「死んでるの」
「…」
「それとも、生きてるの」
「…」
「どうして答えないの」
「…どちらでも、同じことだろう」
この身が待つのは 破滅だけ
灰色の空と 冷たい雨
コンクリートの壁と 静寂の日常
翼をもがれた天使のように
無言で ぼくらはたたずんだ
夢の残骸が ころがる
無機的に淀んだ この世界
それでも
ぼくらにとっては 唯一の ふるさと
「汚い場所だよね」
「そうだね」
「きっと、ここに存在するぼくらも、同じくらい汚いんだろうね」
「…そうだね」
「それなのに、どうして、離れられないのかな」
愛しているわけじゃない
失いたくないと
願ったわけでもない
ひとかけらの命すら 存在しない
でも ここが ぼくらのふるさと
「みんなは、どこにいるのかな」
「知らないよ」
「そこは、あたたかいのかな」
「知らないよ」
「きれいな光があるのかな」
「…知らない、よ」
次々と消えていく仲間
悲しみも悔しさもなかった
ただ 虚無が心に広がるだけで
冷たい雨が
涙の代わりに 頬を打つ
「ねえ、見て」
「…」
「この人も、ぼくらと同じなのかな」
「…どうして」
「だって、ほら、死んだような目をしてる」
「ばかだね。本当に死んでいるんだよ」
持ち上げた白い手には もう
あたたかさなど 残ってはいなくて
届かない陽の光に 絶望した瞬間でさえ
ぼくらは涙を流すことなく
静かに 瞼を閉じて
未来の訪れを拒絶した
腐りかけた棺に 花さえ供えられずに
「ねえ」
「…」
「ねえ」
「…」
「何か、言って」
「…」
「消えないで。もう、2人しか残っていないんだから」
「…消えないよ」
他の場所なんて知らない
ここが 帰る場所
すべての温度を失った この世界が この世界だけが ぼくらの還る場所
どんなに冷たくても 唯一のふるさと
それだけが 悲しいくらいに明確な事実
「君は、あたたかいの?」
「どうだろうね」
「触りたいよ」
「触ればいいだろう」
「手が届かない」
「じゃあ近づけばいい」
「…足が、動いてくれないんだ」
雨がやんだ後も
くすんだ灰色は消えなくて
君の 唄う声が聞こえたから
歩き出すことが出来ないんだ
枯れた涙は 頬に張り付いて
微笑むことも 手を伸ばすことさえ 諦めて
ぼくらは ただ 見つめあう
「雲が流れたね」
「うん」
「風に、流されたんだ」
「…うん」
「変だと思わないか?」
「何が、」
「雲が消えたのに、青空が見えないんだよ」
「君は…本当にばかだね」
「…」
「きれいな空なんて、ここにはないんだよ」
風が吹きぬけた その先に
真っ白な君が立っていた
ようやく
鮮明な姿をとらえることが出来たのに
どうして そんなに遠いところにいるの
「絶望は、しなくていいよ」
「行かないで、」
「だって、もともと希望なんかなかったんだ」
「行かないで、」
「終わりが来ることを恐れないでね」
「行かないで、」
「…どうせ、もう終わってるんだから」
「 行 か な い で … ! 」
砂埃が 舞い上がって
薄汚れた世界を 覆い隠した
廃墟の壁には
血の染みですら残らない
ぼくらは 純粋な命を持たないから
きれいな赤など 許されないから
「かえりたいね」
そう言って
君は 微笑った
出来るなら すべてが純粋だったあのころに
「かえりたいね」
そう言って
ぼくは 泣いた
出来るなら すべてが純粋だったあのころに
「消えていくんだ。もう、見つめあうことも許されない」
「そんなことを、言っちゃだめだよ」
「許してもらえない」
「泣かないで」
「泣けない。泣きたいのに。顔が歪むばかりで、涙なんか出てこないよ」
「…ばかだね」
許してもらえない
許しを与えてくれる存在すら
ぼくらの傍には もう いないんだ
「うそつき」
「…」
「消えないって、言ったじゃないか」
「…うん」
「かえりたい」
「うん」
「もどりたいよ」
「うん」
「一緒に、いこう」
「…それは…無理だよ」
泣かないで と 繰り返す
たとえば コンクリートの壁がくずれさって
夢の残骸に押しつぶされたとしても
きっと ぼくらは大丈夫
同じ場所に いる
思い描く
ふるさとは
いつも
同じのはずだから
さよならを言わないで
どうせ還る場所は1つなのだから
嘆かないで
すべてを失ったのは君だけじゃないから
「わかってる」
涙を
こぼしたりなんかしないで
「後に残ったのは破滅だけ」
どうせ無駄だと
知っているなら。
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