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内容がない小説

 今日は風邪を引いて、お仕事はお休みだ。
 今日は、じゃなかった。
 今日も、だ。
 風邪で数日休んでしまっている。

 あー体が熱い。
 さっきまで寒かったのに熱したら暑くなった。
 非常に調整が難しい。
 まったくもう本当に。
 風を引いてから何日も経つのに熱は全然引かない。
 とってもだるいけど、これまでに大分寝たので、これ以上寝たくはない。
 この風邪の一日を楽しく過ごすためになにか面白い出来事はないだろうか。
 でも、頭がボケボケだ。
 短い時間集中することができるが、次から次へと短期記憶が抜けていく。
 そんなわけであんまり頭をつかうことしたくない。
 そして、当然のことながら体も動かない。
 寒風吹きすさぶ外に出るだなんてとんでもない。
 部屋の中で重心を低くして、もそもそと動きまわるのが精一杯だ。
 しかし、こんな状態でも退屈すぎてしかたがない。
 いくらなんでも、人間24時間寝れはしない。
 もしかしたらそれだけ眠れてしまう奇特な人が入るのかもしれないが、私はそうじゃない。
 というか、寝たくない。
 そんなわけで、こんな状態でなにか楽しめる暇つぶしが必要だ。

 普段は見ないテレビを見てみた。
 うーん、あんまりおもしろい番組がやっていない。
 美味しそうなスイーツを次々と紹介されても、食欲すら満足に湧いてこないこの状況ではとても楽しめたものではない。
 そもそも、スイーツめぐり番組なんてそんなにおもしろいものでもない。

 読みかけの本を引っ張りだしてみた。
 3行ぐらい読めた。
 でもその後は頭の中からするすると抜けていってしまう。
 頑張れば読めるのだが、頑張らないと読めない。
 そこまでして頑張って読んでも、得られる楽しさは明らかに見合っていない。
 なにしろ友人に薦められて買っては見たものの、地の文ばかりでセリフも少なく、それでいてなかなか物語が動き出さない大変スローテンポで、私の趣味と正反対の小説なのだ。
 中身の無い軽いセリフが軽妙に続いていって、3ページ前のことを忘れても気楽に読んでいけるようなそんな小説なら読めるかもしれない。
 でも、手元にそんな小説はない。
 マンガは何度も読んだようなのしか無いし。

 しかたがないからパソコンを付けてみてみた。
 大変なお古で、液晶は黄ばんで、キーボードの「T」のキーの反応も悪いノートパソコンだ。
 この子は起動して使えるようになるまでにたっぷり20分はかかる。
 電源ボタンを押してデスクトップ画面が表示されるまでの時間も長いが、デスクトップ画面が表示された後も宿主のパソコンの性能を全く配慮しない迷惑この上もないウィルス検知ソフトがハードディスクもCPUもすっかり占有してしまう。
 私はそれを思い出して、軽くため息を吐いて、ついでに咳こんだ。
 あーもー
 高熱と咳と鼻水と、体の節々の痛みと、とにかく本当に嫌になる。

 本当に何か気楽に楽しめる楽しい出来事はないのか。
 こんなときこそ家に犬か猫が居たら……なんて思うのだが、無理な相談だ。
 ペット厳禁の6畳一間の安アパート暮らしな上、引っ越す金銭的余裕もなければ、まともに世話をする余裕もない気がする。
 せっかくお家にお迎えしても、世話をするのが私じゃあ、そのペットも気の毒だろう。

 こういう時こそ、なにか普段と違うことをしてみるべきなのかもしれない。
 しかしなにをするかと聞かれても何も出てきやしない。
 うーん、と唸ってみるもなにも思いつかず、そしてまた咳が出る。
 寝てればいいのに、と自分で思わなくもないが、もう布団の中に入っていたくないのだ。
 背中も痛いし。
 パソコンを見ると、まだハードディスクをガリガリやっている。
 この状態で私が操作しても、きっとこのパソコンが反応を返すのはたっぷり10分後のことだろう。
 むしろ起動後にごちゃごちゃ処理をしている時に余計な操作をすると、かえって遅くなる。
 パソコン君はあきらめて、窓から外を見る。
 猫の額ほどの小さなベランダがあり、そこに渡された物干し竿。
 その先に見えるのは、コンクリートの町並み。
 地方都市だから都会のように摩天楼がそびえ立っているわけでもないが、それでも10階建て位の建物がちょこちょこと見える。
 その間を埋めるように一軒家がひしめき合っている。
 更に遠くに見えるのは雄大な山々……であるはずだが、今日は少し霧がかっていて山は見えない。
 まるでこの街が世界から隔絶してしまったかのような感覚に陥る。
 って、カーテン閉めておいたほうがよいだろうか。
 風邪とはいえ、真っ昼間から下着も付けずに胸元盛大に開けてパジャマ一枚の姿だった。
 いやいや、これはまずいだろう、どう考えても。
 せめて胸元しまおう、ああだめだ、このパジャマ胸元ぴちぴちで閉めると寝苦しいんだ。
 閉めるならカーテンだ。

 カーテンを閉めて、部屋の電気をつける。
 昼間だというのに気分は夜だ。
 しかしどうにもつまらない。
 もう一度温度を測ってみる。
 やっぱり熱がある。
 何度測っても同じだけど、何度も測っちゃう。
 そして、水を飲む。
 まずい。
 田舎の水道水は結構飲めたのに、ここの水道水は大分まずい。
 それともこのアパートの給水設備が悪いのだろうか。
 別にどっちでもいいや、どっちであろうと私の部屋の蛇口からでる水道水がまずい事実は変わり様がないのだから。
 ペットボトルの水を山のように買っていたこともあったけど、途中でなんだかバカらしくなってやめてしまった。
 どうせいつもは沸かしてからお茶やコーヒーにして飲んじゃうから、水道水でもあんまり変わらない。
 顔をしかめながらも二口目を飲もうとした時、玄関の向こうから足音が聞こえてきた。
 この足音、間違いなく宅急便。
 そして間違いなくヤ○トだ。
 いつもここに配達に来るあの人の足音は大変特徴的なのですぐ分かる。

 ピンポーン♪

 やっぱりそうだ。
 玄関を開けて、愛想笑いをしてサインをして配達の人は軽く一礼してそのまま走り去っていった。
 動きが素早い。
 手元に残ったダンボールの差出人を見ると、見覚えの無いショップ名だった。
 きっと私が通販で買ったなにかだろう。
 ショップ名なんか覚えちゃいない。
 とりあえず、am○zonではない。

 カッターナイフを持ってきてダンボールを開封してみる。
 開封した。
 そしたら、更に段ボール箱が出てきた。
 意味がわからない。
 どうしてこのショップはダンボールを二重に梱包して送付しようと思ったのか。
 しかたがないから、そのダンボールも開封した。
 紙が一番上にぺらっとのっかっていた。
 ちらっとみると注文書か何かだ。
 くしゃくしゃに潰してゴミ箱に放り込む。
 その紙の下には梱包材のプチプチが敷き詰められている。
 そして私はダンボールから視線を外したまま、自問自答する。
 さて、私は一体何を頼んだのだろうか。
 どういうわけだが、私は一切何を買ったか覚えていないぞ。
 これを思い出すということでいましばらくの時間が潰せるのではないか。

 んー……

 箱の中身から視線を外したまま、いろいろ考えてみる。
 まず思い出すのは、普段読んでるマンガの最新刊。
 近所の書店の品揃えがあまりに酷いので、その書店を当てにしないでam○zonで買ったはずだ。
 でも、この箱はam○zonじゃないし、そもそも発売日はもっと先だった気がする。
 ……あれ、おかしいな。
 これしか思い出さないぞ。
 いやいや、きっと私が何かを買ったんだ。
 そうだ。そうに違いない。
 そうでなければ、この荷物が私のもとにやってくるわけがないのだ。
 なんだろう。一体なんだろう。

 んー……

 やっぱりおかしいな。
 なにも思い出さないぞ。
 となると、この荷物は大分得体が知れないものになってくる。
 爆破テロの爆弾であるとか、宛先を間違って送ってしまった違法なブツであるとか、薔薇人形のゼンマイが入ってたりとか、なんかそういうものである可能性が出てくる。
 さすがにそれはないだろう。
 いくらなんでもそれはない。
 じゃあ一体何なんだ。
 私は何を買ったんだ。
 これは大いなる謎である。
 うーんうーんうーん……

 だめだ。全く思いつかない。
 思い切って、このプチプチをどかして真実を拝んでしまおうか。
 でも、もしかしたらもうちょっとで思い出すかもしれない。
 真実を見た後に「後もうちょっとで思い出したのに」って歯痒い思いをするのも馬鹿らしい。
 というか、私はなんでこんなことにムキになっているんだろう。
 うーん

 しばらく悩んだが、やっぱりなんにも思いつかない。
 悔しい。
 あきらめて、プチプチをどかすと真っ黒なノートパソコンの天板が見えた。
 なんだこりゃ。
 ダンボールから引っ張りだしてみる。
 どこからどうみてもノートパソコンだ。
 重たくて無骨だけど、今のノートパソコンだって似たようなものだから文句は言えない。
 というか、私はこんなものを買った覚えはないぞ。
 全く自慢できないが、起動に20分もかかるあのお古をだましだまし使うほどに私の経済状態には余裕が無い。
 一体なんでこんなものが?
 そこでふと思い出したのは、数日前の我が愚かな兄との電話だ。
 私が昔もらったあのノートパソコンをまだ使っていることを伝えると「信じられねぇ」「化石パソコンだ」「ネットもまともに見れねえだろ」と散々罵詈雑言を吐いた挙句に、「俺が前使ってたヤツをやるよ。少し古いが、あんな化石より100倍マシだ」とあの兄にしてはずいぶんと殊勝なことを言った。
 だが、もう一度発送元を見ても、発送したのはどこかの店である。

 愚兄に電話をかける。
 つながった。
「お古をくれるんじゃなかったっけ?」
 少し鼻声だが意外と普通に声が出た。
「あ?」
 愚かな兄の間の抜けた声が返ってきた。
「お前、いつも前後関係を言えと……ああ、パソコンか」
「なんかお店から発送されてたけど」
「どうしても今すぐにシリアルポート付きのノートパソコンがほしいという友だちがいてな、俺のはそっちに回っちまった」
「へー……シリアルポートってすごいの?」
「説明面倒くさいから気にするな。どうせお前に言ってもわからないから」
「なら言わないでよ。じゃあ、あれわざわざ買ってくれたの?」
「そうだよ。感謝しろよ。重くてでかいが」
 兄貴が電話越しでも分かるくらいに偉そうだ。
 でも、約束を守るために自腹まで切るとは意外だった。
「兄貴は意外といい兄貴だな」
「へーへー。今更気がついたかバーカ」
 憎まれ口を叩く兄貴はやはり愚かである。
「まぁ、中古だけどな」
「やっぱり兄貴は愚かな兄貴だ」
「なんでだよ! まともなスペックのやつちゃんと見繕ったぞ」
「新品できちんとした箱に入っていれば私はこんなに悩むことはなかったんだ」
「……何の話だ?」
 我が兄はデータ移行について無駄に事細かく偉そうに能書きを述べた後に電話を切った。

 私はようやく起動しきってハーディディスクのガリガリが収まったパソコンに振り向いた。
 お古のパソコン君、せっかく起動して貰って悪いけど、今日の君の仕事は君の埋葬準備だ。
 データを全部引っ張りだしたら君は廃棄処分だ。
 悪いが恨まないでくれたまえ。
 ぐふふ、と悪代官みたいな表情を浮かべてみる。 
 でも、そう思うとちょっとかわいそうになってきた。
 大丈夫、君の後はこの子が引き継ぐ。世代交代の時さ!
 と、前向きな解釈にしてみる。
 そうだ、なら引き継ぎをしないとね。

 古いお古と、新しい中古パソコンを画面を開いた状態で机の上に向かい合わせに置いた。
 新しいパソコンは中古パソコンのくせに、私のお古よりも起動が100倍速かった。
 古いパソコンはアイコンいっぱいのデスクトップを顔に表示して、新しいパソコンはスッキリしたデスクトップを顔に表示している。
「これからは私が一戦に立ちます。師匠はどうぞお休みを」
 新しいパソコンの画面を軽く揺すりながら、セリフを話す。
 私を何をやっているのか、なんて思っちゃいけない。熱のせいだもの。
「いやいや、わしはまだ戦える。お前のような若輩者のでる出番はないぞ」
 今度は古いパソコンの画面を軽く揺すりながら、セリフを話す。
「師匠、私は師匠より起動が何十倍も速いのです。師匠はもう年ですよ」
「なにをっ! 歴戦練磨のわしを愚弄するかっ!?」
「ならば、どちらが優れているか勝負しましょう」
「望むところだ!」
 と、いいところまで言ったところで気がついた。
 どうやって勝負させればいいのかわからない。
 どうみても新しいパソコンのほうが凄いのは間違いないのだが、どうやって測ればいいのかわからない。
 兄貴に聞けば分かるかもしれないが、きっと面倒そうだからやっぱりいいや。
「よし、では起動速度で勝負をしよう!」
 両方の電源を落として、もう一度電源投入する。
 結果、新しいパソコンの圧勝。
 もう一度やるまでもなく分かってたけど。
「く……まさかここまで圧倒的な差を付けられるとは思わなかった」
「師匠、では……?」
「ああ、わしは老いた。これからはお前の時代じゃ。さぁ、わしのデータを引き継ぐがいい」
「師匠!」
 よし、なんか大満足だ。

 師匠にUSBメモリをぶっさして、データのコピーを開始した。
本当に熱に浮かされながら書いたら、自分でも意味がわからないものが出来上がりました。
本当になんだこれは。
当然ですが、登場人物と作者には風邪を引いて熱がある以外の共通点はありません。

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