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侵略③

大規模な戦闘を書くスキルが無い・・・




 直時が冒険者ギルドリスタル支部へと足を踏み入れた時、会館内は大混乱だった。


 受付前は、ギルドへの庇護を求める者でごった返し、怒声や金切り声が飛び交ってていた。財産を捨て切れなかった貴族や豪商。子供を抱えた親。泣き喚く幼子。

冒険者の姿は少ないが、慌ただしく2階から駆け下りてくる者が何人かいる。直時は受付を諦め、2階に行ってみることにした。


 いつもならクエストの依頼が貼り付けてある掲示板には、リスタル周辺の地図が数枚、敵軍の規模、編成等が書きこまれ、時系列に沿って更新されている。その前では革鎧姿の翼人族の男性とローブを深く被った魔術師が意見を交わしていた。


「・・・リスタルへの救援はなさそうだね」

「シーイス公国の戦力では補給がしっかりしたノーシュタットを背後に陣を敷いた方が良いだろうて」

「低いが石壁がある街中に籠った方が良くはないかい?」

「軍が展開するには狭いじゃろ。それより予備の伏兵を置いておるのではないか?」

「空中騎兵団だね。あそこの団長の乗騎って雪竜だったなぁ」

「白乙女山地一帯を侵さないという契約で雪竜一族から若い竜が何頭か来ておるはずじゃ」

「彼等ならリスタルまで直ぐじゃないか?」

「敵の空中騎兵は殲滅出来るじゃろうが、後が続かんよ。援護も何も無しに虎の子を出撃させるはずもなかろう」

 緊張感が無いのは彼等が義勇兵として参戦するつもりが無いからだ。直時は二人の会話に聞き耳を立てつつ、今しがたギルド職員が貼り出した最新の戦況図を眺めた。


(リスタル駐留軍500は遊撃。流石に場所までは描いてない。冒険者義勇軍約300はPTパーティーごとに散ってる。ゲリラ的な攻撃するのか?それとも、集団戦闘には慣れて無いのかな?国民義勇軍は町の防備に1000か・・・。一般人だから戦闘力としては数にいれられないだろう。敵軍は・・・)


「いっ?いちまんにせんっ?」

 思わず大声を出してしまった。先程の二人が吃驚して直時の方を見る。


「はっはっは。驚いたようだね。どうやらヴァロアは本気みたいだよ?」

 翼人族の青年が背の白い羽毛に覆われた翼と肩を竦める。お手上げだ。と表している。


「ヴァロア軍が来るのは進軍速度から見て明日の正午あたりだね。空中騎兵はそれより早く手を出してくるだろうから、逃げるのなら今日中だよ?」

「それに見てみなさい。シーイスはやはりノーシュタット近くに陣を敷くようじゃ」

 魔術師の指が戦況図を示す。


 新たに書き加えられた情報がある。シーイス公国が防衛の陣をノーシュタットの南西に敷いた事が、ノーシュタット支部からの報告で判ったからだ。リスタルは切り捨てられたことになる。


「リスタル総督府が早う決断せんと、酷いことになるな」

 魔術師の言葉に直時の背筋が凍えた。




 ノーシュタットからの情報と、有志の冒険者が偵察してきた敵軍情報を手に、ギルドの支部局長がリスタル総督府で説得にあたっていた。内容は全住民の避難撤退、もしくは降伏である。援軍は無く、戦力差が開き過ぎている。正直どうしようもなかった。


「・・・・・・手は無いのだな。リスタルは放棄する。総督府全職員は住民に決定を通知。即時、ノーシュタットへの避難誘導を行え。移動魔術の無料転写と冒険者義勇兵へ魔術支援の要請をしろ。敵は眼の前だ。本日中に撤退だ。駐留軍にもその旨を遠話で連絡。本格攻勢はせず、時間稼ぎの牽制だけで良い。被害を最小限に押さえさせろ」

 侍従官(秘書のようなもの)達が走りだすのを見ながら、沈痛な顔のリスタル総督へとギルド支部局長が口を開く。


「総督。牽制だけでも彼等だけでは・・・・」

「判っている。特に機動力があるわけではない小勢だ。牽制でも一当てすれば揉み潰されてしまうだろう。だからと言って玉砕させる訳にはいかん。それでは一瞬で終わりだ。時間稼ぎにもならん。逃げが前提ならば敵の一部でも引き付けられるかもしれん。そうなれば儲けものと考えるしかない」

「お察し致します」

「同情はいらん。それより冒険者義勇兵は撤退を聞いても残ってくれるのか?出来れば避難民の殿しんがりを頼みたい」

「正直半分というところですか・・・。気分屋が多いですから、シーイスがリスタルを見捨てる判断をしたということは面白くないでしょう。御存知のように冒険者は軍のように統率が取れた戦闘には不向きです。殿軍として機能するかどうかは微妙ですな。足止めのための攪乱であれば町に侵入した後、陣形を保てないリスタル町中での戦闘ならお役に立てるでしょう」

「期待させてもらおう」

「冒険者義勇軍への連絡はこちらから致しましょうか?」

「いや。情報は一元化させておきたい。義勇兵のとりまとめはこちらでさせてもらう」

 リスタル総督としては国民を逃がすための盾として利用したい。しかし、それを許す程ギルドはぼんくらではない。


「指揮に口を出すつもりはありませんが、撤退の決定は連絡させてもらいます。この情報が遅れるようであれば、残る数は更に減ってしまいますよ?土壇場で離脱されては・・・」

「・・・・・・よかろう。が、以後の指揮はこちらで取る」

「依存ありません。それでは私はギルドへ戻らせて頂きます」

 踵を返す支部局長とリスタル総督の視線が合う。


「健闘を願う」

「お互いに」

 閉まった扉の音を聞き、ひとつ溜息を吐いたリスタル総督は侍従官を呼んだ。




 直時はギルドで聞いたばかりの情報から、リスタルから民間人の避難を最優先にと思っていた。総督府の義勇兵受付へと足を運ぶものの、国民でも無く、冒険者として有名であるわけでもない一個人の意見など聞く者もいないだろうことも判っていた。


(落ち着け!俺が判断するようなことより、総督府やギルドの上役の方が現状の把握や判断は確かなはずだ)

 避難をしていない民間人が多過ぎて、実情を暴露してもパニックが広がるだけだと判断した直時は、義勇兵の登録だけを済まそうと思っていた。


 直時が人を避けつつ総督府前に来た時、念話と拡声の術式により広場はもとよりリスタル中に宣言がなされた。


「(リスタル住民へ通達します。リスタルからの避難命令が発令されました。各人は必要最低限の荷を持って東門へと向かって下さい。ノーシュタット方向に友軍が布陣し保護をしています。なお、移動魔術の無料転写は総督府にて実施。更に、魔力に余力のある冒険者には避難民への魔術補助をお願い致します。繰り返します――)」

 職員による突然の通達に固まる群衆達、次の瞬間広場は混乱の坩堝と化した。


 知り合いに遠話を試みる者、自宅へと荷物を取りに走る者、家族を探して叫ぶ者。


 他にやり方は無かったのか?と苛立ちつつも、魔術補助への有志として職員へ近付く直時。今、自分が出来る事は、準備が済んだ人達へ支援をして早急に送り出すことだけだと思った。




「やあ。とんだ所で顔を合わせてしまいましたね」

 直時に声を掛けたのは魔術屋の若旦那だった。相変わらず人好きのする爽やかな笑顔である。


「無料転写に協力してたんですか?」

 避難民の荷物に『浮遊』、本人達に『推進』を施術しつつ答える。移動魔術に慣れていない者に、体重まで消すと逆に動き難いことは身を持って知っている。


「へそくりしてた魔石分の魔力も転写で使いきってしまいましたよ。貴方はタフですねぇ」

 避難の最初から魔術支援していたのを見られていたようだ。顔を隠すことも考えたが、支援活動をするのに不信感を与えるような怪しい恰好はできない。緊急時で仕方無いとはいえ、一応の言い訳を試みる直時。殆どヤケクソだ。


「実は耳の短いハーフエルフでして。実戦はやったことないけど、魔力量はあるのでお手伝いさせてもらってます」

「いやいや。エルフの魔力量をとっくに超えてますよ。貴方何者です?」

「そんなことより、若旦那は魔力使い切ってしまってどうするんですか?避難の準備が出来てるなら施術しますよ?」

「それは有難い。少し休んだらお願いします」

「休むより逃げろ!ですよ?逃げてから充分休んでください。俺も早く逃げたいんでね」

「はっはっは。わかりました!じゃあ直ぐに準備して列に並ぶことにします。ノーシュタットで逢いましょう!」

「急いでください」

 若旦那は出来る事はやりきった。もう避難するべきだ。直時はまだ魔力が尽きていない。実は、魔力を使った分だけ『気』(直時の中で勝手に決めた)を魔力へと変換していたためまだ余裕があった。ただ、良い意味でも悪い意味でも目立ってしまったのは否めない。総督府の職員は邪魔をしないように声を掛けてくることは無いが、驚きながらもギルドへ確認をとっているようだった。


(鬱陶しいことになりそうだが、全ては生き残ってからだ。いざとなれば他国へ高跳びするさ!)

 いざとなれば逃げの一手。戦争が頻発しているなら、間に他国ひとつでも挟めば追跡も容易ではないだろうと考えていた。

 それよりも直時の眼の前には避難を待つ人の列が並び、彼等を手助けできるなら今はそれをするだけだ。


 空が茜色に染まり始め、避難民の列が途絶えた。いつの間にか中央広場前は閑散としていた。直時は息を荒げながらその場にへたりこむ。


「避難は、間に合った、みたいだな」

 呟く直時の顔には満足感が浮かんでいた。


 しかし、『アスタの闇衣』で隠蔽していたとはいえ、使用量から尋常ではない魔力量を見せつけた直時に近寄る者はいない。自称ハーフエルフの怪しい冒険者と見做されたようだ。総督府職員も残っていたギルド職員も同じだった。


「お疲れ様でした。タダトキさん。冷たいものでもどうぞ」

 そんな中、直時に近付いてコップを差し出したのは、『高原の癒し水亭』のアイリスだった。中身は搾った果汁を程良く冷魔術で冷やしたものである。


「アイリスさん!何やってるんですか!避難はっ?」

 跳ね起きた直時の眼には、アイリス嬢をはじめ、オットー氏、ミュンまでいる。他にも数十人が散見できる。


「なんでまだ避難してないんですかっ!明日は敵襲なんですよっ!」

 歯噛みする直時の肩にオットー氏が手を置く。


「今日の避難はこれまでらしい。夜は魔獣の闊歩で危ないからな」

「だからって、なんで最期まで残ってるんですか・・・」

「うちはこの町が出来た時からある宿屋だ。最期を見届けたかったんだ」

「おやっさんのわがままにアイリスさんやミュンを巻き込んだんですか?」

「違うんです。タダトキさん。私もこれで見納めとなるなら、最期に町を出たいと思ったのですよ」

 アイリスの視線が彷徨い、ある一点を見つめる。『高原の癒し水亭』がある方向だ。


「戻ってくると言って出ていった人を10年も待った町ですから、愛着も未練もあるのですよ」

 寂しそうに微笑むアイリスを憮然とした表情で睨むオットー氏。直時はアイリスをなんとなく既婚者だと思っていたがそうではなかったようだ。


「で、ミュンはなんで?」

 矛先を変えた直時はウサ耳さんへときつめの視線を向ける。


「あたし達はシーイス公国の国民ってわけじゃないから後回しになっちゃったの」

 良く見れば残っている者達は獣人族がほとんどであった。リスタル総督府としては当然の判断であったのかもしれない。


「・・・ごめん」

「ヒビノさんのせいじゃないよ?」

 両手を前に着き出し、勢い良く首を横に振るミュン。


「まあ、今日一番の活躍を見せてお疲れだろう!わしが最期の晩餐を馳走してやるから宿まで来い!」

「明日の朝一で避難する予定です。タダトキさんの魔術支援、宜しくお願いしますね」

「今日はあたしも給仕じゃなくて一緒に食べるぅ!」

「りょーかい」

「居残り組はうちで食ってけ!ありったけの食材でもてなしてやる!」

 オットー氏の言葉にその場にいた者の殆どが『高原の癒し水亭』へと押しかけた。調理の手が足りなくなり、アイリスとミュンはもとより直時までかりだされたのであった。


 食堂でも厨房でも酒が交わされ、オットー氏と直時が呑みながら作った和風創作料理も美味いモノから不味いモノまで幅広く振る舞われることとなった。

 その際悪乗りのままに作ろうとした爆弾卵(殻ごと魔術で加熱した)が暴発し、酒で眼の据わったアイリスとミュンからフライパンとまな板をそれぞれ頭頂部にくらって翌朝まで厨房で眠ることになった二人であった。


 リスタルの町へと別れを告げるための宴は狂乱のまま幕を閉じた。しかし、翌朝の幕開けはけたたましい警報であった。




「(ヴァロア空中騎兵の攻撃!残留住民は建物から出ないように!繰り返す!――)」

 広域念話でリスタル中に警報が響き渡る。『高原の癒し水亭』でつぶれていた面々は、酔いが残った身体を一気に覚醒させてそれぞれが行動に移る。


 迅速に動く人々の中、直時だけは床に胡坐を組み眼を閉じている。何かの儀式か術式の最中と思ったオットー達は声を掛けずに見守る。


 ゆっくりと息を吸う。しばらく息を止め、肺の空気を残らず吐く。ゆっくりとそれを繰り返す。


 『気』は尾骶骨びていこつの先から背骨に沿って緩やかに螺旋を描き、肩甲骨の間を抜け、首の後ろから頭頂へと上りつめる。次に身体の前を眉間、喉と下りる。喉を抜けた流れは心臓、鳩尾みぞおちへその下へと巡る。下腹部で少し留まり、また尾骶骨へと巡って行く。

 繰り返すうち、流れは太くなり全身へと満ちていく。下腹部に留まる量が急増して溢れ出しそうだ。それを魔力へと重ね合わせるように変質させていく。


 しばらくして眼を開き立ち上がった直時には酔いの痕跡は無かった。誰にも気付かれていないが魔力量もこれまでにないほど身に満たしてある。今日、精霊術を全力で使っても大丈夫だろう。


「皆さんは中央広場へ。空中騎兵は排除します。一刻も早く避難してください」

「他の冒険者と連携取らないとヤバイだろう」

「登録が遅くて義勇兵登録してなかったんですよ。PTも組めてません」

 オットー氏の懸念に苦笑で答える直時。武器を床に置いたまま自身だけに『浮遊』を掛ける。そのままの重さの武器を装着し、他の荷物はその場に残す。


「荷物はここに置かせてもらいますね。じゃあ行ってきます」

「行くって何処へ?」

 問いかけたオットーに人差し指を上に向ける。


「空へ」

 そう言って宿の外に出た直時の周囲に風が集まり、宙へと連れ去って行く。


「まさか・・・。精霊術師だったのか?」

 唖然と見送るオットーを促すようにアイリスが肩に手を置いた。


 厨房から長年使い続けて細くなった包丁一本だけを布に包んで持ちだした。


「リスタルへの別れは昨日済ませた!皆!けつまくって逃げるぞ!」

 宿の中へ蛮声を轟かせたオットーは酔いどれ共を引き連れて総督府前、中央広場へと走り出した。




「視得ざるを視 聞こえぬを聞き 触れ得ぬものに触れよ 『探知強化』!」

 リスタルの町の上を真っ直ぐに上昇しながら直時は感覚の強化を図る。突然現れた飛翔体に慌てるヴァロア空中騎兵団であったが、単身の、それも騎乗もしていない普人族と見て追撃してくる。


「一気に突っ切ったからこれより上に敵は・・・いないな。敵の数は・・・50いや55。やたらとでっかいカラスに乗ってやがる。まあ、クエスト初日に出合った鷲に較べたら小さい。それにしても寒い!」

 高空へと舞い上がった直時を低気温が締め付ける。上を取られたことで動揺が見られた敵騎であったが、それもすぐに収まり上昇して追いかけてきた。


 追いつくかどうかという距離を保ったまま飛び回る直時だが、連携しているのか何騎かに進行方向へと回り込まれてしまう。たちまち黒い翼に囲まれた。


(攻撃はやはり魔術だろうか?でもこれだけ動きまわる的に狙いを絞るのは困難なはず。範囲攻撃でもカバーしきれないだろう)

 風をたわめた状態で敵の出方を見る直時。


 隊長らしき一際立派な鎧を着た人物が何か命令を下す。攻撃の合図であることは判った。滞空しつつ風の精霊に語りかける。


 数騎が更に上空へと駆け上がり、騎獣である躯大烏むくろおおがらすが爪を立てて襲いかかってくる。更に左右からは鞍から外した長槍を小脇に突撃してきた。


 直時は身体を倒し頭を下に垂直降下。耳元で風が唸る。爪を立てていた敵騎は翼を畳んで追撃降下。武器は嘴へと変更。背の騎士は必死にしがみついている。


 それまで待機していた10騎程が直時に合わせて周囲を降下しつつ魔法陣を編む。逃走方向を絞ったところで魔術攻撃。炎弾と氷槍が放たれる。直時の強化された感覚が察知。回避のため螺旋らせん降下。同時に精霊術で気流を乱し炎弾と氷槍を逸らせる。風の精霊に加速要請。追撃を引き剥がす。敵騎が追撃を諦め減速。直時は速度をそのままに下降から上昇へ。敵を眼の端に収めつつ距離をとったまま同高度へ復帰。再び相対する。今度は囲まれていない。


「騎獣も騎士も直接攻撃してくるか・・・。そして、追い込んで魔術攻撃。複数で単騎を攻撃するなら効果的と認める。巴戦でもおそらく乗騎の爪や嘴は有効だろう。でも空を飛ぶものが相手なら、風の精霊を敵に回して無事でいられると思うなよ」

 風の精霊に軽い乱気流を起こさせる。敵騎達は慌てて羽ばたきを繰り返し、自分の位置を確保するのに必死だ。


 足元に小さくなったリスタルの町を一瞥し、直時は風の精霊に意思を伝える。明確な殺意を。


「風の刃よ 切り裂け!」

 放たれた複数のカマイタチは回避する間も与えず騎獣と騎兵を寸断した。本当のむくろと化した大烏とヴァロア兵が落下を始める。

 叩きつけられたそれらは原型も残さず潰れ、飛び散る。そこへ上空から血の雨が降り注ぎ、大地を真っ赤に染めた。




 ヴァロア侵攻軍司令部では、先行した空中騎兵からの最後の念話にリスタル侵攻へ新たな懸念が検討されていた。


(―敵に風の精霊術師と思しき者あり。単身につき交戦に入る―)

 それが最期の交信であった。威力偵察の55騎全てが未帰還。


「敵に風の精霊術師がいるのであれば、威力偵察は中止。空中騎兵は後方に下げた方が無難です。相性が悪すぎます」

 参謀の言葉に司令が唸る。


「本隊周辺の哨戒を残し、他の空中騎兵は後方で待機。突撃の時期は追って命ずる。本隊はこのまま行軍隊形で移動。リスタル5キロ前で戦闘隊形に移行。攻撃に移る」

 司令の命令を連絡兵が遠話で各大隊へと伝える。


「但し、総攻撃時には空中騎兵も投入する。厄介な相手だが、それ故、数で押し切ってでも始末しておきたい」

 参謀も異論はないようで、軽く頭を下げて一歩下がった。


「哨戒08より遠話。リスタル駐留軍と思われる部隊が本隊後方へと移動中。歩兵400騎兵100。乗騎は小型の草蜥蜴くさとかげ。騎兵は少数に別れて歩兵前面に散っています」

 連絡兵の一人から報告があがる。

 草蜥蜴くさとかげは草原に生息する比較的飼い慣らし易い魔獣で、太い後脚と尾でバランスを取りながら2本足で疾走する。体高約2・5メートルのこの魔獣をリスタル駐留軍騎兵隊では採用していた。司令が参謀へと眼を向ける。


「足止めでしょう。狙いは補助部隊と思われます。小勢ですし、後方移動中の空中騎兵で一撃すれば事足りるでしょう」

「移動中の騎数は?」

「上空哨戒に30騎割いておりますから、415騎です」

「編隊を組ませて攻撃させろ。ばらばらに突っ込まないよう念を押せ」

「了解しました。連絡兵!発、司令部。宛、空中騎兵団団長――」

 当該部隊へ命令を通達する参謀を眺めながら、敵の精霊術師のことが司令の頭を過ぎる。それでも自軍の勝利は疑いようもなかった。






空中戦っぽく・・・思っていただけたなら幸いです。

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