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猫の人

ミケさんとの会話に全力を投入してしまったためのタイトルです。

猫耳萌えーじゃない片は飛ばしてくださいまし><


「無事に着けたかな? まあ、獣人族の足なら昼頃には町に入れるだろう」

 少しだけ振り返って、今来た方角に眼を向けた。その場を逃げるように離れ、距離をとったため既に二人の姿は見えない。


「切り換えないと! 旅費どころか生活費が掛かってるんだからな!」

 視界を大きく取り、薬草を探すことに専念する。


 この日、直時は少しの休憩時間を取っただけで、『探知強化』の魔術効果が切れるまで探索を続けた。

 途中、岩の近くで何匹かの魔獣と遭遇した。三〇~六〇センチ程の団子虫に似た魔獣である。脳内検索すると採取依頼の対象外で、売れる部位は無いとのこと。


「地球の団子虫みたいに丸まったりするのかな?」

 気分転換とばかりに、槍の石突きで突っついてみると、見事にボール状になり身動きを止めた。


「同じだ! でっかいけどなんか可愛いな」

 嬉しそうに転がしたり、手に持ってその重さに驚いたりしていた。気晴らしの後、採集に集中した成果は薬草イクサ二七株。薬草ゴモギ(解毒薬の材料)八株だった。


 夕刻。リスタルの町に戻った直時は、ギルド会館の喧騒に目を見張る。朝よりさらに多くの冒険者達が出入りしていた。

 買取りカウンターにも列が並び、傷だらけの鎧を纏った彼等の手には、魔獣の角や爪、剥がされた鱗や皮、食用部位だろう肉の塊など様々な品があった。


(討伐依頼が多かったらしいからなぁ)

 列の最後尾に並びながら、生々しい戦利品の数々に怯む。直時とて、先日斑土蜘蛛を二匹持ちこんでいるのだが数が違った。列を為す殆どが血の臭いをさせているとあっては、冒険初心者としては腰が引けてしまうのも無理はない。


 戦闘が多くこなされたためか、薬草の買値が少し高くなっていた。本日の収入は、金貨一枚銀判貨一八枚白銅判貨五枚であった。


 直時は換金を終えた後、二階の喫茶店へと顔を出す。この時間、人影は意外に少ない。皆、手に入れた成果へ祝杯をあげに酒場へと繰り出すからである。


「いらっしゃいませニャー」

「どうもー」

 席に着いた直時をミケが出迎えてくれた。


「渋めのお茶をお願いします。銘柄はお任せします」

「ウチの好みでも良いかニャ?」

「勿論ですよ」

「少々お待ちくださいニャー」

 ピョコンと飛びだした短めの尻尾を振って厨房に戻る。直時がその後ろ姿を頬杖を付きながら楽しんでいたのは言うまでもない。


「お待ちどうさまニャ」

「ありがとうございます」

 直時の前でミケがカップへとお茶を注ぐ。そのまま向かいの椅子に座って、懐から取り出したマグカップへも注ぐ。マイカップらしい。


「良いんですか?」

「良いのニャ、良いのニャー。お客さんも少ないし、タッチィとはちょっとお話してみたかったのニャ」

「タッチィ? えらく妙な愛称ですね」

「ただャとぅきは言い難いのニャ」

 フィアに続いての「実名言い難い」宣言である。少し悲しい。


「まあ、構いませんが……。これもお仕事ですか?」

「おっ? なかなか鋭いでわニャいか!」

「初心者への助言と注意ですかね? 有難く拝聴させていただきます」

 軽く頭を下げる直時。仕事の一環でなければ、ここまで来にかけてくれる理由がない。


「そんなにかしこまることはないニャ。タッチィと話してみたかったのは本当ニャよ?」

「あははは。有難うございます」

「じゃあ、今日までの話を聞かせて欲しいニャ」

 お茶を一口啜ったあと、直時は昨日今日の薬草採取の話を始める。魔獣や盗賊との戦闘は勿論伏せた。


「二日間で薬草が合計五〇株に、斑土蜘蛛を二匹も取ったのかニャ。タッチィは優秀なのニャー」

「そうなんですか? 蜘蛛はたまたま遭遇しただけですけど、薬草は周りの植物相を憶えてからは探すのが楽になりましたからね」

「初心者なら、なかなかそこまで気が回らないニャ。何も取れない日もあるニャよ?」

「褒めてもらって有難うございます」

 直時は少し恥ずかしそうに頭の後ろを掻いた。


「昨日は南部の草原に行ってたのニャ?」

「ギルドに寄らなかったものですから、事前情報を知らなくて……。無事還れて運が良かったです」

「さっき南部への偵察隊が報告してたけど、薬草の群生地で大規模な戦闘の痕跡があったらしいのニャ」

「……ほほう?」

 ミケの事情通振りに驚いた顔を見せるも、内心はそれどころではない。直時の背中に冷や汗が伝う。


「地面が広い範囲で崩れてたり、見たことない土系魔術の大岩が生えてたりしてたそうなのニャ。魔獣の死骸は三体しか無かったけど、多数の魔獣が反転して南方へと逃げ帰っていったようなのニャ」

「町の方に来なくて良かったですねぇ。自分も襲われなくて良かったなぁ!」

 さりげなく無関係をアピールする直時の発言を無視してミケが続ける。


「死骸のうち一体は大岩猿。これは魔獣に襲われたようなので関係ないニャ。問題は残りの二体。大岩猿を襲っただろう黒槍ヤマアラシと富岳大鷲ニャ。特に富岳大鷲はAランク冒険者でも苦戦する魔獣ニャ」

 ここでミケは言葉を切り、上目遣いで直時を窺う。


「すごーく激しい戦いだったろうニャぁ。タッチィは何か知らないかニャぁ?」

「い、いやぁ! そんなの知る訳ないじゃないですか! 怖い怖い! 本当に巻き込まれなくて良かったなぁ!」

「死骸には斑土蜘蛛がいっぱい集っていたそうだニャぁ」

「うぐっ」

「何を見たのか、ミケねーさんに教えて欲しいニャぁ」

 獲物を狙う眼である。


(バレてはいないが確実に何かを知っていると疑われている! ここはひとつ……)

 もはやポーカーフェイスどころか顔のあちこちが引き攣っている。


「――これは内緒なんですけど」

「ふむふむ」

 声を潜めた直時へミケが顔を寄せた。


「薬草採取中に、魔獣の暴走に巻き込まれたのを助けてくれた人がいたんです」

「ほう!」

「瞬く間に魔獣を撃退したその人は、逃げる魔獣を追ってそのまま行ってしまったんです」

「顔は見たニャ?」

「いいえ。フードを深く被ってましたから顔は判りませんでした。でも種族はきっとエルフですよ」

「何故ニャ?」

「だって、富岳大鷲でしたっけ? 奴を一瞬で切り刻むような大きな竜巻が魔法陣も無しに現れたんですよ? 精霊術に決まってます!」

 普人族は精霊と会話できる者が殆どいない。そして、魔力量の関係で大きな精霊術を使えない。この常識を逆手に取った捏造である。


「他言無用だと言われていたので話せなかったんです。自分も腰を抜かしていただけなので言ってまわる話でもないですしね」

 嘘の補強もぬかりない。


「そんなことがあったのニャぁ。タッチィも災難だったニャ」

「いやいや。命あってのことですから。逆に幸運だったとも言えますからね」

「エルフって町に来た時のエルフさんじゃニャいよね?」

「違います。フィアならガラムさんっていう虎人族の隊に参加してますから」

「この話、ギルドへ報告してもかまわないかニャ?」

「口止めされていたんですけど、広めなければ問題ないかな?」

「了解ニャ。情報はギルド内に留めておくニャ」

「有難うございます」

 なんとか納得してもらったようで、ひと安心の直時である。


(ただの喫茶店の給仕じゃなかったんだなぁ。ギルドの職員なのか?)

 ミケとの会話を振り返りながら茶をすする。


「ふふふ。実はもう一枚カードがあったのだけどニャァ。タッチィの降参が早くて使えなかったニャ」

「えっ?」

「昨夜の高原の癒し水亭、食堂の鳥団子スープは美味しかったのニャ」

「あーーーっ! あれかあ! 食べに来てたんですか?」

「エルフちゃん、フィアちゃんだったニャ? フィアちゃんに宿を紹介したのはウチなのニャ。あそこの食堂は美味しいのニャァ」

 直時にとっては思わぬ落とし穴である。


「もっともタッチィは厨房でオットー氏と意気投合してたから、顔を見れなかったニャ」

「意気投合というか、喧々囂々というか……。誰に聞きました?」

「ミュンとは友達なのニャー」

 思わぬ身近に顔見知りが出入りしてることを知り、「次は一緒に呑もう!」と、ミケを誘う直時であった。下心はほんの隠し味程度である。猫耳は素晴らしい。


 それからは様々な雑談で花が咲き、そろそろ閉店となり客は直時だけになった。

 それまでの緩んだ顔を少し引き締めた直時が尋ねる。


「ミケさん。ちょっと訊いてもいいですか?」

「何かニャ?」

「――普人族って信用できませんか?」

「ふむ」

 ミケは片眼をつむりもう片方の眼で直時を見る。


「ウチはこの町のこの場所で仕事するようになって、普人族も色々だ―と、思ったニャ」

「でも種族としてはあまり……、ということですか?」

「普人族は個としてより群として生きるからニャァ」

「そうですよねぇ」

 溜息を吐く直時。


 個人として相手を知るには長い時間が必要である。だが、ひとつの群、コミュニティとして考えるとそのグループ全体の方向性が問題となる。

 自分とそのグループが接触することで、どんな影響があるのか? もしくは反応があるのか? 判断材料として、過去の実績や流布する情報が大きな要素であることに地球もアースフィアも変わりはないということだろう。


 心易く話しかけてくれるものの、ミケの中でも普人族に対するカテゴライズはされているのだろう。異世界人である直時に非があるわけではないが、現実問題として自分もそのグループとして認識されている。元々他種族に信用がないという事実に心が沈む直時だった。


 普人族は獣人族の個体能力の高さを僻み、妬み、そして怨む。魔力が低いながら、様々な人魔術を生み、身体能力が劣りながら集団戦闘を編み出し、どの種族より旺盛な繁殖力で国家を築いた己を誇り、他を卑下する。

 ときには同じ普人族相手でさえも。


「でも、タッチィはやっぱりちょっと違うかニャー」

「――フォロー有難うございます」

「違うニャ! 初めて会った時にこう……、ピピッときたニャ!」

「?」

「初めて眼が合った時、びっくりしてたニャ。だけどその後に嫌な意思が眼に映らなかったニャ」

「そう……だったかな?」

 直時にはあまり自覚がない。猫耳萌えーーーっ! とか思っていたのは内緒である。


「喫茶店で再会したときも、普人族から感じる視線ではなかったニャ」

「――ミケさん」

 ミケには、普人族からの隠しても判る蔑視や畏怖、嫉妬等が直時からは全く感じられなかった。


「ウチの耳と尻尾に視線が釘付けだったのは知ってるニャ」

「ぬぁあああああ!」

 含み笑いと共に放たれた台詞で頭を抱える直時。羞恥に悶える様子を楽しそうに見るミケが、調子に乗って更に追い打ちをかける。


「尻尾だけじゃなくお尻もだったかニャ?」

「すみませんごめんなさいかんべんしてください……」

「やっぱりタッチィは良い子だニャ。正直者ニャ」

「言ってないことはまだまだありますよ?」

 あまり褒められるのも面映おもはゆいし後ろめたい。だから、直時は他にも在る隠し事の存在をほのめかす。


「ふふふ。嘘が下手なタッチィはやっぱり良い子なのニャ。だいたい箔をつけるにしても三二歳はやり過ぎなのニャ」

「――そこは本当です」

 にやにやしていたミケは驚愕の余り、勢い込んで直時の目を覗き込んだ。


 見つめ合う二人だが、先に視線を逸らしたのは直時だった。照れている。猫耳萌えーっ! なので仕方ない。


「マジかニャぁあああああああ!」

 真実だと悟ったミケの叫びがあがる。


「謎は美女だけの特権ではないのです」

 勝ち誇った直時を恨めしげに見るミケであった。


今回はミケさんのターンでしたが、最後に主人公が反撃しました。

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