冒険準備③
「とりあえず服の修繕から始めるか」
直時は自室に戻って破れたパーカーとカーゴパンツを取り出す。
「破れちゃった膝と肘に革布を縫いつけておけば、かなり丈夫になるだろ」
購入した革布を、新品のナイフで楕円形に切り取っていく。同じくらいの大きさのものを4枚切り抜いた。
破れた膝の部分に当てて、裁縫道具を手に取ってみる。皮を縫いつけるためのものであるから、針も糸も相当ゴツイ。布地に直接縫い込むと、細かい布地が逆に破れやすくなりそうだ。
思いついたのは、皮で布地を挟んで縫い込むことだった。切り抜いた皮の一つを裏から当て、表からもう一つを重ねて布地ごと裏の皮と縫っていく。
片膝分だけだが、仕上がり具合を確かめるため身に付けてみる。足を曲げたり伸ばしたり、膝を突いてみたりと感触を確かめる。
「かなりゴワゴワするけど、こんなもんだろ」
気に入ったようである。
もう片方も同じように仕上げ、パーカーの肘部分も修繕していく。予定の倍の皮を使ってしまったが、まだ残りがある。
「丈夫そうな皮だし、紐でも作るか」
残った皮を細長く切り裂いていく。幅約五ミリ、長さ約八〇センチの皮紐が一〇本出来上がった。
補強修繕したカゴパンとパーカーに着替え、ナイフと鉈を装備してみる。革紐は半分をベルトに括りつけ、残りを鞄に放り込む。肩にかけた鞄は腰の後ろ、丁度鉈を隠す位置へと調整する。
左腰のナイフを抜いて感触を確かめる。右順手、右逆手、左逆手。パーカーの前を空けておけば抜き難くはない。問題無いようだ。
続いて鉈を抜く。パーカーの裾をかき分けないといけないので少し取り出し難い。
「咄嗟の時はナイフが抜ければ良いか。鉈は重いもんな」
鉈の位置を右腰か右太腿に変えようかとも思ったが、重量があるので身体の中央に重心を置いていた方が疲れなさそうだ。
「さて! 冒険者登録に行こうか!」
槍を右手に携え、準備を終えた直時は冒険者ギルドへと向かった。
リスタルの町の大通りは中央広場を東西から貫くように、それぞれ東門、西門へと繋がっている。南北方向へは南への通りはあるが、北への大通りは無い。大雑把に言うと町を貫く大通りはT字型をしている。
中央広場周辺は、領主の仕事場であるリスタル総督府、格式のある旅館、各職業の大店が軒を並べる。町の北側には、領主の邸宅や、国軍の駐屯地、兵営、町の実力者達など、高級住宅街となっている。
冒険者ギルド、商人ギルド、職人ギルド等は中央広場に面していた。
心の準備を終えた直時は、冒険者ギルドへ町を歩く。
宿泊する『高原の癒し水亭』は南門に近かったため、南大通りから中央広場へと歩を進めるのだが、行き交う種族、大通り沿いの雑多な露店、中世の田舎町を彷彿とさせる景色に眼を奪われる。
「あの串焼き屋、良い匂いがするなぁ。あはは、錬金で造ったのかなぁ? リアルな竜の置物か、カッコいいな。あっ! 猫耳の美人さんだ! 耳さわさわしたいなぁ」
緊張感が欠片も残さず消し飛んでいる直時である。おのぼりさんそのものでキョロキョロと辺りを見回しては露店の商品を覗いたり、ケモノ系おねーさんの魅惑のしっぽに付いていってしまいそうになったりしている。
何とか誘惑に負けず、冒険者ギルドの建物前まで辿りついた直時は、もう一度知識の脳内検索をかけ情報を再確認する。
――『冒険者ギルド』はユーレリア大陸全土のみならず、ここアースフィアに於いて国や種族の壁を越えた大きな組織である。依頼される件は一般人から国家まで多岐に渡り、稀に神々や神霊の依頼も入るらしい。
登録には国籍、種族、前身など何の制限もないが、唯一『ギルドに不利益を与えた』ことがある場合、登録を拒まれる。小さな損害ならば、ある程度のペナルティーを課され、タダ働きの末、登録を許されるようだ。
漠然とした共通常識として、ギルド設立に関係したのは神々の一人であったという。
「ふむ。俺の登録には問題なさそうだな。じゃあ一丁行きますかっ!」
気合を入れなおした直時は冒険者ギルドの扉を開いた。
ううう・・。設定が未整理で頭がカオスです。