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リメレンの泉②

戦闘シーンを調子に乗って書いてたのですが、なんか納得いかなくなってしまいました。

今回の話は思い切り方向変えた3パターンの中から採用しました。

ちょっと短いです。ごめんなさい><





 時は少し遡る。


「ラーナ!リッテを護衛!後ろに下がれっ!」

 ガラムの指示に魔狼を警戒しつつ、リシュナンテを背後に庇いながら退却するラーナ。


「護ってやるんだから、支援さぼんないでよね?」

「わかってますよ。あの御三方が前衛してくれるなら大丈夫でしょ?」

「ヴァカッ!さっきの攻撃見たでしょうがっ?巻き添え喰らったら即死よ!」

 リシュナンテの軽口に応える余裕がラーナにはあった。ヒルデガルドの戦闘力、ダンの堅牢さ、フィアの名声に裏打ちされている。


「土の精霊よ 我が求めに応じよ」


―ウォォーーーン!

 親魔狼の突然の攻撃にダンが精霊術を行使する。


 地響きを立てながら現れたのは、岩壁というのもおこがましい。屹立する岩山であった。流石の魔咆哮も全てを粉砕することは出来ず、岩山を半ば削り取るだけだ。


 正対する親魔狼の攻撃に合わせて、若魔狼が左右からPTに迫る。

 2頭に対するは竜人族ヒルデガルドと妖精族フィリスティア。


 ヒルダが呼気に魔力を込めた炎の吐息ブレスを放ち、フィアのカマイタチをともなった竜巻が地を抉る。両者とも若魔狼の前方を攻撃。たたらを踏み、跳び退く若魔狼達。


「今だっ!ここから先は俺達の縄張りだと教えてやれっ!」

 ガラムの叱咤が飛ぶ。


「土の精霊よ 我と敵を隔てよ」

 ダンが低い声で精霊に命ずる。大地を踏みしめた足から土の精霊達へ魔力が送られる。


「フッ」

 ヒルダが翼に集めた魔力を直接変換し、旋風をつくりだす。そこには精霊の働きも、魔法陣もない。竜人族特有の魔術だ。その旋風に炎の吐息を合わせる。


「風よ叫べ 荒れ狂え」

 フィアが宙を舞い、風の精霊へと大量の魔力を注ぎ込む。


 地は震え、地割れが全てを飲み込もうとその顎を開けた。炎の渦が触れる全てを焼き尽くそうと鎌首をもたげた。全てを砕き尽くす竜巻が何本も喚び出された。


 魔狼達と3人との間に、黒々とした地割れが大きく口を開き周囲の木々を飲み込んだ。そして、彼らの足元を激震が襲い、その敏捷さを奪う。

 動きが鈍ったところへ襲いかかる、大蛇のような炎の渦とカマイタチが混じった竜巻。


 親魔狼が魔咆哮を放つが、炎も風も少しの揺らぎを見せるだけで、攻撃の痕跡すら残すことはかなわなかった。

 力押しでは分が悪いと見たのか、その周囲に闇が集まる。


「不味い!隠密ハイドされたら面倒だ!」

 ガラムの警告にフィアが追跡の風を送るが、闇に阻まれた。


 魔狼達は纏った闇ごと、手近の影へと沈むように姿を消す。


 残されたガラムPTは、それぞれ攻撃を止め、索敵へと移る。ダンは地の精霊に足音を訊ね、フィアも探索の風を飛ばす。ヒルダは上空へと舞いあがった。


「退いてくれればいいんだけどな」

「楽観は禁物ですよ?」

 ラーナの呟きにリッテが応える。


 ガラムは無言で獣の気配を探っている。


(見つけた!仔魔狼だ!逃した小さい奴だ!)

 上空を旋回するヒルダから突然の遠話がPTメンバーに響き渡る。


「確保を頼むと伝えてくれ」

「了解」

 ガラムからの指示をリッテが遠話で伝える。


 ヒルダの動向に気付いたのか、姿を見せた魔狼達が走りだした。焦りが見える。


「奴等も気付いた。全員で足止めするぞ!」

「「「「了解!」」」」

 リッテの氷槍とフィアのカマイタチが魔狼達の前方の地を抉り、ダンの地揺れがその足を止める。その隙にガラムとラーナの速攻が、ダメージを負わせることができないまでも牽制に成功する。


 仲間の支援を意識しつつ、ヒルデガルドは視認した幼魔狼へと飛翔する。


 眼にしたのは幼魔狼にのしかかられた黒髪の普人族。見覚えのあるフィアの連れだった。




「離れろっ!危ないぞっ!」

 警告を発したヒルダは、身を起こした直時と仔魔狼から少し離れた場所に着地する。右手に抜き身の黒い大剣をぶら下げたその視線は鋭い。


 頭を低くし、威嚇の体勢をとる仔魔狼。傍の直時は左手で頭を撫でてやり、落ち着かせようとしている。


「何をしている?早く離れろっ!」

 ヒルダの眼が険しくなる。


「まずは事情を説明させて下さい」

 竜人族の威圧感に直時の顔から冷や汗が滴る。


 説明に口を開きかけたその時、遠くない場所で轟音と魔狼の吠え声が聞こえた。


「ちっ。説明は後だ。その仔魔狼をこちらによこせ!」

「どうするつもりです?」

「囮にするだけだ」

「駄目です。この仔にはギルドから保護要請がありました」

「なんだと?」

 近寄ろうとしたヒルダの足が止まる。直時はここぞとばかりに早口でまくしたてる。


「この仔が神霊に加護を授けられる対象であることが判明しました。そのためギルドから保護要請が出たのです。これがその書類です」

 直時は依頼書を鞄から出し、証拠とばかりに眼の前にかざす。


「だとしても、今、我々は戦闘中だ。それをおさめるためにもこいつが必要だ」

「親魔狼が逆上したら?」

「なら、こいつを連れて泉から離れるまでだ」

「神霊の加護の対象なんですよ?」

「我々は我々の仕事を遂行する。それにフィアも今、戦っているのだぞ?」

 ヒルダの意志は変わらない。それでも直時は説得を続ける。


(この依頼、失敗しても俺に損はないが、こんな可愛い生き物を戦いの場に放り込むなんてとんでもない!)


「神霊の邪魔をしたとなってはギルドにきずが付きます。そのための保護要請です。この依頼は複数出ており、他の冒険者もガラムさんPTの行方を追ってます。ご協力ください!」

「我々は冒険者だ。自らの信用に瑕が付く方が問題だ。それにギルドに瑕が付くと言ってもリスタル支部ぐらいのものだろう?ああ、シーイス公国もか。普人族の国の面子など知ったことではないしな」

 ヒルダにとって、自分達が受けたクエストを完遂することが大事なようであった。


「そこまで判っているならお願いです。ここは引いてください!ギルドの支部クラスや、普人族の国などどうでもいいんでしょう?普人族の加護祭より神霊の加護祭を守ったという事実の方が信用になるはずです!」

「くどい。PTとしての決定はなされているのだ。私はPTメンバーの一人に過ぎん。それに機会はこれが最後だ」

「自分が責任をもって泉の北側へ誘導します。あなたたちPTは普人族の加護祭さえ乗り切れば良いのでしょう?」

 必死な直時の言葉に、声を低くしたヒルダが応えた。


「責任?責任だと?あはははははは!昨日今日冒険者になった素人がっ!ならば、責任をとれる実力を見せてみろっ!」

 紅の瞳が直時の無責任としか言えない発言に怒りに染まる。


(地雷踏んだかっ?しかし、竜の人、頭に血が昇ったようだな?この仔から意識が外れたのは良かったけど、太刀打ち出来るのか?いや、それよりこの仔の安全が第一だ!)


 今にも襲いかかってきそうなヒルダに向けて魔法陣を編む直時。


(まずは小手調べだけど、この人に小手調べって効くのか?)


「土は石に 石は岩に 『岩盾がんじゅん』」

 4つの魔法陣で瞬く間にヒルダの四方を岩壁で囲む。視界が遮られた瞬間に仔魔狼を連れて距離をとる直時。嫌がる様子もなく付いてくる。

 『地走り』と『浮遊』を自身に上書きし、落としていた槍を拾って構える。ヒルダから離れることが出来た直時は、危ないからと逃げるように仔魔狼を押しやるが、ある程度離れるだけで、逃げようとしない。ヒルダに対する敵意が感じられる。


「逃げろって!」

 やりたくはなかったが、怖い顔で『しっ!しっ!』と手を払う。仔魔狼はヒルダに向かって小さな牙を剥き出していて、直時の言葉に耳を貸さない。


―キンッ!

 金属質な音と共に正面の『岩盾』に斜めの線が走る。


 線に沿ってずれていく岩の壁が突然直時に向かって弾きとばされた。即座に回避する直時。方向は仔魔狼の逆だ。


探知強化様様さまさまだ。普段の反応速度じゃ絶対避けきれなかった!)

 躱した岩の壁を確認せず、閉じ込めたはずだった竜人族に集中する。


「この人魔術は何だ?初めて見る術式だ」

 紅い眼を輝かせ、笑いに口角を釣り上げるヒルデガルド。


(キレたかと思ったけど、意外と冷静だ。これは手強い)


「怪しい魔術商人から買いました」

「お前の方がよほど怪しい」

「退いてくれるのなら無料で転写しますよ?」

 さりげなく交渉を続ける直時。相手が冷静なら、戦うよりマシだと考えている。


「珍しくはあるが一太刀で断たれては役に立つまい」

「やっぱり退いてはもらえませんか?」

「舐めるなよ。小僧っ!」

 翼をひと羽搏きし、一気に加速するヒルダ。黒剣を袈裟懸けに斬りつける。


(実戦で試験とか怖いが初お目見えだ!)

 同じ用な魔方陣を編む直時に、ヒルダが苦笑を浮かべる。


「土は石に 石は岩に 『岩盾・緩』『岩盾・塊』」

 魔力消費が激しそうな魔方陣を連発することには感嘆するが、ただの岩壁に阻まれるヒルダではない。余裕をもってシュバルツを構える。瞬間に眼の前に現れたのは滑らかな岩の円柱だったが、一刀の元に斬り飛ばされた。


(緩は衝撃吸収タイプだからな・・・目眩まし程度にしかならんだろう。本命の塊はどうだ?)


 予想通り『岩盾・緩』はヒルダの黒剣に切り飛ばされるが、時間差で八角柱の『岩盾・塊』が立ちはだかる。


―ガツッ!

 黒い刃が柱の半ばで止まった。


「おおっ!使えるっ!」

 直時が歓声を上げる。


「ふんっ」

 ヒルダが軽く気合を入れ、止まった刃を振り抜く。甲高い音の後に、直径5メートルの八角柱が斜めにズレていく。地に落ち、轟音を立てて大地に倒れる石柱。


「・・・・・・マジですか?」

 直時は『岩盾・塊』に込めた大量の魔力が無駄となるさまに呆然となる。


(なんだこれ?こんな人居るのに俺に制限かけるとかおかしいんじゃない?理不尽だ!アキラカニオカシイ!)

 力の制限を課したフィアに心の中で文句を言う直時。


 禍々しいオーラを纏ったヒルダが、微笑みと言うには明らかに黒いものを滲ませつつ迫ってくる。


「面白い。並の魔力量ではないな?フフフ、お前の全てをぶつけろ。死にたくなければな!」

 仔魔狼の確保という初期の目的を忘れたかのようなヒルダ。肌を覆う鱗の面積が増え、尾の太さも長さも増している。戦闘に高揚して竜寄りになっているようだ。しかし、なにより直時を恐れさせたのはその瞳だった。


「あはははっはははははは!」

 先程の冷静さは何処へ行ってしまったのか、狂気と歓喜に染まった瞳は直時しか見ていない。


(標的確実に俺になってる!知らない間に狙い通りになってるのは良いんだけど、怖過ぎだろ!ワンコよ逃げてくれーっ!)

 魔狼であるが、直時の中では違う認識になっている仔魔狼は相変わらずヒルダを睨みつけていた。


(この竜の人の恐ろしさをもっと見ないと逃げてくれないのかっ?しかしどうする?防御魔術は役に立たない。『岩盾・塊』が駄目なら『氷塊・硬』も無理。『崩土ほうど』は飛ぶ相手には無効)

 これまで直時は攻撃に踏み切れなかった。臨時とはいえフィアと同じPT仲間であるし、遂行中のクエストも正式な依頼だ。何より相手の立場からすれば、その主張が正当だと理解できていたからである。

 しかし、圧倒的な戦闘力、威圧感を持つヒルダに恐怖は限界へと達する。


「焼けつく炎 『炎弾・散』!」

 初めて攻撃魔術をヒルダへと向ける直時。威力の少ない術を選んだのは、未だ心理的歯止めがあったせいだ。


「ぬるい!」

 片翼の羽ばたきだけで、炎の散弾が霧散する。


「貫け 氷の槍 『氷塊・槍』!」

「同じことだ」

 ヒルダの翼が起こした風に、10本の氷の槍が纏めて叩き落とされる。


(精霊術を使うしかないのか・・・)

 直時はここに全力で戦うことを決意した。




没った理由は超展開になり過ぎて、イメージしてた進行が不可能になりそうだったからです。

没原稿・・・もったいないから消してないけど、どっかで使えたらいいなぁ。

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