逃避行②
れんきゅう?なにそれ?美味しいの?
肉球なら知ってるんだけど?
ロッソ上空から翔け去った黒髪の精霊術師。多くの住民達は驚愕をもって、逃してしまった諜報員達は臍を噛む思いで見送った。
噂の精霊術師がロッソに滞在していたこと。その姿形や、空中騎兵の追随を許さない速さ。あれこそ神器では?と目された銀色の乗り物。リスタル戦にまつわる噂話。東の空を見上げたまま、人々は手近の者へと話しかける。
喧騒の中、いち早く動き出したのは各国の諜報員だった。カール帝国、シーイス公国、ヴァロア王国に属する彼等は、新たな情報を求めて走りだす。フィア、ヒルダ、ミケやリナレス姉妹へ接触が計られたのは直ぐであった。
彼女達は事前の打ち合わせ通り、直時がイリキア王国のことを聞いていたこと。その先にあるリッタイト帝国へも興味を持っていたこと等をそれらしく臭わせて、追加報酬を手に入れていた。
しかし、その中でフィアだけが報酬への交渉もせず、接触してきたヴァロアの女性諜報員へ当たり散らしていた。
「では、ヒビノ様はイリキアかリッタイト、兎に角東に向かわれた可能性が高いと?」
「そうよっ! あんた達があまり五月蝿く飛び回るから嫌になったんじゃないのっ?」
急いで調えた旅装で、大通りを東門へと急ぐフィア。流石に街中から舞い上がるような、目立つことはしない。
ヴァロア諜報員は直時への情報を引き出そうと、焦る彼女に引き離されまいと追いながら必死で話しかけていた。
(フィアちゃん。追いかけるニャ?)
(報酬の分け前を届けにね! 迷惑料のつもりで置いていったならぶん殴ってやる!)
換金が間に合わなかった場合、ロッソ逃走後、合流地点を決めて報酬の受け渡しをする予定だった。直時は距離を稼ぐことと、逃亡後の接触が情報提供した皆への疑念を生むとの独断で、独り旅立った。
直時の気遣いはフィアにとって侮辱と感じられた。スパルタではあるものの、直時の保護者としての自負があったからだ。尤も、当の本人にとっては面白エルフ認定であったのは秘密である。
(皆の分は冒険者ギルドに預かってもらってるから、各自とりに行ってね!)
直時はまだ知らないことであったが、冒険者ギルドにはランク別に優遇措置がとられ、ランクB以上の冒険者であれば、地球の銀行に似た預金システムが利用できた。財産をどのギルド支部からでも預け入れ、引き出しが出来るサービスである。
違うのは、預金に対する利息が皆無であり、逆に資金の出し入れに手数料が引かれることだ。これは人族社会(普人族国家以外も含む)において、株や債券、先物や為替といった金融市場が開拓されておらず、あくまでも冒険者をサポートするためのサービスであるからだった。
フィアとヒルダはランクSの冒険者。長命種であるが故、積み上げた経験と実績は大きい。ギルドへの預金額は小国の年間予算程もある。今回の直時からの報酬など、彼女等にとってはさしたる額ではなかった。
直時からの依頼を受けたのは、純粋な好奇心からであった。どこに興味を惹かれたのかはそれぞれであるが、その突拍子もない言動に面白味を感じ、だからこそ協力した。その結果が置いてけぼりときては、腹の虫がおさまらないのは当然と言えた。
食い下がるヴァロア諜報部員の言葉は、既にフィアの耳に入らず、ロッソ東門を出た瞬間に風の精霊を集めて、街道上を低空へと舞い上がる。
「ひとりでは追いつけないだろう? 私も行こう」
肩を並べてきたのは、背の翼を広げた竜人族のヒルダであった。憮然とした面持ちのフィアであったが、二人の協力がシーイスの中央に位置する王都『ヴァルン』から国境沿いの『リスタル』までの道程を、僅か1日で踏破したのはつい最近のことである。
「…お願いするわ」
「こちらこそ風の精霊の加護を恃みにしている。奴は鍛えれば面白そうなのでな」
「……育てるのが趣味?」
「どうだろうな?」
フィア問いをはぐらかすヒルダ。それ以上は何も言わず、フィアの背後から手を回して身体を支える。
ヒルダの竜翼が起こす疾風に、フィアが精霊術と移動系人魔術を合わせた。上昇し加速する。その速度は、暫く前に翔け去った直時を上回るものだった。
直時を捕捉するのに、時間は掛からないと考えていた二人だったが、その日のうちに捕まえることは出来なかった。既に姿を見失っていたことが災いし、ジグザグに探しながらの飛行になったため、予想外に時間を取られてしまったのである。
翌朝、東進を再開した二人の眼に、鋭い光が過ぎる。直時の跨る自転車の金属部分が陽の光を反射させたのだ。その姿を確認したフィアとヒルダはお互いに低く笑い合う。清々しい朝の光が翳ったように思われた。
(みーつーけーたー)
直時の脳裡にフィアの念話が響き渡る。明瞭な響きは、魔術効果の範囲内にいるということだ。慌てて見回すと、高速で近付く存在を発見する。念話と広がった翼から、それがフィアとヒルダであると認識する直時。
(えっ? 何故っ?)
よりにもよって、最も恐ろしい二人組である。直時の背中に冷たい汗が流れる。
「ふふふふふ…。先ずは一発!」
「待て! ヒビノの傍を見ろ!」
いつもの如く竜巻を放とうとするフィアをヒルダが止めた。直時の横で身をくねらせて舞う影がある。
「あれは…。翼蛇? 飛蛇の類かしら」
「いや。翼が6枚もある。形こそ小さいが…」
空を飛ぶ蛇型の魔獣は総称して飛蛇と呼ばれる。大小は様々だが、歳を経たものほど大型になる。そして、その身を浮かせる翼は殆どの種が一対2枚で、4枚ある種でも、後ろの一対は補助翼や舵取りの役目であるため小さいのが普通だ。
しかし、眼の前の種には3対6枚の大きな翼があった。鳥類の羽でも皮膚から変化した皮膜でも、昆虫の翅でもない。魔力で生んだ翼である。
「間違いない。大蛇種だ。それも6本の飛行骨…。虚空大蛇の仔だろう」
「そんなっ! 神獣じゃないのっ?」
近付いたことでその姿をはっきりと眼にしたヒルダが断言する。その名を聞いたフィアが驚くのも無理は無い。神獣はその殆どが神々と共に神域へと身を隠している存在で、地上界でお目にかかるなど稀を通り越して奇跡の部類に入る。
大蛇族は竜族(竜人族ではない)と近しく、竜族を祖に持つヒルダであったから知っていたことだった。
空で邂逅を果たしたフィアとヒルダは、青褪めている直時と威嚇する虚空大蛇の仔を交互に見る。
「こうしていても仕方がないわね。とりあえず降りましょう。事情を聞かせてもらうわ」
3人と一匹(神獣をそう数えて良いかは置く)は、直時の野営していた砂浜へと舞い降りた。
フィアに平謝りしてどうにか怒りをおさめることに成功した直時は、昨夜の竈を利用して朝食の準備をしていた。
深酒で朝食を抜いていたし、フィアとヒルダも保存食を少し口にしただけで追跡をしていたようで、どうせ腰を落ちつけて話をするのならと、皆で竈を囲むことになったのだ。
火の上で食欲をそそる香りをあげるのは、一抱え程もある甲羅を逆さまに鍋代りとなっている蟹である。中身は勿論蟹と蟹味噌。あとは浜に生えていた強い香りの野草と、直時がロッソで入手した乾燥昆布もどきが入っている。調味料は塩のみ。あとは食材の出汁だけである。
鍋に入りきらなかった脚は焼き蟹として、虚空大蛇の仔用に捕獲した魚(生魚には顔を背けた)と一緒に火で炙られていた。
朝食にしては豪華な食事に舌鼓を打ちながら、フィアとヒルダは直時へ代わる代わる問いを浴びせていた。
「ヴァロアと遺恨が残ることを気にしてたのか。ヒビノにしては気が回るわね。大きなお世話だけど、お礼は言っておくわ。ありがとね」
きつい言い方ではあったが、礼だけは欠かさない。恥ずかしいのか少し照れている。頬が赤い。
「それと、これはヒビノの取り分だからね。ちゃんと受け取りなさい」
金貨が詰め込まれたずっしりとした革袋を直時へと手渡す。個人からでも依頼は依頼。直時がそれを受け取ったことでフィアの依頼は完遂である。満足気な顔を見せた。
「これで授業料を払えるな。1日につき金貨1枚でみっちりと鍛えてやろう」
ヒルダがにやにやと笑いかける。やけに楽しそうだ。焼き蟹に齧り付いていた直時は、愛想笑いを返す。
(多分断われないんだろうなぁ…)
断わっても無理矢理訓練を受けさせられそうである。未来の事実として受け入れる直時。
「逃亡先への情報誘導だけど、座礁してた船を助けたのは正解ね。まあ、まだ先は長いから、これからも意図的に目撃されていけば良いと思うわ」
「町とか、時間差でフィアとヒルダさんが来てくれれば、二人はあくまでも追跡中という情報も流せるね」
「私は別に気にしないが、ヒビノがそうしたいのであれば構わんぞ」
「逃げないと保証するなら良いわよ」
「…逃げ切れるとは思えませんので」
諦観が漂う直時の様子に、二人は満足気な笑みを浮かべる。
「しかし、二人ともなんでまたついて来ようと思ったの?」
理由が思い付かない直時は首を捻る。
「「面白そうだから」」
満面の笑顔でハモるエルフと竜人だった。
「フィア、ヒルダさんもこれから一緒に旅するんだよね?」
思案気な直時の問いに肯定を返すフィア。
「じゃあ、言っておいた方が良いと思うんだけどどうかな? 腹芸とか苦手だし」
「ヴァロア相手に大芝居やったくせに良く言う。でも一緒に旅するなら…ね。それに余計な事を言いふらすタイプじゃないだろうし。釘を刺しておかないと暴走しそうにも思うし」
フィアの言い様に苦笑するヒルダ。彼女の矜持の高さには疑いをもっていないフィアは、自分の口から直時の素性とこれまでの経緯、そして人魔術の魔法陣の秘密について語った。
フィアの予想通り、ヒルダが興味を示したのは直時が大量の魔力を持ち、精霊術を操り、そして戦闘には素人であるということだった。普人族のようであるが、実は異世界人であるという事実には興味が無いようだ。
「磨けば光るということだな! フフフフフ…」
「砕け散るかもしれないので、何卒お手柔らかにお願いします」
不気味な妄執を感じた直時は、嫌な汗を垂らしながら牽制する。効果は皆無であったのは言うまでも無い。
「ところでその仔のことなんだが…」
うってかわって真剣な表情のヒルダ。直時には神獣について二人が講義した後である。
「傷付いて、飛行骨を奪われていたというのは本当か?」
「はい。全くもって許しがたい! 神獣とはいえ産まれたての仔の身体を毟り取るなんて!」
直時の憤慨を他所に、ヒルダとフィアには別の心配があった。高位の魔獣や神獣、自分達のような長命種は、仔を儲けることは長い生に於いて稀だ。だからこそ我が仔が産まれたなら、全力の愛情を注ぐことになる。
もしも親である虚空大蛇がこの事実を知ったなら、その怒りはどれ程のものになるか戦慄を禁じ得ない。国が2つ3つ滅ぶくらいで済めば良いほうだろう。
「確か虚空大蛇って、天空の風と光、大蛇の水と大地、そして炎の力を持ってるって話だけど本当なの?」
「それで間違いない…。この仔は産まれたてで神獣の力に目覚めていないようだが、親はどうしていたんだろうな? 卵を盗まれでもしたのかもしれんな」
「そんな大それたことをしでかすなんて、やっぱり?」
「ああ。普人族以外考えられん」
直時の胴に尻尾を巻き付け、器用に焼き魚の肉だけを齧っては吞み下す虚空大蛇の仔。それを微笑ましげに見ながら、時折喉をくすぐっている直時の暢気な様子を見る二人には、言い様のない不安があった。
「まあ、あの仔が殺されていないことは僥倖だった。神獣の身体は神器と同等の高値で取引されるからな。次の町でギルドへ報告しておこう」
「そうね。犯人の特定さえ出来れば、神獣の攻撃対象も絞られることだし、とばっちりが減らせるでしょう」
フィアとヒルダの真剣なやり取りを他所に、食事を終えた直時と虚空大蛇の仔がじゃれあっている。
「ねぇ! この仔の名前、暫定だけど考えてみたんだ。俺の国で蛇のことを『巳』って言うんだけど、大空を舞う蛇ってことで『ミソラ』ってどうかな?」
身体をぐるぐる巻きにされて、口元の食べカスを舐め取られている直時がフィアとヒルダに問う。
「神獣の仔に勝手に名前なんて付けたら駄目なんじゃ?」
「しかし、名が無いと不便であるのも事実だ。当人(?)はどうなのだ?」
フィアの懸念にヒルダが苦笑で返し、直時と虚空大蛇の仔を見やる。
「お前の名前、ミソラ! ミソラってどうだ? 嫌なら他にも考えるぞ?」
直時は砂にカタカナで『ミソラ』と指で書く。初めて見る言語にフィアも興味深げだ。
頭を直時に擦りつけてくる様子に、気に入ったと判断した。
「じゃあ、今日からお前は『ミソラ』だ!」
嬉しそうに喉を人差し指で撫でる直時。気持ちよさそうなミソラが右の第一飛行骨の先端で直時の頬を突く。まるでお前はなんて言う名前だ?と聞かれているようだ。
「よし! じゃあ自己紹介しよう。俺はタダトキ・ヒビノ! はい、次」
「フィリスティア・メイ・ファーンよ。通称フィア」
「ヒルデガルド・ノインツ・ミューリッツと言う。ヒルダで良い」
返事を期待していたわけではないが、それぞれが丁寧に名乗る。
「(ミソラ! )」
全員の脳裡に念話が聞こえた。人魔術ではなく、神霊が使うような念話である。驚く皆へ嬉しそうな笑いの波動が響き渡った。
たらふく朝食を摂った一行は、昼前まで休憩し次の目的地を検討する。ミソラの情報を早急に伝えるべきだとのことで、東へ進む途上にあって一番近くの港町『リネツィア』へと向かうこととなった。
直時は町には寄らず上空を掠めるようにして姿を誇示し、その後、フィアとヒルダが到着。ギルドでミソラの件の報告と直時の情報収集をして、即追跡という段取りである。
ここで問題になったのがミソラの扱いであった。直時に懐いているようだから、町へ降りさせないよう気を遣ったが、足跡を残すという意味で低空飛行を予定している。その直時に寄り添うように飛ぶとなれば注目を集めてしまう。
町の上を通過する時だけ離れていてくれれば良いが、どう理解させるかが問題だ。神獣の姿を眼にする機会などそうはなく、悟られない可能性はあるが、口伝や文献に詳しい者が皆無ということも無い。難しい顔で考え込む3人。
「言葉教えたら大丈夫なんじゃない?」
先程、名付けられたことを理解し、念話を発したことに考えが至った直時が発言する。
「しかし、自分の名前を連呼するだけだぞ?」
ミソラはそれ以外なにも伝えようともせず、皆の脳裡に『ミソラ』という念話と共に歓喜の感情を発しているだけだ。いい加減鬱陶しくなっているヒルダはげんなりとした様子である。
「転写で強制的に憶えさせることも出来るけど?」
「あれはきついからなぁ」
フィアの提案にも気がすすまない直時。経験したからこそ、その苦しみを味わせたくはない。ゆっくりと教えていきたい。
「今回俺は姿を見せないことにしない?」
「しかし、今回だけでは済むまい。ミソラが言葉を憶えるまで行方知れずになるのでは、逃亡先への足跡を残すという策は使えないぞ?」
それでも躊躇する直時へ、フィアが代案を出す。
「じゃあ、転写の情報量を制限しましょう。幼児程度の語彙があればなんとかなるだろうし」
直時もこれには頷くしかなかった。
「ミソラが怖がるだろうから、あんたも一緒に転写受けてね。知識は重複するだろうけど」
フィアの指示に従って、ミソラを身体に巻き付けたまま向き合う直時。安心するよう微笑んで喉をくすぐってやる。何をされるか理解していないようで、笑いの波動を念話で飛ばすミソラ。
「幼き言の葉 拙い知 この仔の知と為さん 転写―」
フィアの頭上と、直時、ミソラの頭上の魔法陣が情報を伝達する。
重複すると言われていたが、幼児に絞った言葉と知識は未だ知り得たとは言い難いこの世界の知識である。それなりに直時の興味を引く内容だった。頭の痛みもそれほどではなかった。
対してミソラは、突然の知識の流入にびっくりしたようだ。悲鳴のような念話を放ちながら、直時の胸元から服の下へと頭を突っ込んで怯えている。
「(こわい! こわい! おでこ痛いー)」
余程怖かったのだろう、直時の服の中へとすっぽりと隠れている。
「喋った! ミソラが喋ったよ!」
「ふむ。これで問題は解決だな」
二人の言葉にフィアが鼻を高くして腰に両手をあてる。得意げなその様子が、次のミソラの発言で固まった。
「(あのおばちゃん、こわいー)」
驚愕の表情を張りつかせ、凍りつくフィア。直時とヒルダは一瞬後同時に口に手を当てるが…。
「「ぶふっ!」」
堪え切れずに噴き出してしまった。
「―――っ!」
フィアが叫ぼうとした瞬間、素早い身ごなしで背後から口を押さえたヒルダが耳元で囁く。
「ミソラをこれ以上怯えさせてどうする? 我慢しろ」
「フ―ッ! フ―ッ!」
ヒルダの言うことは尤もであったが、笑いを堪えているのは傍目にも明らかだ。口と動きを封じられ、そうかといって精霊術をミソラに放つわけにもいかないフィアは涙目で激情を抑えつける。
「まああれだ。ぷぷっ。エルフは長命だって言うし。くはっ。あながち間違いでもないんじゃないか? あはははは!」
最期は声に出して笑う直時。ミソラがまとわりついているため、フィアの過激な突っ込みを心配せずに気が大きくなっているようだ。
「…長命種は…、おばさんなのか?」
先程まで味方であったはずのヒルダの声が低い。
「あれ? ヒルダさん?」
「なるほどエルフは長命だ。フィアも200歳は越えているだろう。…ところで178歳はおばさんなのか?」
明らかに先程までとは笑いの質が違う。直時の余裕が消し飛び、嫌な汗が頬をつたう。
「あー、えー、うー」
言葉にならない直時。ヒルダの拘束が解けたフィアも薄笑いを浮かべている。
「ミ―」
「ミソラ」
「ミソラちゃーん」
直時の言葉をかき消すヒルダとフィア。ミソラはびくりと身を震わせる。
「おねーちゃん達のところへ来ないか?」
「おねーちゃん、ミソラちゃんのお顔が見たいなぁ」
(あれは笑顔じゃない! 断じて! 行くなミソラぁ!)
声に出せず心で叫んだ直時だったが、身の危険を感じたのかスルスルと服の下から身を引いていくミソラ。砂の上を蛇行しつつ二人の許へと向かっていく。
フィアとヒルダの背後に到達した後、チラリと直時へと済まなさそうな顔を向け、とぐろを巻いて頭を胴体に埋める。
「(タダトキおにーちゃん…ごめんなさい)」
直時の脳裡にミソラのか細い念話が届いた。
(良いんだミソラ…。あの魔女達に勝てる存在なんて無かったんだ…。忘れていた俺が愚かだったんだ…)
届くと信じて心でミソラに語りかける直時の眼は優しさに満ちていた。
命名『ミソラ』です
次回更新は28日以降となります。