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ふれあい

サブタイトルと関係あるのは前半のみです。



 ミケと敵対せずに済んだ直時は、一緒に夕餉を囲むことにした。


「ちょっと足りないですね。少し待ってもらえますか?」

 もともと一人分の用意しかしていなかったので即興で料理を考える。


(すいとんもどきは昨日食べたからなぁ)

 悩む直時。


「適当でいいのニャ。うちの携帯食は干し肉しかないから何でも嬉しいのニャ」

「味の保証はしませんけどね」

 言葉とは裏腹に、ミケはなにやら期待しているようだ。


 直時は出水の術式で椀に水を少し、岩塩を削って入れ、小麦粉を練る。練りあがった塊に干し果実を刻んで混ぜる。


 土木用の石化の魔術で煉瓦のような石をつくり、臨時のフライパンにする。加熱も生活魔術(料理用)である。


 薄く伸ばした材料を焦げ過ぎないように焼くと、ドライフルーツ入りの膨らまないホットケーキのような、チャパティのような、そんなものが出来上がった。


「これでお腹を誤魔化してください」

 大きめの葉を皿がわりにして、1枚ずつ盛る。


 椀は洗浄し、ミケのために鍋をよそう。直時はコップだ。


「スプーン使ってもいいのかニャ?」

 ひとつしかないためミケに渡してある。直時はナイフで小枝を削り、使い捨ての箸を作った。


「うちの国じゃ、これが主流なんです」

 2本の木切れを動かす直時。鍋の具も器用に挟んで見せる。


「確か、東方の島国だったニャ?」

「その調査結果の通りですよ」

 直時はミケに語ったわけではないが、しっかりと調べられているようだ。


「聞いて判る程度は基本なのニャ」

「その分だとあの豹人族、リナレス姉妹からも聞き出してるんでしょうね?」

「ギルドからの事情聴取と勘違いさせたニャ」

 実際は窓の外で聞き耳を立てていたのだが、リナレス姉妹からの事情聴取も行われていた。可哀相なくらい頑なな態度から隠し事があるのは明白で、飴と鞭を使い分けて聞き出したミケだった。


「どうするニャ?」

「どうもしませんよ?裏どりで苦労するのはミケさん達でしょうからね」

 どれが嘘でどれが本当の情報なのかは自分で確かめろとの直時の言葉だ。


 豹人族に対して云々というのは単なる脅しということで、ミケとしては苦笑を返すしかなかった。


「このパンもどきは、即興の割に美味しいのニャ。うちも作ってみるのニャ」

 自然な甘さが好評だったようだ。


「それは良かった」

 ミケが美味しそうに食べてくれて、単純に嬉しい直時だった。


「美味しかったのニャあ」

「おそまつさまです」

 満足そうなミケに満足そうな直時。


「さてと。和んでしまいましたが、仕事は仕事。私は報告のためにノーシュタットへと先に行きます。料理の才もあると報告書に記さないといけませんね」

 突然の仕事モードミケである。


「この程度で料理とは言えないですよ?自宅を手に入れたときには是非遊びにきてください。もっと美味しいものでおもてなしさせてもらいますからね」

「ふふふ。それは楽しみです。ところでノーシュタットで私を見かけても・・・」

「判ってますよ。自分は調査対象ですからね。見つからないように後を着けてくださいね」

 仕事は仕事である。ポーズだけでも形は重要だ。


「忘れてました。これを・・・」

 ミケが両手で直時の右手を包み込む。離れた後には金貨が1枚掌に残っていた。


「今夜の夕食代と情報料です」

「随分と高く買ってもらってるみたいですね?」

「これからの繋ぎも考えてますから」

「じゃあ、しばらくミケさんとはお付き合いできるってことですね」

「できれば実力で調べ尽くしたいところですが、楽な落とし所は必要ということです」

「有難く頂戴します」

 直時は金貨を握り、ミケに頭を下げる。


「ではまた近い内にお会いしましょう」

「はい。お気を着けて」

 ミケは再会への言葉を後に、闇の中へ溶け込んでいった。




「何を何処まで掴まれてるんだか・・・」

 愚痴りながらもどこか楽しげな直時。


(情報のやりとりという面では今回は得るものが多過ぎたな。バランスをとるためにも次回はもうちょっと晒してもいいか)

 頭の中で屁理屈を捏ねるが、本音はミケとの関係が長く続くことを願っている。直時は異分子としての分をわきまえた上で、それでもなお誰かと関わっていたいと思いはじめていた。


 食事の後片付けを済ませ、探知強化を上書きし、炭火となった竈の傍に横たわる。


 煩いと感じていた周囲の音も、まぶし過ぎる月の光にも、今夜はいらつくことなく眠りにつくことができた直時だった。




 寝入りと違い、眼醒めは強制だった。


 強化されていた直時の知覚に、近付く存在が感じられたのである。


 地を踏みしだく蹄の音に、直時は跳ね起きる。


 ナイフと鉈は傍にあったが、ベルトを着ける暇が無い。槍を構えて接敵に備える。


「精霊さん。いざという時は頼む」

 武器が手にあるのは安心感があるが、直時は実戦で使ったことがない。


 今の自分の中で一番確実な戦力は精霊術。フィアの戒めはあるが、人目がないなら使うのに躊躇はない直時だった。


(力強い足音。4足獣だな。荒い呼吸はひとつ。乗騎じゃない。魔獣か?)

 得られるだけの情報から、相手を推測する。


 森の木立を警戒もせずにかき分けて現れた影は、猪のような魔獣だった。


 対峙する小柄な人影と魔獣。両者は共に相手を値踏みする。


(イボイノシシみたいだけど、大きさが半端じゃない。5メートルはあるぞ!それに顔のイボも骨ばってるってより岩ばってる)


 甲骨猪こうこついのししは雑食とはいえ、捕食する生物は人よりずっと小型である。直時を餌とは認識しなかったようだ。


 お互いに警戒するも敵意とまではいかない。このまま、何事も無く別れるかと思われたが、甲骨猪が直時の荷物へ鼻を鳴らしながら近付いた。


 直時は慌てて、食料だけを与えようと荷物に駆け寄る。その途端、甲骨猪が怒りの雄叫びをあげた。


 餌を横取りされると思ったようだが、直時としても輸送クエストで預かった魔石が入っている。鞄ごとくれてやることはできなかった。


―ブルォオオオオ!

 咆哮を上げ、突進してくる甲骨猪。体長の3分の1以上もあるゴツゴツした巨大な顔面が直時に迫る。


 荷物を守る直時はその場を動けない。何度かの使用で慣れた魔法陣を編む。


「土は石に 石は岩に 『岩盾』!」

 魔獣の眼前に出現する岩の壁。


 それでも直進を止めない魔獣は、まさに猪突猛進。凄まじい轟音を響かせて岩の盾へと衝突した。


 次の瞬間、地面から生えた岩壁は根元から折れ、砕けながら崩れていく。


――岩盾の形は将棋の駒。それを盤上に立てて、最も簡単に倒せる方法を考えてみよう。一番大きな平面を押すことではないだろうか?


「そんな!」

 所詮、思いつき、即興の改造魔術である。術の欠点の洗い出し、改善をしなかったのが災いした。


 傷一つ無い魔獣が崩れた岩塊を乗り越えて迫る。


 直時は用意していた『ウォーターカッター』の魔方陣をキャンセル。余裕がない。


「風よ!」

 甲骨猪は、直時をその牙にかけようとした寸前、横合いからの竜巻に進路を逸らされる。


「焼けつく炎 炎弾!」

 傍らを走り抜け、再び突撃をかけようと方向転換しはじめた魔獣へ、炎の攻撃魔術が放たれる。


 直時の放った炎弾は、少し狙いを外し、標的の足元に炎を上げた。


『獣は炎を避ける』それだけを頼りに放った魔術だが、役に立たなかったようだ。


 一瞬怯むものの、すぐにその炎を踏みにじる。炎は消し飛び、地面に大きな窪みが出来た。


「やっぱり精霊術しかないか・・・」

 手の中の槍など、巨大な甲骨猪に対しては玩具としか思えない。使い手の問題ではあるが・・・。


「風の精霊よ 汝は我が刃 斬り裂け!」

 疾走しはじめた甲骨猪の横合いから、大きなカマイタチが走り抜けた。


 宙を舞う巨大な魔獣の頭。胴体は傾きつつも走り抜けていく。切断面から大量の血が吹き出すのと、首のない巨体が木立に突っ込むのは同時だった。


「なんとか助かったけど・・・。この肉どうしよう?」

 咽るほどの血の匂いの中、新鮮な魔獣の肉の量に途方に暮れる直時だった。




本日は筆が進みませんでした。


話がぶつぎりで申し訳ありません><


『すいとん』への指摘ありがとうございました。


不見識にも懲りず、またもやでっちあげ料理・・・。

どんな味になるのか、実際に作ってみないと・・・。

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