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リスタルの町


 日比野直時とフィリスティア・メイ・ファーン。彼等の目的地であるマケディウス王国の商都『ロッソ』。街道沿いの町『リスタル』はその途中に位置にあった。小国ながら、四方を峻険な山岳に囲まれ、豊富な水脈からの恩恵により豊かな農地を持つシーイス公国の交通の要衝の町である。

 ちなみに風廊の森はカール帝国の版図であり、街道には関所が設けられていたが、街道を外れれば出入国は事実上自由である。しかし、街道を外れるということは普人族の勢力外を意味する。そこは、未だ他種族の勢力範囲であった。主に魔獣の……。


 白金髪のエルフと黒髪の異世界人は精霊術を最大限発揮しつつ、魔獣達の縄張りを駆け抜ける。

 直時は、初めて見る魔獣達に度肝を抜かれた(体長〇・五メートルから最大一〇メートルを超える)。遭遇しても完全スルーで遁走する。


「あの一角兎の角って高く売れるのよ!」

「鬼蛭の子供は肩こりの鬱血に効くから需要が!」

「監獄蜂の麻痺針は薬として高価なの!」

 などというフィアの言葉はガン無視である。

 いくら精霊術を使えるようになったとはいえ、野生獣としては羆より余程恐ろしげな魔獣など、戦闘素人の直時には逃げる以外の選択肢は無かった。


「早くベッドで休みたいじゃないっ!お財布も潤ってるじゃないっ!」

 恨めしげなフィアを必死で説得していた。


 少々不満気なフィアと疲労困憊の直時が『リスタル』に到着したのは鳥獣達が巣に戻り始める夕暮れ時だった。


「やっと…、着いたけど…、町ってこんな感じなの?」

 槍を杖代わりにした直時が、息を切らせて目の前の町を眺めてフィアに訊ねる。

 町は木造八割石造二割といったところだろうか? 外壁はなく、先を尖らせた丸太が町をぐるりと囲んでいる。何となく中世の城砦都市をイメージしていた直時としては拍子抜けだった。


「この国は周囲の山岳が城壁みたいなものだからね。町の周辺は首都以外こんなもんよ?」

 疑問を表情から読み取ったフィアが補足する。


(隣国からの侵略ならそれで良いだろうけど、魔獣とかからの守りは大丈夫なのだろうか?)

 直時は道中で遭遇した魔獣を思い出すと不安になってしまう。しかし、フィアの反応から察するに魔獣自体は狩猟対象となるのだから、この世界ではそこまでの脅威ではないのだろうと考え直した。疲れていたこともあり、これ以上心配事を増やしたくなかった。「大丈夫! 問題無い!」そう思い込もうとしたのかもしれない。

 彼の疲労の原因は、「精霊術とジテンシャは目立つから駄目!」とのフィアの言に従って、町からかなり離れた場所で徒歩へと切り換えたからである。自転車はもちろん折り畳んで背負っている。


「とにかく落ち着こう。そして御飯!」

 久し振りどころか、異世界に来て初めての本格的な食事である。直時の眼が期待に輝いた。


「じゃあ、まず宿屋だね」

 フィアもホッとしたのか緩んだ笑みを返した。


 二人は門を守る衛兵に銀貨一枚ずつを税として支払って町へ入った。感覚としては入場料のようだった。

 直時を驚かせたのは、基礎知識にある排他的である筈の普人族の国にしては、他の人属が多いことであった。四割くらいは普人族であったが、町を闊歩する人族は主に獣人族が多い。猫耳、犬耳、狐耳に眼を奪われがちであるが、フィアのような妖精族や、竜人族、鳥人族も稀に見かける。


「リアルコスプレ天国!」

 拳を握りしめて意味不明な直時の魂の叫びを尻目に、フィアはそこら辺を歩いていた猫耳の獣人族の娘に声を掛けた。


「こんばんはーっ!」

「こんばんニャー」

「この町で私ら向けお勧め宿屋ってある?」

「そうだニャァ。ウチなら『高原の癒し水亭』がお勧めニャー」

「ありがとねー」

 エルフと猫耳娘がにこやかに立ち話をしている。


「シュールだ……」

 思わず呟いてしまった直時の側頭部に戻ってきたフィアのレフトジャブが最速で極まった。


 教えてもらった宿屋に向けて歩く二人。町の中央からは随分離れていくようである。


「この町はたくさんの種族がいるけど、基本的に普人族の国だからね。他種族にはちょっと不都合があるのよ」

 歩きながら説明してくれる。


「だから普人族じゃない人にお勧めを聞いてたのかぁ」

 直時としても面倒なこだわりがある宿では居心地が悪い。


「普人族優先の宿屋も嫌だけど、その『お勧め』の店って見た目が普人族の俺が入っても大丈夫なの?」

 敵視は敵視を生む。と、理解している彼に不安が見える。


「同じ部屋取れば問題無いっしょ?」

 ケロリとしたフィアに一瞬焦る直時であったが、

(野営で隣に寝てたしそんなもんかな?)

 恋愛未熟者の面目躍如だった。


「任せた」

 宿泊申し込みとか、フィアの方が慣れているだろうと丸投げである。


 『高原の癒し水亭』は木造二階建て。大きめの民家の倍ほどの広さの宿だった。受付の従業員は紺色の髪を頭の後ろで括った(ポニーテール)二〇代後半の普人族の女性だった。白い詰襟のブラウスに革のベスト、茶色のロングスカート姿で背筋が真っ直ぐ伸びている。

 しかし、立ち居振る舞いとは逆に少し垂れ気味の眼元はいかにも優しそうな若奥さんという雰囲気だ。先客の牛の角と耳を持った獣人、筋骨隆々で強面の男が笑み崩れながら話している。

 女性は背面の棚から鍵を取り出して男に渡す。礼を言った牛男が奥の階段を上がって行った。その際、ちらりと順番を待つフィア達の方を向く。直時に向けた眼には少し警戒感が浮かんでいた。


「今晩は。部屋は空いているかしら?」

「今晩は、いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「二人です」

「二人部屋、一人部屋ともに空きがありますが?」

「良かった。二人部屋を一室。三泊の予定でお願い」

「銀判貨四枚と銀貨一枚になります。朝食は料金に含まれます。夕食は別料金になります。今夜はどうされますか?」

「お代はここに。夕食はここの食堂を利用させてもらうわ。」

「有難うございます。夕食代は食後にお会計させていただきます。部屋は二階の『白岳草の間』になります。どうぞ、ごゆっくり」

「ありがとう」

 フィアは木彫りのプレートを紐で繋いだ鍵を受け取る。


「御世話になります」

(ふむ。銀判貨ってのは銀貨の豪華版、小判みたいな形のお金だな。盗賊の財布から奪った中にもあったな。他にも白銅貨とかあったし物価は追々確認していこう)

 直時は挨拶をしてフィアの後に続きながら貨幣の種類と流通している品とその価格に思いを馳せていた。


流通貨幣は金貨(20万円相当)銀判貨(1万円)銀貨(5千円)白銅判貨(千円)白銅貨(5百円)銅貨(百円)です。

判貨は小判みたいなものと思ってください。

貨幣価値を作中に入れるかどうか悩み中です。


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