シーイス公国動乱⑩
場面転換が多いかもです。
ガラム隊。
リメレンの泉で五年に一度開催される『水の加護祭』で、高位魔獣である魔狼――ドゥンクルハイト一家――と戦った冒険者グループである。
リーダーの虎人族ガラム、その妹ラーナ。竜人族ヒルダ、妖精族ドワーフのダン、普人族の魔術師リシュナンテがメンバーで、そこに臨時でフィアが加わったのだった。依頼終了後は、ヴァロア王国の侵略により慌ただしい別れとなっていた。
ガラムは礼と詫び、そして再会の挨拶もそこそこに用件を切り出した。
「妹を、ラーナを探している――」
ガラムの顔が曇った。彼の話では、リシュナンテの護衛と称して同行したらしいが、その後連絡が途絶えたとのこと。リシュナンテ本人からはギルドを通して、カール帝国で別れたと返事があった。
手掛かりが無いまま周辺諸国を探していたところ、シーイス公国が犯罪被害に遭った獣人族を大量に保護したと聞き、ノーシュタット政庁を訪ねたのだった。
「名簿にはラーナちゃんの名前は無かったニャ」
同族への送還を仕切っているミケが断言した。彼女はギルドのリスタル支部喫茶店で働いていたこともあり、ガラム兄妹とは顔見知りだ。保護された中にいれば、直ぐに判る。
「リシュナンテにはマケディウスのロッソで会ったがラーナは居なかったぞ?」
「イリキア王国でもリシュナンテと一緒じゃなかったわ」
彼は各国との招致合戦で直時を追っていたが、ラーナの姿は見なかった。
「そうか……。手間を取らせて悪かった。済まないが、ラーナのこと、気に留めておいてくれないか?」
何処かで手掛かりを耳にするかもしれない。皆は快く了承した。頭を下げたガラムは、幾分肩を落として政庁を後にした。
「ラーナもAランクの冒険者。余程の事が無い限り無事だとは思うが……」
「ギルドで連絡を回してみるニャ」
ヒルダの呟きにミケが請け負った。冒険者ギルドの情報網を使うつもりである。何処かで依頼を受けていれば、仲介をするギルドに記録が残る。一番最近のそれを当たれば手掛かりも得られるだろうと考えたのだ。
ミケにとって顔見知りに過ぎないが、それほど手間が掛かるわけではない。
いつの間にかカール帝国王女は姿を消していた。ヒルダが手近の役人に尋ねると、帰国するためヴァルン王城へと向ったらしい。ジュリアーノ公王への挨拶があるのだろう。
丁度良いとばかりに、テント暮らしの獣人族のために仮設住宅を建てる許可を求めた。上司に問い合わせるという役人を待つ間に、本日の治癒術を終えた直時が戻って来た。
「数日後には居なくなる者のために、政庁内へ施設を作る許可は出せませんな」
上司は開口一番、そう言った。賄賂を受け取ったいつぞやの役人である。不機嫌そうなのは、王府より叱責があったためだ。ノーシュタット政庁の対応不足を、軍務卿へと苦言を呈した結果だ。
ヒルダやフィアの機嫌を損ねると身が危ういのに、それに気付かない。依頼主はシーイス王府であり、冒険者は雇われた者。王府には自分も属している。つまりは雇い主である。そう思っていたからだ。
したり顔の役人は、無言のヒルダとフィアから高まる怒気にまるで気付かない。
直時としては、賄賂の要求や物資の横流し疑惑をちらつかせても良かったのだが、ここは穏便に収めることにした。ミケの紹介で、隠形に長けた冒険者へ依頼した件がある。彼の悪事は関係者も含め盛大に罰してもらう……。それで溜飲を下げようと思ったのだ。
「まあまあ。実際、体調を崩しそうな人達が多いのです。そうなれば出発も遅れてしまいます。我々が依頼を前倒ししたのは、彼等の健康回復のためであると軍務卿も御存知ですし、予定の遅延が体調不良となれば……」
直時は最後まで言わず口を濁らせた。断言せず彼の顔を立てた訳だ。しかし、これで政庁側の管理不行き届き、責任問題へと思い至らないような頭ならヒルダ達の暴発もやむ無しとも思っている。
「仕方ありませんな。『私』の特別の計らいで許可しましょう。但し! 景観を損ねるような目立つ仮小屋は遠慮してもらいましょうか」
「見栄えの良い建物を作れと?」
「とんでもない! 逆です! ここはノーシュタット政庁だ。けもの――ゴホンッ、難民のための建物はなるべく目立たず、直ぐにでも取り壊せるようにしてもらいたい。ま、地面に穴蔵でも作られてはいかがかな?」
せせら笑う木っ端役人。
《良くぞ言った! タダトキっ、止めるなよ?》
《ヒルダ、念話で確認する分別はあったのねぇ。私もそろそろ風が滑りそう》
《ちょっ! 二人共待って! あと、風が滑るって何なんだよっ? 奴の言質は取った。ダーイジョブ! まーかせて!》
直時は二人を押さえた。ミケが必死に耐えているのに台無しにする訳にはいかないのだ。
「政庁には塀もありますし、地下施設なら目立ちませんものねぇ。では、早速掛からせてもらいます」
作り笑いを浮かべて、魔術を行使する。
「土は石に 石は岩に 『岩盾』――」
改造人魔術である初期型『岩盾』だ。編まれた魔法陣がそこかしこに現れる。大きな将棋の駒のような岩が重なり、連なる。応用技である多重生成だ。リスタル防衛戦では繋げて巨大なドームを作ったが、今回はそこまで大規模ではない。
魔術の同時並列発動に肝を冷やした役人であるが、出来上がったモノに胸を撫で下ろした。彼の前には、半地下式の竪穴式住居とでも言うべき岩小屋が八つ程出来上がっていた。一つに十人程しか入れないだろう。
「どうでしょう? これで問題ありませんか?」
「ま、まあ。こ、この程度、ならば、よ、良いでしょう」
鷹揚に肯いて見せたが、内心の動揺までは隠せない。改めて直時の底知れない魔力に畏れを抱いたのである。
(黒髪の精霊術師。リスタル防衛の英雄の一人。そして、リスタルの悪夢……)
彼の頭に浮かんだ異名のうち、最後は敵方からの呼び名である。直時へと顔を向けた。
(愛想の良い小男。図に乗らず、丁寧な言葉)
そして、突然気付いた。眼前の男は笑っている。目尻は下がり、口角は上がり、歯を見せている。確かにそれは笑いを形作っている。
しかし、――値踏みするような視線――闇を固めたような黒い瞳に背筋が凍った。
「あ、後は宜しく頼む」
回れ右をした彼は、横にいる部下を残し足早に去った。
「逃げたな」
「タッチィの魔術にびっくりしたのニャ」
「それは良いけど、全員を収容するなら数が必要ね」
ヒルダとミケが鼻を鳴らし、フィアが周囲を見渡した。同種族の元へと去った者達は、まだ少ない。千七百人以上が残っている。
遠巻きに様子を窺っている者が殆どだが、気の早い子供達は、中を覗いたり屋根に登ったりしている。
「ああ、アレは入り口兼、遮蔽物だから。もう少し数は増やすけど、本当の部屋は地下に作るんだ。土の精霊術全開でねっ!」
先程の愛想笑いではない。心からの大きな笑顔である。幾分黒さが混じっているが……。
「――実は怒ってた?」
「めちゃめちゃ腹立ってました!」
小さな声で訊いたフィアへ、直時は言い切った。
入口となるダミーの住居を円形に配置した直時は、そのひとつへと入る。入り口には『工事中につき、立入禁止』と札を立てた。フィア達には見張りを頼んだ。これで誰にも見られる心配は無い。
「さーて! モコちゃんズ! 出番だっ」
しゃがみこんだ地面からもこもこと土の精霊達が姿を現す。直時は、これでもかと魔力を込めた――。
精霊達は、彼の意を忠実に実行へと移した。ノーシュタット政庁地下では、穿たれた空間が縦横に走り、更に伸びていった。
完成した仮設住宅は、地下へと伸びる巨大建築物であった。円を描く廊下は外周に部屋を多数配置。階数は地下七階を数えた。廊下の内側は竈を多数備えた大食堂である。但し、地下一階だけは食料庫になっている。
特筆すべきは地下七階、最下層の内周側だ。地下水を水の精霊術で汲み上げた大浴場となっている。男女比率の問題で、男風呂はかなり狭いが、庶民には入浴という習慣が無く未経験者ばかりだ。話でしか聞いたことのない大浴場に、皆が興味津々であった。
「ふむ。良い湯であった」
「ヒルダは寛ぎ過ぎ。――麦酒は無いの? ちぇっ」
「フィアも人のことは言えない……。でも、やっておいてなんだけど大丈夫かな?」
「大丈夫ニャ。普人族の役人なら、獣人族の寝床まで入ってくることないニャ」
湯上りに食堂へと集まった面々、暢気なものである。
「へんたい兄ちゃん、もっかい風呂行こうぜ!」
「俺、もっと泳ぎたい!」
「これ以上は湯あたりするから駄目だ。それと、俺のことをへんたいと言うな! ミケは笑うな!」
耳と尻尾の毛から雫を垂らせたまま、子供達が直時の服を引っ張った。だが、再度の入浴は禁止する。実際、はしゃぎ過ぎて湯あたりした数人が赤い顔で転がっていた。
直時は、彼等に微風を送り、水の塊を額に当てているため手が離せないのだ。
「なぁーなぁー。耳でも尻尾でも触らせてやるからさぁー」
「……マジ?」
「へんたい禁止ニャ」
ミケが直時の後頭部を叩いた。
直時が怒りのあまり勢いで作り上げた地下構造物は、ミケの言葉通りシーイスの役人達に気取られることは無かった。竪穴式住居が入り口だと判断出来ても、精々が地下に大きな穴蔵を作ったと思われたからだ。
余談であるが、短期間とはいえ多くの人が生活する場となった地下の宿は、製作者である直時の力無しで維持管理が難しく、治癒担当はフィアが主になった。
「排水に排気に排便……。次はもっと考えて作ろう……」
換気筒と排気筒は煙突を地上へ。排水と排便は精霊術をフル活用した。水分だけを抜き、体積の減った廃棄物は地下へ圧縮して埋め込んだのである。これが出発までの直時が担う最重要任務となった。人は食べるのみにあらず、である。
入植地への出立を待ちながら、ヒルダ隊の各メンバーは精力的に動いていた。
ヒルダは、食料調達である魔獣狩り。戦乱を避けた獣人族冒険者が多く、シーイス周辺の討伐依頼が消化されていなかったため、一石二鳥になった。
直時は剣の修業として連れだされている。ヒルダ曰く、「色んな魔獣と闘っておけ」とのこと。四足獣、虫型、飛翔獣、習性の異なる大小様々な魔獣(食用になる種類)と実戦を積み重ねることになった。
型を気にして尋ねた直時だが、ひたすら剣を振るって、状況に応じた対応を憶え、自然と身に付く剣技が自分に一番合う、と言われた。ヒルダやフィアのように寿命の長い種族は、効率的な習得よりも経験を血肉として吸収することに重きを置くようである。
「変な癖とかついたら拙いんじゃない?」
「それが悪癖だと理解出来るようになるまで剣を振れ。理解出来れば次に繋がる」
気の長い話であった……。
フィアは、保護獣人族達の健康管理と送還護衛が役目となった。
ヒルダと直時が狩りの間に送り届け、彼等の帰還に合わせて街へと帰る。
治癒と並行して薬の調達にも力を入れていた。ギルドや知人を通じて、ロッソの姉に言伝てを送ったりしていた。直時の左腕に試そうとしていた秘薬も重傷者の治療に使ってしまったため、追加を要請していたのである。
一人では手が足りないため、治癒には直時も同行させた。目を離すと、子供達に殴る蹴る等されながら、耳と尻尾を狙っていたりする。
「いっただきまーす!」
「食うな!」
フィアの手刀が直時の脳天に炸裂していた。
ミケは相変わらずギルドに詰めていた。引き取り先との連絡や、ガラムの妹の件、周辺国の情報収集である。入植前の引き取りは極力抑え、確約を取ることに重きを置いていた。獣人族を利用する意図が垣間見えるシーイス公国。彼女は依頼達成と、保護という名目の微妙なバランスに苦心していた。
(早すぎる送還は、シーイスの国策妨害と取られかねない。今は慎重にいくニャ)
入植地まで来られる者を除き、移動するルート上で、各種族の迎えが来るよう調整をしていた。
「タッチィ、お風呂ぉ――。お疲れのウチはお風呂を所望するニャア」
入浴の魅力に取り憑かれたミケは、仕事が終わると仮設地下宿へと顔を見せ、直時へ風呂をねだった。大浴場の給湯が可能なのが彼だけだったからである。
「うにゃぁ~。湯あたりしたニャァ。タッチィ、膝枕ぁ~」
「はいはい」
休憩所のベンチで持ち込んだ麦酒を片手に、ミケの頭を腿にのせる。ピコピコ動く猫耳に心が動くが、子供達に『へんたい』を流布したことを恨んでいる直時。素直に手を出すのは負けたような気がする。ウズウズする衝動を抑えて麦酒を喉に流した。
ミケが無念そうにしていたが自業自得である。妨害行動が己を利するとは限らないのだ。
ヒルダ隊の最重要目的である獣人族の保護。シーイス公国からの指名依頼の条件を満たし、その上で最大限獣人族を望む方向へ送り出す。それが決行される日が遂に訪れた。
入植地で設営していた工兵部隊から、準備完了との連絡が入ったのである。
丸一日を準備期間に充てられた。
保護された者達は着の身着のままで、荷物らしいものは元々無かったので出立準備は直ぐに調った。王都にいた者達も程なく合流した。
ヒルダ隊は宿を引き払い、それぞれが装備に身を固めて並んだ。ヒルダは黒竜鱗の鎧を部分的に装備し、フィアはいつもの旅装に革鎧、ミケは更に軽装な革服に甲羅の胸当てだけであった。直時は新調した虫系魔獣の外殻を加工した篭手と脚絆、左の肩当てだけが付いた革鎧である。
ノーシュタット政庁を退去する際、少し悶着があった。
移動のどさくさ紛れに、備蓄していた食料を横領しようとする役人がいたのだ。「移動に多くの荷は妨げになるから引き取ってやる」とのことだ。その努力は是非とも他の事に向けて欲しいものだ。直時などは、呆れを通り越して逆に感心していた程である。
その時、初めて足を踏み入れた地下施設に声を失っていたのだが、直時は当初の約束通り土に還すと宣言した。役人は泣いて止めたが、直時は終始黒い笑みを絶やさず巨大な地下居住区を土に埋めた。
「シーイス公国は諸君らを臣民とし、我が国への愛と忠誠を誓う限り、護り慈しむことをここに誓おう!」
入植地への出立日、軍務卿であるヘンリー・ギルサンが居並ぶ者を前に、そう訓示した。
「軍務卿、はりきってるけど、聞いてる人達は冷めてるね」
「建前だって皆判ってるからねぇー」
「大半は道程で引き取られるからニャァ」
直時へフィアとミケが苦笑を返す。ヒルダは隊長として威厳を保って軍務卿の前に立っている。
「各種族が殆ど引き取ってくれるらしいけど、残留組は何人くらいになるんだ?」
「222人ニャ」
「ふむ……。ニャンニャンニャンだな」
「ニャ?」
日本語の語呂合わせはミケには判らない。フィアとヒルダもそこまで理解は深くない。ニヤニヤする直時を訝しげに見る三人であった。
ノーシュタット郊外に集まった獣人族の集団は、当初の二五〇〇人から約一七〇〇人になっていた。事前に同族へと引き取られた者達が三割以上いたからである。
リスタル東部、雪竜の住処である白乙女山地近くの入植地までには、更に五〇〇人程が離れ、残りは現地にまで迎えが来る予定である。
「では、出発!」
ヒルダが宣を発した。
動き出した隊列は五つに分けられていた。
第一集団はヒルダを先頭に体力のある者。数少ない男連中はここに配されている。道中の危険に対するためだ。魔獣の襲来が皆無ではない。
第二、第三集団には冒険者ギルド職員や、獣人族冒険者の有志が付いた。若い女性や、歳上の子供が多い。
第四集団は数が少ないが、完治しなかった者や低年齢、その親が配された。付いたのは直時である。有り余る魔力で浮遊客車と荷台を操り、人と物資を運ぶのが役目だ。
最後尾の第五集団にはフィアとミケ、補助として何人かの冒険者が付いた。この集団は途中でそれぞれの種族に引き取られることが決まっている。フィアとミケが交代で護衛に付いて送ることになっている。
ヒルダ隊の面々は、各自支援魔術を施してまわりノーシュタット郊外を出発した。
シーイス公国領内で直時達が移動を始めた頃、国境を隔てたトリエスト回廊を南下する大集団があった。カール帝国輸送隊である。
カール帝国北領を治めるキール・フォン・シュレシュタイン侯。彼の第二子であるグレッグは内心の不満を抑えながら騎獣の背に揺られていた。場所はトリエスト回廊。フルヴァッカへと向かう途上である。
「この俺が土の上を歩かされるとはな……」
「ブリックとの開戦は避けるべきでした」
思わず呟いた愚痴に側近の直臣が反応した。
ヴァロア王国と縁の深いエスペルランス王国ならば敵に回ると予想していたのだが、エスペルランスと海洋の覇を競うブリック連合王国が立ちはだかることは予想の外であった。
グレッグは本来、シュレシュタイン所属の海軍の将である。それが命令により輸送護衛という本来の働きから程遠い任務を強いられていた。グレッグもフルヴァッカ攻略が膠着していることは知っていたが、海兵であるシュレシュタイン領の兵を延々と陸路を歩かせることに大いに不満を感じていた。
「また野盗です。積荷の被害は軽微、兵は軽傷者のみ。行軍に問題はありません」
「今度こそ捕縛出来たのだろうな?」
「……申し訳ございません」
「くそっ! 忌々しい……」
散発的な野盗の襲撃が、更に彼の機嫌を悪くしていた。兵、物資共に損害は僅かとは言え、警戒を引き上げない訳にはいかない。行軍は自然と遅れることになる。
シュレシュタイン輸送隊は規模の割に護衛が少ないことも裏目に出た。移動は自国領内だし、フルヴァッカの重要拠点は占拠済みだった。補給品を護衛隊が食い潰す訳にもいかないから、妥当な判断だったと言える。
「こっそり盗むだけでは飽き足らず、護衛兵まで襲うとは舐められているな」
「今回の襲撃も少数でした。報告では視認した姿が二名、援護が攻撃規模から同程度とのことです」
「狙いは?」
「食料だけです。野盗というより、食い詰めた難民かもしれません。しかし、軍の輸送隊を執拗に狙うことから、総数は多いと思われます」
「フルヴァッカからの難民なら厄介だな。現地では相当苛烈な徴発が行われていると聞く」
グレッグは眉を顰めた。
早期を急ぐためであるが、実情は徴発ではなく略奪であり、餓死者も出ている。「今ある国民の苦しみは、フルヴァッカ公王の所業の結果」と、情宣活動をしているが、カール帝国軍も恨みを買っている。それに、追い詰められた難民には関係ないだろう。
「どちらにしてもこれ以上遅延する訳にはいかん。軍に手を出したことも放ってはおけん。討伐隊を編成しておけ」
「判りました。騎兵一個小隊に支援の補術兵を付け、臨時の討伐隊を組みます。賊への対応は如何致しましょう?」
「決まっている。殲滅だ」
軍事行動中の兵に手を出せば死。指揮官として当然の判断であった。
脚の早い騎獣を集め、野盗に対応する予備として段列最後尾に配置し、補術兵による念話網を再構築した輸送隊。敢えて襲撃を受けてから、荷を背負い足を遅くした賊を討伐するということになった。
日が傾き、野営に入ろうという時に念話が響いた。
《山岳西部より強襲。二〇三大隊第二小隊に被害。賊は少なくとも五名。物資の一部を強奪して逃走中。護衛に死者無し。但し、軽傷三名に重傷一名》
急念を受けて最後尾の討伐隊へ補術兵が支援を施す。支援魔術をもらった騎兵から土煙を立て、賊の追跡が始まった。
暫くして討伐隊から念話が入った。
《賊の一人を捕殺! 獣人族の女です!》
「……獣人族は戦渦を避けている筈だが。どういうことだ?」
グレッグは報告に首を傾げた。
やっと動きます。