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ゴキブリ帝国
作:カエオルーン


「余の名はカファール・スカラファッジオ・バラータ。このコックローチ帝国の皇帝である」
 偉そうな低い声を出したのは、ゴキブリ人間。
 比喩でもなんでもなく、言葉通りそうなのだ。
 つまり、本来人間の頭が来る部分がゴキブリの頭――こうしてよく見ると、ゴキブリの頭ってカマキリと似たような感じで案外愛らしいものだ――になっていて、そいつが中世ヨーロッパの王族が着ているような、なんとももっさりとした服を着て、自らを皇帝と名乗っているんだ。
 どこからどう突っ込めばいいのだろうか。
 ゴキブリ帝国のゴキブリ皇帝とは、なんともはまり役ですね、とでも言えばいいのだろうか。
 それともかわいらしく「キャー」とでも叫ぶべきだろうか。
 頭を悩ませるものの、答えは一向に出てこない。
 そもそもこんな訳の分からない展開になった始まりは、夜中にコンビニへ行こうと、閑静な住宅街を歩いていたときだった。



 ――カサカサカサカサカサカサ―― 
 月が雲に隠れて、街灯もなく、ひっそりと静まりかえった、ほとんど黒だけの世界。
 そんな中を歩いていると、いつもは聞こえない、妙な音が聞こえてきた。
 何の音かも分からず、辺りを見回しても誰もいない。
 ――カサカサカサカサカサカサ――
 不気味に思って早歩きをしても、その音はまったく途切れることがない。
 いや、それよりもだんだんとその音が大きくなってきている。
 ――カサカサカサカサカサカサ――
 背後から小さく聞こえてくるだけだったそれが、いつの間にか左右から、そして前からも聞こえてくる。
 ――カサカサカサカサカサカサ――
 足を止めて目を凝らしていれば、いつもの黒よりも艶のある黒が辺りを覆っていることに気がついた。
 ――カサカサカサカサカサカサ――
 そして月の光がサっと辺りを照らしたとき、俺は死を覚悟した。
 月の光を反射した艶っぽい黒が蠢いていて、何千匹、いや何万匹いるかもわからないそれらが、徐々に迫ってくる。
 そう、視界に映るのは、あたり一面のゴキブリ。
 あまりの恐怖に、白いブリーフを黄色く染めたことを感じながら、せめてそれに触れられる前にと、即座に意識を手放した。

 次に視界に映ったのは、渋い爺さんだった。
「目が覚められましたかな?」
「あ、あんたは……」
「私はこのコックローチ帝国に仕える執事でございます」
 べつに聞きたくないことを聞いてしまったのは不覚だったが、それのおかげで今の状況の異常さは、半覚醒の頭でも分かった。
「帝国……? どういうことだ……?」
 そんなものは現代には存在しないのだから。
 そう聞くと、渋い自称執事は穏やかに笑った。
「あなた様は異世界からこの国に召喚されたのです」
「召喚だと……? そんなアホなことがあるわけが…………」
 体が硬直した。
 意識を落とす前のことを思い出してしまったからだ。
「あ、あれはいったいなんだったんだ……」
 今この状況から見て、夢、だったんだろうか。
 いや、そうであってほしい。
 あんなのが実際の出来事だとは、精神衛生上耐えられない。
「あなた様が体験なさいましたのは、皇帝閣下の秘術。呼びだしの儀でございます」
 夢ではなかった。
 とっさに確認したブリーフが、それを証明したから。

 あんな精神衛生上耐えられない光景を作り出した野郎。
 それが皇帝閣下とは信じがたいことだったし、あれで召喚された俺もどうかと思ったが、その後の展開は大まか予想通りのものだった。
 執事が言うには、この国には呪いがかけられていて、五年に一度体が変化してしまうらしい。
 それもこの国全体にかかっているもので、呪いを根底から覆すことはできない。
 だからその時々に解決する必要があって、その解決するための方法というのが、
『異世界の生命体を呼び出し、この国の者がその生命体から、心からの愛を持ったキスを受ける』こと。
 ――どこの童話だ。
 そう思えるぐらい妙な設定だが、偶然この国の救世主様として呼び出されたんだ、ということは理解できた。

「それにしても、この国全体に呪いがかかってるんだろ? どうしてみんな無事なんだ?」
 とりあえず着替えてから、皇帝閣下に会うために謁見室へと向かう途中に、疑問に思ったことを聞いてみた。
 この執事もそうだが、すれ違うもの皆いたって普通だ。
 耳が頭の上の辺りから生えてるわけでもなし、尻尾が服からはみ出てるわけでもない。
 どこが変化しているのかホントに疑問だ。
「きっと、あなた様が心からのキスを誰かに送った、そのときに分かります」
 意味深な言葉を発した執事。
 追求するべく言い募ろうとしたが、ちょうど謁見室についてしまった。
 重厚な、おどろおどろしい雰囲気のただよう扉が立っているから、一目でそれと分かった。
「参りますよ」
 そう言って扉を開く執事に、なんとなく緊張してしまう。
 なんせ皇帝閣下だ。
 ゴキブリの秘術を使うといっても皇帝閣下なんだ。
 緊張する価値があるのかないのか、微妙なラインだったが、扉が開いて皇帝閣下の姿を一目見て、その答えはノーだったことを知った。



 何万匹ものゴキブリに囲まれるという恐怖体験で耐性がついた俺は、ゴキブリ人間が出たぐらいでは驚かなかった。
 だから結局、突っ込みどころをすべて放棄して、皇帝のわかりやすい変化に同情の念を送るのを禁じえなかった。
 ……変化したのが頭だけゴキブリとはかわいそうに……ゴキブリの秘術なのはそのせいだったのか……。
 まあ、全身ゴキブリでないだけましだろうか。
 そう考えるも、それは自分がゴキブリに変化したらと思うとぞっとしなかった。
「佐藤はじめ、です。」
 頭を下げて一応名乗る。
 無作法なものだがそれでも満足なのか、ゴキブリ皇帝はうなずいた。
「うむ。とりあえず、貴殿にやってもらいたいことはそこの執事から聞いただろう。そこで、だ」
 ゴキブリ皇帝が手をたたく。
 するとそれを合図に脇からぞろぞろと女の子達が出てきた。
「貴殿ぐらいの年齢の粒ぞろいを用意した。好きに選んでやってくれ」
 この中から選べ、ということか。
 執事に話を聞いてからこの展開は予想できてたし、確かにどの子を見ても十代後半の俺と同じ年代の、現実世界では到底手の届かないような美人さんだが……。
「うーん……」
「どうした? 気になる相手がおらんのか?」
「いや、決してそうじゃなくて、ただ……」
 ルビー、サファイア、エメラルドと一気に見せられても、すぐにこれとは決められないんだな。
 それになんか物足りないような気がするのも事実。
「せっかく異世界に来たんだから、運命的な出会い的なものがほしいんですよ。つまり」
「贅沢なやつだな」
 単刀直入に言うと、お叱りを受けた。
 ゴキブリ皇帝の眉間にちょっとしわがよっている気がする。
 いや、ゴキブリの表情なんて読めないから、気分的に。
「贅沢と言われてましても……そうでもしないと心からの愛を持ったキスなんて、すぐにできませんよ」
「ふむ、仕方ないな。運命的な出会いぐらい、用意してやろう」
 なかなか男のロマンを分かっているゴキブリだが、運命的な出会いって用意するものだろうか?


 俺は廊下を走っている。
 廊下の角で美少女とぶつかるために。
 打ち合わせ通り、角のところで軽い衝撃。
 わざとらしくたじろいでみるものの、気分はさめたまま。
「だっ大丈夫ですか?」 
 眼鏡をかけたスタイル抜群な、いかにも委員長な子。
 本当であれば、そんな子に眼鏡がちょっとずれたまま上目遣いをされれば、いちころのはずだが……。
「やっぱ無理だよ、これ」
 俺は遠くで見守るゴキブリ皇帝に首を振って見せた。

 俺は寝たふりをしている。
 美少女に起こされるために。
 打ち合わせ通り、肩を揺さぶられる。
 わざとらしく布団を深くかぶるも、気分はさめたまま。
「ねえ、おきてよ佐藤ちゃん。遅刻するよ〜」
大きめな目をした、美人というよりもかわいいというのが印象的な子。
 本当であれば、そんな子に焦っているようなどこか甘い声を出されたら、いちころのはずだが……。
「これもだめだ」
 俺はまたしても首を振った。


 男のロマンとは、何であろうか……。
 あれから十個以上のシチュエーションを試したものの、一つもピンとこなかった。
 やはり天然の宝石に人工物がかなわないのと同じなんだろう。
 運命的な出会いを、用意されたもので求めるのが間違いだったんだ。
 俺はあてがわれた豪華な部屋の回転式の椅子に腰掛け、夕日を見ながらため息をついた。
 明日からまた、お相手探しが始まるのだ。
 早急に呪いを解きたい気持ちは分かるが、正直疲れた。
「お夕食の用意ができました」
「入ってくれ」
 物思いにふけっていると、コンコンと扉をたたく音に続いて、声が聞こえた。
 それに向き直って返事をすると、扉がゆっくりと開く。
 入ってきたのはまだ若い、十六歳ぐらいの娘っ子。
 まだ新人なんだろう、おずおずと部屋に入ってくる様子は好感が持てた。
 健康的な小麦色の肌に、どことなく癒される優しい顔立ち。
 昼間見た美少女軍団には劣るが、その動作を含めて十分かわいいと言える。
 その使用人は二つの皿を危なっかしく手に持って、俺が椅子に座った机の前にやってきた。
「し、失礼します。こちら、特産の馬のダングと、宮殿のダストでございます」
 そう言って、漫画とかでよく出てくる銀色のふたを取って皿の中身を見せてくれた。
 両方とも聞いたことのない料理名だったが、二つとも驚異的な見た目の料理だ。
 まず、馬のダングは、黒くて、パサパサと乾燥した感じのある、楕円形の物体。
 そして宮殿のダストはなんだろうか、わたあめ? という感じだ。
 特に、馬のダングでこれほど楕円形に近いものは大変貴重なんだそうだ。
 だからって見た目からして食えそうにないんだが。
 何も言えずにいると、その使用人の子が不安そうに見つめてくるので、出されたフォーク片手に食べてみるしかなかった。
「っぐ!?」
 一噛みすれば広がる、牧場の世界。
 馬のダング……馬の体内を駆け巡っていくような意味不明の味が……やっぱり食えそうにない。
「ど、どうですか? お口にあいますか?」
「あ、ああ。す、すごいおいしいよ」
 やはり、食べるしかなかった。
 黒い丸状の物体を噛み砕いていると、人間としての尊厳が失われているような気がした。
 なんとか飲み込むと、使用人の子はホッと息をはいて、また見つめてきた。
 次は、宮殿のダストか……。
「っがふ………………おいしいよ」
 ……これってただの埃なんじゃないのか……。
 甘くも辛くもないそれを吐き出そうとする生理現象を必死にこらえて、なんとかすべて飲み込んだ。
 それを見た使用人の子はまたホッと息をはいた。
「あ、ありがとうございました。それでは失礼します」
 そう言って空になった皿を持って退室しようとする姿をなんとなしに目で追ってから、俺はハっと気がついた。
 そうだ、これこそが男のロマンでないか、と。
 美少女にマズイと言えずに我慢して料理を食べる、このシチュエーションこそ男のロマンだったのである、と。
「ま、待った」
 その子が部屋を出る前にあわてて呼び止めて、駆け寄った。
「え? な、なんでしょうか?」
 何か文句を言われると思っているのだろうか、その子は少し不安げに見つめてくる。
 ちょうど良い、と見つめ返して、俺は真顔で言った。
「キスしてくれ」


 キスをすると言っても、恋人達が街中で、もてない君に見せ付けるためにするようなものではなかった。
 国の一大イベントとして、東京ドームが一個丸々入るんじゃないかと思えるぐらい大きな教会のなかで、何千何万という国民に見守られながら、愛を確かめつつ手順を踏んで、最後にキスをするという、長ったらしいものだった。
 愛を確かめつつって結婚式かよと思ったが、実際同じようなものらしい。
 まさかこんな若い身空で、しかもたった一回しか会ったことのない相手と結婚するとは。
 世の中、何が起るか分からない物だった。
 慣れないタキシードに身を包んだ俺は、出番を落ち着かない気持ちで待っている。
 普通の結婚式なら新郎が待つはずだが、ここでは受け入れる、という意味で新婦が待っているそうだ。
「えーそれでは、新郎の入場です」
 司会を務めている執事の声が響いて、扉が軋みながら開いた。
 すると一気に緊張してきて、開いた扉からバージンロードに出て行くのがやけに怖くなってしまう。
 ブライダルブルーというものだろうか。
 なかなか踏み出せなっかたが、そのとき彼女のウエディング姿がふっと脳裏に浮かんで、勇気をもらえたかのように一歩を踏み出せた。
 すると明るい光が俺を包んで、そして割れんばかりの拍手と笑顔が俺を迎えてくれて、緊張など一気に吹き飛んでしまった。
 暖かい人々の笑顔につられて俺も笑顔になって、バージンロードを歩く、歩く、歩く……………………
 十分ほどかかってようやくたどり着いたその先に待っていたのは、執事、ゴキ帝、そして――ウエディングドレス姿の、花嫁。
 キュッヘンシャーベという名前で、つい最近この国の帝都にのぼってきた、貧しい農村の出自。
 そんな簡単なプロフィールでさえ今日の朝知ったというのに、彼女の姿を見て、胸に湧き上がる恋しさを抑えることはできなかった。
 純白のウエディングドレスを身にまとった彼女は、俺を見つけると、ベールの下でそっと微笑む。
 それは、ルビーにも、サファイアにも、エメラルドにも負けない、天然のダイヤモンドの輝きだった。
「えーそれでは、誓いに入る前に、皇帝閣下から結婚秘話としてスピーチを少々してもらいたいと思います」
 そう言って進行を勤める執事は、ゴキ帝にマイクを渡す。
「余は皆知っての通り、皇帝である。こうやって新郎の立派な姿を見ると、彼を召喚したことが昨日のことのように思い出されるものだ。そう、あれは彼が白いブリーフを黄色く染め直していたときのこと…………」 
 聞いていればゴキ帝の話は突っ込みどころ満載のひどいものだったが、彼女が横で笑っているだけで、なぜか笑って許すことができた。
「…………新郎と新婦は末永く幸せにということで、余のスピーチは終わる」
 ついにゴキ帝のスピーチが終わり、マイクは執事に返される。
 拍手と歓声であふれた教会内のボルテージはさらに上がって、誰もが俺達を祝福しているようだった。
「それでは、皆さんお待ちかねの、誓約の儀です」
 来た。
 同時にさっきまでの歓声が嘘のように静まり返り、何万という視線がこちらに集中するのが分かった。
 そして、執事がゆっくりと俺達の前に出る。
 その物音だけが、教会に静かに響き渡った。
「汝、キュッヘンシャーベは、この男、佐藤を夫とし、病める時も健やかなる時も、共に歩み、夫のみに添うことを誓いますか?」
「誓います」
 彼女は静かに、それでもはっきりと、そう返事をした。
「汝、佐藤は、この女、キュッヘンシャーベを妻とし、病める時も健やかなる時も、共に歩み、妻のみに添うことを誓いますか?」 
「誓います」
 俺は緊張で声が裏返りそうになりながらも、懸命にそう返事をする。
 執事はそれに、ゆっくりとうなずいた。
「それでは、新郎新婦の接吻を」
 その言葉をもって、俺はゆっくりと彼女のベールを上げる。
 彼女はかすかに上をむいて、すでに目を閉じていた。
 彼女の唇は薄い口紅でしっとりと潤っていて、緊張と興奮が勝手に高まり、体中の血液が沸騰しているんじゃないかと思うほどの高揚感が体を支配する。
 ゆっくりと唇を重ねようと近づいたけど、ふと、俺は彼女に何もしてあげていないことに気がついた。
 昨日の今日だから仕方ないかもしれないが、それでも彼女にこの気持ちをしっかり伝えたいと、そう思った。
「愛してる」
 だから俺は彼女をやわらかく抱きしめてそう囁いてから、彼女の唇に、自分の唇を重ねた。
 そしてそれが合わさったと思った瞬間、世界を真っ白な光が包んだ。
 ……そうだ、俺はこの国を救うために彼女とキスをしているんだ……。
 途中から目的が手段にすり替わっていて気がつかなかったが、漠然とそう思った。
 ――結局のところ、どこが変化していたんだろう? ゴキ帝は分かりやすかったけど、彼女や執事達はいったい……?
 まあそれも目を開ければ分かることだと思い直し、彼女のやわらかい唇だけを感じて、真っ白な光が引いていくのを待った。



 後悔した。今、このときを後悔した。目を開けたことを後悔した。
 キスをしたことを後悔した。キスを頼んだことを後悔した。出された夕食を食べたことを後悔した。
 男のロマンを求めたことを後悔した。ゴキ皇帝と謁見したことを後悔した。
 執事の意味深な言葉を深く考えなかったことを後悔した。この世界に召喚されたことを後悔した。
 白いブリーフを黄色く染めたことを後悔した。夜中にコンビニに出かけようとしたことを後悔した。
 そして、この世界のすべてを憎んだ。
 目を開けて今までキスしていたものを見れば、それは
『とうしんだいごきぶり、にそくほこうがた、うえでぃんぐどれすしよう』
 だったからだ。
 ――つまり、この世界の人間というのは元から等身大ゴキブリで、人間に変化していたんだす。
 何の因果か皇帝は体だけ人間になってたみたいだすが、そこは皇帝だからだす、たぶん。
 動揺のせいか語尾がおかしかったが、そこまで理解すると腰から力が抜けて、よろよろと後ずさるはめになった。
「嬉しい……」
 目の前の等身大ゴキブリ、二足歩行型、ウエディングドレス仕様がしゃべった。
 俺は全然嬉しくない、そう言おうとしても、口が震えるだけでまったく言葉にならない。
「おめでとう!」
「うむ、めでたいめでたい」
「こんなに立派になって、ううっ」
「今夜は徹夜で子作りだな!」
 めでたくない。泣くな。子作りなんてするかーッ!
 一気に爆発したように上がる歓声に、気持ちだけでも突っ込もうと聴衆のほうを向けば、さらに後悔した。
 そこには、何万もの等身大ゴキブリが、教会のステンドグラスを通した光を浴びて、七色に輝きながらグロテスクに蠢いていたからだ。
「また一組、この爺が見送るカップルが増えて、嬉しい限りですな」
 ゴキブリになってもなぜか紳士な執事が言った。
「うむ。今回もまた、大成功である。余の施政に狂いはない!」
 元から違和感ないゴキブリ皇帝が言った。
「あ、あの。今夜は……わたしを、た、食べさせてあげますね…………ダーリン(はーと)」
 もじもじと、かわいらしい声でグロテスクな内容をキュッヘンシャーベが言った。
「も、もういやだ……もとの世界に帰してくれぇぇぇぇっ」
 やっと動いた口でボソボソ叫んでも、あたりの歓声に掻き消されて、誰一人聞いちゃいない。
 絶望的な事実に、俺は白いブリーフを再び黄色く染めたことを感じながら、意識を失ったのだった……。


 この作品をここまで読んで下さった稀有な方、きっとゴキブリが大好きになったことと思います。
 ……いや、すいません。妙なもの書いてすいません。
 ちなみにカファール・スカラファッジオ・バラータとは、それぞれ仏、伊、ポルトガルでゴキブリって意味です。
 キュッヘンシャーベも当然、ドイツでゴキブリって意味です……すいません。
 さらに馬のダングはdung、つまり馬の糞です……すいません。
 横文字ばっかですいません、分かりづらくてすいません、アホなこと書いてすいません。
 こんな駄文をここまで読んでくださった方……いるかわからないけど、本当にありがとうございます。
 最後に、この作品を読んで使ってしまった時間は返却できません。ほんとに、お疲れ様です。













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