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ノーシュタット②

宿屋のトイレの有無を完全に忘れていましたorz

宿屋は基本的に部屋ごとにトイレがあるという設定で・・・><

・・・・・・書いてませんけど・・・在るんです・・・


 ノーシュタットの街は政庁を中心に東西南北へ大通りが走る、街道を基本に建設された街だった。街の外周は城壁と言うには低いが、それでも3メートル程の石造りの壁が囲んでいる。一定の間隔で監視所が設けられているのは、治安面ではなく通行税のためだった。

 普人族で対応できないほど力のある種族なら、監視所をかいくぐるのは造作もない。しかし、それだけの力を持つ者の財力なら、わざわざ密入しなくとも税を払えば良いだけなのだ。ただ、緩い規則だとそれを基準にしてしまう者が続出するため、形だけとはいえ必要な措置なのだった。


 宿泊する『岩窟の砦亭』は外壁に近い場所にあったため、まずは一番近い南大通りへ向かう直時。


 少し薄暗い路地から、夜にも拘わらず魔術で明るい大通りは目立つ。迷うことなく喧騒の真っただ中へと足を踏み入れる事が出来た。


「良い匂いだ」

 所狭しと並んだ数々の露店。日本の縁日と同じく、飲食系が一番多い。


「おにーさん!串焼き3本と麦酒!」

「はいよ!焼きたてだからヤケドすんなよ!」

 直時は早速手近の店で注文する。


 店先で立ったまま食べるのが、この世界の露店のスタイルのようだ。紙コップなどの使い捨て品が普及すれば食べ歩きも可能になるかもしれないな、と考えつつ木製コップに注がれた麦酒を呷る。


 串焼きは小振りで、日本の焼き鳥ぐらいだった。肉は何の肉か判別がつかなかったが、塩と香辛料だけの味付けで素材の良さだろう肉の旨味を充分に引き出していた。


「美味い!おにーさん、これ何の肉?それに焼き方も上手いねぇ。固くならないで、それでも火がしっかり通ってる。それに串からほろっと肉が取れるもの」

「イリキア産の黒地走り鳥の腿肉を叩いてほぐした肉さ!もう一本いっとくかい?」

 直時の絶賛に若い店主の顔が綻ぶ。


「もう3本と麦酒おかわり頼むよ」

「はいよ!」

 なんとはなしにやり取りを見ていた者が足を止め、新たな注文が増える。


 勘定は商品と引き換えだったため、混みだした店先で慌てて食べる直時。串は店先のバケツの中に捨てる。


「ごちそうさま!」

 カウンターの端にコップを置いて、次の露店を物色しつつ歩き出す直時だった。


 その後、パスタだか焼きそばだか判らない料理や、大判焼きのような小さなパンケーキ、魔術で凍らせた果実などを食べ歩いた直時は、さすがに満腹になったのか、落ちつける店を探していた。


「露店ばっかりだったけど、BARっぽいとこでゆっくりしたいな」

 膨れた胃を撫でながら、眼に着いた酒場に入る。


 重厚な店構えのためだろうか。表のお祭り騒ぎとは無縁の静かな店内だった。客の入りもそれほどではなく、客の身なりからして富裕層のための店のようだ。


(場違いだったかな?まあ、一杯飲んで出たらいいか・・・)

 少し怯むも、懐具合と酔いに後押しされカウンターへと腰を下ろす。


「ご注文は?」

「強いものをで。樽の香りが良いものをお願いします」

 麦酒と果実酒ばかりだったので、強い酒はないものかと探りを入れる直時。銘柄を指定せず曖昧な表現で店の対応をはかる、


 バーテンダーは壮年の普人族。真っ直ぐ伸びた背中と、表情を変えない静かな対応に年季を感じさせる。


「私のお勧めでよろしければ見繕わせていただきます」

「お任せいたします」

 にっこりと頭を下げる直時。


(貴族や豪商っぽいのが多いけど、あそこの集団は役人かな?妙に息が合ってるところはもしかして・・・)

 何気なく店内を見渡し、注意を引いた集団は、直時の直感通り軍人であった。それぞればらばらの私服であるが、集団訓練を受けた名残か、いちいち動作が揃うのである。


 誰かが発言すれば全員が注視し、立ち上がれば踵を揃える癖がある。直時が自衛隊の基地近くの街で飲んだときによく見た光景だった。


「紅玉の朝露という銘柄です。樽は竜鱗樫。37年ものです」

 コトリと微かな音とともに水晶グラスが直時の眼の前に置かれた。


 ワンフィンガー分の紅茶色の酒を手に取る。色を愛で、次に香りを楽しむ直時。


 軽く含んだ酒精から、尖った中にもまろやかな味わい、樽から移った木の香り、強いアルコールの刺激が溢れる。


(これこれ!ウィスキーっぽい!穀物系の蒸留酒ってやっぱりあったんだな。フラスクと合わせて滞在中に探そう)

 決意とともに、口腔の酒を飲み下す直時。


 滑りながら喉を焼く感触。そして胃に落ちて静かに燃える炎のような感触。


 自然と綻ぶ直時の顔に、仕事を完遂したものだけが得る満足を浮かべるバーテンダー。


「初めて出会うお酒です。素晴らしい出会いに感謝します」

 グラスを掲げる直時に無言で頭を軽く下げるバーテンダー。ご機嫌な直時はグラスを軽く揺すり、立ち昇る香りを楽しむ。ちびりちびりと少しずつ飲む姿は、ただの酒好きの姿だった。


 静かな店内の空気が凍ったのは、新たな客を迎えた時だった。


 そのグループ客はかっちりと制服を着こなした軍人だったが、奥で談笑していた軍人らしき集団から敵意の視線が放たれる。


(敵対国なのか・・・な?)

 不穏な気配を感じた直時は、惜しみつつも残りの酒を一気に呷る。炎が喉から腹へと下っていく感触が堪らない。


「他を探そう」

 制服集団の先頭にいた男が後ろを振り返り店から出ていった。凍った空気が時間とともに溶け出していく。


 店が元の雰囲気を取り戻すのにさほど時間はかからなかった。しかし、気を削がれてしまった直時は会計を頼む。


「またのご来店をお待ちしております」

 丁寧に頭を下げるバーテンダー。そして美味しいウィスキー(?)の発見に直時は1杯で銀貨1枚という値段を気にせず店を後にすることができた。


 先程の店内での出来事が気になったのか、街を歩く直時の視線は自然と集団でいる普人族へと向けられる。


(あれも軍人だな。足並みが揃い過ぎてる)

 思ったより多くのそれらしき集団が見受けられる。


 直時は軽く喉を潤そうと氷菓子を売る露店で足を止める。


 犬耳の売り子が果肉ごと擂り潰した果汁に、攪拌しながら『氷結』の魔術をかけている。


「おねーさん。その赤いのひとつお願い」

「はいはーい。ちょっと待ってねー」

 注文をさばきつつ、直時のオーダーに応える。


「いやー加護祭の熱気はすごいねぇ。熱にあてられたみたいで、冷たいものが欲しくなってたんだよ」

「5年に一回だからねぇ。誰だって加護を授かるかもしれない望みがあるなら、参加もしたくなるからねぇ」

「加護持ちってやっぱりすごいことなんだねぇ。俺なんか加護を授かるなんて思えないからただの観光だよ」

「前の加護祭のときは誰も加護を得られなかったから、今回は熱気が違うのさ。集まって来た人もすごく多いみたいだよ?」

「皆、我こそは!って意気込んでるのかねぇ」

「普人族なんかはそういう人は多いね。お客さんはあんまり乗り気じゃないね?」

「あっはっは。俺はまぁ、みーてーるーだーけーって感じかな」

 日本での有名な台詞である。直時が揶揄する意図だけは伝わったようで、コロコロと楽しそうに笑う犬耳娘。


「はい。おまちどお!」

「おう!ありがとー」

 代金の白銅貨を払う。攪拌で空気が良く入って、食べやすいシャリシャリ感だ。


「うん!美味しい!」

「あはは。ありがとー」

 店先で酸味のあるイチゴのようなシャーベットを食べながら、直時は犬耳娘に話しかける。


「それにしても軍人さんが多いねー」

「毎回毎回懲りずに良く顔を出すもんだわ。精霊術を戦争の道具にしか考えてないような連中に、加護なんて得られるわけないのに」

 犬耳娘が鼻を鳴らして、折しも店の前を歩く軍人らしき集団を見る。侮蔑の色が濃い。


「だよなぁ」

 適当に相槌を打つ直時。


「でも加護を授けられたって、戦争で精霊術使えるほどの魔力は普人族にはないだろう?」

「いやいや、普人族の軍隊はえげつないらしいよ?集めまくった魔石だらけの装備で戦場に放り出すらしいからね」

 過去に精霊術を使える普人族が戦争に投入されたことがあるようだ。


「動きにくそうだね。的にしかならんだろ?」

「だから他の兵を盾にして進むんだってさ」

「・・・えぐい戦法だな」

「全くだよね」

「あ、器ここに置いておくよ?美味しかった。ありがとねー」

「こっちこそありがとー!また来てねー」

 犬耳娘に手を振りながら店から離れる直時。


 食べ歩きに満足した直時は、あちこちの露店を冷やかしながら『岩窟の砦亭』へと帰る。


 道すがら購入したのは、ベルトに装着可能な幾つかのポーチと小さな革袋が数個だった。探していたフラスクは見つからなかった。


(ウィスキーは明日、酒屋を探してみるかな)

 必需品のひとつにお酒がカウントされている直時だった。




 宿へ戻ると、ジギスムントの武器屋は灯りを落としていたが、入口の鍵は開いていた。地下への階段を下りると、受付にはまだ女将であるリタが待機していた。


「おかえりなさいませ」

「ただいま戻りました」

「街はどうでしたか?」

「すごい人でした。さすが加護祭だけはありますね」

「お楽しみになられたのなら宜しゅうございました」

 艶めかしい雰囲気を纏うリタの笑顔に一瞬頭が霞む直時だったが、軽く欠伸をしてそれを振り払う。


「今日は疲れました。ゆっくりと休ませてもらいますね」

「今のを躱しますか・・・朝食はどうされます?」

「?――何か不穏な台詞が聞こえたんですけど?」

「気のせいです」

「・・・・・・朝食の用意はお願いします」

「かしこまりましたわ。それではごゆっくり御寛ぎください」

 深々と頭を下げるリタ。大きく開いた胸元から見える深い谷間が気になりつつも部屋に向かう直時だった。


 扉が閉まる音が微かに聞こえ、受付にジギスムントが顔を出す。


「お前、魅了使ったな?」

「あら、あなた。やきもちはみっともないわよ?それに小手調べだったけど、自覚も無しに無効化されちゃったわ。精霊に好かれやすいのかしらね。ミケも面白い子と縁を持ったものだわ」

「お客なんだから程々にしておけよ?」

「そうね。次はミケを嗾けてやろうかしらね」

 フフフと楽しそうに微笑するリタ。ジギスムントは肩を竦めて寝室へと向かう。


「加護祭で人の出入りが激しい。入口は大丈夫か?」

 振りかえったジギスムントがリタに聞く。


「もちろん。お客様と予約された方以外は入れないように闇の精霊に護ってもらってるわ」

「お前も早く寝ろよ」

「我が家のベッドメイキングは任せたわよ?」

「明日がつらい。早めに来い」

 就寝をあっさり覆されたジギスムントは眠れるのは何時になるだろうかと考えながら、寝室へと向かうのだった。




 自室へと戻った直時は、用意してあった洗面器に『出水』で水を満たす。衣服を全部脱ぎ、隅々まで身体を拭った。汚れた水はトイレに流す。


 新しい衣服を纏ってベッドに横になったが、すぐに置きあがって文庫本を手にしてもどる。


(疲れてるから寝たいけど、今晩はこの宿の様子見だ。寝ずに警戒しよう)

 常に入口が視界に入るようベッドに座り、文庫本を読み始めた。旅の疲れと、酔いに誘われて眠ってしまいそうになる。


「危ない危ない。今日は我慢だ」

 気分転換だろう。煙管を燻らせる。


 直時が紫煙を吐きだしつつ、ぼんやりと入口を眺めていると、黒い靄のようなものが眼に映りだす。


「ん?」

 注意して見ていると、黒い靄は半透明の拳大で、それがいくつも漂ったり扉の隙間を出たり入ったりしている。


 微かな子供のような笑い声。


(この感じは、精霊か?)

 風の精霊や、水の精霊と同じような気配を感じる直時。


「おいで?」

 煙管の火を消し、近くを漂っていた黒い半透明の靄玉に手を伸ばす。


「君達は闇の精霊?」

 ひとつが直時の掌に乗っかると、ベッドの下や、部屋に落ちる影の中からも次々と精霊達が出てくる。


「君達は何が得意なの?」

 話しかける直時に声にならないイメージが次々と流れ込む。癒し、抱擁、安息、眠り、護り、そして死―。


(全てを包み込む慈悲の闇・・・死は生の終焉、その看取り手・・・)

 直時は、死のイメージを伝えてきた闇の精霊に対して不思議と恐怖は感じなかった。


 それから朝まで、直時は闇の精霊達と遊びながら過ごした。


 光の向きと関係なく。自分の影の手や首を伸ばしたり縮めたり、放り投げたコップの影を捕まえることで実体の方を空中停止させてみたり、濃い闇の塊をつくってみたり、その中に入ったりと随分と楽しんでいた。


 若干不安があったものの、何事もなく朝を迎えることが出来た直時は闇の精霊達との遊びを止めて、受付のリタの元へ向かう。


「おはようございます。お早いですね?」

「おはようございます。昨夜お願いした朝食ですけど、ここって食堂はないですよね?」

「朝食は部屋の方にご用意させていただきます。もうお持ちしても宜しいですか?」

「はい。お願いします」

「では、少々お待ち下さいね。用意が調い次第お部屋へ伺います」

「宜しくお願いします」

 軽く頭を下げ、部屋へと戻る直時。


 散らかっていた本を片付け終った頃、扉を叩く音が聞こえた。


「はい。どうぞ」

「失礼します」

 リタが扉を開け、湯気の立つ料理を載せたワゴンを押して入って来た。給仕のスタイルなのか、エプロンドレス姿である。


「お声を掛けてくだされば、片付けに参ります。では、ごゆっくり」

 艶やかな微笑みを残して部屋を出ていった。


 メニューは焼きたてのパンと、具だくさんのスープ。塩漬け肉と生野菜のマリネ風。搾った柑橘果汁だった。食後のお茶もポットに用意されている。


 全てを平らげた直時は、お茶を飲み、煙管を燻らせる。


「朝までちょっかい出されることはなかったな。一応安心していいのかな?」

 寝不足と満腹感が眠気を誘う。


「・・・昼まで寝よ」

 限界のようである。


 食器を載せたワゴンを受付のリタへと渡し、昼まで部屋で用事を済まし、昼から出かける旨を伝える。


 部屋に戻った直時は、のそのそと寝具の間に滑り込む。


「闇の精霊さん・・・誰か来たら起こして」

 昨夜から一緒に遊んだことで、仲良くなった闇の精霊に伝えたのが限界だった。次の瞬間、直時の緊張の糸が切れ、深いまどろみへと落ちていくのであった。




 久し振りに深い眠りを得た直時は、身も心も回復し賑わう街へ繰り出した。


(それにしても人が多い。物見遊山だけなら構わないけど、必要な買い物もしないとな。特に酒とか!)

 大通り沿いを人波を縫いながら、店を物色する。


(あの魔法陣の看板は魔術屋さんか、防御系の魔術とか欲しいな。結界みたいな術を探してみるか・・・)

 行きかう人の波を、誰にぶつかることもなく進む。ラッシュ時のホームや休日の繁華街などに較べればどうということはない。時折聞こえる肩が当たった、ぶつかった、足踏んだだのという怒声や謝罪の声は直時には無縁だった。


「いらっしゃいませ」

 店の扉をくぐった直時を出迎えたのは、恰幅の良い壮年の男性だった。魔術師というより、商人にしか見えない。


(魔術屋だって、魔法陣を売る商売人だから当然か)

 納得した直時は、自分の希望する魔術を伝える。


「防御系の魔術を探しています。駆け出しの冒険者なんですが、野営の時に安心して眠れる防御系の魔術とかありませんか?」

「眠っているときですか・・・。戦闘中の防御系ならありますが、長時間発現させておく術は扱っておりませんねぇ。警戒や警報を発する術ならありますがいかがですか?」

「ちなみに戦闘中の防御系ではどのようなものがありますか?」

「『炎壁』や『氷盾』『風緩衝』など、各種取り揃えております。魔術カタログをご覧になりますか?」

「お願いします」

「では、こちらへどうぞ」

 直時は店内の応接椅子へと案内され、防御魔術一覧と書かれた羊皮紙を渡される。


 魔術の名称と簡単な説明文、値段が記されている。


(どの魔術も戦闘中の短時間の発現のみか、改造したところで一晩中炎や氷に囲まれているわけにもいかないしな・・・。風系はエアクッションみたいなものか、逸らすような魔術だな。土系は『岩盾』改造すればいいだろうし・・・)

 悩む直時に、店主がもう一枚のカタログを持ってくる。


「発想を変えられてみてはいかがでしょう?」

「これは・・・見つかり難くする魔術ですね?」

 ニコリと頷く店主。頷いた拍子に3重になった顎が、直時に抜群の安心感をもたらす。


(光系魔術は、周囲に溶け込ませる・・・迷彩術?迷彩柄のシートを被って隠れるような感じかな。流石に光学迷彩とまではいかないか・・・。闇系魔術は、影に溶け込む、隠れるみたいな魔術だな。光を反射しにくくなるのか?)


 他にも臭いや音を抑える風系魔術や、霧を発生させる水系魔術などがある。


 いつくか心惹かれる魔術があった直時だが、一番魅力的に感じた光系迷彩魔術を選ぶ。


「この光系魔術『幻景』(げんけい)と・・・、警戒用の魔術『報笛』(ほうてき)をお願いします」

「有難うございます」


 『幻景』は金貨2枚。『報笛』は銀判貨15枚であった。


 直時が次に向かったのは魔具店だった。魔杖が看板に描かれている。


「「いらっしゃいませ」」

 直時を出迎えた声は二つあった。壮年の男性と、若い女性のものである。父娘だろうか。眼元がよく似ていた。


 直時は、店内の品を眺めつつ、魔具に対する脳内情報を検索する。


 ――魔具には大別して3種類ある。


 杖等に組み込まれる増幅系。放出する魔力量をある程度増幅してくれる。眼に見えるほどではないが、消費魔力を節約できる。


 次に装飾品等の貯蔵系。指輪や首飾り、服のあちこちに留められた魔石の装飾品は、普段から少しずつ魔力を貯め、任意に使用することができる。魔力の少ない普人族は、魔石をバッテリーのようにして、ある程度魔力量をカバーしている。


 最後に系統強化系。見た目は装飾具であるが、はめ込まれた魔石が特別なもので、火系、水系、土系といった特定の属性に親和性を持つ魔石である。これにより自身の使う、同系統の魔術を強化したり、相反する系統の魔術を弱めたりすることができる。本来、魔法陣の効果は同じであるが、術との相性等があるのも事実で、自分の得意な系統の魔石を身に付けることが多い。


(結構良い値段するなあ。それなのに客は多い。需要が多いんだな)

 軽く店内を見渡した直時は、あまり必要性が感じられなかったため、何も買わずに店をでた。


 遅めの昼食を屋台を巡ることで摂った直時は、ぶらつきながら主目的である酒屋を探す。


 酒樽を看板にした大きな店が眼に入った直時は、高速で人波を縫う。全ての障害物を確実に避け、目的地に向かうその姿は、プリプログラミングされた通りの巡航ミサイルのようだった。


 入店した直時の眼の前には、桃源郷が広がっていた。積み上げられた酒樽。芳醇な香り。試飲もできるようで、仕入れに訪れた者たちが、真剣な顔で香りと味を試している。


「おや?その黒髪は昨日の?」

 直時が掛けられた声に振り向くと、素晴らしい仕事振りのバーテンダーさんの姿があった。


「こんにちは。昨夜は大変美味しいお酒をありがとうございました」

「ご満足いただけたのなら私も嬉しいです」

 凛々しい印象のバーテンダーが柔和に微笑む。


「昨夜の蒸留酒があまりに美味しかったので、酒屋さんを探してここに来たんですよ」

 頭の後ろを掻きながら直時が話す。


「お酒を愛しておられるようですね」

「あはは。味とかあんまり判らないですよ?ただ好きなだけです」

「どのような品をお求めですか?よろしければお勧めなどさせていただきますよ?」

「それは有難いです。尖っていても構いませんが、樽の香りが良いものが好みです」

「ご予算は?」

「金貨1枚です。樽は一番小さいのがいいですね。旅の途中なので」

「ガロン樽になりますね。それで金貨1枚なら・・・高級とはいきませんが、香りの良い銘柄があります」

「じゃあそれを購入することにします」

「試飲もできますよ?」

「初飲みも楽しみの内ですから、宿に帰ってこっそり楽しみます」

 顔を見合わせたバーテンダーと直時はどちらともなく笑いはじめる。


「ノーシュタットにお寄りの際は・・・」

「もちろん一番に寄らせていただきます」

 皆まで言わせず断言する直時だった。


 蒸留酒の小樽を抱え、ご満悦の直時はバーテンダーの勧めの店でフラスクを購入し宿へと帰った。


「待ってたニャ」

 直時を出迎えたのは、少し憔悴したようなミケだった。




禁酒設定した日だったのでお酒ネタになってしまった・・・。

話の方向性を見失ったまま走りだした感が・・・。

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