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リスタルの町④


 宿屋で独り、まったりとフィアを待つ直時を忘れたかのように酒宴は続く。ガラム達の隊へ参加を決めたフィアはメンバーの人となりを知るためという名目を掲げてタダ酒を呷っていた。


「ところであの坊やは同行させないのか?」

 ヒルデガルドが興味を持った様子である。


「あー。無い無い。あの子は風廊の森で拾っただけの普人族だから」

 三十路過ぎの直時が坊や、あの子扱いである。竜人族もエルフも長命種であるため致し方ない。


「でも普人族にしては見慣れない容姿だし、僕としても興味をそそられますね。黒髪黒瞳なんて神秘的だなぁ」

 直時と同じ普人族のリシュナンテ。

 他種族との混成隊に加わっていることから、魔術の腕も高いと判断している。フィアは直時の秘密を嗅ぎつけられないか警戒していた。


「アンタ、男もいけるクチ? キモイんだけど」

 ラーナが不機嫌そうに言う。ガラムのやきもきした様子からリシュナンテに好意を持っているようだ。


「普人族であの体格では激しい戦いは無理だろうて。当人も分をわきまえているようであるし、なかなか謙虚な若者よな」

 ダンである。

 高い報酬の依頼へ無理矢理参加しようとしなかったことが、欲深いと言われる普人族のイメージを覆し、好意的な評価を謹厳実直そうなドワーフに与えたようだ。


「普人族は短命だけに性急だ。出来ればゆっくりと育ってもらいたいものじゃ」

 豊かな顎鬚を撫でながら言う。


「私もそう思ってるんだけどね。普人族の面倒見るのは大変だわ」

 フィアの『大変』には異世界人である直時の特異性も入っていたのだが、説明など出来るはずもない。


「事情の説明とかあるからそろそろ部屋に戻るわ。出発は明日よね? 集合場所と時間は?」

 ガラムへ訊ねる。


「時間も無いことだし、冒険者ギルド前に正午集合で良いか? 昼食は済ませておいてくれ」

「わかった。午前中にお子様のギルド登録したいから好都合だわ」

 くれぐれも言うが直時は三十路過ぎの三二歳である。


「じゃあまた明日」

 フィアは片手を上げて腰を上げ、部屋へと立ち去る。


「宜しく頼む」

 ガラムがその背に声をかけた。




「たっだいまー」

 フィアのために鍵を空けておいた部屋。当然の様にノックも無しに帰って来た御機嫌エルフ。


「おっかえりぃー」

 灯火の術式で照明を確保していた直時が同じノリで応える。


「虎男の依頼に参加することになったから、明日から留守番お願いねー」

「急だね」

「明日から十一日……、いや一二日はかかるかな? その間に路銀稼ぎしときなさい」

「結構長いな。まあ酒乱の魔女に助っ人頼むくらい厄介な依頼なんだろな」

「酒乱ちゃうわっ!」

「まあそれはいいや」

「流されたっ?」

「突っ込みは俺の役目だ! って、話を進めるよ? 冒険者ギルドで依頼を受けるのは良いんだけど、やっぱり精霊術を使うと目立つんじゃないかな?」

「当然! 精霊術は使用禁止よ」

「じゃあさ。人魔術の攻撃魔術を教えてくれるかな? せめて、こないだの盗賊達に対抗できる程度のを……」

 直時の顔が少し曇る。犠牲になった名も知らない家族達のことを思い出しているようだ。


「あの魔術レベルはあいつらが兵士崩れだったからだよ? 戦争に使える遠距離攻撃魔術なんて、あんまり教えたくないのよね」

「武術(武道ではない)なんて経験無いし、魔術も精霊術も禁止されたら何も出来ねーよ?」

「場合によるけど、あの時のような状況なら精霊術は使ってもよし! それ以外は人魔術だけね! 教える攻撃魔術は冒険者の初級レベルだけ。どうせ登録しても新人は難易度の高い依頼は受けられないからね」

「ふむ。了解。じゃあ時間も無いし教えてもらえる?」

 フィアの慎重な意見を考慮し、仕方ないと妥協する直時。


「教える魔術は一つだけだけど、一番使い勝手が良いからこれで暫くで頑張りなさい」

「一個だけかよ……」

「『炎弾』の術よ。魔獣は基本的に火が苦手だから、火属性の魔獣と出会わない限りこれだけで大丈夫。明日は早いし転写の術式で伝授するからねー」

「えええっ? せっかく美味しい御飯とお酒で良い気分なんだから普通に教えてくれーっ! あの術は頭痛くなるから嫌だーっ!」

 直時は断固拒否である。


「宿屋の中で実演するわけにもいかないし、朝にでも町の外でやろうか?」

「是非その方向でお願いします!」

(魔法陣だけ教えてもらえば良いんだけど、酒飲んでるからなあ)

 直時は自身の判断を支持しつつ、フィアに就寝を促した。


 酔いが醒めてしまった直時は眠れずにいた。

 明日は冒険者としての第一歩、ギルド登録後に初の依頼が待っている。隣に見目麗しいエルフが寝息を立てているのも一因ではある。

 溜息をひとつ吐いて、喫煙道具一式を持ち宿の裏庭に向かった。井戸近くの石に腰を下ろし、煙管を燻らせながら考えを巡らせる。

 直時の不安の殆どは、依頼=戦闘という認識から来ていた。元の世界でのゲームや小説の偏った知識から、モンスターとの戦闘が不可避だとの先入観がある。

 魔物を狩る。盗賊討伐任務等。薬草の採取も危険地帯が殆どで、いずれも戦闘が前提となっていた


(同じ資金稼ぎをするのなら、屋台とかの方が良いんだけどなぁ)

 実家が自営業であったため、起業における面倒さが頭にある。戸籍や素性を問わない冒険者ギルドに頼るのも仕方無しと諦めるも、平和ボケした日本人の自分に戦闘がこなせるか甚だ疑問にも思う。

 盗賊達の襲撃で命を落とした一家を葬った記憶が甦り、この世界ののりが再び意識に浮かぶ。


(誰も彼も生きるために戦ってる)

 文字通り、生存のための戦いを生き抜く彼らに対抗するためには自分も同じ土俵に上がらねばならない。

(でもあいつらは生きるためってだけじゃなかったよな。子供まで殺す必要なかっただろうに。それにあの顔……)

 弱者を嬲る快楽に歪んだ醜い顔。


(次は容赦しないさ。したらこっちが死ぬんだ……)

 吸い殻をコツンと叩き落とした直時は、紫煙と共に軽く溜息を吐いた。


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