冬と心
「ねぇ、知らないと思うけれど、大好き」
しんと手足が凍る真冬の帰り道。手袋を忘れた手はかじかみ、赤くなっていた。きっと、その手よりも私の顔は色付いているのだろう。ひゅるりと吹いた風が頬の熱を奪おうとするが、焼け石に水だった。
「あぁ、そう。……え?」」
彼はナマケモノが全力疾走、緑色のきぐるみ怪獣が海で泳いでいるのを見たかのように目を丸くしながら振り返った。鳩に豆鉄砲ならぬバズーカ。オーバーキル。
変な思考をするくらい、私の頭はハイになっていた。
「だから、ずっと前から大好きなんだってば」
はっきりと言わなければならない。わかっていたことだけど、鈍感な彼にはこれくらいでちょうどいい。
だって、二人だけで出掛けても『女の子とデート』ではなく『友達との遊び』でしかなかったんだから。
今年の夏休み、水族館に行ったことさえもそうだった。「あの鰯とかって美味しいのかなぁ」なんて呑気なこと言っていたくらいだ。そして帰りに食べたのはお寿司。
――ちょっとは私を見ろ、私を!
女の子から告白するべきじゃない、テレビやら雑誌でよくみることだ。でも、いいじゃない。
好きなんだから、伝える。器からあふれてしまった想いを。ただそれだけのことなのだ。
彼は鈍感であったり、配慮が足りないこともある。運動だってそんなにできるわけじゃないし、顔も人並み、勉強も私と同じくらい。
好きなところをあげるのは難しいけれど、嫌なところはたくさん言うことができる。
でも、でも好きなのだ。
――好きな人は好きなんだから仕方ないじゃない。理屈じゃないんだ。
「付き合いなさい、私と」
言い切らなければならない。木から落ちた葉はまた戻ることはないのだから。それは掃かれるのか、それとも押し花のように保存されるのか。答えを知りたいと思うのは欲張りなことなのだろうか。
あぁ、もう恥ずかしいっ……!
ほんの少しの時間しか経っていないはずなのに。止まる、止まる。
熱いし痛い。早く何か言ってほしい。やだ、やっぱり言ってほしくない。
もう、むり!
そして彼はゆっくりと口を開く。
「……好きです」
たった一言。
私は爆発した。
 




