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水の神霊の加護

仔魔狼のターンです。


改稿:にわか知識で書いてたらとんでもないことに!

塩→砂糖に変更!



 リメレンの泉北岸。宵闇が周囲を包み込み、昼の熱気を優しく冷ましていく。


 水辺のすぐ傍に5頭の魔狼と一人の普人族らしき男がいた。対岸である泉の南岸では、シーイス公国が臨時で設えた祭壇に小さな光が灯っている。

 リメレンの泉は名称と反して、その広さは湖と言って良い大きさであった。対岸は余りに遠く、『探知強化』で増幅された直時の視力をもってしても人影の判別はつかなかった。


(良い夜だ。涼風が頬を撫でていく心地よさ、宝石のような星の煌めき・・・)

 直時は槍を片手に歩哨のつもりで魔狼家族に背を向けて立っていた。実は背後の光景を見ないよう現実逃避中であった。


 今、辺りには血臭が漂い、ブツリブツリと何かを引き千切る音や、固いもの同士が当たるカツンという音がしている。


 親魔狼が自分と同じ体格の白黒まだらの山羊を何処からか狩ってきたのだ。現在は家族揃って食事中である。


(俺も肉は好きだよ。大好きですよ。でも顔中血塗れなんです!フサフサだった毛皮がべっとりなんです!)

 獲物に仲良く顔を突っ込んでいる魔狼家族。これで足りなかったら餌認定されるのではないかと直時は背中に冷や汗をかいていた。自身の空腹は気にする余裕すらない。


 お腹が満足したのか、少しの残骸を残し、魔狼達はお互いに血の付いた顔を舐め合う。


(いいなぁ、あれ。でも生血だしなぁ・・・)

 仔魔狼の鼻をぺロぺロする妄想に駆られるが、血の匂いに首を強く振る。


 毛繕いを済ませた親魔狼の片方が直時へと近付いてきた。何事かと振り返った直時はデザートにされるかもと気が気ではない。


 親魔狼(仔魔狼の態度から父親か?)は地面に置いた直時の鞄を嗅いで顔を向ける。


「荷物を見せろ。ということですか?」

 父魔狼の行動から意向を推量し訊ねる直時。頷くでもなく見つめられる。肯定と取った直時は、鞄の中身を取り出して並べていく。


 魔狼が反応を見せたのは、食糧である干し肉ではなく、黒い塊だった。


「食べます?」

 皮の小袋から取り出したのはノーシュタットの露店で買った黒糖の塊ソフトボール大で、そこそこ値は張ったのだが必要なら譲るのも構わない。自分が餌になるよりはるかにマシである。


 差し出した黒糖の塊を大きな口に器用に咥え、家族の元へ戻っていく。尻尾を一振りしたのは礼のつもりだろうか?


 仔魔狼、若魔狼と順に父魔狼の咥えた黒糖を舐める。小さくなったそれを最後に母魔狼に舐めさせた。自分は母魔狼と舌を絡めている。


 なんとなく赤面する直時だったが、ワンコの訓練所で角砂糖をご褒美に与えていたのを思い出して、魔狼も甘いモノには眼が無いのかなぁ?と思うのであった。


 夜半を過ぎ、眠りに就く魔狼達。仔魔狼は母魔狼(推定)の懐に、若魔狼は丸まってお互いの頭を相手の身体に預けて眼を閉じる。

 父魔狼はそんな家族を背中に、伏せたまま前肢を組み合わせた上に顎を乗せる。顔は直時に向いていた。眼は閉じていない。


 仔魔狼の寝顔を見ていたかった直時だったが、父魔狼の圧力に負け、まわれ右をして警戒に集中するのだった。ちなみに夕ご飯は食べ損ねた。






 加護祭当日。リメレンの泉、南側祭壇前広場は人族で湧きかえっていた。


 真摯に加護を請う者。ただ力を求める者。水の神霊『ヴィルヘルミーネ』をひと目でもと願う者。加護の授与に立ち合うことを光栄と思う者。ただの野次馬。お祭り好き。

 そのような者達が続々と到着し、祭壇前へと押し合いながら集まってきていた。


 シーイス公国近隣だけでなく、大陸各地の普人族国家から、軍人、貴族、はては王族までが参加しており、泉南岸の水辺は彼らが占拠していた。一般参加者は苦々しく思いつつも、それでも出来る限り岸辺に近付こうとする。

 トラブルを恐れるシーイス公国の外交官や神事官達は右往左往しながらも、なんとか秩序を維持しているようだった。


「毎度のことながら呆れるわねぇ。場所が良いからって、加護が得られるわけでもないのに・・・」

 祭りの騒動を横目で見つつ呟くのは、風の神霊の加護持ちであるエルフ、フィアである。


(ガラムだ。各人異常はないか?)

 遠話でPTメンバー全員に連絡が入る。


(ラーナ。なーんもなし)

(ヒルダだ。異常は見受けられん)

(リシュナンテです。祭壇付近はいつも通りごった返し。異常はありません)

(ダンだ。魔狼の足音は無い)

(フィアよ。風に異常なし)

(ミケにゃ。魔狼は北岸で待機してるニャ。南への移動は無いようニャ)

 PTに新たな念話が入る。昨日合流したミケラ・カルリンだ。


 直時と魔狼が去った後、面倒そうに説明を始めたヒルデガルドであったが、そこに走り込んできたのが彼女だった。


 ギルドのリスタル支部喫茶店で何度か顔を合わせ、話したこともあったガラムPTの面々だったが、まさかギルド付き冒険者だったとは思わなかったようである。しかし、正式の依頼書と詳細な事情説明、距離をおいてだが魔狼と直時への偵察をこなすミケに納得したのか、臨時での参加を認めた形となった。


 ちなみにギルド付き冒険者とは、ギルド運営に深く携わっていてなお且つ高い能力を持ちギルドに貢献する者。若しくは、過去にギルドに不利益を与え、ペナルティーとしてタダ働きさせられている者のふたつがある。


「まさか私の連れってことで注目されるとはね。迂闊だったわ。ヒビノの特異性にばかり注意が行き過ぎてたか・・・」

 自嘲を禁じ得ないフィア。


「だけどリスタル近辺で経験上げてると思ってたのにここまで来てるなんて・・・。あいつ、精霊術使ってないでしょうね?」

 火急の場合は使用を許可したが、初心者のクエストではそうそう遠方まで来ることはないはずである。移動速度も風の精霊術を行使しなければ、直時では不可能な距離と時間であった。


「メイヴァーユ様の戒めを蔑ろにするならそれ相応の報いを受けさせないといけないわね・・・あの阿呆には・・・」

 何やら黒いフィアである。直時に幸あれ。


(そろそろ始まるぞ。神霊の邪魔をする奴がいるとは思えんが、今回は裏方に徹するからな。周辺警戒を厳に頼む!)

 ガラムからの念話に皆が了解の旨を返した。




 神霊の降臨は唐突だった。


 突然巨大な水柱が泉の中央に聳え立つ。深くはない深度であるはずなのに、重力に負けて雪崩れ落ちた頂上は30メートルを超えた。

 集まった者達はこれが恒例であることを知るため、驚きは少ない。水柱の影響か、辺りを驟雨しゅううが覆い全てを洗い清めていく。

 泉の中心から濃い霧が渦を巻き、その勢力を拡大していく。神霊が生み出す霧だ。加護を願う者。その他の者。全てを包みこんでいく。


 加護を願う者は祈る。立ち込める濃霧に周囲と切り離され、濡れた肌を期待に火照らせ湯気を立ち昇らせながら・・・・・・。

 そんな中、濃霧が突然晴れ渡る。先程まで一寸先も白い視界でしかなかった世界に色が戻る。加護祭終了のしるしだ。

 前回は加護を与えられた者がなく、このまま泉は平穏を取り戻した。今回は?誰か加護を得られたのか?ざわめき出す群衆。


 それを破るかの様に宙に舞ったのは細い水の柱の数々だった。あるものは螺旋を描き、あるものは大きな放物線の果てに泉に吸い込まれる。旋回しながら飛び散り、飛沫が虹を生みだす。

 湖面の狂乱は水の精霊の祝福だった。今日、この日、この場所で水の神霊の加護が与えられた証であった。

 巨大な水滴が宙に打ち上げられ、花火のように無色の花を咲かせた。彩るのは七色の虹だった。




 何も見えない霧が立ち込める中、泉から近付く存在を直時は感じていた。


 傍にいるはずの魔狼達もその存在に気付いていたが、唸りもせずに頭を垂れていた。神霊が顕現したことを理解しているようだ。


―クゥン・・・

 不安そうな仔魔狼の鳴き声が聞こえる。


 直時は抱きしめてやりたいのを堪える。


「(可愛い子。おいでなさい)」

 突然響く声といえない声。直時の頭にも響く。初めてメイヴァーユと遭ったときと同じ感じだった。


 直時の驚愕を他所に、仔魔狼は優しい声に導かれ歩き出す。濃霧で見えなかったが、泉の岸辺まで近付いた瞬間、仔魔狼は水中に引き込まれた。


 突然のことに暴れる仔魔狼を背後からそっと抱きしめる白い手。


「(怖がらないで。あなた、水は嫌い?)」

 柔らかな感触に動きを止める仔魔狼。水に落ちた瞬間に閉じていた眼を恐る恐る開く。


 水面へと立ち昇る気泡とは別に半透明の水塊が仔魔狼の周りを泳いでいた。小さいが心地よさを感じる甲高い笑い声。次々と触れては離れていくのは水の精霊達だった。


 水中であるにもかかわらず、息苦しさも感じない。水の精霊の愛撫にうっとりとなる仔魔狼。


「(好きになってくれたようね)」

 背後の柔らかい存在が耳元で囁く。


 白いかいなの縛めを解かれた仔魔狼はくるりと半回転させられる。


 眼の前には優しい眼差しの神霊『ヴィルヘルミーネ』がゆらゆらと水中を漂っていた。


 深い水底のような濃い紺藍の瞳。揺蕩たゆとう長髪は濃いオリーブ色。曲線のみで構成された肢体には大きな水草の葉が貼りついていた。


「(我、深淵の『ヴィルヘルミーネ』汝に水の加護を与えん)」

 そう云った神霊は仔魔狼の鼻先に接吻を与えた。


 その瞬間、水の精霊達は歓喜に包まれた。




酒飲みながら書いてますぜ!

肝臓?膵臓?

知らん!

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