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枷②

私の浅薄な考えではこの設定で限界です;;

説明くさい回なので、くどいのが嫌いな方は飛ばしちゃってください><



 フィアがメイヴァーユと対話している。『遠話』のように見えるが、跪き頭を垂れている様は祈りを捧げているようにも見えた。

 邪魔にならないようにと、フィア以外の二人は少し離れて神霊との対話が終るのを待っていた。フィアは、直時とヴィルヘルミーネの会話を報告し、自分の役割を再確認している。少し慌てた口調は、やはり監視は思い違いであったのだろうか?


「終ったようニャ」

 立ち上がったフィアが、二人へと歩み寄る。


「先ずは俺から訊いていいか?」

 フィアが口を開く前に直時が問う。自分と世界との関係を一刻も早く確認したいのだろう。フィアが頷く。


「メイヴァーユ様が戒めたのは、異世界人がアースフィアに干渉するなという意味ではなかった?」

「ええ。ヒビノがその力に振り回されないようにとの御心配だった。不幸だけを振りまくような使い方をしないようにって」

「最初は『余所者はこの世界に手を触れるな!』って意味だと思ったよ。フィアも怖かったしな。下手なことしたら抹殺されるとかビクビクしてたんだよ?」

 一番の懸念が杞憂だったと判り、軽くおどけた調子でフィアに言う。


「悪かったわよ!でも、ヒビノも迂闊な行動多かったじゃないの。害意はなさそうだったけど・・・」

「タッチィーの大きな力って何ニャ?魔力が多いってだけじゃないのかニャ?」

 やりとりを黙って見ていたミケが二人に問う。魔力の話だけではないと感じたようだ。


「俺だって判らない。まぁ、ミケさんは気配とかに敏感みたいだし、ちょっと見てもらおうか?」

「そうね・・・。良い機会だからその力、私も観察させてもらうかな。町中じゃできないしね」

「じゃあ、『アスタの闇衣』を解除する」

 直時は魔法陣を逆操作。覆っていた不可視の幕が払われる。


「どうかな?」

 直時自身には変化は感じられないが、ミケが呆気にとられ、フィアさえ眼を丸くする。


「前より魔力量増えてるじゃない!」

「クエスト前に不安だったから増やしておいた」

「私の倍はある・・・」

「非常識な量だニャ」

「二人とも『探知強化』は?」

 直時の問いに頷くフィアとミケ。二人とも既に知覚を強化していたようだ。


「魔力じゃない方は判別できる?」

「魔力に似てるけど、やっぱり違うわね」

「そうだニャァ。でも、何かと言われればやっぱり魔力っぽいニャ」

「でもこの力って、魔力に変換してやらないと使い方が判らないんだよ」

 精霊術も人魔術も魔力が元になっている。魔獣や獣人族、竜人族の肉体強化、変化も魔力が源だ。直時から感じる魔力とは別の力が何であるか、二人には判別できなかった。


「初めて逢った時、メイヴァーユ様は次元がどうの、存在がどうのって仰ってたな。さっきはその辺の話は無かった?」

 フィアは、問う直時に首を横に振る。考え込む3人。ふと思い付いた直時は地面に座り込む。


「力に意識を集中してみるから、観察しといてくれ」

 フィアに吹き飛ばされながらも、認識することが出来た時のことを思い起こす。


(蓮華座は・・・身体が固くて足を組めない。胡坐でいいか。勘違いかもしれないが、やってみるか)

 地面に胡坐をかいた直時は掌を上にむけ、太腿に両手を軽く置く。息を吸う。肺に溜めた空気の酸素を取り込み体内の二酸化炭素を排出するイメージ。置換が終った空気を残らず吐く。ゆっくりとそれを繰り返す。


 眼を閉じ、強化された感覚を自分の内部へと向ける。前回より明瞭に力の流れが感じられる。尾骶骨びていこつの先から背骨に沿って緩やかに螺旋を描き上がっていく力。それは肩甲骨の間を抜け、首の後ろから頭頂へと上りつめる。流れは次に身体の前を下りてくる。眉間、喉。喉を抜けた流れは心臓、鳩尾みぞおちへその下へと巡る。下腹部で少し留まり、また尾骶骨へと巡って行く。


(気とかプラナとかそういうモノなのか?俺がそういうイメージを持ったからそのように感じるだけかもしれないが・・・)

 仮に『気』であったとしても、日本での生活の中ではこんなにも明瞭にその存在を感じたことは無い。故に、その使い方が魔力への変換以外はさっぱりわからなかった。


「どう?何か判った?」

 薄眼を開けた直時が、フィアとミケに訊ねる。


「駄目。判らない。じゃあ次に魔力へ変換してみてくれる?どう変わるか見てみる」

 フィアの言葉に頷くと、再び眼を閉じる。下腹部で留まる力をひと掴み分、既に変換済みの魔力に重ね合わせるようにイメージする。離れた力は、魔力変化すると同化、合流を果たす。力の流れは僅かに細くなるが、意識して流してやるとすぐ元に戻った。


「ちょっと!増やし過ぎ!」

「フィアちゃん3人分・・・」

「で、観察の方はどうなった?」

 二人の反応を無視して結果だけを訊く直時。


「うーん。魔力に変換するっていうよりは、魔力を作りだしているように感じるのよね」

「そうだニャぁ。普通は少しずつ身体に貯まるはずが、ポンって増えるからニャ。魔力に注意がいってしまって、力の変化は良く判らなかったニャ」

「結局不明ってことか・・・神霊とか神々とかだったら判るかな?」

「私達よりはお判りになるはずね」

「顕現は気まぐれだったな。じゃあ神の気まぐれに期待しますか。ミケさんの質問へはこれで良いかな?」

 直時の言葉に頷くミケ。


「じゃあ次は俺からミケさんに質問。俺への調査は神の興味本位ならまあ良しとして、その報告如何でギルドが干渉してくる可能性はある?ミケさんの直感でいい。嘘でもいいよ」

 さり気無く牽制も入れる。今、隠し事をしても、事後何を隠したか知ることが出来ればミケの目的も推測することは出来る。


「ギルドがその組織として干渉してくることは考えられないニャ。ただ、依頼主の興味次第で名指しの依頼が来ることはあるかもニャ。でも指名依頼とは言え、本人次第で拒否は可能ニャ」

「それにしては、今回の俺への指名依頼は、断わり辛い状況を見越してされたような気もするけどな」

 ていの良い生贄であると言えたから、直時の言にも頷ける。ミケはバツが悪そうに視線を彷徨わせる。


「それについてはうちに原因があるニャ。怨まれても仕方無いニャ」

 心なしか猫耳に元気がなくなる。直時は依頼時のミケを思い出す。リスタル支部とシーイス公国の面子保持の依頼。ミケ本人は薦めたくなかった。ギルドに借りがあって直時との仲介を引き受けた等。


(この場合の借りってのはリスタル支部の関係者なんだろう。事情を話す気はないようだな。庇っているのか?)


「あんまり気にしてないよ。ミケさんにはミケさんの事情があるだろうし、俺にも思惑はあるからね」

 それぞれがそれぞれの事情と思惑を抱えて他人と接している。損得勘定もあれば、好悪の感情もある。その時に何に重きを置いて行動するか、そんなことはその時にならないとわからない。直時だって、いざとなればミケに刃を向けることになるかもしれない。


「俺がどうしても確認したかったことはこれくらい。俺がどんな生き方をしようが、今この世界に生きる者として扱ってもらえると判っただけで満足だ」

 実際、戦争を繰り返している国も放置なのだ。例え直時が独裁者になって世界征服を目指そうとも神罰が下ることはないはずだ。神の気まぐれで相手に手を貸すことはあるかもしれないが、直接的なことはしてこないだろう。

 直時にその気はないが、独裁者や権力者など神罰が下るまでもなく、地上に住まう周囲からどんな反発、激しい攻撃をされるかわかったものではない。


「今後はまず手始めに『ロッソ』を目指すというのは俺の中では決定してる。交易の街らしいから、諸国の情報も入ってくるだろうし、住みやすい国の目星をつけることも出来るだろうしね。二人はどうする?ミケさんは今回の調査報告でひと段落するだろうし、フィアも監視の必要は無くなっただろう?」

 名残惜しいが、それこそ縁があったらまた会えるだろう。直時は別れを前提として訊いた。


「うちは依頼主の意向次第だニャ。今回の依頼は調査期間の設定があったからもうすぐ終わるけどニャ」

「私もメイヴァーユ様の御意向は判ったから、一応はお役御免というところかしら?」

「・・・そっか」

「でも大きな問題が残ってるの。魔法陣の問題よ。ヒビノが自分流に改造する分には、構わない。並の人族には使えないでしょうから。でもね、改造のノウハウを広めようとしているなら、地上に住まうものとして監視しないといけないと思うの」

「それはうちも思うニャ。人魔術は普人族以外も使えるけど、開発発展させてきたのは普人族ニャ。扱いには長けているはずだし、新しい魔術が広まる前に戦場へ投入されたら、余計に戦禍が広がると思うニャ。獣人族にも危害が及ぶニャ」

 普人族以外の人族である二人からすれば、尤もな心配であった。


 魔法陣は描くため必要な魔力はごく微量だとはいえ、すぐに魔力を消費し発動、消滅してしまう。そのため、魔法陣の開発は、膨大な回数の試動と、数え切れない改善の連続となる。普人族の限られた魔力では長い開発時間が必要とされた。


「つまりヒビノのやり方だと、人魔術の開発が短縮されて、例えば攻撃魔術だと対抗する術が出来る前に戦場で使用することが可能になってしまう」

「それぞれ独自の魔術を開発していれば、戦争にしたって新魔術に対抗する術が無いのはお互い様だろ?」

「普人族同士が戦争するのは勝手ニャ。でも巻き込まれる他種族にはたまったものではないニャ」

 二人とも人魔術の急激な発展には否定的である。これだけ危険視されるとなると、直時としては逆に不安になる。今のところ魔法陣のみを描くのはどうやら自分だけ。狙われる危険が増す。


「じゃあ、ギルドを通じて全種族にその方法を広めてもらうのはどうだろう?普人族の方が開発に長けているなら・・・。普人族の魔力じゃ使えないような魔法陣を開発販売してもらおう。人族以外も人魔術の開発に乗り出してもらう良い機会だと思う。開発速度が間に合わないというなら、普人族が扱えないような改造魔法陣をギルドに提供してもいい。発表はその魔法陣と同時にしてもらう。どうだろう?」

 直時としては、技術は広めてこそ発展すると思っていた。何も攻撃魔術ばかり開発することはない。より便利な生活魔術は、より日常を豊かにするはずだ。

 建前だけではない。誰もが同じように魔法陣を扱えるなら、直時を狙う意味も無くなるというものだ。半分以上は保身のためだった。技術を独占して敵を作るより、技術を拡散してその中に埋もれることを望んだのだ。


「それでも最初はたくさんの血が流れるわよ?」

「だろうな。俺の世界でもそんな話はごろごろ転がってる。でもな、技術を何に使うかなんてのは使う者次第なんだよ。それにこの世界は見守ってくれる神様が実際にいるし、賢い長命種もいる。馬鹿な普人族の暴走を止めることだって、きっと可能だろう」

 普人族に対する抑止という意味で、大魔力を必要とする人魔術の開発は必須だろう。そしてそれを使用するに足る存在もいる。


「それにこれの秘密なんて、そんな大したもんじゃないんだよ?むしろ、いつ誰が気付いても不思議じゃない」

 そう言って『灯火』の魔法陣を編んでみせる直時。術は発動しない。魔法陣は消えない。


「人魔術を使うのに必要なのは?」

 直時は確認のため、二人へ訊く。


「正確な魔法陣を描くこと。魔術発動に必要な魔力があること。魔術が起こす現象を固定化するための呪文・・・かな?」

 フィアが代表して質問に答える。ミケも頷く。


「精霊術だと、精霊との対話。必要魔力。イメージは精霊に伝えるから呪文は無し。それで、獣人族や竜人族の強化術はどんな感じ?」

 精霊術は自分でおさらいして、強化術をミケに訊く。


「種族にもよるけど、魔力を身体の強化や変化部位に集中、イメージで強化や変化を促すニャ」

 ミケが応える。


「強化術は自分の身体だし、精霊術はイメージと同じくやってることだろうけど、人魔術はその前にやってることあるよね?イメージと同じかもしれないけど、これは俺が魔力のない世界出身だからかな?」

「何のこと?」

「魔法陣を描くのとイメージのための呪文が同時、術はすぐに発動される。このときのイメージは現象であって、対象じゃない」

「「?」」

 フィアとミケが揃って首を傾げる。


「人魔術の発動先っていつ決めてる?」

 直時の問いに二人はあっと、顔を見合わせる。攻撃魔術でも生活魔術でも、その魔術が作用する先を意識した上で魔法陣を編む。

 つまり発動する前に照準を定めているのである。


「えっ?嘘でしょ・・・。そんなことで?」

「フィアちゃん、ともかくやってみるニャ」

「発動先を定めないで魔法陣を編むんだ。その時、呪文も唱えない方が良い。暴発しないとも限らない」

 驚愕が冷めないフィアにミケが提案し、直時が注意を与える。


 試す人魔術は、暴発しても大丈夫なように、直時と同じように『灯火』で試みる。


 直時のように魔力が無い生活では、離れた場所へ何か作用させようとすればまず照準を定めるという動作が重要になってくる。ダーツやエアガン等飛び道具だけではない。高枝切り鋏で枝を落とすのだって、狙いを定めないといけないのだ。


 魔力が当たり前にあり、意識せずにしていたことを止めるという感覚にフィアとミケは四苦八苦している。周囲には発動してしまった『灯火』の光球が多数浮かんでいた。


「できたニャ!」

 先に成功したのは意外にもミケであった。一通りの人魔術を使えると言っていたフィアはまだうんうんと唸っている。それでも、あまり間を置かず魔法陣だけを出現させる。


「はぁー・・・。これだけのことだけど、こんな使い方なんてしないからねぇ」

 感慨深げなフィアの隣で、ミケが早速魔法陣を弄っている。


「ミケさん。消費魔力には気を付けて。判ってて改造するならいいけど、魔力吸い取られると洒落にならないよ」

 『浮遊』を改造、大質量を浮かせることに成功したものの魔力をごっそりもっていかれた直時の警告である。


 ミケに助言を与えつつフィアの方を見ると、魔力の流れをチェックしながら問題無く改造している。直時の人魔術に対する知識も元々はフィアのものだ。直時より理解は早く、深いものになるだろう。


「月よ 灯りを 『灯火』」

「闇を照らせ 『灯火』」

 改造した魔法陣をお披露目する二人。ミケは光球ではなく、三日月の形の発光体を出現させ、フィアは『灯火』と同じ呪文で、輝度と大きさを増した光球を頭上に喚び出した。


「二人とも御見事」

「これは楽しいニャ」

「簡単な術だけど、こんな楽に魔法陣を変更できるなんて・・・」

 フィアはこれまでの魔術開発の苦労の歴史を知っていただけに、未だに信じられないようだ。実際に魔法陣の魔力の流れを確認しながらの改変はそれまでの苦労が嘘のようだ。

幾何学的な図形ばかりでなく、不定形の模様も多いため再現は難しいだろうが、概略だけなら紙上での設計もできた。しかし、感覚やイメージに重きを置く文明であったため、精密な魔法陣を描くような器材等が発達していなかったことも原因の一端である。


「簡単なことだろう?」

 直時の言葉に二人が頷く。


「ミケさん。このことは俺の調査依頼の報告に詳しく書いて欲しい。俺を殺せば隠蔽は可能だが、この発見には特別な能力なんていらない。そのうち誰かが思い付くだろう。そいつが独占を企んだらどうなる?国なら?俺が普人族ならこの方法を誰かが思い付くまでに独自の魔術をたんまり開発、溜まった時点で兵に転写。すぐに周辺国へと攻め込むだろう。ギルドは国家とは別の組織で多国間で活動を続けている。さっきの提案なんだが、検討してもらえないだろうか?普人族でない冒険者が高レベル魔法陣を取得することで、普人族国家の暴走を抑える。それをギルドの主導で行えば、冒険者ギルドが世界中で発言権を高める事になり得るんじゃないだろうか?」

 直時の提案は一冒険者のミケに判断が出来るほど簡単なものではなかった。フィアも難しい顔をしている。実現したときの混乱が予測できないからだ。


「ところで二人とも判ってるかもしれないけど、これで俺らは共犯者だからね?」

 直時がしてやったりと笑う。


 別れを予感していた二人が直時の悪辣さに顔を見合わせる。どちらともなく苦笑を交わすのだった。




戦闘書きたいなぁ・・・。


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