事後処理 2008/4/12(土) 於:BAR MOUNTAIN
「…というわけで、当時十七歳の七海ちゃんは、一日で二人の男に振られるという快挙を成し遂げました。おしまい」
酔いはとっくに覚めていたが、後戻りもできず、最後まで語ってしまった。せめて最後くらい冗談っぽくしようと、私はこう締めくくった。
周りの野次馬の評価はどうだっただろう。さりげなく聞き耳を立てていたけど、面白かっただろうか。それとも、無駄に長くて飽きてしまっただろうか。確かに長かった。もし、小説にしたら読了時間60分というところだろう。まあ、そんなことはどうでもいい。
私は、目の前の後輩に目をやった。この後輩は、酔っ払いのざんげを腕組みしたまま、ほとんど体勢を崩さずに聞いてくれていた。
「長話、聞いてくれてありがと」
「いや、久しぶりに会ったら、昔話に華が咲くのは当然だと思いますがね。ちょっとネタが重すぎやしませんか、先輩?」
「ごめん、酔っ払いの戯言だと思って忘れて」
「それはムリです。むしろトラウマになりました」
「はあ…相変わらずね」
その時、ふとマスターと目が合った。彼は相変わらずの無表情でグラスを拭いていた。
「ていうかさ、そろそろ先輩ってのやめてくれない? 赤井くん」
「それを言ったら先輩だって、昔みたく照くんって呼んでくれないんすか?」
「む…。だって…」
「ははは、冗談だよ」
照くん、いや赤井くんと再会したのは本当の偶然だった。
あの日、怪我が(私のせいで)予想外に悪化した照くんは、都会の病院に転院させられて、特別な治療を受けることになったのだそうだ。何ヶ月もの入院生活で、高校卒業は一年延びることは避けられず、結局その病院の近くの高校に転入したのだそうだ。
で、一年遅れで偶然私と同じ大学に入り、まさかの同じ研究室に配属され、私たちは再会を果たしてしまったのだ。あの日以来、メールのひとつもしていなかったので、実に三年ぶりだった。
今は、うちの研究室の新入生歓迎会を抜け出して、二人で二次会というわけだった。
「とは言っても、俺は何て呼ぼうかな。普段は先輩って呼ばなくちゃまずいだろうけど、こうして二人のときは」
照、いや赤井くん、ああもう、胸中は照くんでいいや。照くんはそう言って、意地悪そうな目を私に向けてきた。
「七海」
「……!」
びびった。が、私も成長したもので、変な返事はなんとか喉の辺りで抑えることができた。
「で、いいか? いや、今さら別の呼び方にするのもアレだし。付き合っているときといないときで、呼び方変えなきゃならんって法律も多分ないし」
「ま、まあ、別にいいけど」
「じゃあ、七海」
「なに」
「七海もオレのこと、照くんって呼んでくれていいんだよ? 昔みたく可愛い声で」
「うっさい」
照くんは、この偶然の再会をどう思っているだろう。今の私のざんげを聞いて、どう思っただろう。見たところ全く気にしてないように見えるが、まるで分からなかった。
そして私は、どうしたいんだろう。それも分からなかった。
「マスター、すいません、カシオレひとつ」
分からないので、とりあえず飲むことにした。
「お、七海やる気だね。マスター、ジンライムロックで」
ただ、今こうして照くんと二人でいることが、苦痛でないことだけは分かる。
「おまたせしました」
と、声がしたので顔をあげると、マスターが相変わらずの無表情で、二つのグラスを持っていた。
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