですね。一日に一カ国か二カ国を跨いでの移動とは、随分お急ぎだったのですね」

「それに追いついた自分達の速度は無視かい? あの騎獣、白烏竜というのだろう? 随分と足が速いじゃないか」

「休み無しで飛び続けた甲斐があったというものです。そうでなければ貴方に追い付くことは叶いませんでした」

 サミュエルと直時の緊張感の漂う雑談の陰では、また別の話題が持ち上がっていた。




(お嬢様っ。あのちびっこ精霊術師さん、見かけによらず胆力もありそうですね! あの元参謀殿と渡り合ってますよ)

(オデット。ひと様をちびっこ呼ばわりするのは感心しません。小柄でも引き締まった体躯でしたし、均整が取れていて良いのではないですか?)

(エリア様とも釣り合いがとれてますものね! ウフッ)

(私はちびっこではありません!)

(勿論お嬢様は幼くなどありませんわ。いつまでも可憐な少女の装いに隠れた成熟を…)

(久し振りに会ったというのに貴女は変わりありませんね…)

 エリアの従軍に同行したオデットであったが、主の婚儀が持ち上がった時点でお役御免となっていた。嫁ぎ先まで同行出来ない侍女に、自由に生きろと言ったエリア。

 納得できなくとも、仕方ないと諦めていたオデット。二人を再び引き合わせたのは他ならぬ直時であった。


 リスタル侵攻軍に従軍していたエリアの婚約者は直時の本陣急襲時に戦死したのである。


 ブロサール家として、それなりの家名を誇る伯爵の息子に嫁がせられることが決まったことに本心はともかく、役目として受け入れていたエリアである。

 一度会ったが、豪放磊落ごうほうらいらくという評判とはかけ離れた傍若無人さに嫌悪しか抱かなかったとしても、家のためと割り切っていた。オデットは最後まで反対していたが…。


 ブロサール家の道具として役立つ機会を逸したエリアは、同時に開放感をも感じていた。婚約者が出陣の折、発した言葉。

『あはは。此度の戦争はまともな戦闘にはならんよ。蹂躙するだけだ。ふふふ。戦利品を期待してくれ』

その台詞に曲がりなりにも軍人として過ごした日々を侮辱された気がしていたエリアである。


 だが、リスタル侵攻軍が僅かな義勇兵が守るだけの地方都市を制圧すらできず、手もなく敗退した。婚約者はあえなく戦死。ヴァロアの民としては自分でもどうかと思うが、エリアがその報せを聞いたとき、乾いた笑いを止められなかった。


 混乱する頭を纏められないときに王府より打診されたのが、『黒髪の精霊術師』を口説き落とすという話だった。どうやら、訳ありの貴族の息女に対してのみ打診されたようで、あまりの露骨さに顔を顰める両親だったが、エリアは自ら志願した。

『お家のためです』

 勿論お題目だ。本心は自分をこの感情の混沌に落とし込んだ者が見たかった。それだけである。その相手が今、自分の前にいる。彼の全てを己の全てで判断しようと集中したそのとき…。


(お嬢様もさっきのお尻をわしっと掴みたいですよねっ?)

 オデットの念話がエリアの思考を掻き乱した。




 当たり障りのない話題に辟易へきえきとしてきた直時は少しきつめの言葉で切り出した。


「長くなりそうだ。単刀直入に聞こうか。想像はしているが、本当のところは知らないしな。自分へ求めることと、ヴァロアが用意した対価は何だ? 大抵の案件ならば即答できると思うぞ」

(あんた、面倒になったわね?)

 発言内容は会話と同時に念話で送っている。結論を急ぐ直時にフィアが呆れる。


(実際面倒だし、対価になると勘違いしてるなら早目に訂正してやったほうが良いだろ?)

 サミュエルの答えを待ちながら念話をする直時。


「タダトキ殿には、ヴァロア王国の民となって頂きたい。王府にて相応の身分を御用意させて頂きます。落ち着かれましたら王族へとお迎えする準備があります」

「ヴァロア王国のために働くならば、支配階級の末端として加えてやろう。と、いうことだな?」

「王や貴族と共に民を導いて頂きたいのです」

「美辞麗句は要らない。求められていることは、要するにまつりごとへの使い勝手の良い道具だろ? 兵器、魔力供給源、精霊術師という存在価値、そんなところか。対価は地位と名誉。金は働き次第か?」

 皮肉げに言う直時。


「支度金として金塊を5つ御用意しております。ろくは月に金貨10枚を約束、お働きによって報奨が上乗せされるでしょう。正妻には第一王女が候補に挙がっております」

 サミュエルは具体的な対価を提示する。金塊の現物は『浮遊』を掛けた上で、騎獣の荷籠に入っていた。


(フィアが前に言ってた予想通りかな?)

(第一王女を当てがってくるとは思ってなかったけどね)

(王族の継承に血筋の強化は必須だからな。普人族に限ったことではない)

 ヒルダが苦々しげに答える。次期族長ということで苦労もあるのだろう。ヒルダのお見合い光景を想像した直時はクスリと笑う。


(ヒルダのところも大変そうね)

 同情を含んだ口調から、フィアの実家でも族長は大変なようだ。


「ふむ。良い話なんだろうな。ただ、自分はその対価に魅力を感じない」

「何故です?」

 サミュエルは眉を一瞬動かしただけで表情を崩さず訊ねる。背後のエリアとオデット二人は驚きに口を押さえていた。


「国の保護は生活の安定には魅力的だが、高い地位には気儘な自由も無い。権力闘争も自分には無理。むしろ面倒。金は欲しいが大金は必要ない。自分の望む額は冒険者ギルドで依頼を受ければ十二分に稼げる。嫁さんが王女様ってのは憧れることも無いではないが堅苦しい。それより獣人族の耳や尻尾を愛でる方が100倍も魅力的だ。結論として、地位より自由! 巨万の富より適度な小遣い! 王女より猫耳! 理解してもらえたかな?」

 今までの会話で、寄り道した会話よりさっさと回答をぶつけたほうが良いと判断した直時は一気にまくし立てた。


「……我々が有効だと思っていた対価は貴方にとって意味を為さないと?」

「理解が早いな。文官だとごちゃごちゃと婉曲な言い回しでお茶を濁すところだと思うんだが、あんた軍人か?」

 国会答弁等で日本語に翻訳するのに疲れる受け答えを散々見てきた直時は、即座に理解したサミュエルに好感を覚える。


(あんた……。ぶっちゃけたわね…)

(いやいや。フィアよ、あれくらいはっきり言ってやった方が相手のためでもあるぞ? 私はタッチィを評価する)

(いやもうタッチィはヤメテ…。なんか色々と台無しな感じがする…)

 ヒルダの高評価にも素直に喜べない直時だった。


(サミュエル君って、結構理屈っぽいからトドメさしてきます)

 グダグダになりそうな気持ちを切り替えて追い打ちをかける直時。


「そうだな。ペルティエさん。仮にだよ? 同じ条件で君を別の国に引き抜こうとしたら来るかい?」

「っ!」

「命令。忠義。愛国心。家族。しがらみ。まぁ色々あるよな? 君が提示した対価は、そんなもろもろ、今まで自分が生きてきた全てを捨てるに値する対価だと思うかい?」

 直時にはもはや帰郷の可能性は無いが、それでも出自を忘れることはない。それにこの問いは『どの国にも属していない普人族』だと思われていたことへの楔となった。


「貴方も何処かの国の民であると?」

「当然自分にだって生まれ故郷はあるんだよ? ただ単に旅をしているとは思わなかったのか?」

 冒険者ギルドに所属する普人族は国から外れてしまった者が多く、直時もそのように考えられていた。

 冒険者として腕を磨き、名を上げて仕官先を探すような者が多く、リシュナンテのように国家に属したまま活動する者は少数なのだ。後は根っからの旅人気質の普人族で、これも稀であった。


「さっきの話は無茶苦茶だけど不可能じゃない。金は現物がここにあるんだろ? それをそっくりそのまま君に進呈して、何処かの国を俺が力尽くで占領。王として君を迎えると言ったらそれを受け入れられるか? どうだ?」

 リスタル侵攻軍を実質一人で止めた直時の言葉は重い。本人にそこまで覚悟は無くても襲われた側のサミュエルにとって、絵空事で済ませられない話であった。


「…でき…ません…。私の祖国はヴァロア王国です…。私の愛するべきものは全て祖国にあります…」

「君は正直だな。そういう奴は好きだな。俺もそうだ。俺も自分の祖国を愛している。色々と問題は多いがな」

 最後の一言には自嘲気味の直時。


「ひとつだけ疑問があります。祖国を大事にしている貴方が、何故自由に拘るのですか? 祖国に尽くそうとは思わないのですか?」

 真剣そのもののサミュエル。


「俺の祖国は自由を権利として謳っている。自由に生きることは罪では無いんだ。勿論責任も義務もあるがね。国家と国民の関係は隷従じゃない。うちの国は独裁国家じゃないから君達には判り難いかも。まあ隠さず言うと、俺はとある理由により祖国に帰ることが出来ない。しかし、今でも祖国を愛している。それが誘いを受けても他国に仕えることができない一番の理由だ」

 心情的に二重国籍となる気は無いと伝える直時。最後通牒だ。


「貴方は祖国を愛しているが祖国からは自由である。という解釈で間違いございませんね?」

 不意に口を挟んだのは直時が護衛と思っていた女性二人のうち小柄な方、エリアである。


「そうですね。祖国の保護を受けられない状態なので、義務も責任も果たすことができませんから」

「地位も名誉も望まない。財も必要ない。普人族より獣人族を好む。ならば、貴方は何をもってせいの糧とするのですか?」

「美味しいご飯であったり、知り合いとの酒宴だったり、小さな目標の達成であったり、新しい出会いであったり…、何気ない日常の繰り返しで充分楽しいです」

 直時はささやかな幸せを胸を張って答える。


(今となっては難しいでしょうけどね)

(目立ち過ぎたからな)

(…次からは気をつけます)

 こんな遠くまで追跡されるとは、シーイス公国周辺には戻れないかもと思う直時。混乱するヴァロアの面々へ最後に安心させるよう声をかける。


「国家間の戦争だの政争だののために自分の力を使うつもりはない。だから心配せず君の祖国は周囲の国と争ってくれ。ただし、俺や俺の知人の不利益になるなら、そのとき自分の手が届くなら容赦なく使うよ? リスタル戦のときのようにね」

 綺麗事ばかりでなく、最後にニヤリと笑って見せる。戦争するなら充分気をつけろということだ。


「フフフッ。貴方が良心的なエゴイストだと理解しました。これはこれで収穫となりましょう。ついては是非とも交渉を続行したいので同行を許可して頂きたい」

「あははははは! 言うねぇ! だが、断る!」

 諦めを見せないサミュエルに笑顔で拒絶する直時。


「あの。私は軍を抜けておりますので付いていっても宜しいですか?」

 手を挙げてにこやかに発言したのは先程の小柄な女性である。直時はサミュエルへと疑問の眼差しを向ける。


「本当です。リスタル戦の少し前に彼女は軍役を終えております」

「オイオイ。サミュエルさん。民間人を連れてくるってどうなんだ?」

 直時が咎める。


「彼女はある貴族の息女でして。先の戦で活躍した『黒髪の精霊術師』に会いたいと切望されました。私も宮仕えの身でありますから、色々とありまして同行を許可する他なかったのです」

 率直な攻撃(精神的に)の方が効くと判断したサミュエルのホラである。


(お嬢様! 鷲掴みですよ! あのおしりを逃してはなりません!)

(いい加減にしなさい!)

 内輪の念話はさて置く。


「お会いするまでどんな方かと想像を巡らしておりましたわ。お会いしてますます興味が湧きました。是非御一緒させてください。ヴァロア王国より、ブロサール家の興亡より、私は貴方の行く末を見たい。見届けたい。どうか御一緒させてください」

 そう言ってエリアは深々と頭を下げる。軍でも既定の角度でしか下げなかった頭である。


 この瞬間オデットも軍を抜けるどころか、国を捨てる覚悟を決めていたのであるが、直時の返事は冷淡であった。


「いや。そんなことは俺の知ったこっちゃないし。正直ハニートラップ? 所謂色仕掛けでしょ?」

 交渉からはじまった話であるからその判断は仕方がないが、身も蓋もない男である。


 ヴァロア一行が率直過ぎる言葉にあたふたとする中、直時は彼等の背後、一頭の白烏竜の元へと歩み寄る。2番騎の騎獣だ。


 交渉の間、直時の生成した椅子に腰を下ろしていた騎手が直立不動で立ち上がる。


「閲兵じゃないんだから…。楽にして。この子等は普通に話して通じる?」

 苦笑しつつ騎手へ訊ねる直時。その際周囲に緩く風を纏っていたのは牽制か?


 チラリとサミュエルを見た2番騎の騎兵はサミュエルの首肯を確認した後、直立不動で直時に叫ぶように告げる。


「はっ! 声でも念話でも認識できます!」

「へぇ。知能高いんだね。この子の名前は?」

「はっ! ブランドゥであります!」

「そか。ありがとね」

 そう言った直時は騎兵の肩をポンポンと叩くと白烏竜へと手を差し伸べた。


「こんにちは。はじめましてブランドゥ。俺はタダトキ。お腹減ってないか?」

 困惑する騎獣へ頷く騎兵。直時の機嫌を損ねるわけにいかないのは理解している。


(私はヴァロア王国特騎獣ブランドゥ。空腹は許容範囲です)

 差し伸べられた手の意味を理解できず、無難な言葉を返す白烏竜。


「我慢できるけど減ってはいるんだね? 朝食を御馳走したいんだけど魚は好き?」

 手に擦り寄って来るのを期待した直時だったが、困惑で無視されて少々悲しげだ。


(はい。魚肉は好物です)

「そっかそっか。実は俺も朝御飯まだだったんだ。今から調達してくるから待っててね」

 傾げた長い首にほわーっとなる直時。『かわういではないか! こんちくしょう!』と、思っているのは秘密である。


 朝御飯の対価にナデナデさせてもらおうと気合を入れた直時は、女性がいるのも忘れて下着姿になり波間へと駈け出した。


「ちょっと朝飯狩ってくる!」


 十数分後、白烏竜の頭部の大きさを勘案(食べ易さ的に)し、1メートル未満の魚を大量に狩ってきた直時は生が良いか焼くのが良いか訊ねる。勿論、ブランドゥに。


 生を所望した白烏竜を呼び集めて、最初は手ずから味見をしてもらう。アースフィアでは小型の魚類であるが1メートルのサンマなどオニカマスと変わらない。狩ろうとしたら逆に群れで襲ってきた。その苦労を美味そうに飲み込む白烏竜の様子で癒す。


(私達も朝食はまだなのだがな?)

(…お腹減った)

 ヒルダとフィアの愚痴を華麗にスルーして、ヴァロア一行にも一匹ずつ振る舞うことにする。こちらは生でなく焼き魚である。


(もうちょっと我慢して下さい。この子達とまず打ち解けないと話も聞けない)

 ヒルダが気にしていた白烏竜の件である。忘れてはいなかったようだ。


「騎獣と騎兵は一心同体なんだよね? やっぱり小さい頃から付きっ切りで育てるの?」

 直時は2番騎兵に許可をとって食事に満足そうなブランドゥの首をさする。サミュエル、エリアとオデットも集まってきた。


 どこまで話していいものか判断がつかない騎兵に代わってサミュエルが口を開く。


「騎獣は専門の調教師がいます。配属された後、相性を確かめ専属騎兵として慣熟訓練に入ります」


「君はヴァロアには長いの?」

 背中でサミュエルの説明を聞いた直時は、撫でながらブランドゥの目を見上げた。


(生まれた時から兄弟と共に仕えてます)

「お父さんとお母さんは?」

(会ったことはありません)

 直時と白烏竜のやりとりにサミュエルが冷や汗を垂らす。ヴァロア軍にとっては極秘扱いなのだ。


(やはり拐取かいしゅされたのだろうな)

 ヒルダが憤る。


(解放できるかな?)

(無理ね。洗脳ってわけじゃなく生まれた時からの調教じゃ…。服従を当然と思ってるはずよ)

 直時の問にフィアが答える。強制的に解放するなら記憶を完全に消去する他ない。魔術に抵抗の高い竜族に部分的な記憶改変を施すことは難しい。


「両親に会いたい?」

(ヴァロア王国が父であり母です)

 調教は完璧なようだ。手がない直時はサミュエルを睨む。


「気付かれましたか…。言い訳はしたくないのですが、ヴァロア王国だけではありませんよ? 一応この3頭は王室直属の特殊空戦小隊です。他には居ません」

 今までの会話から直時がこの情報を言いふらすことはないだろうと判断するも、サミュエルは心証が悪くなるのを感じた。


「君が知らないだけかもしれないよ?」

 睨んだままの直時。ミソラの件もある。


(ヒルダさん、どうする?)

(なんとか解放したいが、有効な手段が無い)

 口惜しそうだが、どうすることもできない。フィアも沈黙したままだった。


「先程の対価に彼等をタダトキ殿直属にというのを加えましょう」

「……サミュエル君、結構嫌な奴だね」

 したり顔で提案するヴァロアの使者へ、直時は苦々しげに言うしかなかった。しかし、ふと思い付いた事があった。


(生まれてからずっと限られたことだけを教えられそれが全てと思っている。じゃあ、『転写』で知識を強制入力すればどうなるかな?)

(…一考の価値はあるかも。知能が高く、身体能力も魔力も高い。そんな自分が普人族に命令されるがままに従っている。そこに疑義を抱けばすぐには無理でも自立を思うかもしれない)

(竜族ならば己に気付くことが出来るはずだ! 必ず! 手があるならば為すまでだ。フィア、行くぞ!)

(ヒルダ! 待ちなさいっ。ああっ、もう! ごめん…、止めれれなかった)

(まぁ、俺も腹立ってたから良いよ。悪いけどフィア、追いついたってことで辻褄合わせ頼める?)

(白烏竜への『転写』も頼むぞ)

(タッチィの知識と常識じゃぁ説得力ないからね。それにこの時点での転写は敵対とも取られかねない。竜人族のヒルダが一緒なら言い訳も立つから私がやるわ)

 突然の事態の推移に動揺を表に出さないようブランドゥの長い首を撫で続ける直時。その頭が他の2頭と一緒に一方向を向いた。


 ヒルダとフィアの到来に、直時も驚くような表情を作って同じ方向へと顔を向けた。怒気も顕な竜人族と表情を消した妖精族が共に降り立った。


「やっと見つけたと思ったら、何だか面白いことになっているわね」

「タ…ヒビノに言いたいことはあるが、まず他に問うべきことがある。そこの白烏竜は貴様らの騎獣なのか?」

 氷の微笑を浮かべたフィアと、獰猛な笑いを刻んだヒルダ。


「な! 何故此処にっ?」

 直時の演技は、二人の迫力に埋もれヴァロア一行は気付かない。


(取り敢えず示威行動としてタッチィへ懲罰ね。派手に吹き飛んで見せてよ?)

(精霊術で攻撃を緩和しろ。今なら出来るな?)

(え? マジですか?)

 ヴァロア一行に対して脅威と認識させるためである。フィアはともかく、ヒルダは冷静さを欠いていそうで、直時は慌てて防御へと頭を切り替える。


「私は先ず、挨拶もせず姿を消した馬鹿に制裁を!」

 他への被害を避けるため、その場から遁走した直時へとフィアが数条の竜巻を放つ。飛翔せず走っただけの直時は、先頭の竜巻に弾かれた。


 高らかに悲鳴を上げながら、風の精霊術で空気の緩衝膜を張り、後続の竜巻群にもみくちゃにされながら高空に弾き飛ばされるかのような演出をする直時。


「私もお仕置きしておくか」

 そう宣言したヒルダが炎の吐息ブレスを放つ。


(ちょっと! それは駄目でしょっ?)

(こんなん食らったら消し炭になってしまうっ! 死んでしまうっ!)

 示威戦闘であるため、受けることが前提である。勧誘対象の直時が叩きのめされることに意味があるのだが、ヒルダのはやり過ぎだ。


「…あ」

 放った後に気付いたが、灼熱の炎は直時を包み込んだ後だった。


 次の瞬間、大きな爆発と水蒸気が直時を中心に発生した。水の精霊術でヒルダの炎を阻み、高熱の水蒸気を風で散らせたようだ。肩を上下させながら姿を現した直時に、フィアは胸を撫で下ろした。


 ヴァロア一行は声もなく固まり、白烏竜も生物としての本能で二人の魔女に敵わないと理解したようで不用意に動かない。


(いつか後ろからその尻尾に噛み付いてやりますよ)

 恨みがましい直時の念話がヒルダの微笑を誘った。


「馬鹿者への制裁は済んだ。それでは再度質問だ。そこの白烏竜はヴァロアの騎獣か?」

 怒気を纏ったヒルダが一歩を踏み出した。フィアは後ろで知らんぷりである。


 ヴァロア一行の責任者であるサミュエルの顔から血の気が引いた。






いじられキャラの交代なるか?

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