シーイス公国動乱⑥
横道に逸れまくってます。
武器選びパートですが、剣道を齧った程度の浅慮に独善的な解釈を付けているだけなので、その道の方には不快感があると思われます。その場合、読み飛ばしかブラウザバックをお願い致します。
岩窟の砦亭の一室。ミケの報告を基に、ヒルダ隊(ヒルダ、フィア、ミケ、直時の四名)の、シーイス公国が保護した獣人族達への対策が決定した。
重傷者への治癒が最優先だが、必須条件である体力の回復のため、衣食住の改善として不足している物資供給を第一にすることになった。
住環境は、直ぐにどうこうできる問題ではないのでシーイス任せになる。ヒルダ隊は、主に衣食の改善で、体力回復を目指す。
「じゃあ俺はソヨカゼに帰ってくるから、リスタルまで戻るよ」
直時の担当は品薄となっている塩と魚介類である。リスタルの邸地下から石像を経由して影の道を通さねばならない。
「ちょっと待て。向こうで狩りもするのだろう? 壊してしまった武具を買おう。少しだけ見せてもらったが、良い物ばかりだったぞ」
「ジギーおいちゃんの腕は確かなのニャ」
女将の旦那、ジギスムントの武具店は上の階である。ヒルダは直時を引っ張っていった。フィアとミケも続く。
「おう。皆揃ってどうした? 慌てて帰って来たかと思えば、長いこと部屋で密談していたようだが話はまとまったのか?」
「話は済んだ。それより、タダトキの武器を選びにきた。品を見せてもらいたい」
「ふん。ミケの知り合いにどうこう言いたくないが、どの程度使えるのか腕を見せろ。ここにある武器に見合うのかどうかをな」
ヒルダは予算に上限無しと言ったが、金を払えば売ってくれる訳ではないらしい。職人としての拘りが見られた。
「腕と言われてもなぁー。素振りでもしましょうか?」
「下の鍛錬場へ来い。高名な竜人族の姫さんがいるんだ。手合わせしてもらう」
「えっ! それはちょっと……」
「ふむ。良かろう」
直時は尻込みするが、ヒルダが即答してしまう。
「くっ! 姉さん、商品だからね。購入前なんだから、手荒なことは無しでね」
「いきなり売り物を持たせるかっ! 模擬戦用の刃引きした得物があるわい」
直時の逃げ道は断たれた。模擬剣まで用意してあるとは、この店では客への査定が購入への条件なのか? 自分の未熟さ加減に、売ってもらえないのでは? と、心配になる直時。反対にヒルダは上機嫌だった。体を動かすことが好きな人である。
一行は、鍛錬場へと向かった。先日、精霊術の手ほどきを受けた広い地下空間である。
「タッチィ、ジギーおいちゃんが下まで連れてくるってことは、凄く良い武器を見立ててくれるってことニャ。普段なら店で振らせるくらいなのニャ」
不安そうな直時にミケが囁いた。職人としての拘りだけではない。ジギスムントは、本当に合った武器を携えて貰いたかったのだ。頑固ではあるが、心優しいドワーフである。
ミケの言葉にそれならばと、直時も真剣に臨むことにする。ヒルダに叩きのめされることになるだろうが……。
「片手用だったな。うちで扱っている武器はこんなところだ」
鍛錬場の隣の部屋に案内された。壁には様々な武器が並んでいる。剣、槍、斧、鎚、棍……。剣だけでも、直刀、曲刀、刺突剣と多種多様で、波刃や逆反り、他に刀身が二股や三叉になっている異質な剣もある。
「試し打ちや失敗作だ。刃は潰してある。遠慮無く使え」
刃は削られ、刺突武器の先端は丸く加工してある。しかし、素材はどれも金属か、それに類する物だ。当たれば怪我では済まないだろう。特に、叩きつける武器、戦鎚や戦斧、鉄棍等もあるのだ。
怖気づくのは直時だけで、他の者は顔色一つ変えない。武器とはいえ、この世界ではあくまでも実用品のひとつなのである。それに、模擬戦とは言っても接近戦の実力に差があるヒルダと直時だ。ヒルダが殺す気で手合わせしない限り、骨の一本や……十本で済むはずである。精霊術による治癒もある。
ヒルダが、長剣を手に取り素振りを始めた。使い勝手を確かめている。どう見ても両手剣だが、軽々と片手で振り回していた。直時は、諦めたように溜息を吐いて片手剣に手を伸ばす。
基本的な形の直刀、片刃の剣を数本手にした。重さと長さを確かめる。一番しっくり来た剣は、刀身が厚くもなく薄くもない、やや短めの剣だった。刃の長さは五〇センチ程だ。
直時は、右半身を前にゆっくりと素振り。刃筋を確かめながら振る。手にある得物は竹刀でも木刀でもない。長さも違う。『打つ』のではなく『斬る』ことをイメージする。
片手上段。振り下ろす。空中に描いた仮想敵に当たった瞬間、刃を止め、引くように斬る。一歩下がる。構えを変え、中段。踏み込む。狙うは首筋。当てた刀身を引く。一歩下がる。脇、脇腹、内腿と狙いを変えて剣を振る。
最後に大きく踏み込んで突き。中段に構えて最初の位置まで下がる。残心。剣を下ろす。片手、刃付きの剣、という変則的な中にも身につけた剣道の流れは消すことが出来ない。
「ふう――って、何?」
いつの間にか、直時の素振りに全員が注視していた。
「変わった剣技ね。刺突剣の構えと似てなくもないけれど、タダトキのは間合いが近い」
「握りが柔らかいニャ。短剣術にも似てるかニャァ」
「刃を引くか……。切れ味重視の剣だな」
直時が剣を振るう姿を見せるのは初めてだ。今までは槍を使っての杖術しか披露していない。フィアとミケが興味津々で既知の剣術と比較している。ジギスムントは、直時の剣の使い方に適した形を頭に描いているようだった。
「――危ういな」
「どういうこと?」
ひとり難しい顔をするヒルダへ、フィアが訊ねた。彼女の目には、様になっているように映ったのだ。
「フィア、ミケ。私の前にタダトキと手合わせしてみろ」
「いいわよ。じゃ、私は……この細剣にしましょう」
「ウチの接近戦武器は、自前の爪ニャ。投擲ナイフもあるけど、真っ正面からの手合わせで打つ気は無いニャ」
「勝手に話が進んでる……。手合わせは良いけど、二人共ヒルダ姉さん程頑丈じゃないだろ? 俺の未熟な腕じゃ、刃を止め損なう事だってあるんだぜ?」
フィアもミケもしなやかだが華奢な女性である。直時は、力押しのヒルダとは正反対のイメージを持っているだけに心配だった。
「余計な心配――よっ!」
フィアが準備運動とばかりに、細い刃を踊らせた。疾い。一瞬で数合の斬撃。突くだけではなく、斬り刻むような攻撃である。構えは完全に横向き。しかし、足捌きは直線的でなく、舞うように変幻自在だ。流派は無い。フィアが長い時の中、少しずつ身につけた我流の剣技である。
ほうっと見惚れていた直時は、構えるよう促された。これほどなら心配無用と、気を取り直してフィアと対峙した。
(届かないっ!)
結果は完敗だった。一撃どころか、自分の間合いで剣を振ることも敵わなかった。
風の精霊術を得意とするフィアは、体捌きにも風を使う。自然に身につけた剣技だ。直時の攻撃を悉くいなし、隙を突いて間合いの外から一撃、そして離脱を繰り返す。
武器選定というとこで、剣技だけに拘っていた直時も途中から風の力を借りるが、年季がまるで違う。剣技に活かすまでには至らなかった。最後は、はるか遠い間合いから、矢のような刺突を受けて吹き飛ばされた。即座に治癒を受けたが、肋骨が数本折れていた。
「次はウチの番ニャ」
肩や腕の筋を伸ばしながら、ミケが前に出た。魔力を爪に集中させ、固有術による肉体変化、武器化を促す。
(ミケの爪なら間合いは同じ。フィアよりは良い勝負が出来るはず!)
勢い込んだ直時。即座に間合いを詰め、剣を振るう。
しかし、当たらない。切先が動いた瞬間、ミケは予備動作無く大きく飛び退く。振り下ろされた刃の範囲外である。
そうやって数度、ミケは太刀筋を見た。徐々に避け幅が縮まり、動きも小さくなる。それでも当たらない。
(避ける時に微かにフェイントを掛けている。あれにつられちゃ駄目だ。読みきれっ)
同じ動きをしていれば、流石に直時も馴れてくる。フェイントのパターンを予測し、動き出そうとする切先を押し止めた。攻撃先を変更。ミケの姿は直ぐ横、間合いの中だ。
「そこっ!」
最短で最速の攻撃方法。突きを放つ。喉などという小さい部分は狙わない。胴体のど真ん中。こればかりは回避しきれないはずだった。
渾身の一撃、入ったと確信した直時の視界からミケが消えた。
(右、いない。左、違う! まさか上?)
力んだ攻撃で流れた体。ミケはその下、地を這うほどに低くあった。予想外の回避場所、死角を突いた動きに、直時は完全に見失ってしまったのだ。
そして、ミケの攻撃。踏み込んだ直時の右脚の腱へ、間を置かず纏わりつくように身を起こしつつ脇腹を浅く斬る。最終的に背後から抱きついて動きを封じ、喉へと爪を当てた。
「おしまいニャー」
直時は動けない。またしても完敗であった。体から力が抜け、がっくりと肩を落とす。得意げなミケを余所にヒルダが講評を行う。
「判ったか? タダトキの剣は相手を選び過ぎる。剣士だけを想定した技なのだろう。それも同様の片刃で、刃渡りも一メートル未満あたりか? 型を体に憶えさせるほど修練を積んだのだろうが、故に限定された読みやすい攻撃だ。変幻自在だった杖術と較べると、実戦的ではないな」
『剣道』は同じ武器の相手でルールに則った武『道』である。異種格闘技戦など、一般に剣道を習う上で経験することなど無い。まして、風に乗って飛び回る相手や、地を這う低い位置から下半身へ攻撃する相手は想定外である。
しかし、同時に叩き込まれた『杖術』は、古流の流れを汲むとはいえ、現代流の捕縛術をも取り入れた実戦的なものだった。何をするか判らない暴漢が相手であるからだ。
実際、警察が取り入れた杖術では、拳銃を所持した相手も想定の内だったりする。両者が動く中で拳銃弾を命中させるのは難しく、間合いは驚くほど至近距離になる。直線的な拳銃は突きに特化した武器とも言え、曲線的な攻撃が可能な杖術でも場合によっては対等以上に戦えるのだ。
「それと、剣を手にした時の戦い方だ。刀身も短いのに、常に前に前に出ようとしていたな? あれは危険過ぎる。――って、ミケ! いつまでくっついているっ」
「積極的な攻勢は良いと思うニャー。後は場数だニャ」
ミケは直時の黒髪をヨシヨシと撫でた。落ち込んだ背にのしかかったままだったが、ヒルダに言われて渋々身を離す。
「そうね。ヒルダとの訓練を見る限りでは、カウンターか、受けた後の攻撃だったものね」
「あー。剣道で受けてばかりだと『指導』が入るから――」
「ふむ。手合わせの作法か。同派の競技ならそれも良かろうが、実戦では使える物は何でも使う。論外だな」
「つーことは、剣は不採用か……。なら、杖術用に丈夫な棒でも見繕ってもらおうかなぁ」
直時は、未練がましく模擬剣を眺めた。一度は腰に携えてみたかったのである。
「いや、片手剣は一振り買う。最も使い勝手が良い武器だからな。但し、お前が身につけた剣技は忘れろ」
「そんな簡単に忘れるもんかな?」
「そのための訓練メニューも考えてやる。心配するな。一度壊して最初から作るほうが早いだろう。フッフッフ」
楽しそうなヒルダとは裏腹に、不安が大きくなる直時である。そして、得物の片手剣は、一般的な両刃の剣に決まった。戦闘スタイルは体で覚えさせるとのことである。
「じゃあ、後は杖術用の棒が欲しいな。槍の柄とかの材料でお願いします。出来るだけ硬くてしならない物で、長さは五尺――一メートル半と、三尺――一メートル弱の二本」
木製の模擬武器が無いので、ジギスムントが店の工房まで取りに行った。待つ間、手合わせで感じた疑問を訊ねる直時。
「俺の剣筋って、そんなに判り易かった?」
「私は剣筋までは見てなかった。風で直時を近付けないようにして間合いの外側からチクチクとダメージを重ねただけね。アンタの場合、前に出るのは良いけど、攻撃後の隙が大きいかな」
「直立してる相手への急所狙いがバレバレなのニャ。踏み込みは早かったけど、軌道が絞り込めたら、躱すのは難しく無かったニャ。斬撃には、もっとフェイントを混ぜると良いのニャ。太刀筋が真っ直ぐ過ぎ、素直過ぎ、悪く言えば馬鹿正直過ぎなのニャァ」
散々な評価である。近接戦闘では、もしかして最弱? と、更に落ち込む直時である。
「ヒルダ姉さんとの訓練じゃ、そこそこ手応えあったと思ってたのに……。二人共意外と強かったんだね……」
「え? ヒルダは手加減してたじゃない?」
「はいっ? 地面陥没とかやらかしてましたけどっ!」
「バカモノ! 殺す気も無いのに、本気で闘れるか! しかし、一度本物の剣技を見ておくのも良いかもしれん」
ヒルダは、大振りな大剣をもう一本、地面に刺した。右手の長剣を横薙ぎに構える。
直時にはその様子がコマ落としに見えた。知覚強化系の魔術を使っていなかったこともあるが、構えていたヒルダが、次の瞬間には振りぬいた姿勢をとっていたのだ。的となった大剣の殆どと、ヒルダの手にした長剣の刃が消失している。
そして、轟音。
ヒルダ正面の壁が砂煙を上げた。的の大剣は地面に刺さった僅かな切先を残して、折れたではなく斬れたでもなく、まさしく砕け散った。模擬剣である長剣も無事では済まず、刀身の半ば以上も同じ運命を辿った。凄まじい破壊力である。
「おいおい。あまり無茶をしてくれるなよ」
戻って来たジギスムントが呆れ声を出した。
「済まない。本気を見せろと言われたもので、つい、な。修理費は請求してくれ」
「――――っ」
何でもないように謝罪するヒルダ。悪びれた様子は見えない。直時は絶句中である。
「竜人族の武の極意は、力と速さ、この二つだ。なあに、いきなりここまでやれとは言わん。先ずは小手先の技術から力の集中と攻撃点の見極めを高めていけば、いずれ――」
「出来るかああああああああああっ!」
直時の叫びが鍛錬場に響き渡った。
「……小さな虫から見れば、アマガエルだってどでかい怪物なんだ。俺でもアマガエルクラスになったと思ったんだよなぁ。でもアマガエルなんて、蛇に睨まれたら動けなくなっちゃうんだぜ。そのままパクっと飲み込まれるしかないんだ……。そんで、竜なんか少し身じろぎしただけで小さなアマガエルは、ぷちっと潰れちゃうんだ。しかも、竜はそれに気付きもしないんだ……。ど根性だーいって言ったって、根性だけでは勝てんのよ。ゲロゲロぴー」
壁に向かって膝を抱えた男がブツブツと呟いている。はっきり言って不気味だ。
「どうすんのよ? 根こそぎ折れちゃったみたいじゃない!」
「情けない。目標は高く持つべきだろうに! 少し活を入れてやるか?」
「甘やかすのも女の度量ニャ。ウチが一晩優しく慰めて――」
「「却下っ!」」
騒ぐ女性陣を余所に、ジギスムントが二本の棒を持って近付いた。
「おら! いつまでいじけてやがる。杖術とやらを見せてくれるんじゃないのか?」
今更何を? と、直時はネガティブな視線を破壊された壁に向ける。土の精霊術で強固に加工していたはずの壁の一角は、剣の破片でボロボロになっている。
「……いや。俺もあれは反則だと思うが……」
言葉を濁すジギスムント。流石にヒルダの斬撃を一般的な力とは捉えていない。
「五尺杖と三尺杖を持ってきてくれたんですね。でも、ちょっと太いかな? 削ってもいいですか?」
「構わん。お前さんの使い易いようにしてくれれば良い」
ジギスムントから許可を貰った直時は、風の精霊術で木材を空中で固定し回転させる。削るのも風の刃だ。自分の手に合うように、木の直径を調節する。平均的な普人族男性より小柄な直時には太かったのだ。カツオ節のような木のクズが飛んだ。
難なく削られる木材を、ジギスムントは驚きを隠して見守っていた。長い棒は魔木、短い棒は精霊樹が素材となっている。どちらも特殊な加工道具が必要な木である。本来ならば、こんなに容易く削れる代物ではないのだ。
高価な素材をそれと知らずに削りまくった直時は、握り心地を確かめる。ジギスムントの微妙な表情の変化には気付かない。
「握り心地はこんなものかな。リーチが欲しいけど、片手だと細めの五尺が限界だろう。三尺はあまり得意じゃないんだけどなぁ」
ブツブツ言いながら振ったり突いたりしている直時である。
五尺杖は中心を右手にバトンのように手首で回した後、持ち手を背中に隠して突きを中心に型を確かめる。
三尺杖は刺突剣のように扱った後、片手剣のように打ち、薙ぎ、払い、そして逆手、中手、再度順手と重心を変え感触を確かめる。
「うしっ! フィアとミケに再戦ってことで良いかな?」
「いつの間にかヤル気になってるわね」
「立ち直ったニャ?」
「少しは気合が入ったか?」
「ヒルダ姉は無しの方向で!」
「ぬう……」
先程の圧倒的な力技だけには敵わないと判断、直時は断固拒否した。これ以上心を折られるのは御免被りたい。
「改めて、お願いします」
「今度は良い所を見せなさい」
一礼した後の直時は無言。五尺杖の中心を右手で持ち、眼前で水平に構えている。
フィアから見て、片手剣の時程張り詰めた空気は無い。ヒルダとの訓練で見ていたが、直時がこの構えをする時は、基本的に受けである。後の先、カウンター狙いだが、此処ぞという時以外は、受けて、逃げる。
再戦の結果、フィアとミケ、それぞれから五尺杖で一本を勝ち取った。一本を取れるまでそれぞれ五回は負けたが……。直時はまだまだだと実感した。
彼の戦い方を真剣な目で見ていたジギスムント。ヒルダの言うように基本的な片手剣を用意すると共に、一振りの得物を持ちだした。
「お前さんに合う武器を見繕ってやれなかった詫びだ。これは斬撃に不安のある奴に試作してみたものだが、えらく不評でな」
「一メートルくらいか……。短槍と戦鎚の合体版ですか? 故郷だとこれ、『バールのようなモノ』なんですけど……」
直時の感想とは違い、実際は斧槍の小型版といったところだろう。穂先は太短く、刺すというより抉るような刃、斧刃も肉厚、その反対側は鉤爪状、二股になっていないだけのバールである。
「武器というより、冒険者の汎用道具って感じですね。スコップと鋤と『バールのようなモノ』の複合体、槍としても戦鎚としても使える――」
万能ナイフのようなものである。ただ、武器としてどうかと言われると悩むところである。それでも心惹かれるものがある。直時の偏った知識の中に、白兵戦での最強武器は『スコップ』という故事があったからだ。
超至近距離での乱戦で、武器に不慣れな一兵卒が、頑丈で折れず曲がらず致命傷を与えられる武器という点では有用だ。しかし、指揮統率された部隊攻撃、例えば矢や魔術が降り注ぐ中や、騎兵突撃、長槍の槍衾の前では意味が無いだろう。
「どうだ? 駄目か?」
ジギスムントとしては実用的な逸品としての自負があったが、買い手からあまりの不評に自信が揺らいでいたようである。
「俺の主武器は精霊術。大火力による遠距離攻撃が適してると思ってますけど、不意の巴戦とかだと心強い武器になりそうです。是非とも欲しいです!」
気に入ったようである。
直時は武器として片手用の両刃剣、五尺杖、バールのようなモノを手に入れた。
片手なら三尺杖の方が使い易いんですが、木刀と棒術の中間になりそうなので却下しました。剣も買っちゃったんで……。