シーイス公国動乱⑦
あまりにも進み具合が悪いので、途中になりますが連投させてもらいます。
武器選びが済んだ後、夜にもかかわらずリスタル別邸へと急いで戻った直時は、地下の蛙石像からソヨカゼへと『影の道』を潜った。
動くのは早い方が良い。目立たない夜なら尚の事、ということで各自が行動をおこしたのである。
深夜の帰還だったが、魔狼達と魔人族の数人が気付いた。
《ひとりか? 夜更けに急いでどうしたのだ?》
風砦の麓、出入り口である竜の顎から出た直時へ、魔狼ドゥンクルハイトが訊ねた。仔魔狼のホルケウは姉のハティが抑えている。
そこへ、警備として派遣されている蝙蝠の翼を持った魔人族の男が、ヲン爺を抱えて舞い降りた。面々を前に、経過を話す直時。
「実は――」
シーイス公国からの依頼のこと。保護された獣人族達の環境が悪いこと。何はともあれ健康回復、治療のためにも食の改善を優先し、食料調達に戻ったこと。獣人族と間違われていた魔人族が数人いること等である。
《そういうことならば、儂も何か狩ってこよう。ハティ、ホルケウ、行くぞ》
「ありがとうございます。俺も製塩と、夜の漁に出ます」
ドゥンクルハイトは仔魔狼達を伴って、月下の狩りに出た。直時も海に出るつもりだ。
「その魔人族というのは?」
「当人に会ってないのではっきりとは言えませんが、有翼人だということです。夜鳥族か、そちらの方のように吸血族とかではないかと……」
慌ただしそうな直時へヲン爺が訊ねた。翼を背に畳んだ男性が、端正な眉をぴくりと動かした。
「判りました。彼等は暗護の城へ呼びましょう。魔人族に限らず、闇の眷属にはクニクラド様の許へ来るようにお伝え願えますか?」
「必ず!」
詳しい話は後ほどと、直時は慌ただしく夜の海へと飛び立った。
海岸からそれほど遠くない沖、その空中で直時は魔法陣を編んだ。人魔術『灯火』の高位術、『光輝』である。電灯一つ分くらいの灯火とは、桁違いの明るさが暗い海面を照らした。
夜間の大規模な活動、催事や夜間行軍、船舶の安全灯などに使用される術であるが、直時は漁火として活用したのである。何度か夜の漁で使って、効果の程は確認済みだ。
程なくして、強い光に小魚やプランクトンが誘われて集まってきた。直時が狙う獲物はもう少し後に姿を見せる。烏賊である。
(精霊術で釣り上げるのは風情が無いが、夜釣りは余裕が出来てから楽しむことにしよう)
小型の漁船も建造中である。未来の楽しみを思いながら、小魚に群がる一メートル級の烏賊へと、海面上空を移動した。
「うむうむ。大漁、たいりょ――」
波立つ海面に頬を綻ばせかけた時、直時の目の前に鋭い槍が水を裂いて伸び上がった。宙で身をくねらせた槍は、先端に烏賊を串刺しにして海中へと戻る。
息をつく暇もなく、真下から新たな槍。直時は右手の五尺杖を振るった。相手の方が大きい。攻撃を逸らすためではなく、自身を攻撃軸線から外すためである。辛うじて回避に成功した直時は、襲いかかった影を確認した。
新たな狩人の出現、槍魚である。カジキマグロに似ているが、南洋の危険魚であるダツを大きくしたような細長い槍のような体躯だ。
彼等の狩りは凄まじい。三メートルを超える槍のように鋭い口吻で、獲物を刺す。刺し貫いた獲物をそのままに海中を猛速度で泳ぎ、水圧で身動きを許さずに水の抵抗と口吻の鋭さで引き千切るのである。そして、食べやすい大きさになった獲物を改めて口にするのだ。
普段は水平に襲いかかるのだが、海上の強い光源がある。それに映る大烏賊の姿が捕捉しやすいようで、深部から垂直に跳ね上がっているようだ。
(おっそろしいな。船底の強化無しじゃ、おちおち漁にも出られないなぁ)
そんな彼等の狩りに遭遇した直時は、とばっちりで串刺しにされてはたまらないと上空へ緊急避難した。冷や汗を拭って、海面から飛び出す鋭利な槍先を見ると、お尻がムズムズしていた。
「まぁ、烏賊と槍魚、一挙両得」
呟きとともに、旋風が槍魚を捕まえる。海中には逃がさない。急所である頭蓋の後ろをカマイタチで切り裂き、一瞬でとどめを刺す。
次いで、『浮遊』。そして、少し悩んだ後、『落霜』の高位術『氷結』。冷凍槍魚の一丁上がりである。干物の方が嵩も減り輸送が楽だが、加工に時間が掛かる。それに、冷凍の方が調理の幅が広がる。直時が『氷結』を選んだ理由である。勿論、オマケの烏賊付きだ。
槍魚の体長は八メートル近くあるが、何しろ細身である。食料とするには数が要る。直時は根気よく空中で彼等を狩っては、せっせと束ねていった。
「ただいまー」
東の空がやや明るい。黎明が近い。
山のような獲物、びっしりと霜のついた槍魚とオマケの大烏賊と共に風砦へ戻ると、ヲン爺と二人の魔人族が篝火を焚いて待っていた。石畳の上に荷を着地させる直時。
「おかえりなさいませ。ホッホッホ、大漁のようですな」
「思わぬ収穫でした。烏賊だけなら(精霊術で)乾物にしたんですけど、こいつらも同じ獲物を狙ってたようでしてね」
「槍魚ですね。脂は少ないですが、身は引き締まっていて美味ですぞ。口吻は魔具の素材にもなります」
「そうだったんですか? 邪魔だったから捨てるところでした」
実際、運ぶのに面倒そうだということで、頭部は切り落としてしまおうかと思っていた直時である。狩り場でそれをしなかったのは、遺骸を海面に落としては、警戒して逃げられるかもと思ったのと、狩りながらの冷凍作業に忙しかったからである。一番の理由としては、『海にゴミを捨てない!』であったが……。
ヲン爺の指摘が無ければ、此処で間違いなく切り落として埋めていただろう。影の道を進む分には問題ないが、出口側のリスタル別邸は人サイズの扉しか無いのだ。
「申し訳ないですけど、荷物の見張りをお願いします」
ヲン爺達は快く肯いた。
魔狼親仔の縄張りであるため、大型魔獣の心配は無いが、虫系魔獣を主とした小型、中型魔獣が寄ってくる場合がある。直時は、ヲン爺達に頭を下げてから、塩造りのため再び海へ向かった。
夜明け。太陽が東の空から顔を出した。風砦の岩肌を赤く照らす。
麓には大量の荷が積み上がっていた。冷凍された槍魚(身のみ)三五尾と烏賊二〇杯、塩五百キログラム。魔狼達が狩ってきた一角牛のモモ肉四本と、ソヨカゼで備蓄していた乾物と穀物、海藻由来の薬丸や軟膏である。
他に、素材として高値で取引されている槍魚の頭部。これを大量に持ち込むと相場が混乱する恐れがあったが、そもそも流通が滞っている。直時は、少数だけ残し、他は全て持っていくことにした。
シーイス公国からは、差し入れる荷の三割五分を徴収されるという。しかし、食料はなるべく獣人族達へと届けたい。高価な品を持ち込めば、その分食料が残せると判断したのである。
それぞれの荷を革綱で一纏めにし、木の荷台に固定、厚布で覆った。さらに各々を列車のように連結させる。
『浮遊・限定解除』を重ねがけし、地面からは微かに風で浮かせた。大量の魔力を消費してしまったが、準備完了だ。
「それじゃ、再度行って来ます」
貨物列車のような荷を、風で牽引した直時は、『影の道』へと姿を消した。見送った一同、仔魔狼ホルケウの前にだけ、解凍された槍魚が一尾、残されていた。
フィアは直時と共に、夜のノーシュタットを出発、リスタルから別行動をとっていた。彼女の目的地はマケディウス王国の商都ロッソである。
リスタル上空で直時と別れた時は、その背を名残惜しそうに一瞥していたが、見えなくなると飛翔速度を上げた。
「風よ! もっとよ、もっと疾く!」
精霊が彼女の願いを、魔力と引き換えに叶える。
フィアを包んだ風は、彼女を護りつつ更に加速する。
(凄い。これだけ魔力を注ぎ込んでも底が見えないわ)
驚嘆を禁じえない。
治癒の触媒となった直時の左腕、そして左手の桜花の刻印。フィアは、自身の魔力がどれほどのものなのかを身を持って知った。
風に導かれたエルフは、白金の髪を月光に煌めかせ夜空を貫いた。
夜通し全力飛行を続けたフィアだったが、さしたる疲労も無くロッソへと到着した。朝日は未だ差しておらず、街の郊外で一息入れることにする。
最大の商都として知られるロッソは、夜間でも人の出入りが途絶えないが、日没後から日の出までの入出にはロッソ政庁の許可が必要となる。街門外には、許可証を持たない行商人や商隊、旅人が野営しており、フィアもその端に加わって腰を下ろした。
「――あんたの商会もリネツィア往復かい?」
「まぁねぇ。稼ぐならそっから先だろうけど、うちみたいな弱小じゃ危ない橋は渡りたくないし、リネツィアまででも充分実入りがあるからな――」
フィアは目立たぬように彼らの声を風で拾う。情報収集である。
「――リネツィアから船を手配しているんだが、一口乗らねぇか?」
「海路か? 最近は大型海魔が近海まで来てるそうじゃないか。国境越えして、トリエスト回廊までなら良いが、フルヴァッカまでは御免だぜ――」
「――アンタ、もう路銀は通行税しか残ってないよ? 子供達も疲れてるってのに……」
「ここまで来れば大丈夫。街には食べ物もたくさんあるからね。日雇いで荷運びでも下働きでもすれば、前よりマシな生活が出来るはずだ――」
「開門っ! 開門―っ! ゆっくり整然と並べ! 列を乱した者は最後尾に回すからな!」
門を守る衛兵隊が槍を手に駆け足で現れた。大声を出したのは隊長だろう。彼だけは槍ではなく剣を腰に帯びている。兜に角もある。
夜間の通用門ではなく、大扉が軋みをあげながらゆっくりと開いていく。キビキビとした衛兵とは対照的に、門内では役人がゆっくりと徴税のための机を並べていた。
獣車の列、単騎の列、個人の列と分けられており、それぞれに準備を終えた者から並び始める。衛兵の警告にも拘わらず、先を争う者がいる。ある者は叩き伏せられ、ある者は袖の下で――何処にでもある風景といえばそれまでだろう。
最も秩序を保っているのは大型獣車を牽いた商隊だ。休憩中にそれとなく順番を根回ししているのだろう。整然としたものだ。
怒声と悲鳴が交錯し、衛兵に弾かれているのは個人の列だ。よろぼうて切羽詰まった者もいれば、血気盛んなチンピラもいる。大概が衛兵に打擲され最後尾へと回されている。
最も混乱して進まないのが単騎の列だ。騎獣を駆り、大商人の隙を突こうとする行商人や、腕自慢の冒険者、駆け出し冒険者を気取った貴族の末子等が多いようだ。トラブルの元は概ね冒険者で、袖の下で抜け駆けを図る行商人がそれに拍車を掛けているようである。
フィアは経験から初期の混乱を見越して、誰かの野営後の残り火でゆっくりと茶を飲んだ後、列に加わり街に入った。冒険者としての年季と、気長(かなり疑問が残るが)なエルフの気質だろう。
喧騒の満ちる大通りから外れたフィアは、人気の無い複雑な裏道を縫う。足取りに迷いは無く、覚えがある道のようだ。
ロッソのように活気に満ちた都市であっても、表通りと裏通りは厳然として存在する。いや、大都市だからこそだろう。その裏町の中でも、ここは普人族が足を踏み入れることが無い場所で、普人族から悪意を持って他人街区と呼ばれる地区である。
フィアは、集合住宅のひとつ、その裏手にある半地下の扉を叩いた。表面には形象化された一筆書きの葉が彫り込まれている。
「~~~っ」
反応が無く、イライラしたフィアは二度三度と強く拳を叩きつけた。
「ふわぁ~。朝早くから誰だよぅ。安眠妨害する奴ぁ、薬草の肥やしにしてやんぞぉ?」
間延びしているが剣呑な台詞が扉越しに聞こえた。途端、フィアの足元の石段が泥濘となり、足首までを飲み込む。
「土の精霊達、盤石の大地を――」
「あらま! やるわねぇって――この気配はフィア?」
覚えたての土の精霊術で足元を石段へと戻したフィアは、素早く後ろへ下がる。勢い良く開け放たれた扉から、飛び出した人物がいた。
白金の髪、明るい翠瞳。そしてエルフ特有の長い耳の女性。フィアと瓜二つである。違いは折角の綺麗な髪が跳ねていたところと、どことなく野暮ったい地味な服装でだらしなく見えるところだろうか? 彼女の名は、ディミティア・メイ・ファーンと言った。
「ちょっとぶりね、フィア? 男追っかけて飛んでったと思ったら、もう戻って来たの? 振られたの? 自棄酒なら付き合ったげるわよー」
「違う! 仕事よ、仕事っ! お姉ちゃんの療薬って、今、どのくらいあるの? 言い値で買うから売ってちょうだい」
「療薬? まさかあんたもカール特需にあやかろうって気じゃないでしょうね?」
「別件よ。真っ当な店だと足元見られるし、色々と詮索されそうだからこっちに来たの。シーイス王国からの指名依頼に絡むことよ」
会話から判るように、彼女はフィアの姉である。薬学に長け、珍重な素材が集まるロッソに居を構えて、日夜怪しげな薬を調合しているのである。フィアとは別方向の知識欲に取り憑かれた魔女だ。
「悪いけど急ぎなの。あるの? 無いの?」
「あたしんとこに買いにくる物好きは少ないからあるにはあるけど、使う対象は誰なのよ?」
「獣人族。衰弱してる。精霊術の治癒で完治出来ないくらい」
溜息を吐く姉に、要点だけを言うフィア。
「人数は?」
「十人分。出来れば倍は欲しいわ」
「判った。少し足りないから、すぐに調合するね。代金は金貨二十枚と――」
「他にも毟ろうっての?」
「うん! フフフ。フィアと黒い髪の男の子の馴れ初めとかかなぁ~」
「別に付き合って無い! それに若く見えるけど、アイツ、普人族換算で三十歳を越えてるわよ?」
どう説明したものかと悩むフィア。
「それじゃ、別の事でも良いわ。あんたが土の精霊術であたしと張り合えたのはどうしてなの? 私達、森エルフは土の精霊には好かれやすいけれど、あんたは既にメイヴァーユ様の加護持ちだしね。どこかで土を司る神々でもたらしこんだの?」
ちなみにディミティアは土と水の精霊術が使える。特に加護を得ているわけではないので、魔力量は直時が出会った頃のフィアより少ない。但し、フィアより八〇歳ほど上なので、技はそれなりに練り上げられている。
挨拶代わりとは言え、ディミティアが得意とする土の精霊術をフィアが返したのだ。不思議に思っても仕方が無い。
「するか! 私が崇めるのはメイヴァーユ様だけよ! 土の精霊術は知り合いに刻印をもらって……、使えるようになって……。それでドワーフの精霊術師から手解きを受けただけ――」
「だけ? それを『だけ』と言うかっ? どんだけ面白い事があったのか、ディミティアねーさんに白状しなさい!」
飛びかかった彼女はフィアの頭を右脇に抱え込んで、がっちり拘束して締め上げる。所謂ヘッドロックである。ご丁寧に、親指の根元の骨がフィアの頭蓋骨にめり込んでいた。
「痛い痛いっ! 話すから離してぇっ!」
一瞬で抵抗を放棄して叫ぶフィア。満足気に肯いたディミティアは、早速足りない薬を調合しながら話を促す。恨めしそうに睨みながらもフィアは今までの経緯を語り出した。
「――あの黒髪の男は他の世界からの来訪者、『神人』ねぇ。そんなのがいたんだ。んで、その左腕が今のあんたの左腕になってると……。本人へ治癒は精霊術も人魔術も効果無しか。ほうほう」
ディミティアは、フィアの話に耳を傾けながら作業場の棚から棚へと歩き、特製療薬の材料を選んでは大きな擂鉢の中や、湯気を立てる鍋へと少しずつ投入する。
鉢の中では石の玉が勝手に転がり、数種の薬草と触媒がすり潰し、鍋の中身は自動的に撹拌していたりする。ディミティアの土と水の精霊術だ。
「あんたも無茶してるわねぇ。言いたいことはたくさんあるけど、無事な姿を見せてくれたからやめといたげる。でも、タダトキ君だっけ? そいつには近いうちに会わせること。良いわね?」
「ば、馬鹿だけどお人好しで、結構良い奴なのよ?」
「判ったかなぁ?」
「うー。はい」
ディミティアの言葉の端々から見えない怒りが滲んでおり、矛先はどうやら直時のようだ。弁護しようとしたフィアであるが、怖い笑顔で封殺された。
「ほい。完成!」
「粉と液があるんだけど?」
「粉薬は経口用で食べ物や飲み物に混ぜても良いわ。水薬は患部に塗るの。治癒術ほど患者の体に負担が掛からないから、衰弱が重い人にはこっちね。それとこれはオマケ」
「薬丸?」
「白アラウネの蜜と銀色熊の肝と双角鮫の軟骨その他諸々を竜の血で煮て……」
「ごめん! 聞いても判らないから! いくつか物騒な素材が混ざってるんですけど、結局何なの?」
「ディミティア謹製『超! 滋養丸』よ! 生命力の根源を強制的に底上げし、一粒口にするだけで血湧き肉躍る最強の薬! ひと月は食事が不要になるほどの栄養の塊! 寝食に時間を取られず研究に打ち込める求道者の必須アイテムだあ! 超ものぐさ昼寝好きの黒耀地竜様のお墨付きっ! これ十粒と血を交換したのは秘密だぁ!」
「なんてことするのよっ!」
引き篭って怪しい薬を調合しているかと思えば、古竜から血をもらいに行ったりもするらしい。とんだ命知らずである。
「頭が痛くなってきた……。お説教された私が馬鹿みたいじゃない……」
「良い薬があるわよん」
「お姉ちゃんが原因なのよっ!」
「まあまま。ともかく、療薬と滋養丸で下地を作れば衰弱してる人も治癒術に堪えられるでしょ。それと、タダトキ君にも試してみんさい」
「……ありがと」
薬を抱えて頭を下げたフィア。
「ふむ。かわゆくなったわねぇ」
礼を背中で受け取ったディミティアは、急いで出て行くフィアを背中越しに見送った。少し嬉しそうだった。
直時とフィアが出発した後、ヒルダも行動を開始した。彼女の分担ははっきりとされていなかったが、言わなくともするだろう。
狩りである。
直時と違って、ヒルダの力は周知の事実であり、シーイス国内で大きな力を振るおうとも何の問題もない。振るわれる方はたまったものではないが……。
ヒルダは夜のノーシュタットを飛び立ち、北の山岳地帯へと食材となる魔獣狩りへと向ったのだ。
「出来るだけ食いでがあって強い魔獣が良いな」
シーイスの山岳地帯を飛び回り獲物を探すヒルダ。その自重も遠慮も無い強烈な気配に、大型魔獣は縮こまり、中型魔獣は悲鳴を上げて逃げ散った。
結局、ヒルダが望んだ強い大型魔獣は現れず、人里向けて逃げた中型の魔獣が標的となった。元凶であるにも拘わらず、不平面で人里を襲う(実は逃げているだけ)前にそれらを狩っていたヒルダであった。
直時、フィア、ヒルダが東奔西走していた頃、ミケはノーシュタットのギルド会館で名簿とにらめっこしながらギルドの連絡魔具を活用して各種族へと根回しを行なっていた。地味だがとても重要な仕事である。しかし、地味故、特筆に値することは無かった……。
ヒルダ姉とミケさんには不遇な回になってしまった……。