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枷③

更新したのに!

データはどこいった?




「あれ?なんか普通なんですけど・・・」

 直時はここでフィアが風と暴れるとか、ミケが爪を喉に這わすとか、そのような場面だと思っていた。


「ヒビノも計算の内なんでしょ?普人族でない私達にまず話すってのは?」

「ギルドは普人族も登録してるから、この提案には慎重にならざるを得ないだろう。でも普人族以外に広めるなら、二人を巻き込む方が手っ取り早い。この情報は少なくともエルフにも猫人族にも益にはなっても損にはならないだろ?」

「信用してくれてるニャ?」

「そんな綺麗事じゃない。利用してるんだ。俺の安全のためにね。多分二人が身内だけに広めたとしても、どこかで情報が漏れると思う。俺が迂闊だったのは認めるけど、豹人族の姉妹の件もあるしね。ミケさんがどんな話術使ったかは知らないけど、結果的に話している。あの姉妹の生真面目さは理解できるけど、またいつウッカリをやらかすか判らない」

「それはタッチィーも同じなのニャ」

 ミケが笑う。反論できない直時は苦笑いを返す。


「ちょっとっ!もう誰かにばれてるの?」

 フィアが声を荒げる。直時に詰め寄ろうとするがミケにまあまあと抑えられ、リナレス姉妹と直時の一件を説明される。


「ヒビノへの危険は切迫してるってことね。自業自得だけど」

「そうニャ。特にタッチィーが脅したこともあって、同族へ迷惑がかからないならタッチィーへの危害は看過する可能性もあるニャ。自業自得だけどニャ」

 二人のジト眼が直時を責める。


「ま、まあ、そう言う訳で俺としては一刻も早く安全を確保したい。ギルドの対応が鈍いようなら、そうせざるを得ない状況を作って判断を加速したいんだ。二人は実際に体験してどう判断する?この発見を自分だけの胸の裡に閉じ込めておくべきか、同族に報せるべきか?」

「エルフは精霊術があるから需要は少ないかなぁ。でも、知り合いの研究馬鹿達は欲しがる発見ね」

「猫人族は獣人族の中では強化術を施しても弱い部類だから、この情報にはすごく価値があるニャ」

 猫人族は身体的な脆弱さを補って余りある魔力を持つ種族なので、二重の意味で価値が高い情報だった。


「普人族以外の種族は言わば専守防衛だろ?侵略とか征服はしないみたいだからね。個体としての能力が高いのは聞いたけど、獣人族の個体戦闘力と普人族の集団戦闘力が拮抗してる。というよりは負けてるんだろ?」

「・・・・・・その通りニャ」

「それはやっぱり獣人族同士の繋がりが薄いから?」

「・・・自分達に火の粉が降りかからない限りは敵対しないニャ」

 ミケが少し言葉に詰まったのが、直時の気に懸かった。


(獣人族、というか普人族以外は横のつながりが薄いってのは脳内知識通りなのか?)

 地球よりはっきりと種族というカテゴリーが存在するこの世界。普人族以外は争いが少ない。争わないということは、協力もしない。


「フィアにもらった知識として、普人族は数が多いって事だけどリスタルとかノーシュタット見るとそんなでもない気がするんだが。それに各種族だけが暮らす町もあるんだろ?実際どれくらい差があるんだ?」

 リスタルでもノーシュタットでも普人族は半分以下くらいしか見なかった。


「シーイス公国は小国だからね。普人族以外の定住を奨励しているのは防衛の意味もあるのよ。マケディウス王国もそう。ロッソなんて普人族は3割くらいじゃないかな?でも、ユーレリア大陸の総数から言うと人族の8割は普人族ね」

「そんなに差があるのかっ?じゃあ普人族と争う時、まともに戦争なんて考えられないじゃないか!」

 直時の試算は早くも崩れ去る。普人族と他種族が1:5であれば、種族ごとの対比だともっと下がる。普人族が国家単位でしか攻めてこないとしても、種族間の連携が無いならば単独種族で普人族の国と構えなければならない。いくら強大な魔術が可能になっても戦争に耐えられるか甚だ疑問だった。


「フィア。防衛のためにって、普人族国家は他種族を国民として見ていないんじゃなかったっけ?それに普人族の国がどうなったって、他種族にとってはどうでもいいことなのじゃないの?」

 直時は頭を抱えながらもフィアの言葉に抱いた疑問をぶつけてみる。


「確かに国民とは見られてないわね。国という組織に属する気もないんだけどね。でも、私達だって友人もいれば、町がむざむざ灰になるのを見過ごすのは嫌だもの。攻め込まれた町にいたら助力もするわ」

「ギルドは戦争に関与しないけど、個人が義勇兵として参加することを禁止してるわけではないニャ。フィアちゃんも何回か参戦してるニャ」

「そういや『高原の癒し水亭』のミュンが言ってたな」

「防衛戦だけよ?」

 ミケとフィアの言葉に考え込む直時。


(多国間にまたがるギルドという組織は、不干渉を建前にしてるけど戦争の抑止という面もあるのかもしれない)

 国家に拘りがない種族も、いざ自分の活動拠点の町が攻撃されるとなれば義勇兵として参戦するようである。フィアやヒルデガルドのような人外の戦闘力を持つものが出入りしているとなれば、攻撃を躊躇うこともあるだろう。

 直時にはまだこの世界の戦争を眼にしたことがないため、冒険者の戦闘力が普人族国軍のそれと較べてどうなのか判断をつけられなかったが、フィアが勇名を馳せていることを考慮すれば質は数を凌駕する可能性を捨て切れなかった。


「やっぱり普人族以外に先に普及させて、ギルド主導で魔法陣の販売を請けおってもらうのが良い気がする。ギルドを敵に回したらえらいことになりそうだけど、決断を早めてもらうためだから仕方ない。取引材料としてある程度改造魔法陣を無償で提供するってことで」

「うーん。やっぱりそうなるかなぁ」

「この情報、本当に回しても良いニャ?」

「是非お願いします。何よりこれは俺の自己保身のためだからね!」

 控えめに聞くミケにニヤリと笑ってみせる直時。


「これでこの件は良いかな?」

 直時の確認に二人は頷く。


「ここでお二人に御願があります」

 態度を改めた直時はフィアとミケを交互に見る。いきなりの豹変に眼を白黒させるミケと、ボケるつもりなら吹き飛ばそうとするフィア。


「俺の戦闘能力を判断して欲しい。俺自身、何が出来て何が出来ないのか知りたい。フィアには旅の道すがら話したけど、俺の故郷じゃせいぜい喧嘩程度のことしかしてこなかった。アースフィアに来てからは勘違いもあって消極的にしか闘ってこなかった。これからは場合によっては戦争に巻き込まれるなんてこともあるかもしれない。この世界に関わって生きていくと決めたからには避けては通れないと思う。勿論まだ躊躇いはある。その上で俺の闘い方を見て欲しいんだ。これは俺からのクエスト依頼だ。全財産とはいかないが、金貨6枚。受けてもらえるだろうか?」

 直時は財布から出した金貨を布の上に置いて二人の前に差し出した。頭を深々と下げている。残りは合計判銀貨が10枚ほどであった。


「いつの間にそんなに稼いだのよ!」

「まぁまぁフィアちゃん。ここはタッチィーの心意気を汲んであげようではないかニャ」

 ミケにとって調査依頼に情報が上乗せされることになる。


(ミケラ・カルリンよりガラムPTへ。これからフィアちゃんがタダトキ・ヒビノへ制裁を加えるとのこと。合流は遅れますニャー)

 流石に長時間連絡がないと怪しまれると思ったミケが、PT念話で痴話喧嘩を臭わすような調子で連絡を入れる。


(了解。程々にな)

 リーダーであるガラムの苦笑気味な念話が返される。


「ななななななんてことを!」

 フィアがミケに抗議の眼を向ける。PT念話が聞こえない直時のが怪訝な顔をする。




 祭壇付近を警戒するガラムPTで苦笑していたのはガラム、ラーナ、ダンであった。


「ここは任せていいか?私は見物に行く」

 ヒルデガルドが念話を使わずガラムの元へ舞い降りて許可を願う。


 加護祭自体は既に終了し、シーイス公国神事官達の撤収を見守るだけであったため、ヒルダの単独行動に文句は無い。苦笑を深めつつガラムが許可する。


「悪趣味も程々にな」

「人聞きが悪いぞ。私の趣味は良い方だ」

 ガラムの苦言に不敵な笑顔で答えたヒルダは天空へと舞い上がった。


 弛緩した雰囲気のガラムPTであったが、PT念話を統括していたリシュナンテが遠話をしていたことに気付いた者はいなかった。


(今回の加護は魔獣である魔狼の仔に与えられました。普人族はもとより人族に与えられることはありませんでした。今、この国には晴嵐の魔女と黒剣の竜姫が居ますが『ヴァロア王国』には知られていないと思われます。外省部に確認の上、作戦の開始を進言します)

 加護祭にかこつけて入国していたカール帝国情報省の官僚に連絡を取ったリシュナンテは何事もなかったように辺りを見渡していた。




「・・・ミケちゃん。周辺に気配は?」

「特に無いニャ」

「私はこの依頼受けるけど、貴女は?」

「うちは観戦させてもらうニャ。あの魔力量は結構怖いニャ」

 肩を竦めて下がり始めるミケ。直時としては残念な思いが無くもない。しかし、フィアと手合わせできることは願っても無い幸運だった。


「模擬戦ということでいいのかな?フィアが風の精霊術を主に人魔術もほぼ使えるとして、俺の改造魔術知らないけど大丈夫?」

「魔力量が戦力の決定的な差じゃないのよ?」

「風の精霊術は多分相殺出来るよ?それでもこちらの手の内を見せなくてもいいのか?」

「闘いを知らないくせに舐めたこと言ってくれるわね」

 フィアの魔力とは別の何かが直時に冷や汗を流させる。


「まずは改造魔術からいくよ!」

 ヒルダには力任せにぶった斬られたが、フィアに通じるか確かめたい直時は魔法陣を編む。


「土は石に 石は岩に 『岩盾』『岩盾・塊』!」

 複数の魔法陣を編み旧『岩盾』に混ぜて強度を増した魔術を発動させる。乱立する岩壁に直時の姿が隠れる。


「魔力の無駄遣いね。風使いには意味がないっ!」

 フィアの精霊術が岩の壁と岩の柱を回り込んで隠れた直時を襲う。


 回り込むことで時間をかけた精霊術は直時に理解されてしまう。同じく風の精霊と対話できる直時は同様の効果を精霊に伝え対消滅させることに成功する。


(判らなければ判る間合いで戦えば良い)

 手応えを感じた直時に余裕が生まれる。


 そして、不意に思い出す『私と結ぶ?』というヴィルヘルミーネの誘惑。力を解放して余裕が出来たためか、岩柱の間から何気なくフィアとミケの胸元に眼を遣る。


(フィアはサービスしてB。ミケさんはCかな。ヴィルヘルミーネ様はEかFだな。戦力差は覆せない)

 直時の心中など判るはずがないのに、フィアとミケの眼が不快感に鈍く光る。


「ミケちゃん。私達同じPTよね?」

「当然だニャ」

 観客であると宣言したはずなのに、笑い合った二人の美女の片方が、直時に向けて走り出した。ミケである。


(いつもの成り行き任せだけど良い機会だ。フィアの精霊術、ミケさんの実力、存分に拝見させてもらおう)

 フィアの精霊術は自分が使う場合の参考になる。ミケの実力は未だ不明のまま。多少でも力を量れれば、いざという時の参考になる。


 軽く小さな竜巻をミケに放つ。威力は弱い。当たると思われた瞬間、ミケが左側へ身体を傾ける。次の瞬間、ミケが直時の視界から消えた。


 予想していた左とは逆、右から風を切る音が迫る。直時は地を蹴って身体を浮かせながら、右方向に突風を叩きつけた。

 ミケを吹き飛ばす反動で、自分も跳躍し距離をとる。着地しようとした足元から強烈な上昇気流が直時を襲う。フィアだ。咄嗟に防御のため風を叩きつけるが、反発を強くしただけで余計に空高く放りあげられる。


 その虚空で直時は見た。


「うわっ!凄い!」

 黒髪と衣服をはためかせ、放りあげられた宙空の眺めに恐怖より感嘆を感じる直時。

 何処までも高い空。鏡のような泉。緑溢れる地上。遠くには雪を被った山々が見える。


 世界は美しかった。飛行機の小さな窓を通して見た景色より、遥かに美しいと感じた。


(これがアースフィア・・・)

 この光景が世界の一部でしかないことは判っている。しかし、なんのフィルターも通さず、己の眼だけで見た世界。そして、ヴィルヘルミーネの『世界に存在を認められている』という言葉。


(単純なのはわかってる!でも、嬉しいよ!)

 この世界に来て、良かったと思う直時。自然と顔が綻んだ。


 感じる無重力感。上昇の頂点に来たようだ。直時は魔法陣を編む。


「眠れ 重さの精霊よ 今は軽き羽根を夢見よ 『浮遊』!」

 重さを失った直時は風にその身を任す。流れる。流される。この世界と一体になったような感触。勘違いだったとしても構わない。自分は今、それを望んでいる。


 風に舞う直時は瞬きする間も惜しんで、今、眼の前にある美しい世界を魂に焼き付けた。


 宙を漂う直時だったが、突然乱気流に巻き込まれる。


(フィアだな。忘れてた!)

 さっきまでの戦闘の緊張はもう無い。むしろ、彼女等を忘れていたことで罪悪感さえ感じた。


「今行く。だから、教えてくれ。この世界のこと。君達のこと」

 聞こえないのを承知で呟いた直時は、重さを消した身体を風の精霊に委ね、二人が待つ地上へと舞い降りた。


 怒り冷めやらぬ二人であったが、あまりに清々しい顔の直時を訝しげに見やる。


(フィアちゃん。変な所、攻撃したニャ?)

(吹き飛ばしただけよ!ミケちゃんこそ頭殴った?)

(当たってないニャ!)

 ミケとフィアは直時に聞こえないよう念話でやりとりする。


「二人とも本気で頼む。どこまでやれるか判らないけど、自分も本気で臨ませてもらう」

 直時自身、己が何をどこまで出来るのか判らない。フィアとミケの力を見せてもらうと同時に、自分の力も見極めたいと願ったのだった。


「出し惜しみは無しですよ?先ずは、こちらから!風の精霊、水の精霊、闇の精霊、君達の助けが欲しい。力を貸してくれ!」

 直時の周囲に、風が渦巻いた。水が集った。影が濃度を増した。


「ミケちゃん。私は風が本命、水は少しだけ。人魔術はそこそこよ」

「私は闇。人魔術もある程度」

「ミケちゃん。それが地?」

「タダトキさんが本気ですから、私も本気の地でいきます」

 二人がお互いを確認する。頷き合いそれぞれ精霊に準備を伝えた。




直時くんの黒さと白さを御覧ください。

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