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はじめての冒険②


 直時が薬草採取に精を出している頃、移動中のガラム隊はアクシデントに見舞われていた。


「放て 七つ矢 穿て 風のうろ 『疾風槍』」

 リシュナンテの魔法陣から高速で風魔術が発射される。 撃ち落とされたのは、ひと抱え程の蜂だ。


「命中三匹ですか。相手が速過ぎます。人魔術ではきついですね」

 口調に余裕があるのは、フィアの護風が襲い来る蜂を寄せ付けないからだ。


「リッテ、ダン! お前らは先行しろ! ヒルダ! 二人の援護をまかせる!」

 ガラムの指示が飛ぶ。


「じゃ、お先に」

 リシュナンテが軽く手を挙げ、飛ぶ石船を加速させる。後ろに座ったダンは腕を組んで黙したままだ。


「上空から援護する。いざとなれば、炎の吐息ブレスで焼き払うが良いか?」

 ヒルデガルドが許可を求める。


「まかせる! が、やり過ぎるなよ?」

「ふっ。善処する」

 ガラムの心配を余所に怖い微笑を残して二人を追う。


「全く……。いつの間に犬蜂が巣作りしてたのよ?」

 ラーナがぼやくのも無理は無い。リメレンの泉への最短コースはつい最近偵察の折に通ったばかりだ。


「出来てたもんは仕方ない、さっ!」

 ガラムが返事しながら、右から襲いかかった犬蜂を鋭い爪で掻き裂く。


「フィア! 済まないが俺達三人で殿だ。リッテとダンが距離を取るまで敵を引きつける」

殿しんがりなら私が引き受けるから、貴方達も急ぎなさい」

「無茶っ……、てわけでもないか。じゃあ任せたぞ! 晴嵐の魔女!」

「――誰が魔女よ? 了解」

 小声で不平を言いながら、犬蜂の群を乱気流でかき乱す。


 短杖を構えたフィアが一番の障害だと認識した犬蜂達は、ガラム達の追撃を止めて集まり始めた。フィアの周りに犬蜂の羽音が満ちる。


「巣を騒がせたのは悪かったけど、襲って来るなら容赦はしないわ。でも、その前にちょっと脅かしてあげましょうか? ね?」

 周囲の精霊に笑いかける。

 犬蜂達の飛行を乱していた風が、急に激しさを増した。颶風ぐふうの中、蜂達はあるものは樹に叩きつけられ、あるものは地に落ちる。


 羽搏きを止め、手近のものに六肢でしがみつく犬蜂の群れ。


「これでもやる?」

 風を呼び戻したフィアは、自身に竜巻を纏う。吸い込まれた小枝や木の葉は一瞬で粉々だ。

 漸く飛ぶことを許された犬蜂達は、本能に従いその場から逃げ去って行く。


「もう大丈夫ね」

 残らず逃げ去ったのを確認したフィアはガラム達の後を追いかけ始めた。


 リメレンの泉まで、あと半日であった。




 直時は槍を肩に担いでリスタルへと街道を歩いていた。

 槍の両端には斑土蜘蛛が一匹ずつ(もう一匹狩った)括りつけられ、背嚢には肉塊となった巨鳥の一部が薬草とは別の革袋に入っていた。


 血塗れだった姿がその痕跡もなく綺麗なのは、生活魔術で洗濯乾燥を済ませたからだ。

 冒険初日の薬草採取が、図らずも魔獣との大規模戦闘になってしまった。その衝撃で思考停止していた直時だったが、黙々と歩くうちに徐々に我れを取り戻しつつあった。


(薬草一株が銀判貨一枚、何と美味しい商売かと思った自分が莫迦だった! 異世界がこんなに物騒だったとは……)

 直時の感覚だと、買い物に行ったら歩兵と戦車と戦闘機が襲ってきたようなものだ。


「冒険者って、傭兵より過酷なのかもしれない……」

 魔獣の襲撃を撃退して、無事生還している自分のことは棚上げである。


「大岩猿の装甲とか大ヤマアラシの棘とかもお金になったのかなぁ?」

 逃げることで頭が一杯だったため、そこまで気が回らなかったようだ。今更ながら、勿体無いことをしたのかもと航海している。他には、食材という一点でのみ巨鳥の肉を持ち帰っただけだった。


(どうせこれ以上の荷物は重くて無理だったさ)

 あれは酸っぱい葡萄ぶどうだったのだと、無理矢理自分を納得させた直時だった。




「ただいまですー」

 朝に見た衛兵に声をかける。


「おう! おかえり! 無事だったようだな。それに大漁じゃねぇか?」

「斑土蜘蛛はたまたまです。目的の薬草もちゃんと取れましたよ」

「ふはははは! 初日にしちゃあ上出来じゃねぇか! 酒場で会ったら奢ってくれよ?」

「あはははは。見つからないようにしないといけないですね」

 そう言って、銀貨一枚を税として渡して町に入る。


「しかし無事で何よりだったな。南の山岳地帯で大規模な魔獣掃討作戦があったらしいから、とばっちり受けてやしないかと心配したぜ」

 初耳である。

 確かに夕刻近いが、南門に依頼を終えて帰ってくる冒険者や交易商人達の姿が見当たらなかった。


「運が良かったみたいですね。それじゃあ自分はギルドに寄っていきますので失礼します」

 今日の戦闘は黙っていた方が無難だと判断した直時は、その場から逃げるようにギルドへ向かうのであった。


 冒険者ギルドの扉をくぐった直時は、先ず買取カウンターの列に並ぶ。


「薬草イクサが一五株あります。確認お願いします」

 自分の順番になったので職員に申し出る。


「イクサが一五株ですね。うーん。少し傷んでいるようですね。買取は八掛けで、銀判貨一二枚になりますが宜しいですか?」

 戦闘時に傷んでしまったようである。


「了解です。あと、依頼を受けて無かったし、共通依頼には無いのですが、この斑土蜘蛛は買い取ってもらえるんでしょうか?」

「掲示板に依頼があり、それを受付に申請すれば買い取らせてもらいますが、依頼が無ければご自身で市場に売っていただくことになりますね」

「わかりました。確認してきます。とりあえず先に薬草の換金をお願いします」

「はい。では、これが報酬の銀判貨一二枚です」

「有難うございます。また宜しくお願いします」

「頑張ってくださいね」

 直時は銀判貨一二枚を手に入れた。


 掲示板には、運良く斑土蜘蛛捕獲の依頼が複数件出ていた。おあつらえ向きにランクはGであったため、直時は捕獲数の合う依頼書を剥がして受付へと持参した。

 記憶にある浅葱髪の女性が目に入り、手が空いていた彼女の前に立つ。


「すみませーん。この依頼書をお願いします」

「ヒビノさん! ご無事で何よりです!」

 受付嬢の勢いに腰が引ける。


「あ、有難うございます。何事です?」

「今朝、南方で大型魔獣の掃討作戦が行われまして、低レベル冒険者さん達に南方への避難勧告が出ていたんですよ! ギルドに寄られなかったそうで、知らずにお出かけになっていたらと心配していたんですよ?」

「あーーーっと、それはご心配をお掛けして申し訳ありませんでした。でも無事に帰って来れましたので、運が良かったんですね。あはははは」

 魔獣の襲来はそういうことだったのかと納得しつつ、何も見なかったことにしようと決心する直時だった。


「これから冒険に出られるときは、必ず事前情報の確認にギルドへ顔を出すようにしてくださいね? そのための冒険者ギルドなんですよ?」

「肝に命じておきます!」

 強い口調に思わず敬礼しそうになる。


「ところで、ですね。薬草採取のついでに斑土蜘蛛二匹を狩ったので、こちらの依頼書の受理をお願いしたいのですが」

「あ、はい。承りました。じゃあ、この確認書を引取り係にお渡しください」

「有難うございます」

「薬草も採取出来たのですか?」

「はい。先ほど買い取ってもらいました」

「初日でこれだけ成果を上げることが出来るなんて、素晴らしいですわ。おめでとうございます」

「運が良かっただけですよ。これからも精進いたしますので宜しくです」

 本当は討ち漏らされた魔獣に襲われて運が悪過ぎる一日だったのだが黙っていた。緊急時以外には禁じられていた精霊術を使ってしまった手前、今日の件については誰にも知られたくない。


 斑土蜘蛛の報酬は、一匹につき銀半貨一五枚。二匹で金貨一枚と銀半貨一〇枚になった。

 直時の冒険初日の収入は金貨一枚と銀判貨二二枚であった。


 その日、高原の癒し水亭に戻った直時と料理長のオットー氏の間で料理戦争が勃発したのはまた別のお話である。


兄「今日の話はどうしよっかな」


妹「仕事に差し支えるよ?」


兄「ふはははは!兄をなめるでない!どんだけ調子悪くても仕事落としたことはないぞ!」


妹「健康管理も仕事の内じゃない?」


兄「・・・・・・ごもっとも」




内臓がぁ・・・・な、作者です;;

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