リメレンの泉③
悩んだら駄目だ!筆が鈍る!
でも皆さんの指摘に、自分の拙さを思い知らされます。
今回も短いですが、更新することが読んでいただいていることに対する応えだと思いアップします。
攻撃魔術を片手どころか、片翼であしらわれた直時はヒルデガルドから視線を仔魔狼へと移す。少し迷ったあと、魔法陣を編む。
「土は石に 石は岩に 『岩盾・塊』」
仔魔狼の前方に八角形の岩柱が聳え立った。
巻き添えを恐れる直時は、いっそ囲んでしまおうとも思ったが、それでは逃げ場が無くなってしまう。仔魔狼が盾として身を隠せるように、そしていつでも逃げる事が可能なように考慮した結果だった。
「・・・・・・用は済んだか?」
「一応は。待って頂いたようで恐縮です」
「ひとつ訊く」
鋭い眼光に怯む直時。
「人を殺したことは?」
「・・・あります」
「いつだ?」
「初めてお会いした日の二日後です」
「・・・・・・冒険者に登録して初めて、ということか?」
「まあ、そうですね」
「戦闘もか?」
「命懸けの戦いという意味ならフィアと出会ってからが初めてでしたね」
「はぁーっ」
深い溜息を吐いたヒルダは、全身から力を抜く。先程までの威圧感が嘘のようだ。
「つまらん!魔力量から何を隠しているのかと期待した私が馬鹿だった」
「あの?」
「闘る気が失せた。魔力は余りあるようだが、使い方を知らん。闘いを知らん。(竜人族の)赤ん坊のようなものだ。もういい。今、仲間と連絡をとってやろう」
取るに足らない者を見る眼で直時を一瞥し、『遠話』の魔法陣を編むヒルデガルド。
「リッテか?仔魔狼は確保した。親魔狼達とは距離をとって追跡してきてくれ。それと問題が発生した。今回、加護が与えられるのは仔魔狼だったそうだ。ギルドから保護の要請を受けた者がここにいる。ああ?私達には関係ないだろうが?まあ、お前達は気にするか。それと仔魔狼を保護しているのはフィリスティアの連れだ。そうだ。黒い奴だ。我々は魔狼には敵と認識されている。少し距離を保ってこちらに向かえと伝えてくれ」
直時に聞こえるように声に出して『念話』をしていたヒルダが通信を終える。
「それでは自分はちょっと離れてこの仔と一緒にいます。ご配慮感謝いたします」
深々と頭を下げる。
「先程高言した『責任』を果たしてもらうぞ?我等と魔狼は敵対しているのだからな。それと、その土系の人魔術、片付けられるなら早くしろ」
「すぐにやります!」
直時は魔法陣を逆操作して『岩盾』系であちこちに乱立する岩壁や岩柱を地に還す。その様子を興味深げに眺めながらヒルダが言う。
「その人魔術、リシュナンテには言うな。奴はカール帝国の宮廷関係者だ。それとラーナはリシュナンテに気があるようだから、ガーリヤ兄妹にも悟られなんようにな」
そう言って距離をとるヒルダ。直時は再び頭を下げた。
(助かった・・・。様子見と手加減されてたのは理解してたけど、最期まで力試しが続かなくて良かった)
ヒルダの攻撃はほとんど威嚇で、直時の出方を見てから対応していた。先制するように見せかけて、反撃を煽っていたに過ぎない。
(キレたように見えたのは演技だったか?警告は俺への親切心か、特定の普人族国家に益をもたらすことのないように配慮したかどちらだろう?会ったばかりだし、多分後者だろうな)
ヒルダの警告に色々と安心する直時だった。
直時の安堵に反して、ヒルダは落胆していた。
竜人族は人族の中で、類稀なる戦闘力と生命力を持ち、独自の価値観で行動するため普人族と接点を持つことが少ない。敵意を向けられれば、火の粉を払うその腕は相手を容赦なく殲滅するが、基本的に個としての戦闘力が小さい上に、好戦的な普人族のことを取るに足らない、相手にするのも煩わしい存在とぐらいにしか認識していない。そして、己の強さを自覚する彼等は、強者との闘争に惹かれる傾向が強い。
ヒルダがガラムPTに参加したのは、古い知人の懇願があったのと、相手が高ランクの魔獣である、魔狼という獲物であったことに興味をもったためだ。
当初の予定であった魔狼の殲滅が、普人族主催の神事を護ること、排除はするが積極的な戦闘が手控えられたことに気落ちした。しかし、『晴嵐の魔女』の二つ名をもつフィリスティアのPT参加が決まり、間近にその力を見られることが楽しみのひとつになった。
リスタルの食堂で妖精族であるエルフと一緒にいた風変わりな普人族も気になった。人魔術で何かを隠しているのはすぐに判ったし、なによりあのフィリスティアの連れだ。なにかあるに違いない。そう思っていた。
その男が眼の前に立った。ヒルダの強さに対する好奇心が刺激された。フィアの魔狼相手の戦振りは観た。力強い風だった。できるなら手合わせしてみたいと思った。
自分の依頼と反する依頼を受けた黒髪の普人族。良い機会だ。次はこいつの力を計ってやろう。
フィアに『炎弾』しか教わっていないはずだったが、この大陸では見たことが無い人魔術を大量の魔力と共に放つ黒髪の男。心が躍った。もっとだ!もっと力を見せてみろ!
しかし、その男に対する内に、違和感が重なっていく。これ程の魔力を持ちながら、何故防御ばかりなのだ?その瑣末な攻撃魔術は何なのだ?
そして気付いた。言葉の端々。異様なまでの堅牢な防御魔術。消極的な攻め。仔魔狼への配慮。
こいつは戦いを知らない。
ヒルダの興が削がれ、闘争に熱くなった血が瞬く間に冷めていった。反面、あまりのアンバランスさに危うさを感じた。保護欲をかきたてられたのかもしれない。だから譲歩した。警告もした。
お膳立てはしてやったぞ?どう収める?少しの期待を持って推移を見守ろうと思うヒルデガルドだった。
直時達の元に先着したのは、ヒルダの指示から察した通り魔狼達だった。仔魔狼の傍の直時に胡乱げな視線を投げつつも、戦闘跡と我が仔の懐く様子から味方と判断したようだった。対峙した形のヒルダの配慮もある。
魔狼達も当面の的であるヒルダへと警戒を向けている。
少し遅れて到着するガラムPT。唸る魔狼達。その中で直時に低い声で問いかける人物がいた。
「なにをやっているのかしら?」
フィアが無理矢理怒りを堪えたのが判るような怖い笑みを直時に向けた。
「しょ、詳細は後ほどっ!とりあえずはヒルデガルドさんに聞いてくださいっ!この仔達は泉北側に誘導します!」
冷や汗を浮かべた直時は説明をヒルダに丸投げする。
ガラムPTを威嚇する親魔狼と若魔狼。
直時は彼らが追随してくれることを祈りつつ、仔魔狼に移動を促す。幸いに仔魔狼は尻尾を振りながら直時に付いてくる。
その様子を見た魔狼達は、背後を警戒しつつ移動を開始した。安堵の息を吐く直時。
リメレンの泉北端へと魔狼達を誘導出来た直時は、じゃれつく仔魔狼を別としてその家族である魔狼達の鋭い眼差しに脂汗を垂らしていた。
(高ランク魔獣ってことは、言葉通じるよな?この世界は統一言語らしいから、きっと通じるよな?)
楽観と悲観の狭間で苦悩しつつ、ともかく意思疎通を試みる直時は親魔狼に話しかける。
「先ずは人族として攻撃したことについて謝罪します。申し訳ありません!」
深々と頭を下げる。仔魔狼の可愛さとはうってかわった精悍さである親魔狼と若魔狼。いつ襲いかかられるか内心はビクビクしていた直時である。
「遅ればせながら御仔様が加護を得ることを知り、事態の収束を図るべく動きがあったことをお知らせしたいと思います。冒険者ギルドからの正式な依頼がここにあります」
文字が理解してもらえるかどうか不安であったが、証拠として依頼書を見せる直時。
掲げた依頼書を一瞥した親魔狼は、直時を凝視する。直立不動でその視線に耐えるが、いつでも逃げ出せるように風の精霊にお願いしている直時だった。
―ヒャウンッ!
突然仔魔狼が飛びかかる。押し倒された直時が慌てるが、ぷにぷにした肉球に抑えつけられ逃げられない。舐めまわされ顔中唾液まみれだ。
焦る直時だったが、その笑み崩れる顔に魔狼達は警戒を緩める。
仔魔狼の誘惑を振り切った直時は改めて親魔狼に相対する。
「明日の加護授与まで、ご一緒させてもらえますか?人族からの干渉は全て自分が引き受けます」
人ではない大きな獣に真面目な顔で話しかける直時。人族に対する時とは違い、ありのまま、本心からの言葉だった。
親魔狼の表情が緩んだ気がした瞬間、お手だったのか、撫でようとしたのか定かではないが、その大きな前肢が直時の頭を優しく抑えた。
直時が、つぶれて地面に這いつくばったのは体格差から仕方なかった。
ヒルダのツンデレ発動!
地文で心理描写は一人称になってしまいますね・・・。
見苦しくなければ使いたい気もします。
こんな三十路いねーよ!とのご意見多数。
20代前半にして大幅改稿すべきか真剣に検討中です。
とりあえず主人公の心理描写を入れた回を考えてますので、それに違和感あれば改稿・・・しよう・・・かな?