表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/123

ノーシュタット

言い訳がましい話になってしまった・・・。

もう見限ってください;;



 『浮遊』の重量遮断は100キログラムが上限だったため、とりあえず血抜きするためにも魔法陣を描き変える。


 周囲に誰もいない森の中は、探知強化の使用もあり、宿屋での魔法陣改造より安全と言えた。


「重量制限は魔力を吸い過ぎないようにブレーカー扱いか。必要魔力量多いもんな。じゃあここの設定値を上限無しにして対象重量に相応する魔力を供給するようにして・・・」

 一般の普人族が限度を知らずに使ったら、干からびること間違いないような危険な改造を施す。


 未だ血を流している甲骨猪の胴体の元へ歩み寄った直時は、完成したばかりの魔法陣を編む。


「眠れ 重さの精霊よ 我は羽根の夢を与えん 『浮遊・限定解除』!」

 頭を無くした胴体の重量は2トン以上あった。尋常ではない魔力量をもつ直時だったが、急激な魔力の消失に眼の前が暗くなる。魔力の不足分が体力で支払われたためだ。


「やばっ!」

 膝を突いた直時は、メイヴァーユやフィアに指摘された『謎の力』、背骨を巡る螺旋の力を急いで魔力へと変換していく。


「ふう・・・。吃驚した・・・」

 今までは寝れば回復していたこともあり、魔力の補給に意識が向かなかった。


(『アスタの闇衣』で隠蔽してるし、大目に魔力回復しておくか・・・。しかし対抗する魔術があれば面倒だな。まあ、そもそもそこまでの事態になったら、精霊術でも改造魔術でも使わざるを得ないだろうし良いだろう)

 自身の力を魔力へ変換し溜めこんだ量は、エルフであるフィアに倍する量になってしまった。


 風の力を借りて、重さの感じられなくなった胴体を木に吊るし、血抜きをする。

 死体からは男の直時でさえ悲鳴を上げたくなるほど多くの寄生虫(異世界産巨大ノミ、ダニなど)が這い出して来た。食料である血が止まったためだろう。


 直時は、甲骨猪の死体を出水いでみずで洗い流すだけでは足りず、改造魔術の『水塊』をぶつけていた。寄生虫の大群に肝を冷やしたようである。




 しし鍋という、朝からなかなかヘビーな食事を摂った直時は、目立たず持ち運べるであろう100キロ分の肉塊を2つと、巨大な牙を戦利品として荷物に加えた。『浮遊』は改造前の既成術を使用する。


 出発の準備を終えた直時が、もったいなさそうに残った死骸を見ると、血の匂いを嗅ぎつけたのであろう、以前仕留めた斑土蜘蛛をはじめとする小型の魔獣達が集まってきていた。


 死骸や血溜りに集りだした巨大な虫とは別に、木々の梢にも鳥や翼竜、蝙蝠のような魔獣が様子を窺いはじめる。


「置いていっても無駄じゃないな。うかうかしてたら俺も餌にされそうだ」

 荷物を担いだ直時は、急いでその場を後にした。


 『落霜おちしも』で低温保存した肉塊の入った革袋を槍の両端に吊るし、街道をノーシュタットに向けて『地走り』で高速移動する。


 町に近付くにつれ、加護祭目当ての観光客や隊商、輸送クエスト中の冒険者の姿が増えていった。


 直時の姿もそんな冒険者たちに紛れ、ノーシュタット南門へと到着した。


 残り少ない財布から税として判銀貨1枚を渡し、無事ノーシュタットの街へと入る。


(リスタルの倍の税じゃないか!お祭りとか、催事のときこそ半額とかにすべきだろう?)

 領主の能力に低い評価を与える直時。しかし、水の神霊の加護を得る、もしくはその場に立ち会えるかもしれないということが如何に希少な体験であるのか理解していないためだった。


 加護祭の度に増える参加者に運営能力の限りを尽くす街の領主や役所は、期間限定で税の引き上げも視野に入れていたのは直時の知る由もないことである。




 加護祭にごったがえすノーシュタットの街。リスタルより大きく、木造より石造りの建築物が多く見受けられる。


 許可を得ているのかいないのか、大通り沿いに所狭しと並ぶ露店。身分の上下も入り混じった普人族。獣人族、妖精族、竜人族、魔人族等の姿も見受けられる。


 直時は、初めての街のお祭り騒ぎに後ろ髪を惹かれつつも、冒険者ギルドノーシュタット支部へと直行する。


 ミケから思いもよらない収入があったが、懐はまだ心許無い。預かった品を一刻も早く渡したいとの思いもある。


 ノーシュタット支部は、加護祭のこともあり冒険者で溢れかえっていた。クエスト品の交換所もだが、リスタルでは並ぶ人もまばらだった受付にも多くの冒険者が列をなしている。


 直時は列の後ろに並び、提出アイテムのチェックとクエスト証明書を荷物から出す。


(あれ?証明書になんか付いてる・・・)

 リスタルで渡されたクエスト証明書に小さな紙片が挟まれていた。


――宿泊は『岩窟の砦亭』 で――

 文面のあとに横長の紡錘形が二つ並んで描かれ、それぞれの中に縦長の紡錘形が塗りつぶされていた。猫眼のようである。


(ミケさんだな・・・。油断も隙もないな)

 苦笑する直時。


 昨日の事を思い出す。監視者が現れるだろうことは、フィアに『アスタの闇衣』を掛けてもらう時に予想されていた。それがミケであったのは予想外だったが、二人が警戒していた普人族の組織ではなく、冒険者ギルドからだったのは僥倖であった。


 冒険者ギルドは普人族のための組織ではない。冒険者個人が義勇兵として参加することはあるが、組織としては各国の軍事行動に不干渉を貫いている。


 公共の利益であると判断されるなら、増えすぎた魔獣の掃討作戦や、盗賊団討伐作戦の依頼を受けることもあるが、傭兵扱いの軍事作戦がクエストとして受理されることはない。


(ギルドの創設は神様だって言うし、世界中に広がっている大組織だ。隠すより、事情を理解してもらっておいた方が良いんじゃないかな?)

普人族の国や組織に対する後ろ盾にもなり得る。それには冒険者ギルドに直時自身が利益をもたらすことが前提であるが・・・。


(しかし、ミケさんの方が何者?って感じだよな。その気だったら知らない間に殺されていただろうに・・・)

 風が知らせてくれたとはいえ、至近距離だ。闇の精霊にどんな攻撃があるのかは判らない直時だが、魔法陣の発動無しで攻撃されたらひとたまりもなかったであろう。


(気配に気付かれたからって、必要もないのにわざわざ姿を見せるあたり、あの人も良い人だよな。油断はできないけど・・・)

 顔を確認されたことには気付いてなかっただろうから、そのまま逃げて何食わぬ顔で接していても良かったミケである。


(監視者はミケさんだった。調べる理由はギルドからの依頼。ミケさんは冒険者で、闇の精霊術を使う。依頼主のことを教えてくれたのは、そういう指示だったのか、ミケさんの独断か、あるいはブラフ。少なくともギルドで職員まがいのことをするくらいだから、ギルドからの依頼という線は妥当かな?)

 直時は情報を整理し、これからのことを考える。


(正体を明かして、対話による情報収集。そして、俺にはその方が有効だと判断されたわけだ。対話する価値があると認めてもらったってことで、喜んでいいんだろうな。そして、対話する以上、俺が求める情報も渡してくれるはず。これは交渉次第か)

 ギルドに頼り切ることは出来ないが、ギルドを敵にまわすことだけは避けなければならない。


(フィアがいれば相談できたんだけど、なるべく無難な情報を小出しにしていくしかないか・・・。わざわざ仕事だってモード切り換えするくらいだから、この街じゃ接触してこないかもしれないけど、宿を指定するのは隠れて会うくらいは考えてそうだ)

 思考に没頭しがちであったが、受付での順番が回ってきた。


 直時は、予め手元に用意していたクエストの依頼品と証明書を渡す。依頼品の確認を待つ間、受付嬢に『岩窟の砦亭』の所在を聞く。


「今はどこの宿屋もいっぱいですよ?予約されてますか?」

「自分は予約してないのですが、知人の紹介だったもので。とりあえず確認のために寄ってみます」

「そうでしたか。部屋の空きがなければギルドでご紹介できるかもしれませんので、そのときはお気軽に声をかけてくださいね」

「はい。有難うございます」

 宿屋の斡旋もしているようである。


「依頼品の確認がとれました。こちらが報酬の金貨3枚になります。それと、お預かりしておりました金貨1枚もお返しいたします」

「有難うございます」

「クエスト完遂お疲れ様でした。またのご活躍を」

「どうも」

 財布に報酬を納め、受付を後にする。懐には金貨が合計5枚ある。


「これならお祭りも楽しめそうだ」

 顔を綻ばせながらギルド会館を後にし、『岩窟の砦亭』へと向かう直時だった。




 『岩窟の砦亭』は受付で聞いたより判り難い場所だった。直時は教えられた場所近辺を何度も歩き回った末、ご近所さんに聞くのが一番かと武器屋の扉をくぐった。


「いらっしゃい」

 店主は妖精族であるドワーフである。土や火の精霊術を使い、鍛冶を生業とするものが多いと知識にある。店の品は彼の作品なのだろうか?


「こんにちは。済みませんが紹介してもらった店がわからなくて、道を聞きに入ったんです。宜しければ『岩窟の砦亭』という宿屋を教えてもらえないでしょうか?」

「ああ。それならうちのことだ」

「え?ここは武器屋さんですよね?」

 ミケの指示から宿屋だとばかり思っていたが、違うようだ。


「誰に聞いた?」

 店主が少し低い声で直時に問いただす。


「猫人族のミケラ・カルリンさんだと思います」

「暗爪か・・・。思いますってなぁどういうことだ?」

「メモだけがありまして、差出人の心当たりがミケラさんだけだったんです」

 ミケの二つ名に実力者との意識を新たにするも、店主の威圧感に訳を話し、例のメモを見せる。


「ふむ・・・確かにな。よし!何泊する?」

「ここ武器屋さんですよね?」

「かみさんが宿屋やっててな、まあ判り難いが入口はそこだ」

 ドワーフが指さしたのは店の片隅から地下へと降りる階段である。壁に『岩窟の砦亭』の看板がかけられていた。宿屋を目的に来た人には探しようもない場所である。


「加護祭が3日後ですよね?じゃあ今日を入れて4泊お願いしたいです。空きはありますか?」

「それなら大丈夫だろ。かみさんが下で受付やってるから俺の許しが出たと言ってくれ」

「はい。有難うございます」

 紹介制の宿屋なのかな?と思いながら階段を下りる直時だった。




「いらっしゃいませ」

 直時を出迎えたのは、褐色の肌に濃いオリーブ色の髪をした妖艶な美女であった。耳が尖っているのをみるとエルフのようだ。


「こんにちは。宿泊をお願いします」

「有難うございます。予定は上での声が聞こえておりましたわ。4泊でよろしゅうございますね?」

「はい。お願いします」

「お代は金貨1枚になります」

「えっ!」

 あまりの高額に吃驚する直時。おかみさんは笑みを崩さずにいる。


「ミケからは何の説明もなかったようですわね」

「・・・・・・はい」

「うちはこのような店構えでしょう?お部屋は全て地下になります。壁は主人の土の精霊術で錬成されておりますし突破は不可能です。各部屋は闇の精霊により声も気配も漏らしません。侵入者は不肖わたくしめが排除させていただいておりますわ」

 夫婦で精霊術の使い手であるという。つまりセキュリティが売りということだ。


「ギルド御用達の宿なんですか?」

「いいえ。信用のおける冒険者様であるか、そのご紹介がある方向けの宿屋でございます」

「自分の場合はミケさんの紹介になるんですね?」

「そうですね。それにミケはまぁ、私の妹のようなものですからその紹介を無碍にはできません」

「お世話になります」

 ミケからの報酬はここの料金のことであったようだ。直時は惜しみつつも金貨1枚をおかみさんへと渡す。


(ギルドとは関係ない・・・のか?ミケさんの独断なのかな?)

 なんとなくミケの掌の上のようだが、セキュリティが万全なら魔法陣の改造も安心してできそうである。其処ら辺りの事情も汲んでのことだろう。


「ところでそのお荷物は食肉のようですが、クエストの品ですか?」

 おかみさんが二つの革袋に視線を向ける。


「いや、これはクエスト品ではなくて、たまたま襲われた魔獣の肉なんです。ギルド会館は人でいっぱいだったので、そのまま持ってきてしまったんです。あとで掲示板の確認に行かないと・・・」

「ちなみに何のお肉ですか?」

「甲骨猪です。部位は腿肉ですね」

「差し支えなければ買い取らせてもらえませんか?」

「それは助かります。正直困ってたんです。依頼が無かったら自分で市場に売らないといけないですからね」

 これで少しでもさっきの出費が回収できれば儲け物だと、直時の顔が明るくなる。


「拝見させていただいても宜しいですか?」

「どうぞどうぞ!市場の買取りの7掛けくらいで買ってもらえたら嬉しいです」

 自分で売る手間を考えれば3割引くらいが妥当だろう。ただ、直時は流通価格など知らないのだが。


「良い状態ですね。本当に7掛けでよろしいのですか?」

「はい。助かります!」

「では両方引取らせてください。金貨4枚で買い上げさせていただきますね」

「おおお!有難うございますっ!」

 思わぬプラス収入である。興奮する直時におかみさんが確認する。


「牙も採取されましたか?」

「あ、はい。鞄に入ってます」

「宜しければそちらは旦那に見せてやってくださいませんか?武器の材料として必要としているかもしれません」

「もちろんです!部屋に荷物を置いてから伺うようにします」

 牙も買い手がつきそうな勢いだ。幸運とミケに感謝する直時だった。


 『岩窟の砦亭』の部屋数は少なく、8部屋だった。階段を下りた所に受付のカウンターと、小さいながら待合所があり、テーブルが2つに椅子が4脚あった。受付から左右へと廊下が伸び、それぞれが4部屋と繋がっている。


 おかみが直時を案内した部屋は右の廊下側の一番奥だった。


 灯火の術で真っ暗だった部屋の様子があらわれる。ベッドは扉から見て左の壁際。小さなテーブルと椅子が1脚中央に置かれている。右の壁に荷物置きのための棚がしつらえられていた。広さは8畳ほどだろう。


 直時は案内の礼を言って、荷を下ろす。槍は壁に立てかけ、自転車の入った包みは床に。残りの荷物は棚へと並べていく。


 ナイフと鉈は腰に残したまま、牙の入った革袋と日本で買った鞄を手に部屋を出る。鞄の中は重い本だけを部屋に残して日本から持ち込んだ品がそのまま入っていた。


 おかみさんに出かける旨を伝えると、夕食の有無を聞かれる直時。少し考えたあと、食事は外で摂ると答えた。


「ところで気になってたんですけど、宿泊するのに名前も何も聞かないのは何故ですか?」

「この宿の流儀ですわ。名乗られても問題はありませんけど、名乗りが必要のない方がほとんどですし、それ以外の方は必要があって名乗らないので、私もそれに慣れていたようですわ。どうされます?」

「自分は名乗っても差し支えありませんから。改めまして、タダトキ・ヒビノです。短い間ですが、お世話になります」

 頭を下げる直時。


「リタ・シュタインです。ヒビノさんの滞在が実り多きものでありますように」

 しっかりと頭を下げるリタ。


「主人はジギスムントと言います。無愛想なもので、上にあがったらヒビノさんから自己紹介していただけると助かります」

「承りました」

 リタは好感を持ったようで、眼元が優しく感じられた。


「ミケが気に入るわけですね」

「え?」

「この宿に普人族の方が来られるのはめったにないのですよ?」

「・・・不味かったですか?」

「いいえ。珍しく気持ちの良い普人族の方で、嬉しいくらいです」

「はぁ」

 曖昧な返事をする直時。


「いってらっしゃいませ」

 リタに見送られ、『岩窟の砦亭』の階段を上る直時だった。


「おう!坊主!かみさんから聞いたんだが、甲骨猪の牙があるって?」

「・・・・・・坊主」

 妖精族の寿命は長いからあながち間違いではない。


 気を取り直した直時は、改めて自己紹介をし、品を見せる。


「この牙の大きさ・・・。大物だったようだな」

「5メートルくらいでした」

「よし!牙は全部引き取ろう!下牙はそれぞれ金貨2枚。上牙は合わせて金貨1枚と銀判貨10枚でどうだ?」

「有難うございます!」

 即決した直時だった。


 ジギスムント曰く、金属加工はお手の物だが、牙や骨格、爪などは結構重宝するのだそうだ。折しも加護祭で品不足だったので、直時の戦利品は非常に助かったとのこと。


 充分懐が暖まった直時は、お祭りに浮かれる街へと繰り出したのだった。




今週は厄介事続きで更新がままなりませんでした。


自治会の清掃作業で脱水症状。熱中症か?

仕事後の訓練で筋肉痛。3日は痛かった・・・。

消防団の後任人事で揉める。会議と言う名の吊るし上げ合戦。

お酒を飲みながら腹の探り合い。ううう・・・お酒は美味しく飲みたい><

膵臓が泣きごとを言いだす。3日~一週間禁酒すれば復活する・・・はず!


飲みながら書いていたため、保存せずに消してしまう!立ち直るのに時間を要しましたorz


正直最期が一番つらかった・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ